32 / 63
日本編
3、日本
しおりを挟む僕は職場に事情を話して、しばらくお休みをもらった。類とはまだ今後のビジョンをしっかり話したわけではないけれど、結婚式は日本で友人に囲まれて僕を自慢したいと言われた。類の友達の西条という、日本のホテル王の名を持つ西条家の御曹司が、そこのホテルを使えとまで言ってくれているから、結婚式は日本と決まった。
類はまだこっちで大学に通っているし、そんなにすぐどうにか何かを変える必要もない。僕たちの愛だけは変わらないなら入籍してから、今後自分たちはどうしていくかを考えようってことになった。
僕がモデルに打ち込んでいるのも類は知っているし、そこを尊重してくれる。僕がイギリスを離れたくないなら自分はイギリスで仕事を見つけるし、僕が日本に帰りたいなら日本で仕事をすると。僕中心に類は回っているらしい。
そして久しぶりの日本に足を踏み入れた。
日本に着いたその足で、まずは滞在先のホテルに到着すると僕と類はシャワーを浴びた。もちろん一緒に。長時間のフライトで疲れたから、一緒に湯船に入って疲れを癒してからルームサービスで食事を済ませて、愛し合ってその日は体を交えることで心地いい疲れのもと、眠りに入った。
翌朝は、なんとか二人ともスッキリと目覚めることができて朝食を済ませてから街に出た。両家へのお土産はイギリスで仕入れたので、ふたりで日本の若者らしくデートをしてみた。
ここではあまり顔を知られていないし、黒髪に黒目は目立たないから僕が有名人ということを忘れて過ごすことができた、しかし中には気が付く人もいるらしく、遠目で見られたり、というか類がかっこよすぎるから見られただけかもしれないけれども、それでも類も僕を隠すつもりもなく、堂々イギリス同様楽しくデートをしていた。
お互いに久しぶりの日本ということで、今回は長期のバカンスにした。
類が日本に来るきっかけになった、結婚式自体は一週間後だったけれど、それまでに両家に挨拶、それと東京を二人で楽しむ。そして結婚式の後は国内を旅行する手筈を整えていた。日本にいても、ほとんどを高校時代寮で過ごしていたから、実際旅行とかあまり経験ないと言ったら、類が僕をあらゆるところに連れまわしたいと言い出した。
そんな感じで、かなりの時間を日本で過ごしてからイギリスに帰ることになった。
***
その夜はホテルでディナーをしていた。僕がデザートの前にと、トイレに席を立って個室に戻るところの部屋の前で、まさかこの世で、一番会いたくない人物と遭遇してしまった。
「海斗‼」
「えっ…… 爽?」
僕は固まった。そして爽が動き出し、僕の手を取ろうとした瞬間に部屋のドアが開き、類が出てきた。類がかばう様に僕を抱きしめて低い声を発した。
「お前、誰だ」
類、警戒している。
「サクラジュエリーの御曹司か。海斗と付き合っているっていう噂の……」
「……俺のフィアンセの名前を軽々しく口にするな」
「フィアンセ? お前アルファだろ、こいつはベータだ」
類が近くにいたスタッフに目配せすると、類に突っかかる男、僕の元フィアンセだった爽に、スタッフが耳もとで声をかけて別室へと連れていかれた。
「海斗、あれはもしかして、昔の男?」
「……うん。驚いた、こんなところで偶然会うなんて」
「偶然かな? ちょっと、あの男と話をつけてくるから、ここの個室で待っていてね」
僕に優しく微笑みかけて、何事もないかのような顔でそう言って、僕のこめかみにキスをする。話をつけるってなに? そもそも何も話すことない。
「待って、僕たちは終わっているから何も話すことないし、類が関わる必要もない、ただ知り合いだから声をかけてきただけじゃないかな」
「それこそおかしいでしょ。あんなことして謝罪もなく、また海斗に声をかけるなんて」
僕は類の手を取ってとめた、でも類の言うことも正しい、確かにおかしい。
「待って、僕も行く」
「海斗? 昔知り合いだからって、俺がいる今、もうあんな男と同じ空気も吸わせるのも許さないよ」
ゾクってした。類が僕に独占欲をだしている? でも過去のことで別に隠していることもないけれど、僕の黒歴史をこれ以上類に知られたくない。
「類が話をして? 僕は一言も話さない。だったらダメ?」
「どうして? 俺に任せてくれないの?」
「任せるから、だから類と手を繋いできちんと過去のあの人を清算したい、ううん、もう精算はしているけど、僕たちはなんの会話もないまま弟の発情期で自然消滅になっただけだから、いい機会だからこれで終わりって言葉を締めくくりたい」
「……わかった」
食事は既に終わっていたので、席を立ってレストランのスタッフに導かれるまま個室に入った。
そこには、むかし愛した人がいた。そして会うなり、熱情を込めた目を僕に送ってきた。僕は寒気がして、思わず類の後ろに隠れた。
「海斗、お前ますます綺麗になったな、会いたかった。今までどうしていたんだ? いやモデルになったんだな。お前をメディアで知って俺、すげえ驚いた」
僕たちには五年のブランクがあるのに、爽がまるで僕たちには何もなかったかのように、普通のノリで話しかけてきた。吐き気がした。僕は何も言わず類の手をぎゅっと握ったら、類が言葉を発した。
「初めまして。ご存じのようでしたが、俺は海斗の婚約者です。あなたは海斗を過去捨てたアルファで間違いありませんよね?」
「……どけよ、俺は海斗に話しかけている」
「お前にそんな資格あると思うな、お前は海斗の弟を目の前で番にしたんだろ? お前と海斗は終わっている」
爽は悔しそうな顔をした。
「俺たちは終わっていない」
「えっ!?」
40
お気に入りに追加
910
あなたにおすすめの小説
落第騎士の拾い物
深山恐竜
BL
「オメガでございます」
ひと月前、セレガは医者から第三の性別を告知された。将来は勇猛な騎士になることを夢見ていたセレガは、この診断に絶望した。
セレガは絶望の末に”ドラゴンの巣”へ向かう。そこで彼は騎士見習いとして最期の戦いをするつもりであった。しかし、巣にはドラゴンに育てられたという男がいた。男は純粋で、無垢で、彼と交流するうちに、セレガは未来への希望を取り戻す。
ところがある日、発情したセレガは男と関係を持ってしまって……?
オメガバースの設定をお借りしています。
ムーンライトノベルズにも掲載中
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
花婿候補は冴えないαでした
一
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
秋風の色
梅川 ノン
BL
兄彰久は、長年の思いを成就させて蒼と結ばれた。
しかし、蒼に思いを抱いていたのは尚久も同じであった。叶わなかった蒼への想い。その空虚な心を抱いたまま尚久は帰国する。
渡米から九年、蒼の結婚から四年半が過ぎていた。外科医として、兄に負けない技術を身に着けての帰国だった。
帰国した尚久は、二人目の患者として尚希と出会う。尚希は十五歳のベータの少年。
どこか寂しげで、おとなしい尚希のことが気にかかり、尚久はプライベートでも会うようになる。
初めは恋ではなかったが……
エリートアルファと、平凡なベータの恋。攻めが十二歳年上のオメガバースです。
「春風の香」の攻め彰久の弟尚久の恋の物語になります。「春風の香」の外伝になります。単独でも読めますが、「春風の香」を読んでいただくと、より楽しんでもらえるのではと思います。
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
お世話したいαしか勝たん!
沙耶
BL
神崎斗真はオメガである。総合病院でオメガ科の医師として働くうちに、ヒートが悪化。次のヒートは抑制剤無しで迎えなさいと言われてしまった。
悩んでいるときに相談に乗ってくれたα、立花優翔が、「俺と一緒にヒートを過ごさない?」と言ってくれた…?
優しい彼に乗せられて一緒に過ごすことになったけど、彼はΩをお世話したい系αだった?!
※完結設定にしていますが、番外編を突如として投稿することがございます。ご了承ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる