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5.4 子爵家の息子として生まれる
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「その他の言い分はわかった。正直、そなたが神徒であっても無くとも我にはどちらでも良いのだ。我は教会の者ではないしな。だがセレスティアの兄の記憶を持つならば、我らに対して反乱の意思が無いと言うお主らの意見を受け入れよう」
お、良い感じに意見を受け入れてくれたな。良かった。でも王様はまだ難しい顔をしている。一度黙って貫録を出そうとしているのか。これから厳しい意見を言うぞと言う感じだ。
「だからと言って王都にこれ以上の戦力が集まるのは困る。他の貴族達への建て前もある。そこでだが、やはりそなたらには王都から出て行って欲しい。
結論を言おう。カルギウス子爵、そなた達には北の辺境へ移動して貰いたい。ウルグスト王国に侵略された地の北だ。人口は少ないが、鉱山がある。寒さが厳しく作物が殆ど育たない。ゆえに侵攻されておらぬのだろう。鉱山はそこだけでないが、あそこを完全に押えられると国内の鉄がかなり減ってしまう。せっかく戦力が集まったのならば、あの地を守ってくれ」
「はっ」
「陛下」
「アクア、黙って受け入れなさい」
父上が返事をした直後に僕が声を出したので父上に警告を受けた。だがここで大人しく下がるととても不利な条件での移動になる可能性がある。
「北の地への移動、それは神が復興を望まれていた地です。行くのは歓迎です。行って民へ救いの手を差し出さなければなりません。自分たちだけが生活できれば良いわけではないのです。神が気にかけていた地での失敗は許されません。準備期間を貰ってもよろしいですよね」
「ああ、もちろんだ。今から移動すればすぐに冬だ。移動は春になってからで良い。準備はどのくらいかかるのだ」
「半年あれば、たぶん。それと、幾つかの頼み事あります」
「なんだ、食料ならば、治安維持軍として補充するつもりだぞ」
「この半年の間に、家を建てる工夫を施し、この地でテストをしたいのです。その為の技師をお貸しください。現地に連れて行き、あちらに到着後、半年間で多くの家を建てなければいけません」
「家じゃと、そなた達が住まう家か」
「我々だけではありません、一般の平民達も住む家です。あの地は寒さが厳しいのに薄い木の板で作られた家が多いはずです。僕に考えがあります。保温性が高く、冬の間は集団で皆で助け合える家を作ります。それを、なるべく安く、大量に作れる家でなければいけませんので、半年の準備期間で試しが必要です」
「ああ、解った。此度の移動は守りの強化だ。死ぬ為の移動では無い。資材の手配もできる限りは協力しよう。技師もだ。近いうちに工房府の者をそなたの元へ派遣しよう。必要な準備をするが良い」
謁見後、暗殺も無く、無事に家に戻ってこれた。
「陛下から、かなり良い条件を引き出せましたね。アクアオルギュス様の人徳でしょうか。ですがアクサ様、北への移動が、神が望んだ地と言うのはどういう意味でしょうか」
「アウロス、直球だな」
「時間がありません、さっさとしゃべってください。それに合わせて動きます」
「アウロスは、僕がこの地に生まれた最初がアースヴェルギウスでない事は気が付いているね」
「ええ、アース様の前はカルーシア王国グルースバルク男爵領の農奴の息子でしょう」
「ああ、実は、その前もある。とある貧民に生まれた。たぶんね。
生まれずに死んだ事も、生まれてすぐに捨てられたり、ネズミにかじられて死んだり。その時に寒かった事、家の建て方が拙かった事を覚えている。気候や、食料の状況、アースの時に勉強した事を推察すると、北の地が該当する。神は、最初の頃あの地にこだわっていた。
ひたすらにあそこに生まれ、育つ事なく死んだ。きっとあそこを救いたかったのだろうし、恐らくそういった不遇の地に生まれる事にも意味があったんだと思う。だからアースヴェルギウスの時、国外へも農業の改革を流してもらった」
「そうだったのですか、あの地には巡礼として回ってはいましたが厳しい土地ですよ。
確かに寒さの割に家がぼろく、食料以前に冬を生きて過ごせている事を不思議に思うほどでした」
「ああ、だから家だ。まずは家を直す。衣食住と言うが、食料は短い夏の間に芋を育てて食べ物を手に入れる。改革は進んでいるんだ、なんとかなるだろう」
「わかりました。では、わたくしは当面は家の方を担当します。まずは人集め、金集めですね。構造や工法については、資料をまとめておいてください。
それと、アロイスを呼びました。私の従弟ですし、最初の農業指導者でもあります。今回は必要でしょう」
「ああ、彼が来てくれるなら100人力だな」
「では、出かけてきます」
お、良い感じに意見を受け入れてくれたな。良かった。でも王様はまだ難しい顔をしている。一度黙って貫録を出そうとしているのか。これから厳しい意見を言うぞと言う感じだ。
「だからと言って王都にこれ以上の戦力が集まるのは困る。他の貴族達への建て前もある。そこでだが、やはりそなたらには王都から出て行って欲しい。
結論を言おう。カルギウス子爵、そなた達には北の辺境へ移動して貰いたい。ウルグスト王国に侵略された地の北だ。人口は少ないが、鉱山がある。寒さが厳しく作物が殆ど育たない。ゆえに侵攻されておらぬのだろう。鉱山はそこだけでないが、あそこを完全に押えられると国内の鉄がかなり減ってしまう。せっかく戦力が集まったのならば、あの地を守ってくれ」
「はっ」
「陛下」
「アクア、黙って受け入れなさい」
父上が返事をした直後に僕が声を出したので父上に警告を受けた。だがここで大人しく下がるととても不利な条件での移動になる可能性がある。
「北の地への移動、それは神が復興を望まれていた地です。行くのは歓迎です。行って民へ救いの手を差し出さなければなりません。自分たちだけが生活できれば良いわけではないのです。神が気にかけていた地での失敗は許されません。準備期間を貰ってもよろしいですよね」
「ああ、もちろんだ。今から移動すればすぐに冬だ。移動は春になってからで良い。準備はどのくらいかかるのだ」
「半年あれば、たぶん。それと、幾つかの頼み事あります」
「なんだ、食料ならば、治安維持軍として補充するつもりだぞ」
「この半年の間に、家を建てる工夫を施し、この地でテストをしたいのです。その為の技師をお貸しください。現地に連れて行き、あちらに到着後、半年間で多くの家を建てなければいけません」
「家じゃと、そなた達が住まう家か」
「我々だけではありません、一般の平民達も住む家です。あの地は寒さが厳しいのに薄い木の板で作られた家が多いはずです。僕に考えがあります。保温性が高く、冬の間は集団で皆で助け合える家を作ります。それを、なるべく安く、大量に作れる家でなければいけませんので、半年の準備期間で試しが必要です」
「ああ、解った。此度の移動は守りの強化だ。死ぬ為の移動では無い。資材の手配もできる限りは協力しよう。技師もだ。近いうちに工房府の者をそなたの元へ派遣しよう。必要な準備をするが良い」
謁見後、暗殺も無く、無事に家に戻ってこれた。
「陛下から、かなり良い条件を引き出せましたね。アクアオルギュス様の人徳でしょうか。ですがアクサ様、北への移動が、神が望んだ地と言うのはどういう意味でしょうか」
「アウロス、直球だな」
「時間がありません、さっさとしゃべってください。それに合わせて動きます」
「アウロスは、僕がこの地に生まれた最初がアースヴェルギウスでない事は気が付いているね」
「ええ、アース様の前はカルーシア王国グルースバルク男爵領の農奴の息子でしょう」
「ああ、実は、その前もある。とある貧民に生まれた。たぶんね。
生まれずに死んだ事も、生まれてすぐに捨てられたり、ネズミにかじられて死んだり。その時に寒かった事、家の建て方が拙かった事を覚えている。気候や、食料の状況、アースの時に勉強した事を推察すると、北の地が該当する。神は、最初の頃あの地にこだわっていた。
ひたすらにあそこに生まれ、育つ事なく死んだ。きっとあそこを救いたかったのだろうし、恐らくそういった不遇の地に生まれる事にも意味があったんだと思う。だからアースヴェルギウスの時、国外へも農業の改革を流してもらった」
「そうだったのですか、あの地には巡礼として回ってはいましたが厳しい土地ですよ。
確かに寒さの割に家がぼろく、食料以前に冬を生きて過ごせている事を不思議に思うほどでした」
「ああ、だから家だ。まずは家を直す。衣食住と言うが、食料は短い夏の間に芋を育てて食べ物を手に入れる。改革は進んでいるんだ、なんとかなるだろう」
「わかりました。では、わたくしは当面は家の方を担当します。まずは人集め、金集めですね。構造や工法については、資料をまとめておいてください。
それと、アロイスを呼びました。私の従弟ですし、最初の農業指導者でもあります。今回は必要でしょう」
「ああ、彼が来てくれるなら100人力だな」
「では、出かけてきます」
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