13 / 62
第二章
穴の中
しおりを挟む
話しながら歩いていると、採掘場の入り口に着く。間近まで来ると、案外広い穴になっているのがわかる。中は洞窟というよりはトンネルのようになっていて、上部はしっかり崩れないよう補強されている。
エリーと優人は一歩踏み入れてみたが、カミーユが後ろに立ったままついて来ていない。振り返ると、カミーユは顔を手で覆い少し俯いていた。
「だ、大丈夫…?」
「たしっかに、クッセェ……マジで……。結構キツいぜこれは……」
「そんなにですか?俺や他のみんなは普通に仕事してたんですけど……」
「あのチビっこいのに同情するぜ……こりゃ入りたくねえはずだ……」
カミーユが肩を震わせている。耐えているのかと思ったが、どうやら笑っているようだった。人間、もうどうしようもないときは笑いが出てくるというやつだろうか、と優人は思った。
それでも覚悟を決めたのか、カミーユも中へ入り込む。足取りはゆっくりだが、それは入るのが嫌だからという理由だけでもなさそうだった。
「……風がねえな」
カミーユは何もない空間に手をかざし、風を感じ取っている。そう言われて優人もエリーも風を気にしてみたが、あまり空気の流れは感じられなかった。
「あ……確かに、中は無風だね」
「いつも、こんな感じか?」
カミーユが問うと、青年ははい、と明確に返事をする。
「たまに風を感じても、外から入ってくる弱い風ですね」
「では、ここが匂いの発生源ではないということか」
エリーの言葉に、カミーユは頷く。
「考えてみりゃ当たり前だが、中から外へはそう強い風は吹かねえ。ここから発生して、この弱い風で外へ漏れ出て、村中に蔓延する…ってのはちょっと考えにくいな。……でも、弱くとも風が入ってくるのなら、ここまで匂いがキツく充満するってのも、何かおかしい。ある程度風が入って空気が循環するんなら、匂いが出て行っても良さそうなモンだ」
「それとも、それが臭気でないのなら流れ込んだ分だけ蓄積するものなのかもしれんが……それほどキツいのか」
「こんな状況でなけりゃ今すぐ出て行きてえくらいにはな。じいさんの工房も結構なモンだったが、ここは尋常じゃねえ」
工房では顔に出さないようにしていたカミーユだったが、採掘場はよほど辛いのか顔をしかめたままだった。頭も痛いのか、こめかみの辺りを指で揉むように押さえている。
「なんにしてもここは異様だ。穴の中からじゃねえなら、山の上ってことも考えられる」
「ここがそんなにひどいのなら、この真上とかが怪しいのかもね。真上には何か?」
「いえ、山の上はほとんど手つかずでして、特に何かあるってこともありません。たまにじいさんばあさんたちが木の実や山菜なんか採りに入ってたりするみたいですがね」
「なるほどな」
何もない山の上を捜索するとなるとかなり骨が折れそうだ。ある程度見当をつけてから行かないと、山の中を彷徨うことになってしまう。
「おい、そろそろ出よう。カミーユ、顔色が悪いぞ」
「そうするか、悪りぃな」
エリーの言葉に優人はハッとして、改めてカミーユを見ると確かに顔が青い。ずっと悪臭の中に居たなら、具合も悪くなるだろう。魔力の強い少年の兄は倒れたというのだから、カミーユも他人事ではない。四人は足早に採掘場を出て、念のため一度山の麓からも離れた。
「カミーユ、平気?」
「……おお、なんとかな…」
再び村の中心部まで戻ってきた。例の匂いも少し薄れたのか、カミーユの表情も少し楽そうになった。
ちょうど昼どきだったので、一度宿に戻り休憩することにした。宿に着くと、未だ青い顔をしたカミーユを見て宿のおばさんがあらあら、と声をあげ色々と看病してくれた。
「大丈夫かい?何か食べられそう?無理しないで……」
「いいや、食う。むしろ何か食いモンで鼻を誤魔化してえ」
椅子に深く腰掛けて上を向き、額に冷たい濡れタオルをかけてもらったままカミーユが言うと、食べられるなら大丈夫そうだね、とおばさんも笑った。
ほどなくして出された料理は香ばしいチキンと野菜のキッシュで、部屋中良い香りでいっぱいになった。思わず頬が緩む。
「ふは~、生き返る……」
「ふふふ、まだ食べてもないのに大袈裟な子だねえ。あ、そうだ、近所の人たちに言っておいたよ、相談事があれば教会に集まっとくれってね、伝言をお願いしておいたから、みんなに伝わってるはずさ」
おばさんはカミーユに頼まれた通りに動いていてくれたらしい。実に働き者な人だ。カミーユがありがとうな、とお礼を言うと、いいんだよこれくらい、と笑ってくれた。
「もう少しでみんな集まる頃だろうさ。ゆっくり食べてから行ってみるといい」
「おう、いただきます」
それまでぐったりとしていたカミーユだったが、しっかり食べているの見てエリーも優人も安心した。
出された昼食をすっかり食べ終える頃には、カミーユもだいぶ調子が戻ったようだった。宿のおばさんにお礼を言い、三人は教会へ向かうことにした。
「あの強烈な匂いの中に入ってから感覚が麻痺したのか、街に漂う匂いくらいじゃなんとも思わなくなっちまったな……」
「匂いって、慣れるからね」
調子が戻ったとはいえまた外に出るのは心配だったが、どうやらもう慣れてしまったらしい。良いことなのか悪いことなのかはわからなかったが、体調が悪くなっていないのならよかったと思うことする。
「ねえ、職人のおじさんは、魔力を持ってる人なの?」
「……そうだな、武器やなんかを作るときは、作り手の力をそれに込めることで武器としての精度が高くなるんだ。お前の剣を作ったときも、俺とエリーの力をやっただろ。強さよりは質が問われるから、強くはなくとも職人なら多少は持ってるはずだ」
優人の問いの意味を、カミーユも察したようだった。今気づいた、というよりは、優人の疑問により考えを肯定されたことで、確信に至ったような感じだ。
「あの工房は、山の方を向いた入り口と窓しかなかった。きっと匂いを乗せた風が吹き溜まりみたいになっちゃうんじゃないかな。おじさんも最初は違和感があったはずだよ、きっと慣れちゃって、わからなくなっちゃったとか…」
魔力を持つ者なら、匂い自体がわからずとも影響を受けることもあるのではないかと優人は考えたのだ。採掘場の少年の兄は倒れてしまったという。カミーユも具合が悪くなっていた。それならば、職人のおじさんの作品がうまくいかないことも、その影響とは考えられないだろうかと思った。
「……フン、そんなのはお前に言われなくても考えてんだよ」
カミーユは顔を背けてそう言った。優人は余計なことを言ってしまったかと思ったが、その後小さくカミーユが頷き、そうだよな、と呟いたのが微かに聞こえた。
小さな村の教会では、思った以上に有益な情報を聞くことができた。集まっていたのは十人ほどで、皆村に漂う匂いを感じていたり、体調の悪化を訴える人たちだった。
その中でも大きな手がかりは、山近くに住まう老夫婦の話だった。
「先週にね、うちのじいさんと、山に山菜採りに出かけたんです。山に近づくほど臭い臭いと思ってたんですが、登るほどに匂いがキツい。じいさんは何ともないと言っていたんで変だと思ったんです。そしたら、魔物がうじゃうじゃ出てきたんですわ。あの山に居るような小物は普段大人しいもんなんですが、それがその日は纏わりつくようにして襲ってきたんです」
おばあさんの話を聞いて、私もこの前襲われたのよ、と話す中年の女性も居た。見ると女性は顔に軽い怪我をし、足も捻挫したらしく杖をついていた。
「アタシは魔法が使えるんでね、咄嗟に追い払えたから、たいした怪我もしてないんですがね、どうにも怖くて。あんなこと、今までなかったのに」
「それはどの山のどの辺りか覚えてるか?」
カミーユは問いながらいつの間にか手に入れていたらしいこの村の山を含めた地図を広げた。おばあさんは覚えてるよ、と言い地図にマークしていく。丁寧に山に入りやすいルートまで教えてくれた。
「…やっぱり採掘場のところの山か」
「アタシは山頂のあたりが怪しいと思うがね、てっぺんのほうなんて、アタシらの足じゃどうにもならんて」
「いや、じゅうぶんだ、ありがとうばあさん」
それからカミーユは、おばあさんや怪我をしていた女性の治療をしたり、体調が悪いものにもまじないをかけていた。
カミーユはいつもこうして街や村の人たちと言葉を交わしているのだなと優人は妙に感心してしまった。普段の粗暴さはまったく感じられず、とても親身になって話を聞いているカミーユの姿に驚いたのだ。外見を除けば、真面目な僧侶だというかつてのカミーユの言葉にも頷けると思った。
山に入るのは明日ということになった。もう昼を過ぎ、まだしばらくは明るいが、山に登ってからすぐに原因が見つかれば良いけれど、そうでなければ陽が落ちてしまう。手つかずの獣道を暗くなってから歩くのは非常に危険だと判断したのだった。
