30 / 74
29.来訪者2
しおりを挟む
「やあ、リアム。調子はどうかな?」
学園を休んだとはいえ、特に調子が悪いわけでもない。そんな状態で王太子を自室に通すわけにはいかず、侯爵家の応接室に通してもらい、俺は急いで身支度を整えてやってきたところだ。
ナイジェルの案内で室内に入ると、レジナルドがにこやかに挨拶をしてきた。
調子は悪くないが、お前の顔は見たくなかったな……と心中で毒づきながらも俺は笑顔で頭を下げる。
「レジナルド王太子殿下……ご機嫌麗しゅう存じます」
「休んでいたから心配になってね。意外と元気そうで安心したよ。先輩、で構わないよ」
座って、と示すようにレジナルドは自分の前にあるソファを手で指した。
俺は、ありがとうございます、と言いながら指し示された場所へと座る。
「怪我は、昨日にノエル君が治してくれたのですが、両親が心配症で」
「ずっと隠してきた息子だからね……心配するのもわかるよ」
ふ、とレジナルドは笑った。特に馬鹿にしたようなものではない。
俺は自分から社交界にあまり出なかったりもしたし、色々と外聞を考えて両親ともにそういう話にしているのだろう。
「……今回は、ディマスが迷惑をかけてすまなかったね」
レジナルドがそう口にする。……俺は少しばかり吃驚してしまった。てっきり、今回のこともそれなりに愉しんでいるのだろうと思ったからだ。元凶はレジナルドではあるが、そう仕向けたわけじゃないことくらいは俺にも分かる。俺は、いいえ、と首を振る。
「いえ、まあ……レジナルド先輩が悪いわけじゃないので……ええと、ディマス様はその後いかがですか」
ノエルから様子は聞いているものの、会話の流れを切るわけにはいかず、俺がそう問いかけると、レジナルドは苦笑を漏らした。
「……相変わらずだよ。昔からああだからね、彼は」
うーん……昔からの知り合いで、ディマスは目に見えてレジナルドに好意を向けている。国家間の話をしてもグラーベと縁戚になるのはそう悪くないはずだ。
「……あの」
「うん?」
「レジナルド先輩は、ディマス様が……レジナルド先輩をお好きなことは……」
「……ディマスは分かりやすいからね。ただ私はディマスのことを手のかかる弟のようには見ていても、それ以上それ以下でもないね」
レジナルドはきっぱりとそう言った。これ以上は俺がどうこう踏み込めるところではない。が、割と俺は巻き込まれているわけで……。
「それは、その……ディマス様には仰ったんですか……?」
レジナルドは困ったような表情を浮かべて、笑う。
「あまりね……強くは言えない立場なんだよ、私は。ディマスはグラーベにおいて王位継承権こそ低くはあるが、大事にされていないわけではないんだ。妃腹だしね」
ディマスは俺にとって完全にイレギュラーで、その素性を詳しく知っているわけではない。何せゲームには出てこない人物だ。なので俺は伝え聞く情報しか知らなかった。自分で調べるということもしなかったし。
……確かに、レジナルドからしてみればディマスという存在は結婚を考えていない限り、少し厄介だ。妃腹と言えば、グラーベ王妃の子ということだし、それなりに重要視はされているだろう。そういう相手がレジナルドに友情で近づいているならば、それは良いことなのだろうが、ディマスの場合、明らかに恋心である。それもかなり強力な。こう考えていくと、やや自分の浅はかさが窺えてしまう。
「まあ、私も特殊な方ではあると思うよ。この年齢まで婚約者は決まっていないしね」
「ああ……まあ、兄も居ませんし……そういうことも、たまにはあるかと……」
レジナルドの婚約者が決まっていないのは、恐らくゲーム補正というやつだと俺は思っている。キースにしても恐らくそうだろう。その他の攻略対象者にだって、そういう相手は存在しない。しかし、実際の話をするならば、この世界において結婚適齢期はかなり早い。幼少から婚約者がいるのが一般的だし、本来であれば妃教育を考えると断然早い方がいい。何せ一国の王妃ともなれば誰もかれもが務まるわけではなく、対外国を見据えた教養と知識は必ず必須だ。
その中で、俺を含む関係者及び攻略対象者だけが婚約者がいない……というのは少々異常な話だが、そこは完全にスルーされているので、ゲーム補正としか言いようがなかった。
「キースの場合は……君が原因だろう?リアム」
「え?」
「彼は優秀だからね。私の家庭教師として王宮に来ていた時もあるんだよ。その時から君のことを話すときは常に蕩けるような笑顔だったからね」
お、おお……兄よ……そんな前から俺は狙われてたんかい。改めて他人伝手に聞くと若干恥ずかしいものだ。頬が熱くなるのを感じながらも、俺は誤魔化すように笑う。
「それはまた……なんとも……」
「君こそ、キースの求婚はうけないのかい?」
求婚って……いや、そうだな。結婚って騒いでるもんなぁ……うちの家族全員。いや、使用人も含めてだ。アンは「お衣装はどうします?」と最近頻繁に聞いてくる。ほんっと、外堀埋められまくりなのだ。
「い、や……最近まで、兄と思っていたので、そうなかなか……」
キースのことは嫌いではない。が、いますぐどうこう考えられるほど恋愛能じゃない。これがな!綺麗なお姉さまだったらちょっと違ったと思うけど……!俺はドがつくノーマルだ。レジナルドは俺の答えを聞き、ふむ、と考えるように首を傾げた。
「じゃあ、キースと結婚する気はないのかい?」
「へ?いや、まあ、なんというか……」
もうこの会話止めてほしいばかりの俺だ。
難しいんだよな、答えが。……てか、誰か聞いたりしてないだろうかこの会話。
ナイジェルは俺が入ると同時に下がりはしたが……この邸内、ほぼ全員がキース派なのだ。
「そう。ならば……」
すっとレジナルドが立ち上がる。
そのまま俺の座る前まで来ると、俺の片手を取った。
そうして、自分の口元に俺の指先を持っていく。
「私の妃になるかい?」
素晴らしい笑顔でそう囁いた。
…………男ですやん…………。
学園を休んだとはいえ、特に調子が悪いわけでもない。そんな状態で王太子を自室に通すわけにはいかず、侯爵家の応接室に通してもらい、俺は急いで身支度を整えてやってきたところだ。
ナイジェルの案内で室内に入ると、レジナルドがにこやかに挨拶をしてきた。
調子は悪くないが、お前の顔は見たくなかったな……と心中で毒づきながらも俺は笑顔で頭を下げる。
「レジナルド王太子殿下……ご機嫌麗しゅう存じます」
「休んでいたから心配になってね。意外と元気そうで安心したよ。先輩、で構わないよ」
座って、と示すようにレジナルドは自分の前にあるソファを手で指した。
俺は、ありがとうございます、と言いながら指し示された場所へと座る。
「怪我は、昨日にノエル君が治してくれたのですが、両親が心配症で」
「ずっと隠してきた息子だからね……心配するのもわかるよ」
ふ、とレジナルドは笑った。特に馬鹿にしたようなものではない。
俺は自分から社交界にあまり出なかったりもしたし、色々と外聞を考えて両親ともにそういう話にしているのだろう。
「……今回は、ディマスが迷惑をかけてすまなかったね」
レジナルドがそう口にする。……俺は少しばかり吃驚してしまった。てっきり、今回のこともそれなりに愉しんでいるのだろうと思ったからだ。元凶はレジナルドではあるが、そう仕向けたわけじゃないことくらいは俺にも分かる。俺は、いいえ、と首を振る。
「いえ、まあ……レジナルド先輩が悪いわけじゃないので……ええと、ディマス様はその後いかがですか」
ノエルから様子は聞いているものの、会話の流れを切るわけにはいかず、俺がそう問いかけると、レジナルドは苦笑を漏らした。
「……相変わらずだよ。昔からああだからね、彼は」
うーん……昔からの知り合いで、ディマスは目に見えてレジナルドに好意を向けている。国家間の話をしてもグラーベと縁戚になるのはそう悪くないはずだ。
「……あの」
「うん?」
「レジナルド先輩は、ディマス様が……レジナルド先輩をお好きなことは……」
「……ディマスは分かりやすいからね。ただ私はディマスのことを手のかかる弟のようには見ていても、それ以上それ以下でもないね」
レジナルドはきっぱりとそう言った。これ以上は俺がどうこう踏み込めるところではない。が、割と俺は巻き込まれているわけで……。
「それは、その……ディマス様には仰ったんですか……?」
レジナルドは困ったような表情を浮かべて、笑う。
「あまりね……強くは言えない立場なんだよ、私は。ディマスはグラーベにおいて王位継承権こそ低くはあるが、大事にされていないわけではないんだ。妃腹だしね」
ディマスは俺にとって完全にイレギュラーで、その素性を詳しく知っているわけではない。何せゲームには出てこない人物だ。なので俺は伝え聞く情報しか知らなかった。自分で調べるということもしなかったし。
……確かに、レジナルドからしてみればディマスという存在は結婚を考えていない限り、少し厄介だ。妃腹と言えば、グラーベ王妃の子ということだし、それなりに重要視はされているだろう。そういう相手がレジナルドに友情で近づいているならば、それは良いことなのだろうが、ディマスの場合、明らかに恋心である。それもかなり強力な。こう考えていくと、やや自分の浅はかさが窺えてしまう。
「まあ、私も特殊な方ではあると思うよ。この年齢まで婚約者は決まっていないしね」
「ああ……まあ、兄も居ませんし……そういうことも、たまにはあるかと……」
レジナルドの婚約者が決まっていないのは、恐らくゲーム補正というやつだと俺は思っている。キースにしても恐らくそうだろう。その他の攻略対象者にだって、そういう相手は存在しない。しかし、実際の話をするならば、この世界において結婚適齢期はかなり早い。幼少から婚約者がいるのが一般的だし、本来であれば妃教育を考えると断然早い方がいい。何せ一国の王妃ともなれば誰もかれもが務まるわけではなく、対外国を見据えた教養と知識は必ず必須だ。
その中で、俺を含む関係者及び攻略対象者だけが婚約者がいない……というのは少々異常な話だが、そこは完全にスルーされているので、ゲーム補正としか言いようがなかった。
「キースの場合は……君が原因だろう?リアム」
「え?」
「彼は優秀だからね。私の家庭教師として王宮に来ていた時もあるんだよ。その時から君のことを話すときは常に蕩けるような笑顔だったからね」
お、おお……兄よ……そんな前から俺は狙われてたんかい。改めて他人伝手に聞くと若干恥ずかしいものだ。頬が熱くなるのを感じながらも、俺は誤魔化すように笑う。
「それはまた……なんとも……」
「君こそ、キースの求婚はうけないのかい?」
求婚って……いや、そうだな。結婚って騒いでるもんなぁ……うちの家族全員。いや、使用人も含めてだ。アンは「お衣装はどうします?」と最近頻繁に聞いてくる。ほんっと、外堀埋められまくりなのだ。
「い、や……最近まで、兄と思っていたので、そうなかなか……」
キースのことは嫌いではない。が、いますぐどうこう考えられるほど恋愛能じゃない。これがな!綺麗なお姉さまだったらちょっと違ったと思うけど……!俺はドがつくノーマルだ。レジナルドは俺の答えを聞き、ふむ、と考えるように首を傾げた。
「じゃあ、キースと結婚する気はないのかい?」
「へ?いや、まあ、なんというか……」
もうこの会話止めてほしいばかりの俺だ。
難しいんだよな、答えが。……てか、誰か聞いたりしてないだろうかこの会話。
ナイジェルは俺が入ると同時に下がりはしたが……この邸内、ほぼ全員がキース派なのだ。
「そう。ならば……」
すっとレジナルドが立ち上がる。
そのまま俺の座る前まで来ると、俺の片手を取った。
そうして、自分の口元に俺の指先を持っていく。
「私の妃になるかい?」
素晴らしい笑顔でそう囁いた。
…………男ですやん…………。
294
お気に入りに追加
514
あなたにおすすめの小説
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた
しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される???
家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。
R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。
現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。話の追加には相当な時間を要すると思いますが、宜しければお付き合いください。
(第1章の改稿が完了しました。2024/11/17)
(第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)


アルファな俺が最推しを救う話〜どうして俺が受けなんだ?!〜
車不
BL
5歳の誕生日に階段から落ちて頭を打った主人公は、自身がオメガバースの世界を舞台にしたBLゲームに転生したことに気づく。「よりにもよってレオンハルトに転生なんて…悪役じゃねぇか!!待てよ、もしかしたらゲームで死んだ最推しの異母兄を助けられるかもしれない…」これは第2の性により人々の人生や生活が左右される世界に疑問を持った主人公が、最推しの死を阻止するために奮闘する物語である。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
【完結】悪役令息の従者に転職しました
*
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。
依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。
皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ!
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー!
他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。
★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる