運命を知っているオメガ

riiko

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本編

30、西条の最上のホテル

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 庶民のオレっち、びびる。

「司っ」

 司に手を繋がれて、従業員たちがお辞儀して迎えてくれる中を歩く。いたたまれない。司は俺がビビると、腰に手を回してまるで女をエスコートするかのような感じで俺を支える、そんな司を見上げると微笑まれた。

「そんなに固まるな。今すぐここで押し倒したくなる」
「な、なにっ、恐ろしいこと言っているんだよ。制服で昼間からこんなところ、司はかっこいいから溶け込んでいるけど、庶民で平凡な俺には場違いもいいところだよ」

 司が少し驚いた顔をすると、微笑んで俺のこめかみにキスをした。か、かっこいい。

「俺のこと、かっこいいって思ってくれるの? 大丈夫、正樹だってそこら辺のオメガと違って身長もあるしかっこいいから何を着ていても問題ないよ。それに髪がくるくるしていて可愛いのもそそられる、天然ものは最高だね。気になるなら帰りはスーツ用意しとこうか? お揃いで揃えよう」
「いや、何言っているの?」

 確かに俺はベータ上がりだから、見た目だけなら普通の男で身長も司ほどじゃないけど一般男子そのものだった。この平凡をかっこいいとか可愛いとか言う司の目、やばくないか? そんなやりとりをしていたら、イケオジが司に話しかけてきたので、俺は思わず司の後ろに回った。

「司様、いつものお部屋お取りしておきました」
「笹本。急に済まなかったな、この人は俺の大事な人だから、そこじゃなくて特別な部屋を用意してくれないか?」
「……ほお! ついにぼっちゃまに大事な方が?」

 笹本と言われたイケオジの後ろから綺麗な女性がぼそっと呟いた。

「支配人、顔が崩れていますよ、それにぼっちゃまって言っていますっ」
「おおっ、ついつい」

 笹本さんは白髪混じりの素敵な男性だった。その人は最初スマートに挨拶するも、いきなり崩れた顔で泣きそうにぼっちゃまと言い出したのには、俺もちょっとびっくりした。

「笹本、ここはホテル内だぞ。他のお客様もいるから気をつけろ。正樹、支配人の笹本だ。俺も事業に携わっていて、直属の部下になる。そして後ろにいるのが笹本の秘書の菊池だ。二人には今後も会うことになるから覚えておいてくれ」
「ま、真山です。この度は急に来てしまい申し訳ありません」

 俺はどこから突っ込めばいいのかわからなかったから、とりあえず挨拶だけした。

「これはこれは! ご丁寧に有難うございます。真山様、私は笹本と申します。司様のご両親は主に海外事業に携わっておりますので、日本での事業、当ホテルは司様を主体に、私がサポートをさせていただております。今後もお見知り置きをくださいませ」

 丁寧に挨拶をしてくれて頭まで下げられた。ぼぅっとしてしまった。司はなんと働いていたのか。同じ高校生なのにすげぇな、こんなイケオジを従えているなんて。なんだか恐縮してしまった。

「笹本さん、あの俺は庶民なので、今日はたまたまですが、こんな凄いところもう来る機会はないと思います。挨拶してくれたのにすいませんっ」
「司様がお認めになった真山様でしたら、家の出など関係ありません、硬い挨拶が緊張させてしまいましたかな? 気になさらずに当ホテルをお楽しみ下さい」
「いや、本当に、その、すいません」

 隣で司が笑っている、このやろう。

「正樹は慎ましいんだ、笹本の威厳にビビったんだろう、あまり俺の正樹を恐縮させるな」
「本当に慎ましく可愛らしい方ですね。このような場所で支配人なんてやっていると、見た目だけはこんな風になってしまうんですよ。ではお部屋の用意が整ったようですので、年寄りはこの辺にして、お二人ともごゆるりとお過ごしください」

 俺は軽くお辞儀して、司にまた腰を支えられてエレベ―タへと乗せられた。

「あの、司っ、俺仕事しているって知らなくて、お前の金じゃないなんて生意気なこといってごめん」
「ん? そんなこと気にしてないよ、それに正樹は考えがしっかりしている子だって知れて嬉しい。俺の周りに金の心配する奴なんていなかったからな」
「司の周りの人と違って、俺が使うのは親が一生懸命稼いでくれた金だから。庶民の感覚で価値観を押しつけて悪かった、でも俺はこんな高級な場所に来なくても幸せに生きているから、ひねくれて言っているんじゃないからな!」

 別に貧乏ってほどでもないけど、使える金は限られている。だけどそれに不満になんて思ってない。金持ちからしたら、貧乏人が何言っていんだって思うかもしれない。司が今までここに連れてきた女の子はお金の心配なんかせずに、司に奢られ慣れているようだったし、それを否定することでいきがっているとでも思われただろうか。別に良いけど。

「可愛いすぎて押し倒したい、今から俺が、今まで味わったことないくらい幸せにしてやる」
「……少し黙れ」

 クスクス笑う司に、にこやかに微笑むホテルマン。ってかここはエレベ―タで、二人きりではない。今日何度目の辱めだ。
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