エリーと優人は一歩踏み入れてみたが、カミーユが後ろに立ったままついて来ていない。振り返ると、カミーユは顔を手で覆い少し俯いていた。
「だ、大丈夫…?」
「たしっかに、クッセェ……マジで……。結構キツいぜこれは……」
「そんなにですか?俺や他のみんなは普通に仕事してたんですけど……」
「あのチビっこいのに同情するぜ……こりゃ入りたくねえはずだ……」
カミーユが肩を震わせている。耐えているのかと思ったが、どうやら笑っているようだった。人間、もうどうしようもないときは笑いが出てくるというやつだろうか、と優人は思った。
それでも覚悟を決めたのか、カミーユも中へ入り込む。足取りはゆっくりだが、それは入るのが嫌だからという理由だけでもなさそうだった。
「……風がねえな」
カミーユは何もない空間に手をかざし、風を感じ取っている。そう言われて優人もエリーも風を気にしてみたが、あまり空気の流れは感じられなかった。
「あ……確かに、中は無風だね」
「いつも、こんな感じか?」
カミーユが問うと、青年ははい、と明確に返事をする。
「たまに風を感じても、外から入ってくる弱い風ですね」
「では、ここが匂いの発生源ではないということか」
エリーの言葉に、カミーユは頷く。
「考えてみりゃ当たり前だが、中から外へはそう強い風は吹かねえ。ここから発生して、この弱い風で外へ漏れ出て、村中に蔓延する…ってのはちょっと考えにくいな。……でも、弱くとも風が入ってくるのなら、ここまで匂いがキツく充満するってのも、何かおかしい。ある程度風が入って空気が循環するんなら、匂いが出て行っても良さそうなモンだ」
「それとも、それが臭気でないのなら流れ込んだ分だけ蓄積するものなのかもしれんが……それほどキツいのか」
「こんな状況でなけりゃ今すぐ出て行きてえくらいにはな。じいさんの工房も結構なモンだったが、ここは尋常じゃねえ」
工房では顔に出さないようにしていたカミーユだったが、採掘場はよほど辛いのか顔をしかめたままだった。頭も痛いのか、こめかみの辺りを指で揉むように押さえている。
「なんにしてもここは異様だ。穴の中からじゃねえなら、山の上ってことも考えられる」
「ここがそんなにひどいのなら、この真上とかが怪しいのかもね。真上には何か?」
「いえ、山の上はほとんど手つかずでして、特に何かあるってこともありません。たまにじいさんばあさんたちが木の実や山菜なんか採りに入ってたりするみたいですがね」
「なるほどな」
何もない山の上を捜索するとなるとかなり骨が折れそうだ。ある程度見当をつけてから行かないと、山の中を彷徨うことになってしまう。
「おい、そろそろ出よう。カミーユ、顔色が悪いぞ」
「そうするか、悪りぃな」
エリーの言葉に優人はハッとして、改めてカミーユを見ると確かに顔が青い。ずっと悪臭の中に居たなら、具合も悪くなるだろう。魔力の強い少年の兄は倒れたというのだから、カミーユも他人事ではない。四人は足早に採掘場を出て、念のため一度山の麓からも離れた。
「カミーユ、平気?」
「……おお、なんとかな…」
再び村の中心部まで戻ってきた。例の匂いも少し薄れたのか、カミーユの表情も少し楽そうになった。
ちょうど昼どきだったので、一度宿に戻り休憩することにした。宿に着くと、未だ青い顔をしたカミーユを見て宿のおばさんがあらあら、と声をあげ色々と看病してくれた。
「大丈夫かい?何か食べられそう?無理しないで……」
「いいや、食う。むしろ何か食いモンで鼻を誤魔化してえ」
椅子に深く腰掛けて上を向き、額に冷たい濡れタオルをかけてもらったままカミーユが言うと、食べられるなら大丈夫そうだね、とおばさんも笑った。
ほどなくして出された料理は香ばしいチキンと野菜のキッシュで、部屋中良い香りでいっぱいになった。思わず頬が緩む。
「ふは~、生き返る……」
「ふふふ、まだ食べてもないのに大袈裟な子だねえ。あ、そうだ、近所の人たちに言っておいたよ、相談事があれば教会に集まっとくれってね、伝言をお願いしておいたから、みんなに伝わってるはずさ」
おばさんはカミーユに頼まれた通りに動いていてくれたらしい。実に働き者な人だ。カミーユがありがとうな、とお礼を言うと、いいんだよこれくらい、と笑ってくれた。
「もう少しでみんな集まる頃だろうさ。ゆっくり食べてから行ってみるといい」
「おう、いただきます」
それまでぐったりとしていたカミーユだったが、しっかり食べているの見てエリーも優人も安心した。
出された昼食をすっかり食べ終える頃には、カミーユもだいぶ調子が戻ったようだった。宿のおばさんにお礼を言い、三人は教会へ向かうことにした。
「あの強烈な匂いの中に入ってから感覚が麻痺したのか、街に漂う匂いくらいじゃなんとも思わなくなっちまったな……」
「匂いって、慣れるからね」
調子が戻ったとはいえまた外に出るのは心配だったが、どうやらもう慣れてしまったらしい。良いことなのか悪いことなのかはわからなかったが、体調が悪くなっていないのならよかったと思うことする。
「ねえ、職人のおじさんは、魔力を持ってる人なの?」
「……そうだな、武器やなんかを作るときは、作り手の力をそれに込めることで武器としての精度が高くなるんだ。お前の剣を作ったときも、俺とエリーの力をやっただろ。強さよりは質が問われるから、強くはなくとも職人なら多少は持ってるはずだ」
優人の問いの意味を、カミーユも察したようだった。今気づいた、というよりは、優人の疑問により考えを肯定されたことで、確信に至ったような感じだ。
「あの工房は、山の方を向いた入り口と窓しかなかった。きっと匂いを乗せた風が吹き溜まりみたいになっちゃうんじゃないかな。おじさんも最初は違和感があったはずだよ、きっと慣れちゃって、わからなくなっちゃったとか…」
魔力を持つ者なら、匂い自体がわからずとも影響を受けることもあるのではないかと優人は考えたのだ。採掘場の少年の兄は倒れてしまったという。カミーユも具合が悪くなっていた。それならば、職人のおじさんの作品がうまくいかないことも、その影響とは考えられないだろうかと思った。
「……フン、そんなのはお前に言われなくても考えてんだよ」
カミーユは顔を背けてそう言った。優人は余計なことを言ってしまったかと思ったが、その後小さくカミーユが頷き、そうだよな、と呟いたのが微かに聞こえた。
小さな村の教会では、思った以上に有益な情報を聞くことができた。集まっていたのは十人ほどで、皆村に漂う匂いを感じていたり、体調の悪化を訴える人たちだった。
その中でも大きな手がかりは、山近くに住まう老夫婦の話だった。
「先週にね、うちのじいさんと、山に山菜採りに出かけたんです。山に近づくほど臭い臭いと思ってたんですが、登るほどに匂いがキツい。じいさんは何ともないと言っていたんで変だと思ったんです。そしたら、魔物がうじゃうじゃ出てきたんですわ。あの山に居るような小物は普段大人しいもんなんですが、それがその日は纏わりつくようにして襲ってきたんです」
おばあさんの話を聞いて、私もこの前襲われたのよ、と話す中年の女性も居た。見ると女性は顔に軽い怪我をし、足も捻挫したらしく杖をついていた。
「アタシは魔法が使えるんでね、咄嗟に追い払えたから、たいした怪我もしてないんですがね、どうにも怖くて。あんなこと、今までなかったのに」
「それはどの山のどの辺りか覚えてるか?」
カミーユは問いながらいつの間にか手に入れていたらしいこの村の山を含めた地図を広げた。おばあさんは覚えてるよ、と言い地図にマークしていく。丁寧に山に入りやすいルートまで教えてくれた。
「…やっぱり採掘場のところの山か」
「アタシは山頂のあたりが怪しいと思うがね、てっぺんのほうなんて、アタシらの足じゃどうにもならんて」
「いや、じゅうぶんだ、ありがとうばあさん」
それからカミーユは、おばあさんや怪我をしていた女性の治療をしたり、体調が悪いものにもまじないをかけていた。
カミーユはいつもこうして街や村の人たちと言葉を交わしているのだなと優人は妙に感心してしまった。普段の粗暴さはまったく感じられず、とても親身になって話を聞いているカミーユの姿に驚いたのだ。外見を除けば、真面目な僧侶だというかつてのカミーユの言葉にも頷けると思った。
山に入るのは明日ということになった。もう昼を過ぎ、まだしばらくは明るいが、山に登ってからすぐに原因が見つかれば良いけれど、そうでなければ陽が落ちてしまう。手つかずの獣道を暗くなってから歩くのは非常に危険だと判断したのだった。
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる