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本編

21、物語の結末は

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 ベッドの中で二人まどろんでいた。楓は仰向けに片手は僕を抱えて寝て上を向いている、僕はその楓に抱きついて横になっている状態。楓の手だけはさわさわと僕の肩周りをさすっている。二人とも起きてはいるが、事後でまったりしている状態。

 回を重ねるごとに、どんどん自分がどうにかなってしまいそうになる。毎回気持ちが良すぎる。これが運命の力なのか、それともアルファと体を重ねたらこうなるのかは、楓しか経験がないから分からない。

 だけど良かったなぁ、あのまま達夫に犯されることにならなくて。でもどうなるんだろう、なぜ達夫は捕まったのかな、普通に婚約者を抱くくらいなら犯罪でも何でもない、楓はどうしてあそこに来たんだろう。まさか僕が男に体を売ったとか、そういう風に思われたのかな!? どうしよう。

「由香里?」
「ん、」
「体、大丈夫? 乱暴にし過ぎた」
「ううん、平気。ちょっと動きづらいけど、でも楓に抱かれるなら優しくされても乱暴にされてもどちらでも嬉しい。ほんと好き」
「あまり煽らないで……俺、余裕ないんだ。由香里が誰かに犯されるとか想像するだけでもダメなのに、実際にその現場みたら、俺は」
「ごめんなさいっ、僕が浅はかな行動したって思う。そんな辛い思いさせて本当にごめんね」

 僕は抱かれ過ぎて動きの悪い体を少し動かして、楓にキスをした。

「楓」
「ん?」
「あの、あの時ってどういう状況だったの? もちろん助けに来てくれて嬉しかったけど、なんで僕があそこで襲われているって分かったの?」
「ああ……」

 楓はあの直前に、祖母に会いに行きそこにちょうど梨々花もいたから事情を聞いたとのことだった。僕に婚約者がいたことに驚きを隠せなかったって。事前に調べた情報だけだと、祖母が小湊の愛人枠として金銭を貰って生活をしていたと思っていたらしい。それがまさか僕の婚約で生活をまかなっていたなんて想像もつかなかったと言っていた。

 というか祖母を、そんなふしだらな人に仕立て上げられていたなんて。

「楓、黙っていてごめんなさい。僕自分で解決できると思って」
「……俺が、出会ってから由香里にそういう大事な話をする時間を取らせなかったのも、一応責任は感じている」

 楓の話はまだ続いた。

 祖母から聞いたことには続きがあって、どちらかが運命に出会った、もしくは洋平さんにつがいができたら婚約は無条件で破棄できたとのことだった。達夫が僕を好きになって、婚約は勝手にした行動だったと。

 僕はそんな追加の条件があったなんて、知らなかった。小湊さんの死後に祖母に渡された手紙にそう書いてあったんだって。僕が洋平さんと結婚すると思い込んでいた祖母は、その話も特別言う必要がないと判断したとのことだった。楓は祖母から聞いた話と、そして梨々花から、僕が達夫に会いに行っているという話から、すぐに僕を連れ戻そうとしたのが今回の救出劇だった。

 その条件を知っていたらこんなに悩まなくて良かったのに、というか祖母の元婚約者の小湊さんは本当に良く出来た人なんだな、なんで達夫みたいな息子がいたのか不思議なくらいだった。洋平さんも優しかったし。

「ところで、由香里は洋平のコト好きだったのか?」
「えっ」
「亜香里さんが、由香里は洋平を気に入っていたって」
「ああ、楓と出会う前だよ? その前に洋平さんにはつがいができたし、洋平さんって凄く柔らかくて人当たりがいいアルファだったの。だからこの人となら結婚しても問題ないかなって思っただけで、好きってわけじゃなかったよ。顔合わせの一度しか会ってないし、そもそも結婚は義務で決まっていたことだって思っていたから」
「妬けるな」
「どこに妬く要素ある? 僕は楓に出会ってからは楓一筋なのに」

 また僕はキスをすると、楓がそれに答えて体制を変えて僕の上にきた。僕は楓の頬を両手で包み込む。

「愛している、僕を助けてくれてありがとう」
「由香里……俺とつがいになろう」
「うん。次の発情期、楽しみだね」

 もう達夫と結婚しなくて済んだんだ、これで心置きなく楓とつがいになれる。

「……違う、今すぐだ」
「えっ? でも僕まだ発情期じゃないよ?」

 楓は真剣な顔で、何を言っているんだろう?

「俺とお前は運命だ、だから俺がフェロモンを浴びせたら、由香里は発情できる。すなわちつがいになれる」
「えっ」
「俺はもう耐えられない。由香里はフェロモンが強力だからつがいに出来るアルファはいないっていうけど、小湊ほどの小物でも由香里を犯すことが出来る。あんな男相手じゃ由香里が興奮しないだろう、フェロモンは出ないが後孔にれることは出来るんじゃないか?」
「あっ」

 確かにあの時犯されるって恐怖を感じて、興奮なんて一つもしなかった。だから達夫は気絶もしなかった。フェロモンが出なければ発情状態にもならないし、つがいにも出来ない。でも挿入するのは簡単かもしれない。

「分かるだろ、お前はもういるだけで危険なんだ。つがいがいない今、外を出歩くことは許せない」
「……」

 やばい、楓がヤンデレ化している。こういう時どんなセリフがいいんだろう、散々梨々花に教えて貰ったのに、僕自身今は余裕が無くて、全くセリフが出てこない。

「だんまり? 俺が怖くなった? アルファなんてこんなもんだよ」
「ち、ちがう。楓は怖くないし愛されている実感があるから大丈夫だけど、でもつがいになるのはそんな急じゃなくて、発情期にゆっくり契約したい、だめ?」
「だめ」

 即答された。

「で、でも、今日はさすがに、あんなこともあったし、僕の精神状態も良くないから」
「だからこそ、俺に全てを任せればいい」

 本気だ、楓は本気で僕を今すぐつがいにするつもりだった。僕の精神は限界を迎えて、ただただ家に帰りたかった。祖母に抱きついて、友達に会って、安心したい。

「楓……ぼく。今日は、今日だけは家に帰りたい」
「由香里、あまり手を焼かせるな。素直に従って……そうしたら家に帰れるよ。そもそもつがいにならなければ、ここから外には一歩も出さない。大好きなおばあちゃんにも会えないよ? 亜香里さん心配しているんじゃないの? 事件の真相を全て知っていて、家で由香里の帰りを一人さみしく待っているよ、帰りたくないの? 帰る方法は一つしかないよ」

 こわっ、僕もう限界なんだよね。人生初の暴力食らって暴行されかけて、そして次は恋人の言葉の暴力と脅し……。マジでかえりたいよぉ。おばあちゃ――ん!!

「そんな顔するな、俺のフェロモン浴びたらすぐにがるしかないから、安心しろ」
「安心する要素、一つもない」
「あまり俺を怒らせないで……。さっき由香里を抱いてやっと落ち着いたのに」
「ご、ごめんなさい」

 確かに僕が悪いけど、でも、僕だってつがい契約には夢がある。やっと大好きな人と結ばれていい未来が確約されたのに、なにをそんなに急ぐ必要があるの? まあ、あんなことがあったから急ぐ必要はあるのかもしれないけど……。

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