「人生の折り返しに乾杯」 ～アラフィフ男女の理想的な関係～

【1】プロローグ

③

　
　和希は酔っているせいもあり、恥ずかしげもなく話し出した。

「俺はラジオのDJかな。面白い話をしながら流行りの音楽をかけて、そしてみんなが聞きたいDJのナンバーワンになるねん。その内にテレビの仕事の依頼も来るようになって、テレビの情報番組の人気司会者になる」
「あははははは」
「和希のその滑舌の悪いハスキーな声でやるの？　テレビ見てる人、和希のしゃべり聞き取れるかー？」

　由唯の少しバカにした感じの言い方に「もぉー。酷いなぁー。妄想の話やん！」と言い返すと「和希すぐすねるから」と大笑いしている。

　澪も笑いながら「和希最高！　面白い。和希に合ってると思うで」と言ってはいるが、明らかに由唯と同じく目はバカにしていた。

　和希の声はよく言えばハスキー。悪く言えばガラガラ声。回りから「神楽さん、いつからそんな声になったんですかー？」とよく言われるが、和希はこのハスキーボイスを気に入っている。

　こんなバカな妄想話を、いつも真剣に語り合って楽しんでいる。これがまた結構ストレス発散になったりしている3人だった。

　楽しい思い出は、水性マジックのように新しい思い出に触れて消えてしまうが、辛かったり傷ついた心は、まるで油性マジックで書かれたように、しっかり刻まれて、なかなか消えてくれない。しかし、この仲間と楽しく話していると、消えなかった辛い油性マジックの思いが、まるで3人の楽しいペンキで上塗りされる気持ちになる。本当にこの歳で出会えた事に感謝している。　

　和希がふと目を下げると昨年のボーナスで買ったチューダーの腕時計が目に入った。（0時35分か。また今夜も終電に乗れなかったな）と苦笑いした。この3人が集まるといつも電車で帰った記憶がない。

　この後は行きつけのカラオケ店で朝まで？

「さー次行こかー」
「お姉さんお会計」
「私、払うわー」
「いいって私が払うー」
「エエって俺が払っとく」

　アラフィフが2500円の伝票を取り合う姿はいつも笑ってしまう。

さぁー今日は何歌おうかな♪