運命を知りたくないベータ

riiko

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日本編

3、日本

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 僕は職場に事情を話して、しばらくお休みをもらった。類とはまだ今後のビジョンをしっかり話したわけではないけれど、結婚式は日本で友人に囲まれて僕を自慢したいと言われた。類の友達の西条さいじょうという、日本のホテル王の名を持つ西条家の御曹司が、そこのホテルを使えとまで言ってくれているから、結婚式は日本と決まった。

 類はまだこっちで大学に通っているし、そんなにすぐどうにか何かを変える必要もない。僕たちの愛だけは変わらないなら入籍してから、今後自分たちはどうしていくかを考えようってことになった。

 僕がモデルに打ち込んでいるのも類は知っているし、そこを尊重してくれる。僕がイギリスを離れたくないなら自分はイギリスで仕事を見つけるし、僕が日本に帰りたいなら日本で仕事をすると。僕中心に類は回っているらしい。

 そして久しぶりの日本に足を踏み入れた。

 日本に着いたその足で、まずは滞在先のホテルに到着すると僕と類はシャワーを浴びた。もちろん一緒に。長時間のフライトで疲れたから、一緒に湯船に入って疲れを癒してからルームサービスで食事を済ませて、愛し合ってその日は体を交えることで心地いい疲れのもと、眠りに入った。

 翌朝は、なんとか二人ともスッキリと目覚めることができて朝食を済ませてから街に出た。両家へのお土産はイギリスで仕入れたので、ふたりで日本の若者らしくデートをしてみた。

 ここではあまり顔を知られていないし、黒髪に黒目は目立たないから僕が有名人ということを忘れて過ごすことができた、しかし中には気が付く人もいるらしく、遠目で見られたり、というか類がかっこよすぎるから見られただけかもしれないけれども、それでも類も僕を隠すつもりもなく、堂々イギリス同様楽しくデートをしていた。

 お互いに久しぶりの日本ということで、今回は長期のバカンスにした。

 類が日本に来るきっかけになった、結婚式自体は一週間後だったけれど、それまでに両家に挨拶、それと東京を二人で楽しむ。そして結婚式の後は国内を旅行する手筈を整えていた。日本にいても、ほとんどを高校時代寮で過ごしていたから、実際旅行とかあまり経験ないと言ったら、類が僕をあらゆるところに連れまわしたいと言い出した。

 そんな感じで、かなりの時間を日本で過ごしてからイギリスに帰ることになった。


 ***

 その夜はホテルでディナーをしていた。僕がデザートの前にと、トイレに席を立って個室に戻るところの部屋の前で、まさかこの世で、一番会いたくない人物と遭遇してしまった。

「海斗‼」
「えっ…… そう?」

 僕は固まった。そして爽が動き出し、僕の手を取ろうとした瞬間に部屋のドアが開き、類が出てきた。類がかばう様に僕を抱きしめて低い声を発した。
 
「お前、誰だ」

 類、警戒している。

「サクラジュエリーの御曹司か。海斗と付き合っているっていう噂の……」
「……俺のフィアンセの名前を軽々しく口にするな」
「フィアンセ? お前アルファだろ、こいつはベータだ」

 類が近くにいたスタッフに目配せすると、類に突っかかる男、僕の元フィアンセだった爽に、スタッフが耳もとで声をかけて別室へと連れていかれた。

「海斗、あれはもしかして、昔の男?」
「……うん。驚いた、こんなところで偶然会うなんて」
「偶然かな? ちょっと、あの男と話をつけてくるから、ここの個室で待っていてね」

 僕に優しく微笑みかけて、何事もないかのような顔でそう言って、僕のこめかみにキスをする。話をつけるってなに? そもそも何も話すことない。

「待って、僕たちは終わっているから何も話すことないし、類が関わる必要もない、ただ知り合いだから声をかけてきただけじゃないかな」
「それこそおかしいでしょ。あんなことして謝罪もなく、また海斗に声をかけるなんて」

 僕は類の手を取ってとめた、でも類の言うことも正しい、確かにおかしい。

「待って、僕も行く」
「海斗? 昔知り合いだからって、俺がいる今、もうあんな男と同じ空気も吸わせるのも許さないよ」

 ゾクってした。類が僕に独占欲をだしている? でも過去のことで別に隠していることもないけれど、僕の黒歴史をこれ以上類に知られたくない。

「類が話をして? 僕は一言も話さない。だったらダメ?」
「どうして? 俺に任せてくれないの?」
「任せるから、だから類と手を繋いできちんと過去のあの人を清算したい、ううん、もう精算はしているけど、僕たちはなんの会話もないまま弟の発情期で自然消滅になっただけだから、いい機会だからこれで終わりって言葉を締めくくりたい」
「……わかった」

 食事は既に終わっていたので、席を立ってレストランのスタッフに導かれるまま個室に入った。

 そこには、むかし愛した人がいた。そして会うなり、熱情を込めた目を僕に送ってきた。僕は寒気がして、思わず類の後ろに隠れた。

「海斗、お前ますます綺麗になったな、会いたかった。今までどうしていたんだ? いやモデルになったんだな。お前をメディアで知って俺、すげえ驚いた」

 僕たちには五年のブランクがあるのに、爽がまるで僕たちには何もなかったかのように、普通のノリで話しかけてきた。吐き気がした。僕は何も言わず類の手をぎゅっと握ったら、類が言葉を発した。

「初めまして。ご存じのようでしたが、俺は海斗の婚約者です。あなたは海斗を過去捨てたアルファで間違いありませんよね?」
「……どけよ、俺は海斗に話しかけている」
「お前にそんな資格あると思うな、お前は海斗の弟を目の前でつがいにしたんだろ? お前と海斗は終わっている」

 爽は悔しそうな顔をした。

「俺たちは終わっていない」
「えっ!?」
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