「人生の折り返しに乾杯」 ～アラフィフ男女の理想的な関係～

【3】澪と由唯のアフターファイブ

①

　
　由唯と澪が所属する業務部は、毎日いろんな案件の事務対応が営業から回ってくる。内容は見積計算から契約書作成など多岐に渡るのだが、基本は同じ仕事の繰り返しになる。だから、たまにはちょっとした変化や刺激がほしくなる時がある。そんな事をぼーっと考えているとグッドタイミングでベテラン営業の中山が声をかけてきた。

「阪上さん、忙しいですか？　長谷さんと飲みに行くんですが、たまには一緒にどうですか？」

　3人が勤める《ジャパンモビリティリース（通称　JML）》の勤務時間の定時は9時から17時半までだ。営業は18時半を過ぎるとパラパラと帰り出し、業務部は何もなければ17時半には帰っていく。澪はいつも業務2課の課員が全員終わるのを見届けるため19時頃になることが多かった。

「いいですねー、行きたいです！　ミスターはもう仕事終わりですか？」

　ミスターと言われている中山は大阪支店でバーベキュー大会やキャンプなどいつも企画をしてみんなを楽しませてくれる。みんなから「ミスター」と呼ばれ、とても親しまれていた。しかし、なぜ「ミスター」と呼ばれているのか誰も知らない。

「あははは、仕事は全然終わらないんですが、頭もぼーっとして全然はかどらないので、こんな日は元気補給しにパーッと行って明日頑張った方が効率いいんですよ。　笑」

　ドラマの主役を張れる男前ではないが、脇役でいい味だしてる誰からも愛される人気おじさんキャラのミスターが笑顔で答えた。

「あははは、なるほど！　それは一理ありますね。では、私も終わるから一緒に行っていいですか？」

　横で話を聞いていた由唯も参戦してきた。

「さすが！　本宮さんも早く終わって一緒に行きましょう！」
「はーい。もう片付けますー」
「サービス部の長谷さんも一緒ですけどいいですよね」
「もちろんです！」

　二人の返事がシンクロした。

　ミスターが5メートルほど横で仕事をしている和希を見て「神楽部長にも声掛けますか？」と2人に小声で聞いた。

　由唯と澪は顔を見合わせて、右手を左右に振って「いーいー、いーいー」とノーサンキューのジェスチャーをした。由唯が和希をチラッと見ると、誘ってほしそうな顔をしている和希がこちらを見ていたが目が合わないように視線を逸らした。

「じゃー行きましょかー」

　4人は仕事をササッと片付けて会社を出た。