21 / 31
本編
21、物語の結末は
しおりを挟むベッドの中で二人まどろんでいた。楓は仰向けに片手は僕を抱えて寝て上を向いている、僕はその楓に抱きついて横になっている状態。楓の手だけはさわさわと僕の肩周りをさすっている。二人とも起きてはいるが、事後でまったりしている状態。
回を重ねるごとに、どんどん自分がどうにかなってしまいそうになる。毎回気持ちが良すぎる。これが運命の力なのか、それともアルファと体を重ねたらこうなるのかは、楓しか経験がないから分からない。
だけど良かったなぁ、あのまま達夫に犯されることにならなくて。でもどうなるんだろう、なぜ達夫は捕まったのかな、普通に婚約者を抱くくらいなら犯罪でも何でもない、楓はどうしてあそこに来たんだろう。まさか僕が男に体を売ったとか、そういう風に思われたのかな!? どうしよう。
「由香里?」
「ん、」
「体、大丈夫? 乱暴にし過ぎた」
「ううん、平気。ちょっと動きづらいけど、でも楓に抱かれるなら優しくされても乱暴にされてもどちらでも嬉しい。ほんと好き」
「あまり煽らないで……俺、余裕ないんだ。由香里が誰かに犯されるとか想像するだけでもダメなのに、実際にその現場みたら、俺は」
「ごめんなさいっ、僕が浅はかな行動したって思う。そんな辛い思いさせて本当にごめんね」
僕は抱かれ過ぎて動きの悪い体を少し動かして、楓にキスをした。
「楓」
「ん?」
「あの、あの時ってどういう状況だったの? もちろん助けに来てくれて嬉しかったけど、なんで僕があそこで襲われているって分かったの?」
「ああ……」
楓はあの直前に、祖母に会いに行きそこにちょうど梨々花もいたから事情を聞いたとのことだった。僕に婚約者がいたことに驚きを隠せなかったって。事前に調べた情報だけだと、祖母が小湊の愛人枠として金銭を貰って生活をしていたと思っていたらしい。それがまさか僕の婚約で生活を賄っていたなんて想像もつかなかったと言っていた。
というか祖母を、そんなふしだらな人に仕立て上げられていたなんて。
「楓、黙っていてごめんなさい。僕自分で解決できると思って」
「……俺が、出会ってから由香里にそういう大事な話をする時間を取らせなかったのも、一応責任は感じている」
楓の話はまだ続いた。
祖母から聞いたことには続きがあって、どちらかが運命に出会った、もしくは洋平さんに番ができたら婚約は無条件で破棄できたとのことだった。達夫が僕を好きになって、婚約は勝手にした行動だったと。
僕はそんな追加の条件があったなんて、知らなかった。小湊さんの死後に祖母に渡された手紙にそう書いてあったんだって。僕が洋平さんと結婚すると思い込んでいた祖母は、その話も特別言う必要がないと判断したとのことだった。楓は祖母から聞いた話と、そして梨々花から、僕が達夫に会いに行っているという話から、すぐに僕を連れ戻そうとしたのが今回の救出劇だった。
その条件を知っていたらこんなに悩まなくて良かったのに、というか祖母の元婚約者の小湊さんは本当に良く出来た人なんだな、なんで達夫みたいな息子がいたのか不思議なくらいだった。洋平さんも優しかったし。
「ところで、由香里は洋平のコト好きだったのか?」
「えっ」
「亜香里さんが、由香里は洋平を気に入っていたって」
「ああ、楓と出会う前だよ? その前に洋平さんには番ができたし、洋平さんって凄く柔らかくて人当たりがいいアルファだったの。だからこの人となら結婚しても問題ないかなって思っただけで、好きってわけじゃなかったよ。顔合わせの一度しか会ってないし、そもそも結婚は義務で決まっていたことだって思っていたから」
「妬けるな」
「どこに妬く要素ある? 僕は楓に出会ってからは楓一筋なのに」
また僕はキスをすると、楓がそれに答えて体制を変えて僕の上にきた。僕は楓の頬を両手で包み込む。
「愛している、僕を助けてくれてありがとう」
「由香里……俺と番になろう」
「うん。次の発情期、楽しみだね」
もう達夫と結婚しなくて済んだんだ、これで心置きなく楓と番になれる。
「……違う、今すぐだ」
「えっ? でも僕まだ発情期じゃないよ?」
楓は真剣な顔で、何を言っているんだろう?
「俺とお前は運命だ、だから俺がフェロモンを浴びせたら、由香里は発情できる。すなわち番になれる」
「えっ」
「俺はもう耐えられない。由香里はフェロモンが強力だから番に出来るアルファはいないっていうけど、小湊ほどの小物でも由香里を犯すことが出来る。あんな男相手じゃ由香里が興奮しないだろう、フェロモンは出ないが後孔に挿れることは出来るんじゃないか?」
「あっ」
確かにあの時犯されるって恐怖を感じて、興奮なんて一つもしなかった。だから達夫は気絶もしなかった。フェロモンが出なければ発情状態にもならないし、番にも出来ない。でも挿入するのは簡単かもしれない。
「分かるだろ、お前はもういるだけで危険なんだ。番がいない今、外を出歩くことは許せない」
「……」
やばい、楓がヤンデレ化している。こういう時どんなセリフがいいんだろう、散々梨々花に教えて貰ったのに、僕自身今は余裕が無くて、全くセリフが出てこない。
「だんまり? 俺が怖くなった? アルファなんてこんなもんだよ」
「ち、ちがう。楓は怖くないし愛されている実感があるから大丈夫だけど、でも番になるのはそんな急じゃなくて、発情期にゆっくり契約したい、だめ?」
「だめ」
即答された。
「で、でも、今日はさすがに、あんなこともあったし、僕の精神状態も良くないから」
「だからこそ、俺に全てを任せればいい」
本気だ、楓は本気で僕を今すぐ番にするつもりだった。僕の精神は限界を迎えて、ただただ家に帰りたかった。祖母に抱きついて、友達に会って、安心したい。
「楓……ぼく。今日は、今日だけは家に帰りたい」
「由香里、あまり手を焼かせるな。素直に従って……そうしたら家に帰れるよ。そもそも番にならなければ、ここから外には一歩も出さない。大好きなおばあちゃんにも会えないよ? 亜香里さん心配しているんじゃないの? 事件の真相を全て知っていて、家で由香里の帰りを一人さみしく待っているよ、帰りたくないの? 帰る方法は一つしかないよ」
こわっ、僕もう限界なんだよね。人生初の暴力食らって暴行されかけて、そして次は恋人の言葉の暴力と脅し……。マジでかえりたいよぉ。おばあちゃ――ん!!
「そんな顔するな、俺のフェロモン浴びたらすぐに善がるしかないから、安心しろ」
「安心する要素、一つもない」
「あまり俺を怒らせないで……。さっき由香里を抱いてやっと落ち着いたのに」
「ご、ごめんなさい」
確かに僕が悪いけど、でも、僕だって番契約には夢がある。やっと大好きな人と結ばれていい未来が確約されたのに、なにをそんなに急ぐ必要があるの? まあ、あんなことがあったから急ぐ必要はあるのかもしれないけど……。
21
お気に入りに追加
1,473
あなたにおすすめの小説
恋するαの奮闘記
天海みつき
BL
数年来の恋人につれなくされて怒り狂うαと、今日も今日とてパフェを食べるのんびりβ
溺愛するΩに愛人をあてがわれそうになって怒り狂うαと、番にハーレムと作らせようとたくらむΩ
やたらと空回る番に振り回されて怒り狂うαと、完璧を目指して空回る天然Ω
とある国に、司東家という巨大な財閥の総帥一家がある。そこの跡取り三兄弟は今日も今日とて最愛の恋人に振り回されている様子。
「今日も今日とて」――次男編――
お互いにべたぼれで、付き合い期間も長い二人。一緒に昼を食べようと誘っておいたものの、真っ赤な顔のΩに捕まっている内に、つれない恋人(β)は先に言ってしまった様子。怒ったαはその後を追いかけ雷を落とす。
はて、この状況は何と言ったか。そう考えた友人はポツリと零す。
「ああ、痴話げんか」
「英雄色を好む」――長男編――
運命の番として番契約を交わした二人。せっせと仕事をするαの元に届けられたのはお見合い写真。差出人(Ω)は虎視眈々と番のハーレム開設計画を練っている様子。怒り狂ったαは仕事を猛烈な勢いで片付けて雷を落としに飛び出した。
ああ、またやらかしたのか。そう察した社員一同はポツリと零す。
「また、痴話げんか」
「拝啓、溺愛の候」――三男編――
運命の番として番契約を交わした二人。今日も大学で学業に励むα元に届けられたのは1通の恋文。しかし、謎の使命感に憑りつかれた差出人(Ω)は、いい雰囲気をぶち壊す天才だった。お預けを喰らい続けて怒り狂ったαは、仕事終わりの番を捕まえ雷を落とす。
ああ、これが噂の。偶然居合わせた野次馬一同はポツリと零す。
「おお、痴話げんか」
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜
高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。
フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。
湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。
夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。
愛人オメガは運命の恋に拾われる
リミル
BL
訳ありでオメガ嫌いのα(28)×愛人に捨てられた幸薄Ω(25)
(輸入雑貨屋の外国人オーナーα×税理士の卵Ω)
──運命なんか、信じない。
運命の番である両親の間に生まれた和泉 千歳は、アルファの誕生を望んでいた父親に、酷く嫌われていた。
オメガの千歳だけでなく、母親にも暴力を振るうようになり、二人は逃げ出した。アルファに恐怖を覚えるようになった千歳に、番になろうとプロポーズしてくれたのは、園田 拓海という男だった。
彼の秘書として、そして伴侶として愛を誓い合うものの、ある日、一方的に婚約解消を告げられる。
家もお金もない……行き倒れた千歳を救ったのは、五歳のユキ、そして親(?)であるレグルシュ ラドクリフというアルファだった。
とある過去がきっかけで、オメガ嫌いになったレグルシュは、千歳に嫌悪感を抱いているようで──。
運命を信じない二人が結ばれるまで。
※攻め受けともに過去あり
※物語に暴行・虐待行為を含みます
※上記の項目が苦手な方は、閲覧をお控えください。
捨てられΩはどう生きる?
枝浬菰
BL
*あらすじ
likeの意味ではなくloveの意味で璃亜武のことが好き、でも僕はβだからなにも叶わないしなにも生まれない。
そんな中転校生できたΩの瑠衣は可愛くていい匂いで璃亜武にはお似合いでいいなっていつも傍にいた。
僕ができることはそう【傍に一緒にいるだけ】それだけでいい。いつまでも璃亜武の傍にいたい。
散らばっていく僕の大切なもの……。
オメガバース作品です。
続きは本編にて…………
-------------*-----------------------*-----------------------------*--------------------*----------
★作品を書こうと思ったきっかけ
最近の妄想で一番よかったのを書いていこうと思ったからです。
好きかも、続きが気になるかもと思ったら【お気に入り】一票をお願いします。
※性描写多く含みます。
※文章の無断転載禁止。
※オメガバース
※暴力・虐待表現あり
○21日で6ヶ月目 お気に入り208ありがとうございます❤
この度は長らく
【捨てられΩはどう生きる?】をご愛読頂きましてありがとうございました。予定では余命宣告編を書く予定だったのですが文学フリマ東京39の準備に慌ただしく日がすぎこちらの更新が遅くなってしまうことを懸念して本日で最終回という形にさせていただきました(⋆ᴗ͈ˬᴗ͈)”続き、スピンオフは文学フリマ東京39又京都9にて販売しますのでよければお立ち寄りください。
2024/7/21記載
○YouTub○にて朗読会公開してます! 聞きに来てください~~
○表紙作成しました~意味ありげな感じに仕上がってよかった
○文学フリマ東京39と文学フリマ京都9に参加します~お近くの方はぜひ✨
引退したオジサン勇者に子供ができました。いきなり「パパ」と言われても!?
リオール
ファンタジー
俺は魔王を倒し世界を救った最強の勇者。
誰もが俺に憧れ崇拝し、金はもちろん女にも困らない。これぞ最高の余生!
まだまだ30代、人生これから。謳歌しなくて何が人生か!
──なんて思っていたのも今は昔。
40代とスッカリ年食ってオッサンになった俺は、すっかり田舎の農民になっていた。
このまま平穏に田畑を耕して生きていこうと思っていたのに……そんな俺の目論見を崩すかのように、いきなりやって来た女の子。
その子が俺のことを「パパ」と呼んで!?
ちょっと待ってくれ、俺はまだ父親になるつもりはない。
頼むから付きまとうな、パパと呼ぶな、俺の人生を邪魔するな!
これは魔王を倒した後、悠々自適にお気楽ライフを送っている勇者の人生が一変するお話。
その子供は、はたして勇者にとって救世主となるのか?
そして本当に勇者の子供なのだろうか?
吸血鬼公爵に嫁いだ私は血を吸われることもなく、もふもふ堪能しながら溺愛されまくってます
リオール
恋愛
吸血鬼公爵に嫁ぐこととなったフィーリアラはとても嬉しかった。
金を食い潰すだけの両親に妹。売り飛ばすような形で自分を嫁に出そうとする家族にウンザリ!
おまけに婚約者と妹の裏切りも発覚。こんな連中はこっちから捨ててやる!と家を出たのはいいけれど。
逃げるつもりが逃げれなくて恐る恐る吸血鬼の元へと嫁ぐのだった。
結果、血なんて吸われることもなく、吸血鬼公爵にひたすら愛されて愛されて溺愛されてイチャイチャしちゃって。
いつの間にか実家にざまぁしてました。
そんなイチャラブざまぁコメディ?なお話しです。R15は保険です。
=====
2020/12月某日
第二部を執筆中でしたが、続きが書けそうにないので、一旦非公開にして第一部で完結と致しました。
楽しみにしていただいてた方、申し訳ありません。
また何かの形で公開出来たらいいのですが…完全に未定です。
お読みいただきありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる