運命を知っているオメガ

riiko

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番外編

12、真山家の家族旅行3

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 俺、今まで自分がどれだけ温室にいたんだって思った。櫻井は最初無理やり俺を襲おうとしたみたいだけど、俺自身そんな危機感もないまま司に救われたから、怖くもなんともなかった。

 だけど今は本当の意味で一人、目の前の男にそういう目で見られている。掴まれた手は強くて外せない。オメガだけど俺は男だから大丈夫って、どこかでそう思っていた。

 司とつがいになった時、父さんから一度しっかり叱られた。司とそうなったことを……じゃなくて、安易に親に黙って好きでもない男と契約をしようとしたことを。

 一生の問題をまだ保護者のいる身で決断をするとはなんだって、初めて父さんに本気で怒られた。少しチビリそうになったくらい怖かった。普段温和な人を怒らせるくらいのことを俺はしたんだって、凄く反省したのに、また俺は自分の無知のせいで、危険な目に合っている。

「い、いやだ! 放せっ、俺はつがいがいるんだよ!」
「そんな嘘いいよ。つがいがいて首輪なんてしないし、首輪して裸になる時点で、欲しかったんでしょ。二人がかりで一晩中相手にしてあげるからね」

 がばっと抱きしめられた。肌同士だから、自然とその男のナニが当たる。気持ち悪い!

「……ひっ! い、いやだ――。つ、つかさぁ!」

 絶体絶命だ!

 その時、司の香りがしてきた。えっ、なんで!?

「正樹っ!」
「つ、つかさぁ!」

 司は服を着たまま、露天風呂に入ってきた。露天の扉があくと、内湯にいた人たちはなんだなんだと騒ぎだした。

「貴様っ、俺のつがいにナニをこすりつけやがって!」

 そ、そこ!?

 濡れた服の司に抱きしめられて、司の匂いを感じて、安心して力が抜けた。俺はもう司の胸に顔をうずめて、全てを司に任せるしかできなかった。

「うっ、うっ、司っ、ぐすっ」
「正樹、大丈夫。怖かったな。すぐ抱いてあげるから」

 抱いてもらうのが一番オメガは落ちつく。これはもうそうしてもらった方がいい。司はすぐさま裸で呆然としている男に向き合った。

「俺のつがいを泣かせた罪は重い」
「ひぃ、知らなかったんだよ、本当にアルファのつがいがいるなんて、オメガが一人で風呂に来ているなら、フリーなのは当たり前だろう。お前もつがいならきちんとしつけておけ!」
「まぁそれも一理あるが、その前にこいつは嫌がっていただろう、お前は無理やり触ったのはわかっている、首輪に付けている盗聴器がお前の会話を録音しているからな。無理やりは流石に訴えることができる」
「く、くそっ! おい、お前らも見てるんじゃねえよ、やってらんね、もう出るわ」

 こちらのやり取りを見ている客たちに、その男は悪態をついた。そこで司が呼んでいた旅館の人たちが到着し、周りのお客さんに謝り、その人は逃げようとしたが、コワモテな旅館の男の人に連れていかれて一緒に風呂を出ていった。

「正樹、心配した」
「うん、ごめん。ごめんなさい」

 司は抱きしめて俺の首元に鼻を擦り付けた。そして俺の尻を、揉んでいる?

「ちょ、何してんの」
「正樹を堪能している」
「そうじゃなくて、ここ公共の場。公共の風呂、尻を揉むな」
「だって、正樹が泣いているから、少しでも安心させてあげたくて、日常と同じことするのがいいって言うでしょ」
「そ、そうなのか?」

 俺はすっかり涙が引いた。そして司は俺を抱きかかえて裸が見えないように、旅館の人にタオルをもらって脱衣所に着いたら早業で俺に服を着せ、また抱っこされて移動した。

 俺は普段なら抱きかかえられることを拒否するけど、さすがに先ほどまでのことが怖くて足に力は入らないし、なにより司と密着していたかったから、おとなしくそのまま司の首に腕を回して、司が歩くのに邪魔にならないようにじっとしていた。
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