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50 ガリアード・オスニアン辺境伯1 ~ガリアード視点~

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 私は将来辺境の地を治めるために、幼い頃から教育はもちろん、武を嗜み、二十代になると様々な戦に参戦するようになった。国のために働くのは当たり前、わが領土を守るのも当たり前に、気づけば人一倍強くなっていった。そして最大の戦いと呼ばれる戦が終結する頃には、私は国の英雄と呼ばれた。

 武勲をあげ国王に呼ばれていた時、王都の貴族に嫁いだ妹と会う。

「お父様とお母様のことはとても残念です。お兄様が戦に出ている間に事故に遭われてしまって」
「アメリア、すまなかった。辛い時に側に居てやれなくて全てお前に任せてしまった。父上も母上もお前に見送られて、それだけでも救いだ」
「お兄様……」

 私が戦に出ている間に両親は不慮の事故で亡くなってしまった。それもあり、私は早く領土に戻り屋敷を切り盛りしている家令も安心させるために、嫁を娶らなければと思っていた。せっかく王都に来ている間に嫁探しもするつもりだった。

「お兄様、そろそろご結婚はお考えではありませんの?」
「ああ、今まではリチャードに家のことを任せていたからな、そろそろ本格的に嫁いでくれる人を探そうと思っている」
「あら。では今は、お相手はいらっしゃらないの?」
「ああ、そんな暇はなかったからね」

 妹のアメリアは、数年前に嫁に行って、今では二児の母になっていた。そして今お腹には三人目がいる。

「ねぇ、お兄様ご存じかしら? ワインバーグ公爵様のところのご子息を」
「宰相の嫡男のアンディ様?」
「いえ、次男のリリアン様よ。それはそれは美しくて有名な方なの。”王国の花“とひそかに呼ばれていて、花の香りがするんじゃないかってくらい美しくて可愛い方なのよ。滅多に表舞台に出てこない箱入り息子なんですけどね、来月の式典にはお父様の公爵様と参加されるんですって」
「式典に?」

 戦の式典がある。亡くなった騎士やその家族をいたわり、そして俺の武勲も表彰されるとのことだった。

「お兄様ったら、この国の一番の功績者ですから、もしかしたらご褒美に“王国の花”をご紹介いただけるかもしれませんわよ。陛下にお願いしてみたらいかがですか?」
「褒美って、そんな凄い方が私のような辺境伯になんて……無理だろう」
「あら、でも英雄には美人と決まっていますのに、お兄様もリリアン様を一目見たら欲しくなりますわよ、きっと」

 そう言われて、どんな人なのか気になっていたところ、妹が声を荒げた。

「あら、うそっ、凄い偶然。噂をしていたらまさかのご本人がいらっしゃるなんて」
「……」

 俺は目を疑った、この世にこんなに美しい人がいるのかと。

 妹に連れられて王都で有名なカフェに来ていたそこに、その公爵令息は現れた。きっとお忍びなのだろう、侍女と楽しそうにお菓子を選んでいた。それはそれは花もほころぶ可愛らしい笑顔だった。

 一目で全てを奪われた瞬間だった。

「お兄様?」
「あっすまない。とても美しい方だな」
「ねっ、そうでしょう。あの方のお父様はとにかく溺愛が酷くてこのままじゃ一生嫁にいけないんじゃないかって、バンドレフ侯爵様が私の旦那様に嘆いていたそうよ。それなら辺境伯はどうかって、お兄様のことを打診したんですって、上手くいけばリリアン様をお嫁にもらえるかもしれませんわ」
「そ、そうなのか」

 私が知らぬ場で、妹の夫が私を推してくれていたらしい。

 そんなことを話していたところ、それは本当のこととなった。式典の時に陛下から直接言われた。褒美に“王国の花”との婚姻を授けようと。俺は耳を疑った、その場にリリアンは出席していなかったが、その父であるワインバーグ公爵は苦い顔をしていた。しかし王命ということで、私にも公爵にも断ることはできない問題だった。

 その夜、親友であるこの国の第二王子のサリファスと会っていた。

「すげぇな、ガリアード、まさか”王国の花“を嫁にできるとはな」
「サリファスは知っているのか? そのリリアンという公爵令息を」

 サリファスは王子だが、親友なので二人きりの時は、お互いに口調も崩している。いや、サリファスはいつでもこんな口調だったな。王族の前や、公の時だけ王子みたいになるが、普段はとてもやんちゃな男だった。最近は街で運命の女に出会ったとか言って、ますます城で過ごすことはなくなっていた。

「俺は直接会った事はないが、なにか大事な王家の主催とかには必ず父親に連れられてきていたぞ、面白いことに、兄上がリリアンに懸想している」
「第一王子が? それは大丈夫なのか?」
「ああ? 大丈夫だろう、いくら第一王子だろうが、子供の産めない男を正妻にできない。すでに奥さんいるしね。リリアンは次男だけど身分が高すぎるだろう? だから第二夫人にだってできないから心配ない。公爵令息程の身分ならお前くらいしかいないだろう、なにせお前は王国の英雄だからなあ!」

 そういうことなら遠慮なく、公爵令息を嫁としてもらい受けよう。楽しみだった、あんなに美しく可憐な人が私の嫁になるなんて。私は一目見た時、リリアンに恋をしてしまった。

 だが思わぬところで不穏な動きがあった。

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