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本編
18、上條楓2(楓side)
しおりを挟む由香里への調べは翌日には上がってきた。さすが上條の力だった。
由香里の母は一人で由香里を産み実家で育てていた。由香里の父親については探れていない。由香里が乳幼児の時に由香里の母は自分の父親と同乗中に、運転事故を起こし二人は亡くなる。
そこで由香里は残された祖母と二人暮らしになった。その時の事故の資料は表向きの分だけで深い資料は手に入らなかった、もみ消されたようだった。
祖母の亜香里は細々と俳句教室を営んでいたが、それだけで子供を育てられるわけがない。調べると援助をしている家が出てきた。小湊収蔵……有名な政治家だった。もしかしたら亜香里は小湊の愛人をしていたのかもしれない。それで事故をもみ消したのだろう。由香里の育った環境を見ると裕福な家の子供と同じような学校に通っていたからだ。
亜香里の写真を見るとそれはそれは美しいオメガだった。
番の旦那が死んだところで世間は放っておかなかったのだろう。年齢はいっているが、なんとも気品が凄い、母親の写真も合わせて見ると、とてつもない美人だった。由香里の美貌は祖母と母譲りなのだろう。
小湊収蔵はすでに亡くなった、それでもまだ由香里が大学に通えているのを見るとそこまでの援助は既に受けているのかもしれない、だったらこれからは俺が由香里と祖母の面倒を見ればいいだろう。
由香里の友人、陽子と梨々花。この二人はともにアルファの婚約者がいるし、出生は問題なく上流階級で由香里の友達としても全く問題ないだろう、ただ女なのが気になる。由香里に限って女と何かするとは思えないが、このオメガ三人は仲が良すぎる。よく由香里の家に出入りをして祖母とも仲良くしている、よっぽどの親友なのだろう。
一通り調べて由香里の志向などもどんどんと報告が上がってきたが、あとは些細なものだった。
早く由香里を番にしたい、次の発情期なんてとても待てない。本当は運命の力で出会ったその日に番にしたかったけれど、それは頑丈な首輪で太刀打ちできなかった。
俺のフェロモンを強制的に浴びせれば発情状態はいつでも作れる、早く首輪の鍵を解除しなければならない。俺と出会って五日も経過したのに、由香里は悠長にいまだ祖母に俺とのことを話していないようだった。
今日は由香里の授業は午後からだから今頃、俺とのことを祖母に話しているかもしれない。俺からも事情を話す方がもしかしたらすんなり首輪の鍵を貰えると思い、午後の授業に送るついでに由香里の家まで迎えに行こう、そしておばあさんに俺を認めてもらうことにした。
***
「えっ、由香里はもう家を出たんですか? たしか授業は午後からのはずじゃ」
「ええ、急に婚約者の方と会うことになって急いで家を出ていったんです。由香里の大学の方? 迎えに来て下さったのに申し訳ないわね」
「こ…ん、やくしゃ?」
いったい何の話だ?
俺は今由香里の家のドアの前で出てきた祖母に挨拶をした。同じ大学の上條楓です……と。まだそれしか言っていないのに先制パンチを食らった。
「あの、俺は由香里の恋人なんです」
「え、ええ!?」
「亜香里さ――ん、遊びにきちゃった!! ってあれ? 上條先輩!?」
そこに由香里の友達の陽子だか梨々花だかの、どちらかがきた。
「あ、あら梨々花ちゃん。この方は梨々花ちゃんも知っている方? 由香里の恋人だって言うんだけど」
「あ、はい。あの……」
梨々花か、この女は何か知っているな。気まずそうに俺を見上げた。
「こんな玄関先じゃなんですし、二人とも上がって」
「あ、はい!! 先輩、その由香里はもう少ししたら全てを話すつもりだったんです、だからとにかく亜香里さんと話しましょう!!」
部屋に通されるとそこはローズの香りに満ちていた。とても落ち着く家だった。美しい所作で俺にお茶をだしてくれる由香里の祖母の亜香里さんに俺は名乗った。
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