上 下
26 / 53

25.アレックス

しおりを挟む
王立学園の中にも運動に関する授業がある。それが剣術の授業だ。
『貴族たるもの、何時いかなる時も王と民を護るべし』という精神から来ている。
この授業は上級生と下級生がペアになって行う。先達が後進を育て、自らも指導技術を学ぶという意味も兼ねていた。今までは基礎的な体力作りに励んでいたが、今回の授業から実地で学ぶことになる。

「俺が君の指導係だ。よろしく頼む」

そう言って俺の前で頭を下げたのは、アレックス・コンブリオだった。

「よろしくお願いします……」

よりによって何でアレックスと当たるのか……これはいよいよもう、俺が主人公ルートを歩んでいるということに他ならない。何故なら、本来アレックスとあたるのはノエルのはずだからだ。
ノエルは別の無難な先輩──女生徒じゃねーか……!──とキャッキャウフフと楽し気に取り組んでいる。……あれ、ずるくないか……。

「さしあたって、力量を知りたいのだが……」
「あ、はい……えぇと……何をすればいいですかね……?」

よそ見をしていた俺は慌ててアレックスに視線を戻す。
アレックスは俺の質問に、ふむ、と頷いた。

「素振りはできるか?」
「……まあ、一応……」

習ってきたことを思い出しながら、俺は木剣を振るった。
二度三度、と振ったところでアレックスから止めるように手があがる。

「なるほど。君が剣術がからきしなのが分かった。さてどう教えたものか……」
「えっ?!あれ?!振れてませんでした?!」
「まあ、棒を振り回した感はあったが……」
「ふ、振り回す……」

苦手寄りというか苦手に両足突っ込んでいる部類の剣術ではあるが、自宅ではそれなりの教師にそれなりに教えられてきたわけで……才能が溢れてないことは自分でもわかっていたが、そこまでとは思っていなかったの。むしろ今のはいい感じに振れた気がする!とまで思ってたよね……。
あまりの才能のなさにアレックスも頭を悩ませるとは、逆に才能感じるよね!俺ね!泣きたいけど!

「とりあえず、型から覚えていくか……」

俺の隣に立ち、アレックスが俺の木剣を構える手と背中に自身の手を添える。
そうして──特訓が始まった。……帰りたい……。



みっちりと時間いっぱい無駄なくアレックスは俺に指導をしてくれた。
その成果は少しはあったようで、立ち姿はそこそこだ、と終わり際に言われて肩を励ますように叩かれる。あれだけやって立ち姿というのが解せぬ。
とはいえ、全くできてなかったと想定すれば少しはましになったのかもしれない……。

「ありがとうございました」

俺が礼をすると、アレックスが笑んで頷く。どちらかと言えばアレックスは愛想がないほうで、滅多なことでは微笑まないので、あたりもその顔に少しどよめいた。尤も本人はそれに気付いてないようで、少しざわめいた周囲に首をかしげていたが。

「リーアム!」

アレックスが去った後にノエルが俺の横へと来た。
俺の耳元に顔を寄せ、

「やばいよ、お兄ぃ……先輩めっちゃいい匂いだった……!」

等と小声でほざく。
……おっまええぇぇ……!

「ほーう?!俺はみっちりきっちりみちみちだったよ……!」

近くにあったノエルの耳を軽く引っ張りつつ、俺も小声で返してやる。
前世でも妹は綺麗なお姉さま系の女性が好きだったように思う。生まれ変わったところでそこは変わらないらしい。

「アレックスはどうだった?」

俺の手から逃げるようにノエルは身をよじりつつ、アレックスが去ったほうを顎で指す。
どう、と言われてもな……今回は最低限の接触しかないわけだし、何かを話したわけでもない。なので今日の感想としては、剣術きつかったな、というのが一番ではあるが……。

「まあ、普通かな……どこがルート分岐だっけ?」
「アレックスは……実戦の時。ノエルを護って怪我をして……怪我の理由が……」
「ああ、足が悪いんだっけ?小さいころの後遺症で」
「そうそう。その蟠りを取るのがキーポイントだけど……」

実戦、とは言葉そのままに有事の際に敵を倒すためのものだ。
魔法でつくられた幻影の魔物が適役となる。幻影と言っても攻撃はしてくるし、攻撃が当たれば怪我をする。要するにちゃんと取り組まないと、死なないものの痛手は被るというわけだ。確かノエルはその時に、うっかりと幹に足を取られてしまい……といった流れだった気がする。
そしてアレックスの後遺症こそ、アレックスのトラウマであり、ノエルが言ったようにそれを解消するのが主人公の役割だ。
そうすることで、晴れてアレックスルートとなるわけだが……。

「うーん……これって、どこまですべきなんだ?」

正直、あまりやりすぎるとまずい、というのが印象だ。
下手に関わると小さなフラグが大きなフラグになる。リンドンがそのいい例だ。
……しかしリンドンに関して言えば、あっちがいつの間にか大フラグを構えていただけでトラウマ解消とかそういうことしてないんですよね、俺……。お家に軟禁コースを避けるためにああした行動には出たものの、ゲーム攻略で知りえている内容について何かしたことはない。
成り代わり主人公(仮)とはいえ、無条件で好意を持たれすぎ案件……。

「リアム・デリカート!」

俺とノエルがだらだらと歩いていると、後ろから剣のある声が高らかに響く。

「うわ……」

声で分かる。ディマスだ……そうだ、剣術の授業はクラス合同だわ……。
振り返りたくないが、相手が相手なだけにそうもいかず、俺は振り返った。
その瞬間──……ぴしゃん、と俺の頬に何かがあたって落ちた。
大した痛みではないものの、面食らうには十分なもので、視線が落ちた何かに向かう。
それは、白の手袋だった。そして、

「貴様に決闘を申し込む!」

俺を指さしながらディマスがそう宣言した。
正気?
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

気づいたら周りの皆が僕を溺愛していた

しののめ
BL
クーレル侯爵家に末っ子として生まれたノエル・クーレルがなんだかんだあって、兄×2や学園の友達etc…に溺愛される??? 家庭環境複雑だけれど、皆に愛されながら毎日を必死に生きる、ノエルの物語です。 R表現の際には※をつけさせて頂きます。当分は無い予定です。 現在文章の大工事中です。複数表現を改める、大きくシーンの描写を改める箇所があると思います。当時は時間が取れず以降の投稿が出来ませんでしたが、現在まで多くの方に閲覧頂いている為、改稿が終わり次第完結までの展開を書き進めようと思っております。 (第1章の改稿が完了しました。2024/11/17) (第2章の改稿が完了しました。2024/12/18)

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

実は俺、悪役なんだけど周りの人達から溺愛されている件について…

彩ノ華
BL
あのぅ、、おれ一応悪役なんですけど〜?? ひょんな事からこの世界に転生したオレは、自分が悪役だと思い出した。そんな俺は…!!ヒロイン(男)と攻略対象者達の恋愛を全力で応援します!断罪されない程度に悪役としての責務を全うします_。 みんなから嫌われるはずの悪役。  そ・れ・な・の・に… どうしてみんなから構われるの?!溺愛されるの?! もしもーし・・・ヒロインあっちだよ?!どうぞヒロインとイチャついちゃってくださいよぉ…(泣) そんなオレの物語が今始まる___。 ちょっとアレなやつには✾←このマークを付けておきます。読む際にお気を付けください☺️ 第12回BL小説大賞に参加中! よろしくお願いします🙇‍♀️

実はαだった俺、逃げることにした。

るるらら
BL
 俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!  実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。  一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!  前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。 !注意! 初のオメガバース作品。 ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。 バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。 !ごめんなさい! 幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に 復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

【第2部開始】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~

ちくわぱん
BL
【第2部開始 更新は少々ゆっくりです】ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

優しい庭師の見る夢は

エウラ
BL
植物好きの青年が不治の病を得て若くして亡くなり、気付けば異世界に転生していた。 かつて管理者が住んでいた森の奥の小さなロッジで15歳くらいの体で目覚めた樹希(いつき)は、前世の知識と森の精霊達の協力で森の木々や花の世話をしながら一人暮らしを満喫していくのだが・・・。 ※主人公総受けではありません。 精霊達は単なる家族・友人・保護者的な位置づけです。お互いがそういう認識です。 基本的にほのぼのした話になると思います。 息抜きです。不定期更新。 ※タグには入れてませんが、女性もいます。 魔法や魔法薬で同性同士でも子供が出来るというふんわり設定。 ※10万字いっても終わらないので、一応、長編に切り替えます。 お付き合い下さいませ。

処理中です...