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第2章 幼少期

2.19.3 8歳の夏

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 この領地は人口に対しては、寡婦への支援施設が多い。
 彼女達への支援はとても長い期間が必要になる。支援は一時的な物であってはいけないのだ。
 現状、寡婦施設の女性達全員が生活に困っているわけではない。
 ミレーユさんの工房や、他の工房で掃除や食事の用意などで雇われている人もいる。

 外で働く給料だけでは生活は成り立たないが、住居を与える事で彼女たちは自活できている。
 そういった支援ならば共同で生活できる建屋を提供するだけなので長い支援が可能だ。

 だが、全員が働けているわけでは無いのが現実だ。
 施設を訪問して感じたが、食事が十分でない家が多かった。
 母子で生活している世帯は、孤児院よりも苦しい生活をしているように様に思えた。

 だが、これ以上の補助はクロスロード領地の稼ぎでは不可能だ。
 働ける人は働いて稼いでもらわないと働けない人を養う事が出来ない。

 このまま生活費を補填し続けても自然に働く口が増えるわけではない。
 補助金は、彼女たちに安定した職を提供するところに使う必要がある。

 幸い、リリアーナ母様の政策が落ち着き、安定期に入ってきたことが要因だろう、領内で不遇な対応におちいる女性は減った。
 新規に支援が必要な人たちが減った事で新たな施設を作る費用の一部を職の提供側に回すことが出来るようになってきた。

 僕はリリアーナ母様から、政策の練習として、職を増やす仕事を手伝いなさい言われていたので、施設の見回り時に全員の能力を鑑定で確認した。

 まず、彼女達の多くが裁縫スキルを持っていた。
 一般市民の大半は幼い時から裁縫を習う。
 裁縫のスキルは嫁に行く必須の条件になっているようだ。

 つまり、裁縫を活用した仕事を与えれば多くの女性が仕事をすることができる。
 ただ単純な裁縫だと、すべての家庭にいる主婦もできるので需要が無い。

 つまり普通の主婦が作るような物はだめだ。
 なにか別の売れる製品でなければ。

 そこで考えたのは、森を探索する時に見つけた"わた"。
 それと、工房で人気の無い小動物の毛皮や、端切れ。

 まず試しに、裁縫スキルのある人に頼んで"わた"を入れた毛皮のクマのぬいぐるみを作ってもらった。

 何度か型紙を修正しながら作ってもらったクマのぬいぐるみは、なかなかかわいいクマになった。

 この領地で出現する熊は角のある魔獣だ。
 作ったぬぐるみに角は無い。

 完成品を見せたら、熊の魔獣の幼獣そっくりだとわかった。

 なんと、凶暴な魔獣の赤ちゃん時代がそんなにかわいいとはびっくりした。

 完成したぬいぐるみをエレノアとニナシスティに渡し、感想を聞くとなかなか好評だった。

 "わた"は、領内の林にある木の実から取れるのだ。

 ヤシの実のような直径30cm種。
 外側の殻を割り、内側が"わた"の塊だ。
 ヤシの実を割ることが出来れば"わた"を集めることはできる。

 だが硬い殻を割らなければならないし、"わた"と共に油が採れる。
 その油のにおいを綺麗に落とす必要がある。

 中から取り出した"わた"は、そこから取れる油と別に分ける。
 いままでは、油だけを収穫していた。
 理由は収穫した"わた"がくさかったから使われていなかった。
 作ったぬいぐるみも僅かに嫌なにおいが残っていた。

 "わた"の臭みは、川の水を引き込んだ水場に数日漬け込む。
 もともとは最後に塩水で洗っていたそうだが、それでも匂いがしたらしい。

 今回は、塩に米ぬかを入れて一緒に洗ってみたら、うまく匂いが取れた。
 前世の知識で米ぬかが汚れを落とせるとかうろ覚えだったのだが試してみたら、どういう原理か不明だが、匂いが取れた。
 米ぬかさまさまだ。

 これで、"わた"を使った製品を作れる。

 "わた"が手に入れば、布団や暖かいコートも作れるはずだ。
 布団は高級品で、貴族や上流階級の平民達の間でしか広まっていない。
 これが製品として売られるようになれば十分に利益がでるだろう。

 これらの事をレポートしてまとめてリリアーナ母様に提出した。

 リリアーナ母様は、僕の考えを見て、一部を修正して実践してくれた。
 明らかにダメな点は教えてくれたが、今回の事は練習として割り切っているので失敗したら失敗したで良いと言っていた。
 働き手となった女性達は、失敗しても補助金で生活が出来るようにバックアップはされていたからだ。

 子供だからと勉強だけをすれば良いと言うわけではなく、出来るところから政策に携わらせてくれるのだから、太っ腹な母だなと思う。
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