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日本編
25、バース検査
しおりを挟むふと目が覚めると、そこは消毒液の香りのする明るい部屋だった。
「大丈夫かな? 今は点滴しているけど、ここどこだかわかりますか?」
「い、わみね、せんせぃ?」
彼は、陸斗の主治医の岩峰先生だ。僕は、いったい?
「そう、ここは陸斗君の入院している病院だよ。まだ呂律回らないね、海斗君はアルファに襲われてここに運ばれてきた。西条さんという方が、君のうなじの噛み跡を見て、慌ててうちのバース科に連れてきたんだよ」
そうだった、司に助けられて、頭が酷く痛くて意識が途絶えた。司は僕のうなじをみて、あの男に噛まれたと思ったのかもしれない。
「あっ、これは」
「この噛み跡は、こないだの恋人……だよね?」
「は、い」
先生は僕の脈を測りながら、話を続けた。
「君はベータだったと陸斗君から聞いていたんだけど、合っている? あっ、声出しづらかったら無理しないで」
そう言って、僕に水を渡してくれた。それを飲んで落ち着くと、僕は答えた。
「大丈夫です。僕はベータですよ」
「そうだよね、まだ頭痛ある? 吐き気は?」
「さっきよりは落ち着いたけど、まだ多少は」
「そうか。この点滴に痛み止めと吐き気止めが入っているけど、あまり効いてないみたいだね」
そうなのだ。気を失うほどの頭痛は消えても、まだ全然スッキリしないし、正直体がだるくて仕方ない。
その時、バタバタと大きな足音が聞こえると、病室のドアが勢いよく開いた。
「海斗‼」
「る、類!」
類が入ってくると、先生の前だと言うのに思いっきり強く抱きしめられた。僕は涙が溢れて止まらなかった。
「類、類、ぼくっ」
「もう大丈夫だ、怖い思いさせてごめん、俺がついていてやれなくて、ごめん‼」
「ふっ、わぁ――ん! 類っ、ひっ、ひっ、僕、僕、怖かった、ああ――ん‼」
「海斗、もう大丈夫。もう大丈夫だからな」
ひとしきり僕は涙を出し切った。そして、それを見守ってくれていた岩峰先生が言葉を発した。
「類君だったかな? そのまま海斗君に唾液をあげて、じゃなかった。濃厚なキスをしてあげて」
「はっ!?」
「あっ、ごめん。二人のラブシーンを見たいわけじゃなくて、海斗君は今、君のフェロモンが必要なんだ。治療の一環だからね、とにかく一度キスしたら、海斗君の病状を言うから、ほら早くっ」
「わかりました」
そして、先生の前だと言うのに、いつもみたいなキスをしてきた。でも僕は今、類不足だったし、爽との感触を早く消したかったから、キスが欲しくてたまらなかった。
「ん、んんん」
「カイ、海斗っ、っふ」
「ふはっ、類っ、ちゅっ、んん」
唾液を交える濃厚なキスは多分、数分続いた。その間も僕の涙は止まらず、類は涙も全て受け入れてくれた。そしてキスを終えると、待っていましたと言わんばかりに岩峰先生が言葉を発した。
「若いって凄いな、そこまで長くなくても良かったのに」
岩峰先生は愉快そうな声でそう言った。だけど僕は恥ずかしさよりも、類が欲しかった。
「海斗君、君が気を失っている間に、君の血液を調べた。君はオメガだよ」
「「えっ‼」」
僕も類も大声を上げてしまった。
「ごめん、詳しくはオメガ要素の方がベータより強くなっている、後天的なオメガってとこかな。まだオメガというには乏しいくらいの要素だけど、この先、類君といることで確実にオメガになる日が来ると思う」
「どういうことですか?」
類が先生に聞いた。
「まずは海斗君のうなじ、それ番の証拠。そんなにはっきり跡として残るのは番契約だけ。そして今の海斗君は、アルファに襲われた後の症状が出ている、つまり番のいるオメガ特有の症状だった。番契約をしたオメガは番以外の体液が体に入ると、拒絶反応を起こすんだ。多分だけど、キスされたのかな?」
「……はい」
類が辛い顔をしたけれど、先生は話を続けた。
「あとお尻も見せてもらったけど、最後までされてないから安心して。ちなみに性交渉の場合もっと酷い症状出るからね。ただ唾液だと思うけどアルファの成分が検出されたから、消毒すると赤みが引いて、口内も消毒したら少し症状が改善された。だから番以外の体液に対するアレルギー反応だと思う」
「し……尻を舐められたのか!? 尻は何された?」
「そこに反応!? 海斗君、されたこと言える? 辛かったら無理に言わなくてもいいよ」
類に知られるのは怖い。
「海斗、言って。何があっても、たとえあいつに凌辱されていたとしても、俺の海斗を愛する気持ちは何も変わらない」
「類、僕っ、無理やりキスされて、お尻に指入れられた。その時に指を唾液で濡らしていた、だけど僕の体は類以外を、拒絶して、ただただ痛くて、たいして入らないうちに司が助けに来てくれた、ごめんなさい」
「海斗が謝ることじゃない、無事で良かった」
類が僕を抱きしめてくれた、僕はこの温もりをまた感じられることができる喜びに、胸が熱くなった。
「なるほど。じゃあ、今度は類君に質問。君、海斗君相手にラット起こしたことある?」
「あります、定期的に何回か」
「そうか、その時、ノットは? ノットわかる? ペニスが外れないようにアルファ特有のフタができることね、それで普段入らない場所まで到達したことは?」
「……ありますが」
恥ずかしい、ベータのくせにアルファのラットを起こさせて、さらにあんなとこまで到達したことを悟られた。さすがバース専門医、僕が潮吹きしたのもバレているのだろうか。
「多分、もともと海斗君はオメガ要素があったんだと思うけど、今まではベータ要素の方が強くて、初めてのバース検査はベータだったんだと思う。類君と結ばれて海斗君の体が類君へと開いた、そして類君の海斗君を想う気持ちが極限まできたんだろう。ビッチングと言ってね、これはあまり知られていないし、危険な行為だからそもそも推奨していないし、成功例はあまりに少ないんだ。強すぎるアルファの思いが、相手を番にするためにオメガに変えてしまう事例がある。今回はそれで海斗君がオメガへ変わろうとしている。きっと海斗君も本能で、彼の子供が欲しいとかそういう気持ちもあったんだと思うけど、これは誰もが起こることじゃないんだ」
「へっ?」
「このままベータでいたいなら、二人は別れるべきだ。この先、類君といたら君は確実にオメガになると思う」
今なんて言った? 別れる……そんなこと。
「別れません、俺は海斗のバースなんて本来なんだっていいと思っています」
「即答! まあそうだろうね。でも決めるのは君じゃない。これから先オメガになって発情期を経験するのも、仕事に影響が出るのも、そして番のフェロモンによって乱されるのも、経験するのは全て海斗君だ」
類が悔しそうな顔をした。僕はもう類にそんな顔をさせないと誓ったのに、また僕のことで類が苦悩する。僕の答えなんて決まっているのに、きっと岩峰先生もわかっているはずだ。
「海斗、ごめん。確かに番がいてもオメガは発情期がある。俺が変わってやれることではない、だけど、それでも俺は海斗と離れるなんて嫌だ。海斗が辛くないように、海斗を一番に考えるし発情期も離さない、お願いだ、別れるなんて言わないで……」
「僕、そんなに信用ない?」
「え」
答えなんか一つしかない。それでも僕にすがる類がたまらなく愛おしい。
「僕の方こそ類がいない生活なんて考えられない。類がそうさせたんだよ? 責任とってよ、旦那様? 新婚だよ、別れ話するに早すぎるでしょ」
「海斗‼ ううん、早過ぎというか、今後そんな話をする日は来ない。愛している海斗」
「僕も愛している。じゃあ、別れ話はこの一回で終わりだよ? 絶対別れてあげないんだから」
「うん」
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