貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

第2章 上級貴族の息子

2.19 噂話

　結婚式があった翌週、ヒルベルトが遊びに来てくれた。
　今の季節は夏だ。この地方は冬が雪で埋もれるほどだけありそこまで熱い日が続くわけではない。ただ今日は今年最高気温を更新する勢いでとっても熱い。
　僕らは庭に水を引き込んだ小さなプールを作ってもらいそこで遊んだ。
　アイリーンは、淑女はそのような遊びはしませんと言って、バケツに水を入れて足だけ浸けていた。
　僕とヒルニムスにヒルベルトは、しっかりと全身ずぶぬれで遊び、熱さを凌いだ。
　執事長から聞いたが、どうやら貴族向けの公共プールは無いらしい。平民の子供たちは川で遊ぶらしい。そもそも人間が泳げると言うのが珍しいようだ。執事長も泳ぎ方を知らなかった。
　この小さい水入れでちょっと泳いで見せたら、もう少し大きい水たまりを作れば楽しめそうですねと言っていた。
　池で直接泳げばと言ったら、汚いからだめと言われた。残念だ。

　水から出て休憩中のお話。
「そういえば、クレストアが雇った平民に、恩賞で嫁に出したって聞いたけどほんとなのか？」
「え、どこでそれを」
「おかあさまから聞いたぞ。みんな知ってるんじゃないか」
「そ、そうなんだ。貴族街では馬車がちょっと走っただけで、婚儀の馬車は平民街の方で待たせたのだけど。そんなに知ってる人が多いんだ」
「さあ、どうだろうな。元をたどると商人が情報源だけどな。お前が恩賞でだした金額が平民街の豪商の家の嫁と同じだったらしくて、家のご用達が儲けさせてもらったとおかあさまに言ってららしいぞ」
「え、それってバッカスじゃないよね」
「家のご用達はお前の所とは違うはずだぞ。城を挟んで反対側だからな」
「へー、商人の領域があるんだ」
「ああ、独占してる商品は別だが、大半の物は城を挟んで二つ以上にわかれてるんだ」
「なるほど」
「それで、どうしてそんな話になったんだ。恩賞だけが理由じゃないだろ」
「え、どうしてそれを」
「だって、前に完成後に精麦機の改良は賃金を2倍払った言ってたろ、その後で領主に褒められたからって明らかにやりすぎ」
「まあ、貴族らしくない僕の失敗と我儘のせいだよ」
「だから、教えてくれよ。そのかわり何かの時に協力するぞ」
「おかあさまには叱られたんだから、黙っててよ」
「もちろん」
　ヒルベルトは、最高の笑顔で僕に返事をしてくれた。さわやかな二枚目に育ちそうだ。
「僕に付けてくれてた侍女の女が妊娠してたんだ。相手がその男でさ」
「は、お前付きの侍女はお前のだろ。手を出したなら極刑だろ」
「ああ、そう言われた。でも発覚した理由が新しい命だ。僕は捕まっていた時に死なないようにどれだけ頑張ったと思う。簡単に死刑とかしたくなかったんだ」
　ヒルベルトは反論するでもなく、静かにうなずきながら聞いてくれた。
「相手の男も、貴族のルールを知らなかった。ただの職人だからね。ふつうは一時だけの職人が貴族街に入ってくることはあまりない。貴族街に住む平民なら平民同士、自由に恋愛ができるって思ってたんだ。まあ、そういった事情からも今回は不問。おかあさま達は僕の精神的な負担を考えて条件付きで賛成してくれた。そういうわけさ」
「そうか。お前、苦労したんだな。僕は誘拐されたことがあるわけじゃないから、このことには口を出さない。またなにかあれば僕にも相談してくれ。何ができるかわからないけどお前の力になれるようにするから」
「ありがとう、ヒルベルト」
　ヒルベルトは小さいころからのクレストアではないと気が付いているはずだ。それでも僕の友達で居てくれる。貴重な友人だ。僕も大切にしたいと思った。