46 / 53
45.そして冒頭へ
しおりを挟む
「リアム……」
低く響くその声が空気を切り裂き、背筋に冷たいものが走る。振り返った俺の視線の先に立っていたのは、キースだった。
だが、その目はいつもの優しさを失い、赤黒く燃え盛るような狂気が宿っている。
「兄様……どうしてここに?」
問いかける俺の声は自然と震えていた。キースは答えず、ただじっと俺を見つめ、次にレジナルドに視線を向ける。その目には、憎悪とも取れる鋭い感情が浮かんでいた。
「リアム。僕がいると……何かまずいことでもあるのかい?」
「兄様、違っ──」
俺を呼ぶ声も責めるような声だった。話を聞く気もないのか、キースの足元から闇の波動が広がり始めた。室内の空気が変わる。まるで周囲のすべてが彼の怒りに共鳴し、歪んでいくかのようだ。
「リアム、僕がどれだけ君を大切に思っているか、君は分かっているはずだ。それなのに、どうして僕以外の誰かとこんな場所で会っている?」
彼の声は低く、それでいて鋭く、胸を抉る。その瞬間、疚しいことなど一つもない。ただ、こうして何も言わずに来たことへの後悔はある。床が微かに揺れ始めた。蝋燭の灯りが次々と吹き消され、窓枠がガタガタと音を立てる。
「キース、落ち着いてくれ!」
レジナルドが俺の前に立ち、キース兄様を静止しようと声を張り上げた。
「リアムはお前のものではない!彼には彼の自由がある!」
その言葉が引き金となったのか、キース兄様の闇の波動が一気に強まり、部屋全体を覆い尽くした。満月の光すら霞むほどの黒い霧が広がり、俺たちを飲み込もうとする。
「僕のものではない……?何を言っている、リアムは僕のすべてだ!」
キースが叫び、宙に右手を振り上げたその瞬間──黒い稲妻が走り、レジナルドがそれを受けて吹き飛ばされた。
「先輩!」
俺は叫び、倒れたレジナルドに駆け寄ろうとするが、キースの力によって足が止まる。空気が重い。まるで体そのものが拘束されているかのようだ。
「兄様……!」
ゴオオ、と風が鳴る。
金で縁取られた豪奢な窓枠がガタガタと揺れて、白いレースのカーテンが、まるで凱旋の御旗のようにたなびいていた。
室内に吹き荒れる風で蝋燭の火は消え、満月の光だけが照らしている。
本来であれば王城の一角であるこの部屋に、これだけの音が響けば兵たちが駆けつけて来るはずだが、その様子もない。
見遣ったレジナルドの肩が少し揺れていることから、死んではいないようで、そのことに少しほっとした。
そうして、俺の前に立つのはただ一人──彼だけだ。
現状、意識があるのは俺と彼だけ。
……恐らくは、俺の前にいるこの人がどうにかしたんだろうとは予想がついた。
「なぜ、あなたが……」
見上げた先の人への恐怖はない。俺にあるのはただ困惑だけだ。
どうして、あなたが、ここに……この王城にこんな風に登場するのか。
こんなシナリオはなかったはずだ。
俺の問いに、俺へと手を差し伸べつつ壮絶に美しい笑顔を浮かべて答えた。
「迎えに来たよ」
ああ、そうだ。この人は、キースは……この物語『ノエル』での攻略対象者であり、トゥルーエンドに続くキーパーソンであり、魔王と呼ばれる存在であったことを、俺は漸くこの時になって思い出した。
低く響くその声が空気を切り裂き、背筋に冷たいものが走る。振り返った俺の視線の先に立っていたのは、キースだった。
だが、その目はいつもの優しさを失い、赤黒く燃え盛るような狂気が宿っている。
「兄様……どうしてここに?」
問いかける俺の声は自然と震えていた。キースは答えず、ただじっと俺を見つめ、次にレジナルドに視線を向ける。その目には、憎悪とも取れる鋭い感情が浮かんでいた。
「リアム。僕がいると……何かまずいことでもあるのかい?」
「兄様、違っ──」
俺を呼ぶ声も責めるような声だった。話を聞く気もないのか、キースの足元から闇の波動が広がり始めた。室内の空気が変わる。まるで周囲のすべてが彼の怒りに共鳴し、歪んでいくかのようだ。
「リアム、僕がどれだけ君を大切に思っているか、君は分かっているはずだ。それなのに、どうして僕以外の誰かとこんな場所で会っている?」
彼の声は低く、それでいて鋭く、胸を抉る。その瞬間、疚しいことなど一つもない。ただ、こうして何も言わずに来たことへの後悔はある。床が微かに揺れ始めた。蝋燭の灯りが次々と吹き消され、窓枠がガタガタと音を立てる。
「キース、落ち着いてくれ!」
レジナルドが俺の前に立ち、キース兄様を静止しようと声を張り上げた。
「リアムはお前のものではない!彼には彼の自由がある!」
その言葉が引き金となったのか、キース兄様の闇の波動が一気に強まり、部屋全体を覆い尽くした。満月の光すら霞むほどの黒い霧が広がり、俺たちを飲み込もうとする。
「僕のものではない……?何を言っている、リアムは僕のすべてだ!」
キースが叫び、宙に右手を振り上げたその瞬間──黒い稲妻が走り、レジナルドがそれを受けて吹き飛ばされた。
「先輩!」
俺は叫び、倒れたレジナルドに駆け寄ろうとするが、キースの力によって足が止まる。空気が重い。まるで体そのものが拘束されているかのようだ。
「兄様……!」
ゴオオ、と風が鳴る。
金で縁取られた豪奢な窓枠がガタガタと揺れて、白いレースのカーテンが、まるで凱旋の御旗のようにたなびいていた。
室内に吹き荒れる風で蝋燭の火は消え、満月の光だけが照らしている。
本来であれば王城の一角であるこの部屋に、これだけの音が響けば兵たちが駆けつけて来るはずだが、その様子もない。
見遣ったレジナルドの肩が少し揺れていることから、死んではいないようで、そのことに少しほっとした。
そうして、俺の前に立つのはただ一人──彼だけだ。
現状、意識があるのは俺と彼だけ。
……恐らくは、俺の前にいるこの人がどうにかしたんだろうとは予想がついた。
「なぜ、あなたが……」
見上げた先の人への恐怖はない。俺にあるのはただ困惑だけだ。
どうして、あなたが、ここに……この王城にこんな風に登場するのか。
こんなシナリオはなかったはずだ。
俺の問いに、俺へと手を差し伸べつつ壮絶に美しい笑顔を浮かべて答えた。
「迎えに来たよ」
ああ、そうだ。この人は、キースは……この物語『ノエル』での攻略対象者であり、トゥルーエンドに続くキーパーソンであり、魔王と呼ばれる存在であったことを、俺は漸くこの時になって思い出した。
101
お気に入りに追加
222
あなたにおすすめの小説
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…
彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜??
ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。
みんなから嫌われるはずの悪役。
そ・れ・な・の・に…
どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?!
もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣)
そんなオレの物語が今始まる___。
ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️
第12回BL小説大賞に参加中!
よろしくお願いします🙇♀️
実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!
【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
王子様から逃げられない!
白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。
優しい庭師の見る夢は
エウラ
BL
植物好きの青年が不治の病を得て若くして亡くなり、気付けば異世界に転生していた。
かつて管理者が住んでいた森の奥の小さなロッジで15歳くらいの体で目覚めた樹希(いつき)は、前世の知識と森の精霊達の協力で森の木々や花の世話をしながら一人暮らしを満喫していくのだが・・・。
※主人公総受けではありません。
精霊達は単なる家族・友人・保護者的な位置づけです。お互いがそういう認識です。
基本的にほのぼのした話になると思います。
息抜きです。不定期更新。
※タグには入れてませんが、女性もいます。
魔法や魔法薬で同性同士でも子供が出来るというふんわり設定。
※10万字いっても終わらないので、一応、長編に切り替えます。
お付き合い下さいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる