上 下
44 / 63

43.甘い朝

しおりを挟む
カーテンの隙間から差し込む柔らかな光で目が覚める。  
ああもう朝か、と寝返りを打った瞬間、温かいものに触れて俺は反射的に目を開けた。  
──そこには、穏やかに目を閉じたキースの顔がある。  

「──っ……!」  

声を上げそうになり、慌てて手で口を塞ぐ。胸が高鳴る音がやけに大きく感じられた。  
そうだ、俺……キースと……。  
昨夜のことが一気に頭に蘇り、耳まで熱くなるのを感じる。  
キースの唇、指……触れるたびに熱を帯びる自分の身体。戸惑いながらも、その感覚が決して嫌ではなかったことを思い出してしまう。  
こうして一緒のベッドに寝るのは初めてじゃない。  
子供の頃、嵐の夜にはキースが俺のベッドに来てくれたり、逆に俺が彼のベッドに潜り込んだりしていた。でも、あの頃とは……全く違う。  

──これは、兄弟としての接触じゃない。  

静かに眠るキースの横顔を見つめながら、俺は小さく息を吐いた。  
その寝顔は、変わらない。昔も今も、俺の心を不思議なほど穏やかにさせてくれる。  

「……男とか、無理だと思ってたんだけどなぁ……」  

ぽつりと呟いてみる。でも、今は──。  
見つめるたびに湧き上がる感情は昨日とも違っていて……。  
心の中でそっと確かめる。キースへの親愛と、それに重なる情愛の違い。  
──蓋を開けてみれば、結局性別なんて些末なもので、心の問題だったな……。  
そう思うと、何かがふっと楽になった気がした。 
なんとなはなしに、キースの髪にそっと触れたときに、控えめなノック音が聞こえて俺は扉の方に目を向ける。
控えめに顔をのぞかせたのはアンだ。俺と目が合うと、彼女はて唇を無音で「リアム様」と動かす。アンの様子から、どうやら俺だけに用があるらしい。  
俺はベッドからキースを起こさないよう慎重に抜け出し、アンのもとへ向かった。  

「すみません、リアム様……ちょっと火急にお渡ししたいものが……」  

アンは潜めた声で言いながら、薄いクリーム色の封筒を差し出す。  

「誰から……?」  
「レジナルド王太子殿下です」  

レジナルドから──その名前に、甘い想いが一気に緊張に掻き消された。  
……ディマスのことだろうか?  

封蝋には王家の紋章が刻まれており、表書きには俺の名前が記されている。慎重に封を切ると、中には簡潔な文面が並んでいた。  

『今夜、他の誰にも知らせず王城の東の塔へ来てほしい。君と二人で話したい。迎えの馬車はこちらで用意する』  

その一文が目に飛び込む。  
なぜこんな秘密裏に?理由を考えるが、恐らくディマスの件だとは思うが、文面から明確な答えは浮かばない。
ただ、わざわざこのような形で手紙を送ってきたからには、ただ事ではないのだろう。  

「……何か……」  
「リアム様?どうされましたか」  

俺の小さな呟きに、アンが心配そうな視線を向けてくる。  
手紙には『他の誰にも知らせず』とある。レジナルドの意図は分からないが、王家の紋章が封蝋に刻まれている以上、少なくとも詐欺や策略の可能性は低い。王家を騙る行為はこの国では重大な犯罪だ。  

「……今度またお茶会をするから来てほしいって」  

俺は努めて笑顔を作りながらそう伝えた。アンは「あら」と驚き、少し安堵したような表情を浮かべて仕事に戻っていった。  
部屋に戻ると、ベッドの上で眠るキースが目に入る。
彼にこのことを知らせるべきだろうか……。  
だが、何もかもキースに頼ってばかりでは、俺はただのお荷物だ。  

「……少しでも、力になりたい……」  

自分に言い聞かせるように呟く。そして結局、俺は招待状の指示通り、誰にも言わず王城に向かうことを──選んだ。  
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください

わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。 まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!? 悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい

オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。 今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時――― 「ちょっと待ったー!」 乱入者の声が響き渡った。 これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、 白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい そんなお話 ※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り) ※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります ※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください ※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています ※小説家になろうさんでも同時公開中

BLゲームの世界でモブになったが、主人公とキャラのイベントがおきないバグに見舞われている

青緑三月
BL
主人公は、BLが好きな腐男子 ただ自分は、関わらずに見ているのが好きなだけ そんな主人公が、BLゲームの世界で モブになり主人公とキャラのイベントが起こるのを 楽しみにしていた。 だが攻略キャラはいるのに、かんじんの主人公があらわれない…… そんな中、主人公があらわれるのを、まちながら日々を送っているはなし BL要素は、軽めです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...