運命を知っているオメガ

riiko

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本編

53、交差する運命

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 言い争う声がしてきた。俺はこっそり隠れて耳をそばだてた。

「だからっ、なんで西条がここにきているんだよ!」

 ん? 櫻井が呼んだわけではなさそうだ。

「正樹の母親から連絡きたんだ。俺と一緒に発情期を過ごしていると思って、どこにいるのか連絡くれって、どう言うことだ? 俺の正樹はなんでお前といる? 居るんだろ、俺のオメガの匂いがプンプンしている」
「正樹はお前のオメガじゃない、俺のだ。今から俺のオメガになる。他の男に手を付けられたオメガをお前、許さないだろう。だから正樹を抱いて俺の匂いでいっぱいにしてヒートが収まりかけの頃、お前を呼んで首輪の解除をさせる予定だったんだ」

 おいおいおいお――い、櫻井! お前、そんな予定だったのかよ!?

「お前なんかが正樹をつがいにできると思っているのか? 身分をわきまえろ犯罪者」
「これは同意だ。正樹はどうしてもお前とつがいになりたくないから俺のところに来たんだよ、まぁ呼んでもないのにお前が来たのは少し計算違いだが、ちょうどいい。正樹の匂いはまだ大丈夫か? 正樹の首輪外してくれ」

 直談判キタ――。

 櫻井君よぉ、司は俺をつがいにって考えていた男だぞ!? いくら何でもそんな馬鹿な話に応じないでしょ。お前、アルファならもう少し頭良くなれぇ!

「は?」
「だから、お前が無理やりけた首輪だよ、今から俺とつがいになるんだ。あれじゃなれないだろ?」
「俺のオメガをみすみすお前みたいな犯罪者に渡すと思うか? なんて言って正樹をたぶらかしたんだ?」

 って、お前らアルファのくせに子供の喧嘩か!? やるやらないって、子供かよ。

 櫻井、完璧ノープラン。都合よくヒート治りかけで首輪を本人に外してもらうなんて、できるわけねぇだろ! あいつ、俺とつがいになることで頭いっぱいでバカになったのか?

「んっ、あっ」

 やばい、司が現れたことで匂いに反応しだした。俺も既に薬やめたし、もしかしたら司も俺の発情期に合わせて抑えていた? これじゃもうヒート始まるじゃねぇか! そしたら司に運命がばれる。

「正樹!? くそっなんだこの匂い、お前っまさかまた正樹に変な薬使ったのか?」
「ああ、もうヒート始まっちゃったね。タイムオーバーだよ、ほら帰って。これこそ本来の正樹のヒートだ。今回は本人からつがいにしていいと了承をとっているんだから、薬なんか使うはずないだろ」

 司の戸惑う気配がこちらまで漂ってくる、運命だから? つがいでもないのに司のフェロモンからそういうのを感じた。

「薬使ってないって? こんなありえない匂いするわけないだろ!」
「君、本当にバカだね。首輪外す気ないなら帰ってくれない?」

 司は興奮している、櫻井のフェロモンはまださほど感知できないのに、司の香りがこの部屋を充満していく。そして司はもうラットに入りかけている? 

 櫻井だけが冷静に言葉を綴る。

「っお前、ほんとにアルファか? なんでこの匂い嗅いで立っていられるんだ……っまさか、いや、そんな」
「ほんと無様だ、西条。お前のその鈍さがどれだけ正樹を苦しめたと思っているの? 気づいた瞬間、お前は自らオメガを失うんだ、滑稽だな」

 司が戸惑っている声だけが聞こえてきた。その戸惑いを知り、俺はもう悲しくてたまらない。

「まさか、正樹が、俺のっ」

 はぁはぁと息を切らしながら、司が帰るのを壁にもたれて待っていた。

 俺の匂いももう隠されることなく司に届いている。司はついに俺に、いや、運命に気づいたみたいだった。そして愕然としている、そうだよな、散々バース関係ないって俺を口説いていた本人が一番バースに惑わされているんだから。

 もう隠せないなら、それでいい。

 今しかないと思い震える足に力を入れて立ち上がった。濡れた髪にタオルをばさっと被せて、顔をあまり見られない防護のようにした。

「司……」

 二人の前に出た、そして司は俺を見る。

「ま、さき」

 ついに運命は交差した。
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