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本編

15、祖母の過去

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 僕たちが運命の出会いをしてから、今日で五日目。いい加減祖母に話をしなければ、そう思うも僕自身が最終着地をどうすればいいのか何も考えないでいるのが現状だった。

 昨日は楓とイチャイチャとずっとエッチをしていた。結局日付をまたいでしまった。祖母にはあらかじめ遅くなると連絡をしておいたけれど、いよいよこんな遊び歩いていることを不審がられてしまわないか心配だった。

 そして今日の授業は午後からだから、午前中は家で祖母と過ごしていた。

「ねえ、おばあちゃん! そういえば僕の首輪の鍵ってある? ちょっと傷がついたから新しいのに替えたいんだ」
「あら、それは大変ね。鍵は小湊家で管理しているはずよ、洋平さんに聞いてみなさい」
「ええ!! そうなの?」

 それだと、洋平さんから達夫の手に渡っているのかもしれない。やはりキチンと会って関係をどうやって清算できるかを確かめなければならない。

「もともとその首輪は小湊さんから毎年贈られていたのよ、誕生日に新しい首輪に取り替えていたでしょ。それで洋平さんとはどうなの? 彼とってもいい子だったわね」
「えっ、おばあちゃん会った事あるの?」
「あなたとお見合いの次の日に、うちに挨拶に来たのよ。由香里のこと真剣に考えていますって、それと昨年お亡くなりになった小湊さん……洋平さんのお祖父様の手紙を持ってきてくれたの」
「手紙?」

 いったい今さら、祖母にどんなことを?

「おばあちゃんの元婚約者が、洋平さんのお祖父様だって知っているわよね?」
「うん」

 それは十歳のバース検査の後に聞いた話だった。

「その人が亡くなる前に私に書いてくれた手紙があったみたい。あなたのお祖父さんに出会って運命を選んでしまったけれど、私は婚約期間中たしかに小湊さんを好きだったしお互いに想っていたけれど、どうしても運命には逆らえなかったの。それを小湊さんも理解してくれて円満に別れたわ。数年して夫も子供も同時に亡くして途方に暮れていた時に、彼は私がただ援助を受けるには理由が必要だと思って孫と婚約という形をとったって」
「え」

 そういう理由だったの? それに驚いたけれど、洋平さんも祖母に挨拶にくるなんて真面目な人だったんだな、叔父の策略でオメガをつがいにしたって騙されやすい優しい人だったけれど。

 そんなにいい人なら、初めに裏切られたのが僕で良かった。祖母も小湊家を運命で裏切って、その孫の僕までそんなに優しい人を運命で裏切るなんてしたくない。だからあの小賢こざかしい達夫が相手になったのは、不幸中の幸いだとしか思えなかった。

「親のいないオメガの子供、特に貧しい家庭のオメガはどうしたって悪いアルファに狙われやすいのを心配してくれて。それで小湊家の援助を受けられれば、私と由香里は無事に生きていけるだろうって配慮だったみたいよ。自分の孫を必ずオメガを大切にするアルファに育てるから、どうか受け入れて欲しいって」
「そうだったんだ」

 祖母は結婚してからもその人に大事にされていたんだ。洋平さんのお祖父さんは凄くいい人だったみたい。でもあの達夫の父親でもあるんだけどね。

「それを聞かされてきた洋平さんも、由香里を守らなければって思ってくれていて、そして二人は出会って意気投合した。本当に良かったわ、もし由香里が洋平さんを気に入らなければ、おばあちゃんがなんとかしなくちゃって思っていたから」
「おばあちゃん……」
「でも手紙には続きがあってね、あら? 由香里?」

 僕を十八歳まで育ててくれた大事な祖母に、そんな祖母を大切にしてきてくれた故人を裏切らせるわけにはいかない。だけど僕はもう楓を愛している、どうしていいか分からなくて祖母に抱きついた。

「大丈夫、おばあちゃん。僕幸せになるから!」
「そう? 由香里はいくつになっても甘えん坊ね、よしよし」

 そうだよ、祖母を悪者にするんじゃなくて、自分のことだ。自分で決着をつけないと。

 洋平さんが相手のままだったら、たとえ楓という人がいても、僕は罪悪感に苛まれてそのまま結婚したかもしれない。だけど相手が狡猾こうかつな達夫になったなら、裏切ることになんの抵抗もない。ただ祖母に迷惑がかかることだけはしたくない。

 小湊達夫に運命のことを話して、どうしたら婚約を解消できるのか聞いたうえで楓に相談してみよう。もしかしたら他に好きな男が出来た僕を開放してくれるかもしれないし、今までの小湊家から出してもらったお金も人生かけて返すとしか言えないけれど、祖母にはもう請求しないで欲しいとお願いするしかない。たとえ僕の体を売ってでも、なんとかしてお金を作って返そう。

 僕は「高嶺のオメガ」だから、いざとなったら高値で稼げるかもしれない!

 祖母にだけは迷惑がいかない方法をとって、自分の後始末は自分でつけないと。

 それで楓に嫌われても仕方ない。楓から捨てられることになっても、僕は楓を愛していながら、もう他の男と結婚するなんてやっぱりできない。それなら一生一人でいい。

「おばあちゃん! 大好き!!」
「おばあちゃんも、あなたが好きよ」

 祖母は僕の決意を知らないから、やさしく頭を撫でてくれた。幼い頃からその手が僕をいつも守ってくれていた。この手を今度は僕が守らなくちゃ、そう強く思ったらやっと行動する気になれた。

 小湊達夫に連絡をすると、すぐに返事が返ってきて午後にまたあのホテルで会うことになった。


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