17 / 74
17 閑話 ~ジュリの腐心~侍女視点
しおりを挟む「いやぁぁぁー。リリアン様ぁー」
「うるさいぞ、ワインバーグの侍女の分際で」
確かにうるさい、でも仕方ないです。オスニアン家の家令からは、そういうご指示をいただいておりますので。
「ジュリ、助けて」
「ガリアード様ぁ、どうかリリアン様を解放してください」
「だめだ、まだ初夜の続きが残っている。この後は俺の部屋で行う。リリアンのはしたない液体で汚れたこの部屋の片づけをしっかりしておくように」
声だけだと、いやらしいことをしたガリアード様と、いやらしいことをされたお嬢様ことリリアン様。ですが、二人は笑顔ですのでそんな事実はございませんでした。それにしてもお二人、凄い演技力だわ、いや、朗読力? 言葉と表情が違い過ぎます。
私と護衛騎士のヤンは、お二人のお部屋の前で待機しておりました。侍女ですから、ベッドの清掃要員です。そしてヤンは一応、無防備な状態のガリアード様を守る騎士。
それはもう、二人で気まずい時間を過ごしましたよ。
だって、部屋の外までしっかりとリリアン様の悲鳴が聞こえてきましたからね。それなのに、二人はそんな笑顔、はぁ良かった。言葉通りの場面になっていなくて。
「ガリアード様、せめてリリアン様の中から、その汚い欲望を抜いてくださいませ」
「きたな……、だめだ、リリアンのココは俺を欲しがって離さないからな。お前がしっかりと繋がっている部分を確認するんだ」
繋がっていませんけど? そしてジュリまでアドリブ! 俺の旦那のナニを汚いだなんて……。たしかにグロくて大きいけどさ、汚くはないよ。これから俺の尻に入るんだからな。
「お二人の繋がりは確認いたしました。もうよろしいでしょう、リリアン様をお返しください」
「ガリアード様! お尻が苦しいです、お願いですからもう抜いてください! ジュリ、助けてっ」
「リリアン様!」
そしてヤンがセリフを言う。
「ガリアード様、ご移動はお早めに。奥様の太ももから血も愛液も垂れてきております。このままではオスニアン家の神聖な床が汚れてしまいます」
「ああ、そうだな。後始末を頼む」
神聖な床ってなによ? このシナリオのセリフ所々おかしくない? ヤンがガリアード様に話した「愛液、血」それはもう処女を散らした証拠を第三者が確認したという言葉だった。
この声はきっとあの手鏡まで届いている。ドアを開けた瞬間、まずは大きな声でそれを言う約束だったから。
ご自分の全てのパートをやり遂げたガリアード様は、ヤンと私に目配せをしてから、大きな足音をわざと出して、リリアン様を抱っこしたままこちらを去りました。
ああ、あんなにイチャコラして! でもリリアン様が嬉しそうでジュリは安心しました。公爵家を出る時から倒れるんじゃないかってくらい、青い顔をして震えていたのに、ガリアード様に会った瞬間から、人が変わったようだった。
一目惚れってあるのね、驚きだわ。
あんなに自信に満ちているリリアン様を初めて見た。ここにきてからずっといい笑顔で過ごされている。人って愛に触れると人格まで変わってしまうのね。前の儚くて可愛いしかないリリアン様も素敵だったけれど、今の方が人間味溢れて私は好きだな、魅力がさらに上がってしまったわ。
はぁ、王都から離れて良かった。こんなリリアン様を見たら男なら襲いたくなるに違いない! でも、もうご結婚もされたし、旦那様があの溺愛男なら他の男に触れる機会もないでしょうから、ジュリは安心いたしております。
そうなのよね、溺愛男……ガリアード様もリリアン様を一目見た時から気に入っておられて、まぁ当然ですけどね“王国の花“が目の前にいて、惚れない殿方がいたら逆にビックリだもの。
とにかくお二人が幸せそうで良かった。
去り際のリリアン様はうっとりしたお顔でガリアード様を見つめていたし、ガリアード様もリリアン様に愛おしい目を向けていた。この部屋で凌辱があったなど、二人を見たなら絶対に思わない。そう……見ていたら、だけどね! 聞いていただけなら、それはもう立派な犯罪行為でした。
ヤンとドアの前で待機している時に、私は途中何度も助けに行こうとして、ヤンにあわてて止められました。それほどに酷い状況でしたわ、声だけだとね。ヤンはちょっと興奮していて、早く妻を抱きてーって言っておりましたわ。ふふ、下品ね。でもわかるわ、聞いているだけなら、なんともいやらしいシーンが想像できるくらいに、お二人の演技は最高でした。
演技よね? あれがガリアード様の本質だったら、私のお嬢様はこれから大変な目に合うんじゃ!?
でもリリアン様もノリノリだったし大丈夫かな。もしかしたらリリアン様は責められて興奮するタイプかもしれない。
あの夫夫は需要と供給がうまくいっている例だわ。それにしてもガリアード様の腕の太さ。リリアン様を軽く抱き上げて、リリアン様の華奢な体がより一層美しく見える、最高の旦那じゃない!? なんだか私、違う性癖が目覚めそうだわ、きゃっ。
「ジュリ、片付けるぞ」
「あっ、はい!」
ああ、妄想終わり! 私たちはお仕事をしなければいけないので、紙をとりだしてそれを読みはじめた。
「ああー。こんなに酷い状況だったなんて!」
「これは……酷いな。俺でも妻にここまでやらないわ」
「ベッドに、こんな量を出すなんて、それにこれはリリアン様の血……」
「男同士だからな、勢いに任せて抱けばそうなる。奥様の尻が切れたんだろう、ガリアード様も酷い抱き方をする」
血はどこにもありません。ですが精液らしき跡は、それはもうべったりと。仕方ないから普通にいつもの仕事、お掃除を開始している間も、ヤンは椅子に座ってくつろいでおります。いくら鏡がしまってあって見えてないからって……騎士、使えねぇな。
一人いそいそと片付けながらも、ヤンはダルそうにセリフを吐き出します。
「リリアン様も酷いよな、前の医者のチェックで処女じゃないって診断されたらしいよ」
「えっそんなはずは」
「医者がそういうんだから、間違いないだろう」
「そんな……リリアン様がそんなことするはずないですわ。きっと何かの間違いです」
実は仕事の早いガリアード様は、旦那様……公爵様との打ち合わせ後すぐに、あの医者の尋問を始めました。それでわかったことは、第一王子の指示で処女じゃないと報告をしろと言われたとか。何のためにって、ガリアード様がリリアン様に不信感を持つためだそうです。公爵様の予想通りな展開ね! それにしても、第一王子からの御使いのくせにペラペラしゃべるとは、なんとも情けない男だったわ。
それと、あの媚薬は医者が勝手に使って、あわよくばリリアン様とそれで楽しもうとしたみたい。ゲスっているのね。あの医者は証拠として生かしておくらしいわ。とにかくリリアン様が清いままで良かった!
よし! 手際のいい私は、ベッドメイキングも終わって窓を開けて換気を始めた。
「これからリリアン様はきっともっと酷い状況になるぞ、あんなに泣いていたってことは、ガリアード様は体だけは気に入ったってことだろう」
「そんな! リリアン様は公爵家の出なのに、そんな扱いなんてっ」
短時間で私の演技力が抜群にあがりました。第一王子に私の姿が見えてないからか緊張感はなくなって、今はのびのびとヤンと朗読劇のお時間です。
「ジュリ、そろそろ掃除すんだか? ガリアード様の部屋でもシテいるだろうから、そこを掃除したら、またこの部屋を使うかもしれない。明日も掃除大変だぞ、さぁ今度はあちらの部屋の前で待機だ、行くぞ」
「……はい」
そう言って、二人でドアをしっかりと閉じてこの部屋を出た。
ああ、今頃お二人はラブラブの最中なのでしょうか。リリアン様の初夜、尊い! さすがにもう声を聞くなと言われているので、ヤンが言ったように、ガリアード様の部屋の前で待機はしない。あとはリリアン様が疲れ切って初夜が終わるのを待つだけですわ。
リリアン様の愛され過ぎた体を、しっかりマッサージしなければいけないわ! そう思って、今日もオイルの調合を頑張るジュリでした。
215
お気に入りに追加
3,728
あなたにおすすめの小説
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる