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第4章 10歳王都編

4.18 番外ニナシスティ編

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 ニナシスティは本日も王宮へと来ていた。
 姉のエレノアは、同じ年のクリシュナと共に第1王妃の所へ勉強に行っている。なぜかずいぶんと王妃に気にいられたらしい。新しく母となったピンクの髪が特徴のカトレア様が教えてくれた。
 つまり今日は同じ年のマリアテレーズ様に会いに来たのでは無い。第3王女のマイアーロッセ様と第4王女のシュミット様に会いに来たのだ。
 いつもは第1王女のスザンヌ様か、第2王女のマリアテレーズ様が一緒だが第1王女は公務があり出かけている。そして第2王女はコハクと一緒に出かけている。
 なので、第3王妃のアンジェリカ様に頼まれ、自分が2人の面倒を見るのだと張り切っていた。

 マイアーロッセ様とシュミット様はマリアテレーズ様と同じ年のニナシスティの事をニナ姉さまと呼んで慕ってくれる。いつも、エレノアの後ろで妹として行動して来た彼女にとって、姉と呼んでくれるこの二人の事は大切なのだ。
 ニナシスティは、彼女たちの前では、エレノアが感心するほどにお姉さんとして行動が出来るようになったのだ。

 そんなわけで、今日の内容は二人を連れて街へお忍びの冒険に行く予定だ。もちろん侍女が2人に3人の騎士が付いて来てくれることになっている。
 
 さて、準備が整い馬車へと乗り込む。
 その時に気になったのだが大人の5人がそろいもそろって可憐な印象の綺麗な娘達なのだ。守るべき立場の彼女たちが一番狙われそうな容姿だった。

 全員が町娘風の服を着ているが、服の質からして貴族のお忍びと解る格好だ。

 馬車が出て街に入る。決められた場所に馬車を止めて、彼女たちに導かれて街を進む。今日は買い物が中心ではなく、街を見学し流行りのお菓子を食べて帰るだけだ。

 ところが、街を歩きだしてすぐに事件が起きた。

 男達が、彼女達に声をかけて来たのだ。
 貴族風と解っているだろうに絡んでくるとは。ちょうど兵士達から離れている場所。狙っていたのだろうか。

 相手は10人。
 休暇中の兵士達では無い。どうやらろくでもない連中と思われる。
 普段は昼間にこんな連中が街をうろうろとしていることは無いのだ。悪党にしては、昼間から歩き回っている奇妙な連中だ。

 このまま通り過ぎる事ができるかと思ったが、そうはならなかった。
「じゃああんただけでも良いんだぜ」
 ごろつきが、一番後ろに回った侍女を捕まえたのだ。

 捕まった侍女を見ると、首筋にナイフが当てられている。
 護衛騎士3人がスカートの下からショートソードを取り出し、もう一人の侍女は左右にナイフを握った。
「抵抗するならこの女に傷がつくぞ」
 街中でこのような強硬手段で出て来るとは予想していなかっ為に、護衛は後手に回ってしまった。あっさりと人質を取られてしまった。
「我々の護衛対象はこの3人だ、その人を盾にしても無駄だ」
 護衛がそのように答えてはいたが、一旦様子見。

 急に騒がしくなった事に気が付き、兵士を呼べと言う声も聞こえて来た。

 このまま、しばらく時間を稼げば兵士達が来てくれるだろう。

 だが、侍女を一人人質に取られたままでは、9対4。満足に戦えるのは3人。状況は悪い。

 ニナシスティは、敵から注目されていないと感じていた。つまり自分が動くことでこの状況を打開できると思った。そこで、背中に背負っているリュック型のぬいぐるみを降ろし魔力を流す。
「マイ、シュミット」
 ニナシスティは二人に声をかけて手を握って安心させる。

 ニナシスティは、そのままぬいぐるみを魔力を流し、動かした。ぬいぐるみが立ち上がり、侍女の足元を抜け男の前に出た。
 ぬいぐるみは敵から見える位置に出た瞬間、躊躇なく飛び上がり男の腹に頭突きを食らわせた。
 ぬいぐるみの様な柔らかい物ならば、たとえ操作されたとしてもたいした威力は出ない。そう思われていた。
 だがニナシスティは当たる少し前に、瞬間的にぬいぐるみを硬質化させた。その突撃の威力は強く、男は数メートル吹き飛ばされた。
 しかもその後、ぬいぐるみは弾き飛ばされることなくごく自然にその場に着地し、再び攻撃姿勢を取る。そして次の男の顔付近まで飛び上がると、その短い脚で顔を蹴り上げた。

 男はがくりと倒れこむ。

 これで残り8人となり人質もいなくなった。
 即座に護衛の騎士が動き敵を捕らえようと動く。

 ニナシスティのぬいぐるみは倒れた男の腹へ着地し、続いて自分たちの左側を囲んでいた男に向かい一直線に飛んだ。そして頭突き。吹き飛ばされた男に対して、ぬいぐるみは空中で回転し見事な着地を見せる。そのまま流れるように飛び上がり隣の男にパンチで倒す。続けてもう1人を蹴飛ばした。
 5人が倒れ、騎士と侍女が残りの5人を抑えている。ニナシスティは油断することなく、倒れた男達を土魔法で拘束した。
 それを見て、残りの男達も降伏し武器を捨てた。もちろん即座にニナシティによって拘束された。この間、数十秒。すべてを無詠唱で行った。

 侍女の一人が対応した時に剣で腕を切っていた。軽い切り傷だ。

 ニナシスティは残念だが回復魔法を使えない。この場にはマリアテレーズも居ない。
 だが、マイアーロッセが居る。
 ニナシスティはジルベールから、彼女が歌えば歌の力で奇跡を起こせると聞いていた。。彼女は、植物を育てたり傷を癒したりできると。
「マイ、彼女の痛みが消えるようにと願いながら歌を歌ってちょうだい」
「ニナ姉さま、私は何もできないわ、気休めにも」
「大丈夫よ。待っている間の気休め十分。マイの歌で治らなくても、きっと聞くだけで痛みがへるわ」
 ニナシスティに言われて、マイアーロッセが歌を歌い始めた。ニナシスティは、マイアーロッセの両手を握り、魔力を外から動かした。ジルベールから習った通りに。魔力を喉を中心に集めた。
 マイアーロッセが一曲終わった時には、周りに沢山の人が集まっていて拍手が鳴り響いた。そして怪我をした彼女の傷は、治ったわけでは無いが血が止まっていた。多少の効果はあったらしい。
 そしてちょうど兵士達がやって来た。兵士達は男を捕まえ、馬車まで送ってくれた。

 事件が起きたために、本日のお出かけはここまでとなった。
 こうして、マイアーロッセとシュミットにとっては少しだけ怖い事があった日として、ニナシスティにとっては、姉として立派にやれたと思えた日だった。
 そして、ニナシスティが大魔導士と呼ばれるきっかけとなる事件でもあった。

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