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37 夜会

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 ついに来ました! 仮面 夫夫ふうふの仮面舞踏会……じゃなかった、第一王子主催の夜会。

 貴族が集まる煌びやかな雰囲気、王宮での夜の戯れ、リリアンは過保護パパがいたから、夜会は経験ない。大事な王宮主催の昼の催しとかは行ったけれど、こういう大人な雰囲気は初めてだった。でも今は俺、大人の階段を上った立派な貴夫人、脱処女したオスニアン辺境伯夫人だよ。

 そしてこの夜会はひそかに噂されていた。王国の英雄と王国の花の夫妻の登場を!

 俺たちは社交界ではそれなりにいろんな意味で人気、そして話題にされやすかった。辺境に行ってしまったワインバーグ家の至宝リリアンの実情は誰も知らないから、この王都に現れるということで、みんなどういうことになっているのか楽しみにしていたらしい。

 俺とガリアードが夜会の門をくぐると、一斉に視線を拾った。二人とも新婚なのが丸わかりの衣装。お揃いの煌びやかな服装だった。めちゃ恥ずかしい、俺知識によると、相手の色を着るとか、色を揃えるくらいが仲の良いカップルの定番だと思ったのに、この世界は何ということでしょう? マジでお揃い。ありえない、痛いバカップルにしか見えないのに、これがいいの? この世界の美的センスを俺は疑う。

 そんな恥ずかしい登場に、周りが俺たちをほうっとした目で見る。

 そりゃそうだよね、自分で言うのもなんだけど”王国の花“を名乗るにふさわしい可憐なリリアン。その隣には大きな男、顔はイケメンだけど雰囲気がとっても怖いのよ。今すぐ戦場イケます! みたいないつでも剣握れます! みたいな? とにかく体も大きくて腕も太ももも最高にパンプアップされた状態が普通のガリアード、その隣に花と言われるにふさわしい可憐で美しい男の子。

 犯罪の匂いしかしませんから。

 しかもだよ、仮面夫夫ふうふを装うために、ガリアードは全く笑わない。いつも以上に笑わない、それはもう鬼神と言われるお顔ですからね。新婚で笑わない夫と、その隣でびくびくする妻。

 リリアンをエスコートする手はいつも通り大きくて優しいんだけど、いつもなら微笑んでリリアンって言うところも、無言で手を差し出すだけ、もちろんその手はとても優しいけどね。

 周りがひりつくわけよ。

 王国の花は手おられた? そんな感じ。俺ことリリアンも夜会が初めてだし、敵陣だから緊張して笑わない。そんな二人はどこからどう見ても、政略結婚で花は野獣に従うしかない、そんな雰囲気に見えなくもない。ガリアードはもとから愛想が良くない、笑わない。そんな男だから、今の仏頂面は王都の人間からしたらいつも通りだけどね。俺とか辺境伯領のみんなの前ではよく笑うし優しい、身内にだけそういう愛情を出し惜しみしないそんなイケメンだ。

 とここまで、俺の旦那がいかに素晴らしい人かを説明したわけだが。

 俺たちに凌辱以外の演技は難しいから、見た目仲良く……はできなかった。仲良くしたら本当に仲良くなっちゃうからね。俺、自慢だけど愛されているからガリアードの愛を止めない自信ないし、だから俺たちはくっついていても、お互いに会話すらしないことを決めてこの夜会に望んだ。それがこの笑わない男とびくつく妻になったわけだ。

 第一王子の挨拶で始まり、第一王子が王子妃とダンスをする。そして他の貴族たちもダンスを始めるわけだが、俺とガリアードは踊らない。踊るとガリアードが俺を気にかけすぎてサポートするだろうし、転びそうにでもなったら急いで抱っこして抱きしめる姿しか想像できないからですね! ガリアードもそうする自分しか想像できないと言っていた。新婚でファーストダンスを踊らない夫夫ふうふ。それはもう冷ややかに見えるみたい。

 俺はちょこんと壁の花。そしてガリアードは他の貴族と話す。男たちは戦場のことや政治のことを話すのが決まりだからね、女というか妻側は旦那と離れた時は、妻同士で話すものだけど、リリアンぼっち。

 リリアンは引きこもりだし、こういう場に来ることも無かった。たとえ来たとしても父も兄もリリアンを片時も離さず、外の男との触れ合いを許さなかったから、なんなら友人すらいない。過去の行いが招くぼっちな俺。周りは俺に話しかけたいみたいだけど、俺それなりの爵位だから下の者から話しかけるのは失礼に値する。そして俺から女性相手に話しかけるスキルはもちろん無い。

 もう独身ではない俺にそういう意味で相手は話しかけることもできないから男からも声がかからない、まさしく壁の花。仮にリリアンが独身だったら、相手を求めるという意味ではこういう場で爵位は関係なく、がっつく野郎が多いんだけどね。今はそれもない、そういうのもわかってガリアードは一応俺から離れるのを承知した。

 実はヤンは爵位持ちでこのパーティーに紛れ込んでいた。ヤンはガリアードの腕に惚れて一人辺境の地までガリアードを追いかけてきた、いわゆるガリアード信者だった。家はまだ幼い弟が大きくなったら譲るという話で、単身辺境まで来たわけだ。そしてリックに出会いゴールイン。ヤンのお父様、放蕩息子は立派に変態騎士になりましたよ。そんな騎士が俺の周りをうろちょろしているので、こんな敵地でも安心して俺を一人にしているのだった。

 さて、ここからどう物語が動くのだろうかと思っていたらあっさり動いた。

 第一王子が、王子妃とのファーストダンスを終えると、俺の前にきた。

「リリアン、君をダンスに誘ってもいいかい?」
「えっ、でも」
「ご主人は戦場の話に夢中だ。みんなパートナーとのダンスは終わって、今は自由に他の方を誘える時間だよ。でも君は旦那にから、私が聞いてあげる」
「えっ」

 第一王子がそこまで離れていないところにいたガリアードの方を見て、俺をダンスに誘っていいかと聞いていた。

 ガリアードは極寒の地にいるかのような雰囲気で頷いた。言葉にも出さずに頷く、周りはそれをどうとるか。、そう取るだろう。

「ほら、君の旦那様は君が誰と踊ってもイイみたいだ、ではお手を」
「あっ、はい」

 そう言って、俺は第一王子の手を取った。ガリアードの視線を感じる。こうなるのも想定内だったはずなのに、怒っている気がするのは俺だけ? 旦那のいる方角の空気が冷たい気がしてそっちを見られなかった。あの無言の頷きは、ゼッタイ怒っている。周りは関心のない夫に見えたかもしれないけど、目がマジで怖かったもん。旦那様、これ計画内ってわかっている? ガリアードにお仕置きされる未来しか見えないのはどうしてだろう……。

 公爵令息だったリリアンはダンスのテクニックは完璧だった。そしてさすが第一王子だけある、完璧なエスコートに、完璧な王子スマイル。ガリアードとは全く違う正統派イケメンなので、そんな王子と王国の花のダンスは、この夜会に参加する貴族たちの目を一瞬で奪った。まるでこの二人こそが運命の相手、そんなふうに見えなくもない。

 恐ろしい旦那が見る前だけれども、周りから見たらそれは素敵なカップルのダンスだった。
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