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番外編
6、モブは真実を見た 〜ライラ視点〜 ※
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「よお! ライラ。今日はどうした?」
「あっ、お義兄様。姉に呼ばれて遊びにきたのですが、姉の具合が悪くなってしまって、帰ろうかと思っていたところです」
嫁に行った姉に会いたいって言われて僕はよく王宮に遊びにきている。姉は王宮から簡単に出られる身分ではないので、僕の方が頻繁にはきているんだけど、今日はダメな日だったらしい。
「ああ、妊娠中だからな。今日はダメだったか、悪かったな。つわり酷いんだよ」
「そうみたいですね。あっ、この度はおめでとうございます! ご懐妊、喜ばしく思います」
「かしこまるなって! まさか初夜でできるとはな。俺はもう少し新婚期間を楽しみたかったのに、でも嬉しいな。俺も親だ! お前も叔父だぞ」
僕は微笑んだ。殿下は本当に姉を愛してくれている。自分の身内が愛される人生を送っているのはとても嬉しい。
「でもお前、旦那が仕事終わらなくちゃ帰れないだろ? 勝手に帰ったらあとでお仕置きされるぞ?」
「あっ、そうでした。もうしばらくこちらにお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか?」
僕は旦那様以外の人と、お外に行ってはいけないらしい。
「ほんと抜けてんな、というかお前の旦那の束縛は凄いな。俺がこうやって誘っているのを、感謝しろよ。王太子妃が呼んでいるなんて言わなければお前、家から一歩も出してもらえてないからな」
「はは、僕は夫に愛されて嬉しいんですけどね。でも姉には会いたいので、王宮にこられて嬉しいです。お義兄様、ありがとうございます」
そうなの。僕の旦那様が思った以上に溺愛激しめで、結婚する前から束縛は酷かったけど、結婚したらもっとで。王太子の誘いだからこそ断れなくてこうやって出勤時に一緒に王宮に送ってくれて、帰りは仕事後に一緒に帰る。自分以外が僕を連れて外を移動するのもだめなんだって。
旦那様が仕事に行っているいつもは、家で家事をしたり旦那様のご両親とお茶をしたり、楽しく過ごしている。お屋敷の外には一歩も出ちゃダメだって言われているけど、でもお屋敷は広いしお庭も綺麗だし、義両親とは仲がいいから退屈もしない。そして夜は旦那様と……。うん、僕は束縛夫と言われようが幸せだよ。凌辱夫よりは断然いいよ!
「そうだな、そんなお前にぴったりな友達を紹介してやろう。お前も少しは外に目を向けたほうがいいだろう。なんて優しいお兄様だろうな、俺」
「えっ? でも夫の許可なしには、って、えええ!?」
瞬時に義兄に腕を掴まれ片手で抱きかかえられた。なんだろう、この筋力の差。片手に担がれる僕って……。
そしていきなり景色は変わった、義兄の特技瞬間移動の魔法が発動したらしい。
「よっと、おうトム、久しぶりだな!」
「で、殿下ぁ、お、お久しぶりでございます」
僕は広い庭園にいる。義兄に横で抱えられ、さらにもう片方の義兄の腕には初老の男性が抱えられている。いつの間に!? 二人の男を抱える義兄が凄いのと、瞬間移動でとある場所に来てしまった僕。ゆっくり僕たちはおろされた。
「ここはオスニアン辺境伯邸の庭だ。そして、この人は俺の友人の庭師のトムだ。トム、こいつは俺の義弟のライラだよ」
「「……」」
トムと呼ばれたご老人と僕は固まる。これはどういう状況ぉ!? それでも義兄はどすどすと屋敷の方に歩きながら、ご老人がオロオロついてきて何か焦っているようだった。
「なぁ、トム。今日はライラをリリアンに合わせようと思ってきたんだけど、どこにいる?」
「あっ、それは……」
「ん? なんだよ、トム。赤い顔して! ついに俺に惚れたか?」
すると向こうの方から、なまめかしい声が聞こえてきた。
「あん!」
僕とトムと呼ばれたご老人はお互いに顔を見た。そして僕の顔もトム同様、赤くなった。
「あ……どうし…? 気持ち…ない? あん」
「いや、気持ちいい。リリ……………だ」
「……、あ、ああああ! いきなりっ、はげしいっ、ああ、イク、イク、あああ」
えっ、これって、そういう行為の際の、あ、あ、喘ぎ声!? 会話までは聞こえないけれど、気持ちいいところだけは声が大きくなるようで、そこは丸聞こえだった。
そっちの方向を見ると、庭にある四阿に二人の人影が見える。服を着たままだけど、大きな男にまたがる華奢な体が上下に動いているのが見えた。
「ああ、庭で昼間から、あの破廉恥夫夫は。そういうことか」
ど、どういうことぉ!? 僕が驚いていると、木の陰から騎士が慌てて走り寄って来た。
「ひゃっ……んん」
僕は驚いて変な声を出してしまうと、慌てて義兄が僕の口を押さえた。すると騎士が、小声で義兄に話しかけてきた。
「殿下……こんなところにまた。今ご夫妻を見せられる状態ではありませんので、急いで屋敷内にお入りください」
ご夫妻、そしてここは辺境伯邸の庭……ということは。あの睦みあっている二つの影は、リリアンと辺境伯!?
「ああ、ヤン。お前、そういう護衛までしているのか? 難儀だな」
「本来なら、このオスニアン邸で護衛など必要ないのですよ。あなたという特殊な方がそうやってご夫妻の閨を覗き見するから俺が、聞きたくもないご夫妻の声を聞かなければいけない位置で護衛をしているんです! とにかく早くここを離れてください。ガリアード様がリリアン様をお抱きになりながら、殿下のコト睨んでおりますよ」
なんと、義兄はそういった覗き趣味があったのか?
ちょっと驚いた。めちゃくちゃかっこよくて華麗なヒーローにしか見えなかったのに。でも姉が初夜の後しばらく寝込んで、もう一年は体を触らせないんだからって怒っていたのを見ると、相当な変態なのかもしれない。そして二人の初夜から姉の怒りが収まらず、マテをしていた義兄だったが、なんと姉の懐妊が分かった。姉も僕も驚いた。やっぱりヒーローは凄いなとしか言いようがなかった。姉も妊娠したことで、義兄を許してあげたらしいけど、いったいどんな初夜だったの!?
身内としては知りたくないから、聞かないようにしている。
「おお、こわっ。アレはもう終わるな。じゃあ俺とライラは屋敷で待っているからって伝えといてくれ」
騎士は呆れた顔をしていた。というか、昼間から騎士が見守る中、公開エッチなんて、そんな高度なことをする人と僕が友達になんてなれるわけがない、なんならリリアンの方が積極的に動いているように見えた。あれは、もう旦那を手名付けている妻だった。
義兄とソワソワしながら、出されたお茶を飲んで待っていると、ガリアード・オスニアンと、その隣にはアニメで死んだはずのリリアン・ワインバーグが手を繋いで登場した。辺境伯めちゃくちゃ怖い顔している。
「サリファス、いい加減にしろ」
「こわっ、悪かったよ。ガリアード」
王太子に向かって命令口調……さすが辺境伯だ。僕は圧倒された。そしてその隣にいる”王国の花“リリアンも義兄にむすっとした顔で文句を言ってきた。
「殿下、いい加減困ります。覗きは血筋ですか!? 現れる時は先ぶれをください」
「まあリリアン、そう怒るなよ。まさかお前らが昼間から庭でヤッてるとは思わないだろ? 相変わらず仲が良いようで何よりだ」
覗きは血筋、いったいどんな血筋? っていうか誰、陛下も覗き趣味があったの? 聞けない、僕ごときがそんなこと聞けないし、知りたくない。
「僕たちは、もう憂いも何もなくやっと自由になれたのですから、これくらいいいじゃないですか。あの……そちらのお方は?」
なんだかリリアンと義兄はすごく親しい間柄みたい。アニメのリリアンが動いてしゃべって、しかもおどおどしていなくて堂々としている。さらには本当に花の香りがしてくるし、美しい!
「ああ、俺の義弟のライラだよ。リリアンのお友達にどうかと思ってさ、こいつの旦那もすげぇ束縛夫で、外出は姉に会うために王宮に一緒に通勤するくらいしか許されてないの、だから息抜きに連れてきたんだよ」
「えっ、王太子妃様の弟君? あなたが……」
リリアンが驚いている……きっと僕が死んでいる人だってこと知っているんだ。リリアンも物語を知っていて転生した人かもしれない、モブ中のモブで名前もない僕が、目の前で王太子に連れてこられるくらいの人物であると驚いているに違いない。
「僕、あなたに会いたかったんです! ライラ様とおっしゃるのですね」
「あ、はい。ライラと申します」
リリアンが気さくに僕の手を握ってきた。その瞬間、辺境伯がリリアンの手を取って、繋がれた手はすぐに離された。
「うわぉ、嫉妬夫ここにもいた」
「リリアンに、男を合わせるなど何を考えている?」
「だから、この子は俺の義弟だから、男じゃない。怖い夫のいる可愛い妻だよ、ほらあの野草だって」
「それなら仕方ない」
えっと、酷くない? 僕は男だけど……。妻は間違っていないにしても、男じゃないって酷い。それにまたもや野草って言われた。そこでリリアンが辺境伯の手を握って話していた。
「ガリアード様、せっかく殿下が連れてきてくださったのだから、僕、ライラ様とお話してみたいな? ライラ様も大恋愛したって殿下が前におっしゃっていたから気になって、僕もガリアード様と大恋愛でしょ! だからお互いの夫自慢をしたいの。ダメ? もっと他の人にも夫の自慢をしたいな?」
「ああ、リリアンなんて可愛いんだ。そうだね、同じ年ごろだし、楽しむといいよ」
あっさりと、そんな感じで僕とリリアンは話すことを許された。もちろん向こうの席には辺境伯と義兄が話しているから、同じ部屋には居るけれど。それにしてもリリアン、あざとい。夫を上手く操縦しているようだった。しかも可愛い。
そしてリリアンが小声で言ってきたセリフに、僕は驚いた。
「俺、新宿に勤めていた社畜っていう会社員だったんだ。君は?」
「えっ!」
「あれ? 転生者だと思ったけど違うの?」
やっぱりそうだったんだ! しかも社畜!? ていうか社畜っていう会社員ってなに? パリピじゃないの?
「じゃ、じゃあ、あなたもやっぱり!?」
「そう、やっぱ君は転生者だったんだね。俺は元社畜でこの世界のアニメを見ていたんだ。まさかリリアンとはね、驚いたけど、頑張って旦那を誘導して見事に溺愛旦那に導いたんだ。君は? 君はどうやって今の旦那を捕まえたの? 君こそヒロインの弟なんて、何の知識もなく、よく生き延びられたね!」
まさかリリアンが僕の存在を知っていたなんて! 名前も無いはずのモブ中のモブだったのに! ヒロインの弟が生きている時点で転生者だと気づいたなんて、凄い! きっと仕事の出来る人だったんだろうな。じゃなきゃリリアンとして死ぬ運命だった。普通はあの状況から生き残れないよ、とっさの機転とかが働く人なんだ。
「うっ、あなたこそ、よく、凌辱されずに……」
僕は感極まって泣いてしまったら、リリアンももらい泣きした。
「うわっ、なんだか、感動! 俺たちこっちの世界で相当頑張ったよな。俺と友達になろう、ライラ! 俺のことはリリアンでいいよ」
「はい、リリアン……僕はちなみに西新宿で社畜をしておりました」
「はは、同じ新宿かよ!?」
「そうですね!」
そして僕とリリアンの奇妙な友人関係が始まった。義兄と辺境伯は僕たち二人が異常に仲が良くなったのを驚いていたけれど、浮気要因でもなんでもないと判断されて、その後の交流は続いた。
僕はというと、その日王宮に帰ると、急に王太子に拉致されたということに旦那が泣いていた。従者に王太子と出かけたと聞かされていたから安全だとは思っていたけれど、自分の知らないところではやめて欲しいと、義兄は凄く責められた。そこに姉も参戦して、夫の味方をしたことで、僕を拉致した王太子から直々に詫びの言葉と10日間の休暇をもぎ取り、その十日ほどは完璧に部屋から出られずに、僕は旦那様にずっと愛されていた。疲れたけれど、でも心は晴れやかだった。
死ぬはずだった僕にとって、夫に愛される喜びは尊いものだったから、やはり幸せしかなかった。それを後日リリアンに話したら、笑っていた。自分のところも十日監禁という過去があったって。
僕たちはお互いに頑張って、死亡フラグを回避して、そして出会った。お互いに最愛の人を見つけて、とても愛される人生をいつも笑って話していた。
リリアンが死なない未来が見られて、僕は心から嬉しかった。そう言ったら、リリアンも涙をためて言った。まだ凌辱夫を回避するために頑張っていた時に、僕のことを第二王子だった頃の義兄から聞いていて、自分も頑張ろうって思えたって。
モブ転生も悪くなかったって言えるくらいに、幸せに僕たちは包まれていたから。
お互いの幸せを再確認できて、僕はとても誇らしい気持ちになった!
「あっ、お義兄様。姉に呼ばれて遊びにきたのですが、姉の具合が悪くなってしまって、帰ろうかと思っていたところです」
嫁に行った姉に会いたいって言われて僕はよく王宮に遊びにきている。姉は王宮から簡単に出られる身分ではないので、僕の方が頻繁にはきているんだけど、今日はダメな日だったらしい。
「ああ、妊娠中だからな。今日はダメだったか、悪かったな。つわり酷いんだよ」
「そうみたいですね。あっ、この度はおめでとうございます! ご懐妊、喜ばしく思います」
「かしこまるなって! まさか初夜でできるとはな。俺はもう少し新婚期間を楽しみたかったのに、でも嬉しいな。俺も親だ! お前も叔父だぞ」
僕は微笑んだ。殿下は本当に姉を愛してくれている。自分の身内が愛される人生を送っているのはとても嬉しい。
「でもお前、旦那が仕事終わらなくちゃ帰れないだろ? 勝手に帰ったらあとでお仕置きされるぞ?」
「あっ、そうでした。もうしばらくこちらにお邪魔させていただいてもよろしいでしょうか?」
僕は旦那様以外の人と、お外に行ってはいけないらしい。
「ほんと抜けてんな、というかお前の旦那の束縛は凄いな。俺がこうやって誘っているのを、感謝しろよ。王太子妃が呼んでいるなんて言わなければお前、家から一歩も出してもらえてないからな」
「はは、僕は夫に愛されて嬉しいんですけどね。でも姉には会いたいので、王宮にこられて嬉しいです。お義兄様、ありがとうございます」
そうなの。僕の旦那様が思った以上に溺愛激しめで、結婚する前から束縛は酷かったけど、結婚したらもっとで。王太子の誘いだからこそ断れなくてこうやって出勤時に一緒に王宮に送ってくれて、帰りは仕事後に一緒に帰る。自分以外が僕を連れて外を移動するのもだめなんだって。
旦那様が仕事に行っているいつもは、家で家事をしたり旦那様のご両親とお茶をしたり、楽しく過ごしている。お屋敷の外には一歩も出ちゃダメだって言われているけど、でもお屋敷は広いしお庭も綺麗だし、義両親とは仲がいいから退屈もしない。そして夜は旦那様と……。うん、僕は束縛夫と言われようが幸せだよ。凌辱夫よりは断然いいよ!
「そうだな、そんなお前にぴったりな友達を紹介してやろう。お前も少しは外に目を向けたほうがいいだろう。なんて優しいお兄様だろうな、俺」
「えっ? でも夫の許可なしには、って、えええ!?」
瞬時に義兄に腕を掴まれ片手で抱きかかえられた。なんだろう、この筋力の差。片手に担がれる僕って……。
そしていきなり景色は変わった、義兄の特技瞬間移動の魔法が発動したらしい。
「よっと、おうトム、久しぶりだな!」
「で、殿下ぁ、お、お久しぶりでございます」
僕は広い庭園にいる。義兄に横で抱えられ、さらにもう片方の義兄の腕には初老の男性が抱えられている。いつの間に!? 二人の男を抱える義兄が凄いのと、瞬間移動でとある場所に来てしまった僕。ゆっくり僕たちはおろされた。
「ここはオスニアン辺境伯邸の庭だ。そして、この人は俺の友人の庭師のトムだ。トム、こいつは俺の義弟のライラだよ」
「「……」」
トムと呼ばれたご老人と僕は固まる。これはどういう状況ぉ!? それでも義兄はどすどすと屋敷の方に歩きながら、ご老人がオロオロついてきて何か焦っているようだった。
「なぁ、トム。今日はライラをリリアンに合わせようと思ってきたんだけど、どこにいる?」
「あっ、それは……」
「ん? なんだよ、トム。赤い顔して! ついに俺に惚れたか?」
すると向こうの方から、なまめかしい声が聞こえてきた。
「あん!」
僕とトムと呼ばれたご老人はお互いに顔を見た。そして僕の顔もトム同様、赤くなった。
「あ……どうし…? 気持ち…ない? あん」
「いや、気持ちいい。リリ……………だ」
「……、あ、ああああ! いきなりっ、はげしいっ、ああ、イク、イク、あああ」
えっ、これって、そういう行為の際の、あ、あ、喘ぎ声!? 会話までは聞こえないけれど、気持ちいいところだけは声が大きくなるようで、そこは丸聞こえだった。
そっちの方向を見ると、庭にある四阿に二人の人影が見える。服を着たままだけど、大きな男にまたがる華奢な体が上下に動いているのが見えた。
「ああ、庭で昼間から、あの破廉恥夫夫は。そういうことか」
ど、どういうことぉ!? 僕が驚いていると、木の陰から騎士が慌てて走り寄って来た。
「ひゃっ……んん」
僕は驚いて変な声を出してしまうと、慌てて義兄が僕の口を押さえた。すると騎士が、小声で義兄に話しかけてきた。
「殿下……こんなところにまた。今ご夫妻を見せられる状態ではありませんので、急いで屋敷内にお入りください」
ご夫妻、そしてここは辺境伯邸の庭……ということは。あの睦みあっている二つの影は、リリアンと辺境伯!?
「ああ、ヤン。お前、そういう護衛までしているのか? 難儀だな」
「本来なら、このオスニアン邸で護衛など必要ないのですよ。あなたという特殊な方がそうやってご夫妻の閨を覗き見するから俺が、聞きたくもないご夫妻の声を聞かなければいけない位置で護衛をしているんです! とにかく早くここを離れてください。ガリアード様がリリアン様をお抱きになりながら、殿下のコト睨んでおりますよ」
なんと、義兄はそういった覗き趣味があったのか?
ちょっと驚いた。めちゃくちゃかっこよくて華麗なヒーローにしか見えなかったのに。でも姉が初夜の後しばらく寝込んで、もう一年は体を触らせないんだからって怒っていたのを見ると、相当な変態なのかもしれない。そして二人の初夜から姉の怒りが収まらず、マテをしていた義兄だったが、なんと姉の懐妊が分かった。姉も僕も驚いた。やっぱりヒーローは凄いなとしか言いようがなかった。姉も妊娠したことで、義兄を許してあげたらしいけど、いったいどんな初夜だったの!?
身内としては知りたくないから、聞かないようにしている。
「おお、こわっ。アレはもう終わるな。じゃあ俺とライラは屋敷で待っているからって伝えといてくれ」
騎士は呆れた顔をしていた。というか、昼間から騎士が見守る中、公開エッチなんて、そんな高度なことをする人と僕が友達になんてなれるわけがない、なんならリリアンの方が積極的に動いているように見えた。あれは、もう旦那を手名付けている妻だった。
義兄とソワソワしながら、出されたお茶を飲んで待っていると、ガリアード・オスニアンと、その隣にはアニメで死んだはずのリリアン・ワインバーグが手を繋いで登場した。辺境伯めちゃくちゃ怖い顔している。
「サリファス、いい加減にしろ」
「こわっ、悪かったよ。ガリアード」
王太子に向かって命令口調……さすが辺境伯だ。僕は圧倒された。そしてその隣にいる”王国の花“リリアンも義兄にむすっとした顔で文句を言ってきた。
「殿下、いい加減困ります。覗きは血筋ですか!? 現れる時は先ぶれをください」
「まあリリアン、そう怒るなよ。まさかお前らが昼間から庭でヤッてるとは思わないだろ? 相変わらず仲が良いようで何よりだ」
覗きは血筋、いったいどんな血筋? っていうか誰、陛下も覗き趣味があったの? 聞けない、僕ごときがそんなこと聞けないし、知りたくない。
「僕たちは、もう憂いも何もなくやっと自由になれたのですから、これくらいいいじゃないですか。あの……そちらのお方は?」
なんだかリリアンと義兄はすごく親しい間柄みたい。アニメのリリアンが動いてしゃべって、しかもおどおどしていなくて堂々としている。さらには本当に花の香りがしてくるし、美しい!
「ああ、俺の義弟のライラだよ。リリアンのお友達にどうかと思ってさ、こいつの旦那もすげぇ束縛夫で、外出は姉に会うために王宮に一緒に通勤するくらいしか許されてないの、だから息抜きに連れてきたんだよ」
「えっ、王太子妃様の弟君? あなたが……」
リリアンが驚いている……きっと僕が死んでいる人だってこと知っているんだ。リリアンも物語を知っていて転生した人かもしれない、モブ中のモブで名前もない僕が、目の前で王太子に連れてこられるくらいの人物であると驚いているに違いない。
「僕、あなたに会いたかったんです! ライラ様とおっしゃるのですね」
「あ、はい。ライラと申します」
リリアンが気さくに僕の手を握ってきた。その瞬間、辺境伯がリリアンの手を取って、繋がれた手はすぐに離された。
「うわぉ、嫉妬夫ここにもいた」
「リリアンに、男を合わせるなど何を考えている?」
「だから、この子は俺の義弟だから、男じゃない。怖い夫のいる可愛い妻だよ、ほらあの野草だって」
「それなら仕方ない」
えっと、酷くない? 僕は男だけど……。妻は間違っていないにしても、男じゃないって酷い。それにまたもや野草って言われた。そこでリリアンが辺境伯の手を握って話していた。
「ガリアード様、せっかく殿下が連れてきてくださったのだから、僕、ライラ様とお話してみたいな? ライラ様も大恋愛したって殿下が前におっしゃっていたから気になって、僕もガリアード様と大恋愛でしょ! だからお互いの夫自慢をしたいの。ダメ? もっと他の人にも夫の自慢をしたいな?」
「ああ、リリアンなんて可愛いんだ。そうだね、同じ年ごろだし、楽しむといいよ」
あっさりと、そんな感じで僕とリリアンは話すことを許された。もちろん向こうの席には辺境伯と義兄が話しているから、同じ部屋には居るけれど。それにしてもリリアン、あざとい。夫を上手く操縦しているようだった。しかも可愛い。
そしてリリアンが小声で言ってきたセリフに、僕は驚いた。
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「えっ!」
「あれ? 転生者だと思ったけど違うの?」
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「そう、やっぱ君は転生者だったんだね。俺は元社畜でこの世界のアニメを見ていたんだ。まさかリリアンとはね、驚いたけど、頑張って旦那を誘導して見事に溺愛旦那に導いたんだ。君は? 君はどうやって今の旦那を捕まえたの? 君こそヒロインの弟なんて、何の知識もなく、よく生き延びられたね!」
まさかリリアンが僕の存在を知っていたなんて! 名前も無いはずのモブ中のモブだったのに! ヒロインの弟が生きている時点で転生者だと気づいたなんて、凄い! きっと仕事の出来る人だったんだろうな。じゃなきゃリリアンとして死ぬ運命だった。普通はあの状況から生き残れないよ、とっさの機転とかが働く人なんだ。
「うっ、あなたこそ、よく、凌辱されずに……」
僕は感極まって泣いてしまったら、リリアンももらい泣きした。
「うわっ、なんだか、感動! 俺たちこっちの世界で相当頑張ったよな。俺と友達になろう、ライラ! 俺のことはリリアンでいいよ」
「はい、リリアン……僕はちなみに西新宿で社畜をしておりました」
「はは、同じ新宿かよ!?」
「そうですね!」
そして僕とリリアンの奇妙な友人関係が始まった。義兄と辺境伯は僕たち二人が異常に仲が良くなったのを驚いていたけれど、浮気要因でもなんでもないと判断されて、その後の交流は続いた。
僕はというと、その日王宮に帰ると、急に王太子に拉致されたということに旦那が泣いていた。従者に王太子と出かけたと聞かされていたから安全だとは思っていたけれど、自分の知らないところではやめて欲しいと、義兄は凄く責められた。そこに姉も参戦して、夫の味方をしたことで、僕を拉致した王太子から直々に詫びの言葉と10日間の休暇をもぎ取り、その十日ほどは完璧に部屋から出られずに、僕は旦那様にずっと愛されていた。疲れたけれど、でも心は晴れやかだった。
死ぬはずだった僕にとって、夫に愛される喜びは尊いものだったから、やはり幸せしかなかった。それを後日リリアンに話したら、笑っていた。自分のところも十日監禁という過去があったって。
僕たちはお互いに頑張って、死亡フラグを回避して、そして出会った。お互いに最愛の人を見つけて、とても愛される人生をいつも笑って話していた。
リリアンが死なない未来が見られて、僕は心から嬉しかった。そう言ったら、リリアンも涙をためて言った。まだ凌辱夫を回避するために頑張っていた時に、僕のことを第二王子だった頃の義兄から聞いていて、自分も頑張ろうって思えたって。
モブ転生も悪くなかったって言えるくらいに、幸せに僕たちは包まれていたから。
お互いの幸せを再確認できて、僕はとても誇らしい気持ちになった!
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