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50.倖せな結末

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夜、俺は再びキースの部屋を訪れた。
ベッドの上で本を読んでいたらしく、俺を見ると微笑む。

「リアム……」
「兄様……少しだけ話をしたくて」

俺がベッドの近くまで行くと、キースの片手が伸びてきたので、俺はその手を取り、導かれるままにキースの傍らへと腰かけた。

「……ずっと兄様に伝えないと、と思ってて」
「リアム……?」

俺は視線を彼に向ける。
伝えなければいけない。俺が彼のことをどう思っているか。
俺は王宮から帰るときからずっとそう思っていた。
好き、という言葉は伝えたけれど……きっと、それだけじゃダメな気がする。
もっと、ちゃんと……。

「僕も、兄様が大切で……そ、の……」

けれど、実際に伝えるとなるとやはり照れるもので。
心臓が早鐘のように鳴り、手のひらがじっとりと汗ばんでいるのが分かった。まるで舞台に立った役者のように、息が上手く吸えない。──けれど、逃げるわけにはいかない。
……俺は一つ息を吐いて目を伏せ──開けると、まっすぐとキースを見つめた。

「キース・デリカート。僕は、あなたを……愛して、ま、す……」

最後の方はめっちゃ声が小さくなってしまい、俺は視線を合わせていることも無理で、キースの胸元に顔を押し付ける。
彼は静かに俺を抱きしめ、その温もりが胸に広がった。

「ああ、やっと……初めてだ、その言葉は。何度……リアム、僕も君を愛しているよ……」

キースの手が頬へと回ってきて、俺の顔を上へと向かせた。
その目には涙が浮かんでいて、俺はびっくりしてしまう。

「兄様、意外と……泣き虫、なんですね」

笑った俺の声も若干掠れてしまった。──涙で。
その夜──俺たちはお互いの心を確認し合い、初めて対等な立場で向き合うことができた。




「かあさまっ」

小さな子供が俺に向かって全力で走ってくる。俺は膝をついてそれを受け止めるように両手を広げた。

「おかえり、お出かけは楽しかった?」

俺が尋ねると、子供は力いっぱい頷いた。

「あのね、とうさまとね、うまにのってねっ」
「シリル」

ひょい、と俺の手元から子供が宙に浮き──小さな身体をキースが抱き上げた。
シリル、と呼ばれた子はきゃっきゃとその腕の中で騒いでいる。
それをいとも簡単に片手で抱きなおし、もう一方の手が俺へと差し出された。

「体調は大丈夫かい?」
「心配しすぎですよ……一緒に行くって言ったのに」

俺は苦笑を浮かべつつ手を取り、立ち上がると、小さな手が俺に伸びてきた。

「とうさまずるいっ、ぼくも、かあさまっ」

そんな風に言いながら俺にしがみつこうとする。
俺が笑いつつその手を取ると、子供は得意げに大きな声で笑った。
子犬のように暴れる子はシリルと言い、キースと……俺の子である。
無論、俺が産んだ……!凄い、この世界。本当に男でも子供産めたよ……。
どう育んで産んだかと言えば、人体の神秘としか言えない。
そして、なんと、まあ……二人目がお腹の中にはいるわけで……。

キースを見上げると視線が合い、握られた手が離されて身体ごと抱き寄せられた。

「シリル、母様を困らせてはいけないよ」

そう言いながら、キースは俺に微笑みかけながら、頬にキスをした。
君の体も大切にしないとね、と一緒に落とす。
照れ隠しに視線を逸らした俺に、キースがくすくすと笑う。

「そうそう。後でノエル君が来ると言っていたよ。きっとまた賑やかだね。良かったねシリル」

ノエルは無事にナイジェルとくっつき、ナイジェルは今や婿入りして子爵位を継いでいた。相変わらずノエルは、妹は元気にマイペースに生きている。
ノエルにも子供がおり、家族ぐるみで付き合っている状態だ。ここは双子で、とにかくパワフルなのだ。まあ、シリルにとっては良い遊び相手なので大変助かっているけれども。

あれから──それぞれに道を進んでいる。
レジナルドは近々王位を継ぐことが発表された。未だに婚約者は空位のままで、やれ公爵令嬢だのやあちらの貴族子女だのと噂は飛び交ってはいるものの、俺が見るに……あれはディマス待ちな気がするんだよなぁ。ディマスはたまに俺へと手紙を送ってくる間柄だ。
アレックスはそんな噂もなく、王宮騎士団に入った後も勤勉に勤めていて、たまに、父様と一緒にうちに来たりもする。だいたいはシリルの相手になっているが。
そして俺が何より驚いたのが……スペンサーとリンドンが一緒になったことである……!攻略対象者と攻略対象者がくっつくとかあるんだな⁈
てか、とんでもないエンドルートを用意してくれていた二人だが、大丈夫なのだろうか……。

「リアム?」
「かあさまっ」

キースとシリルが俺を呼ぶ。
風がそっと俺の頬を撫でて、広がる青空へと抜けていった。
ああ、気持ちいい風だ。
俺は二人に向かって笑顔を向ける。

「なんでもないよ、行こうか」

俺は一歩を踏み出す。──物語はこう結ばれるのだ。

『そして、みんな倖せに──とても倖せに暮らしましたとさ』
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