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本編
14、出会いから四日目
しおりを挟む「ねぇ、私ここ来る前に見ちゃったんだけど、由香里の彼……さっきビンタくらっていたよ?」
「それって修羅場!? 由香里、本当に大丈夫なの?」
という話に戻るわけだった。
まだ僕と楓は出会ってから四日しかたっていないのに、目まぐるしく動く日々に僕は少し疲弊していた、でも運命と出会った幸せしかなかった。
出会ったその日に抱かれて、翌日も大学サボって一日中楓のマンションで愛を囁いて、三日目は昼間に大学抜け出して高級料亭でランチ、そして本日四日目。朝から楓は仕事があるとかで今日は大学には僕を迎えに来るためだけに放課後来てくれる約束をしていた。
四日たっても僕たちがなんの実のある話もせずにいるのを知って、陽子と梨々花は本気で心配しだした。
それに性欲お化けの楓にいいように使われてないか心配された。そうだよね、性欲半端ないからきっとたくさんのセフレがいたわけでしょ。出会って二日間はヤリっぱなしで昨日は何もしなかった、じゃあ今日はスルのかな? 性欲お化けってどのくらいの頻度でするんだろう。二人の彼氏との頻度どれくらいかは聞いたことなかったけど、普通ってどうなんだろう。
陽子の話によると、楓はセフレだった子たちに本命が出来たと言って回っているらしい。出会ったその日に番になりたいと言われて、翌日に結婚をと言われた、そうだよね、楓は僕にかなり本気だった。運命を探していたとも言っていた。
「でも、由香里このままじゃダメじゃない? もともと処女を捨てるだけのはずだったでしょ? あっちとの決着つかないままだと色々とさっ」
「う――ん。そうなんだよね」
「もう先輩には言った?」
「それが、まだ。なんだかタイミングがさぁ」
そうだよね、僕の大問題である、婚約者問題。だってそんな話をする余裕ないんだよ、楓といるとエッチな雰囲気になるか、僕をひたすら綺麗と言うとかで。
それに祖母にもまだ運命の番に出会ったということさえ言えてない。いや、言える日は来るのかな?
「由香里、楽しそうに何を話していたの?」
「「か、上條先輩!?」」
驚く親友たち、そして僕の大好きな楓が登場した。楓は親友二人にも嫉妬するもんだから、先手を打って楓をもっと好きになったのは二人のお陰と言っておいたら、するりと女友達と仲良くするのは許してくれた。
僕はここで、こんなに制限するのぉ――とは思わない。アルファとはそういう習性だと祖母からも聞いたことがあるから、それにこの梨々花の前彼が相当な執着アルファで大変な思いをしたのを見てきたから、僕はまだ学びがあった分それをうまく生かせている。
アルファに対して否定をするより、全て肯定してむしろ導くくらいしなくてはいけない。でも楓が面白いほど僕の手中にいるので、結構簡単だった。それ以前にそこに愛があるから結局はなんでも許せてしまうんだよね。オメガ側にも愛がなければただの気持ち悪い執着男になってしまう、梨々花の元カレの時のように。
結局は受け取る側の取り方次第。うん、僕は大丈夫みたい! 二人の親友と別れて、僕たちは席を立った。手を繋いで僕は楓の耳元にこっそりと呟いた。
「楓のマンションで、僕、楓にしてあげたいことあるんだ、いいかな?」
「えっ、えっと、え、何してくれるの?」
「う――ん、着くまで内緒!」
「早く行こう!!」
楓はまだ大学内だというのに、僕を抱っこして車に押し込んだ。どうしたのかな、何を必死に?
車に乗せられて、楓の運転手さんに少し寄り道をお願いした。楓がソワソワしていてかわいかったけれど、僕がいつも買うスイーツのお店に行ってケーキを買った。そして部屋に入ると、楓が何をどうしたというのか、ドアを開けた瞬間、濃厚なキスをしてきた。
「ふっ、ん、か、えで」
「由香里、愛してる!!」
「ふはっ、ぼくも、ちょ、ちょっと待って」
「待てない」
僕にキスをしながらも、僕を寝室へと誘導する、なんて器用なんだろう。やはり性欲お化け!? いきなりまた始める気!?
「楓、だめ!! せっかく買ったケーキがつぶれちゃうから」
「そんなのいいよ、また買ってあげる」
「そんなのって酷い!! 楓と僕の大好きなものを食べたくて寄り道して貰ってまで買ったのに、それを無駄にするの?」
「え、ご、ごめん。そんなつもりじゃ……」
僕はキスを止めて、真剣に怒った。そしたら楓がシュンってして僕を見つめる。
「もう、僕の大好きなケーキを楓にも食べてもらいたかったの。それに彼氏にアーンするの憧れていたから、今日はそれをしようと思ってマンションに連れてきてもらったんだよ? 外でするのは、は、恥ずかしいでしょ?」
「えっ、俺にしてあげたいことって、それ?」
明らかにがっかりした顔をしている、え? そんなに嫌だったの? 僕たちベタなバカップルみたいだったからそういうのも嬉しいかなって思っていたのに、楓は違ったの?
「嬉しくないの? 僕がアーンするの、初めての経験なんだよ、酷い」
「は、初体験!? 嬉しい!! 嬉しいよ、ただもっとエッチなこと想像していたから」
「ん?」
「いや、何でもない、じゃあ由香里の好きなケーキ一緒に食べよう、食べさせてくれる?」
「うん!!」
二人でイチャイチャとケーキを食べていた、僕は幸せだった。人生初めてのアーンも成功したし、楓も初めてだって言って、僕の口にケーキを入れてくれた。
「まるで結婚式みたいだね」
「由香里!! 俺、もっと素敵な場所で改めてプロポーズするからね。番になって、そして入籍して、盛大な結婚式をしよう!」
「あっ、その、それなんだけど」
「これは決定だよ、俺たちは運命なんだ。むしろ今すぐに強制的に発情させて番にしたい、ダメ?」
「えっ、ダメに決まっているでしょ。なにそれ」
楓が僕の手を握って真剣な目をする。
「由香里は美しすぎて心配なんだよ、恋人が出来た途端、さっきみたいに焦って由香里を誘いに来る奴がいるかもしれない。俺と番にさえなれば誰も由香里に手を出せなくなる」
「ちょっと待ってよ。僕そんな誘いになんて乗らないよ?」
「そうじゃなくて。アルファが無理やり由香里を攫うようなことをしたら、オメガの由香里じゃどんなに頑張って拒絶しても力じゃ叶わない、俺は運命に会って嬉しい反面、焦っているんだよ。まさかこんな美人が運命だなんて思ってもみなかったから、だから怖いんだ」
「楓……僕は今までだって何もなかったんだし、これからも無いよ。僕のフェロモンが強いのは知っているでしょ、だから番になんて出来るのは楓くらいだから、焦らないで。ちゃんと順を踏んで楓とは進んでいきたい」
「焦るよ、焦る。俺から逃がさないけど、でも誰かに奪われたらと思うと……」
僕から楓にキスをした。楓は驚きながらも僕のキスに答えた。
「由香里、キスは嬉しいけどごまかしてない?」
「ふふ、嬉しいんだ。ごまかすつもりはないけど、そんな急に全てを進んでいかないで。僕の心が置き去りになっているよ、もっとゆっくり楓と付き合って恋人でいる期間を楽しみたい、そんなすぐに番にならなくてもこれからもっとお互いのことを知って、信頼関係をきちんと築いて、それで将来を誓おうよ。これからも僕を離すつもりないんでしょ、だったらやっぱり焦らないでほしいな」
「……納得はしていないけど、分かった。由香里の守りを強化すればいいか。うん」
ん? なんか納得してないと言った割には、なにかを悟ったみたいだったけれど最後の言葉は聞き取れなかった。でもいいか、これで僕は少し猶予が出来た。小湊とも祖母ともこれからのことを話し合わなければだめだ。
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2020/12月某日
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お読みいただきありがとうございました。
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