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3話

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 気づけば朝になっていた。むくりと起き上がり机に知らない本が置いてあるのに気づいた。「男同士の恋愛ハウツー……」ってなんでこんなBL本が俺の机の上に置いてあるんだ?また母さんか……パラパラとめくるとそこには男同士の致し方のハウツーが挿絵付で載っていた。な、なんだこの猥褻エロ本は!準備から本番まで詳しくかいてあり余りの卑猥さに思わずブン投げてしまった。

 わなわなと手を握り落ち着くために息をふぅぅぅっと吐き、スマホをズボンのポケットに入れた。遮光カーテンを開け外を眺めると辺りはまだ暗く朝というには早い時間のようだ音を立てないように玄関まで行くと劉生の靴がなくなっていた。自宅に帰ったのかな?キャリーバッグは置いてあるし両親はまだ寝ているみたいだ。
 
 そっと家から出ると隣りの公園の雲梯に寝転がる。暗闇に浮かぶ銀色の月が太陽が昇りうっすら白く陰っていく様子と雲が流れていく様を無心で眺める。まだ鳥も寝ているのかとても静かだ。

 いつも考え事をするときや悩みがあるときはこの雲梯に寝転がっていた。落ちたら危ないけど、ここが一番落ち着くし気持ちがとても良い。空を眺め風を感じながら昨夜の出来事を思い浮かべる。
 
 すっごく濃い一日だった……自慰なんてそりゃ右手が恋人な感じでやったことはあるものの他人から与えられる刺激があれほどまでに強烈だとは知りもしなかったしそれに自分以外の他人のモノを触るなんてことも初めてのことだ。自分の掌を眺め無意識に指を曲げて形作る。
 
 あいつのデカかったな……

 それに気持ち良すぎて頭がおかしくなりそうだった。それにまさかの衝撃的事実、あの劉生が俺の事を好きだ、愛してると言った。

 あいつとは小さい頃からいつも一緒で隣りにいてくれて一番仲の良い友達で親友だと思っていたからまさかあんなふうに想ってくれていたなんても知らなかった。
 俺は劉生の言葉になんて返してあげたらいいのだろう?好きだと言われてどうだった?嫌じゃなかったしどちらかというと嬉しかったように思う。普通は男に言われたら嫌悪感が湧くのが当たり前なのにそれもなかった。


『俺はお前が好きだ……』

『好きになれ』

 言葉を反芻して脳内を流れる。かぁぁっと頬が熱くなるのを感じ自分の頬をペチペチ叩く。何を、思い出してるんだ俺は!乙女か!!あの告白を受けて俺はあいつの事をどう思ってる?嫌いじゃないのなら好き?

「俺は、劉生の事が好きなのか?」

 うわ!口に出してみると超恥ずかしい!だけどしっくりくる。脳内にずっとあいつの顔と声が流れていてそれだけでとても堪らなくなる。あーーもう!と頭をくしゃくしゃとする。

 ぐだぐだしてても仕方ない、さっきからあいつの事ばかり考えてしまうし認めるしかないじゃないか!その時、尻ポケットに入っていたスマホから音楽がなりだした。設定していたアラームだと思いだしスヌーズ設定を消して再度ポケットに仕舞う。そろそろ母さん達起こさないと!電車乗り遅れるとか洒落にならない。

 雲梯の上に立ち上がり飛び降りようとしたとき、家の前に劉生の姿を見つけてしまった。しかもこっち見て--げっ、近づいてきた……気恥ずかしすぎてあいつの顔を今は見たくはない。

 回れ右して雲梯を飛び降り、一歩踏み出した瞬間、後ろから抱きしめられた。いつの間にこんな近くに?はやくねーか?

「よ、よう、りゅーせー……おはよ」

「天斗ー逃げようとするなんてつれないなー」

「そりゃ、逃げるだろ!つーか離せ!」

 早朝とはいえ散歩で人が通る公園だ、ご近所さんに見られる可能性が有る事を考え、そっと前に回されてる腕を外しゆっくりと振り返ってニッコリと微笑む。

「そろそろ母さん達、起こさないと怒られそうなんだけど?」

 笑顔でそう言うとコクコクと頷いてくれたので横をすり抜け家へと向かって歩き出すと数秒遅れて劉生が後ろをついてきた。昔からの奥の手で笑うと一瞬固まるんだよなコイツ、チョロイぜ!

 玄関のドアを開けると父さんが立っており姿見で自分の姿をチェックしていた。

「おかえり~、僕達そろそろ行ってくるよー」

 そして近寄ってきたと思ったら俺を見てギョッとしたような顔をして後ろの劉生を軽く睨むとフフリと笑いながら俺の首あたりを指さす。

「首に付いてるよ~キスマーク……かな?」

「え?」

 その一言に慌てて靴を脱ぎ姿見に首を晒し見てみると、くっきりと首筋に所有痕が!

 うわ!なんだこれ!初めて見た……。これがキスマークかとじぃっと食い入るように見てソコに手を触れる。やばい嬉しいかも、どうしよう。

 頬を染めて鏡を見ていたらニヤニヤ笑ってる劉生とニコニコ笑ってる父さんと鏡越しに目が合った。

 うわ、見られてた……掌で痕を隠すと目を逸らす。なんで二人して笑ってるんだよ!

「たかちゃん、そこどいてぇ……って何やってんの?――ふーん、なるほどねぇ」

 何が「なるほどねぇ」なのか分からないがじっと俺と劉生の顔を見て満足そうな満面の笑みを浮かべると両肩をぽんぽんと叩いてきた。母さんの笑顔は絶対裏がありそうでとても胡散臭い。さっきの本の事も思い出し恨みがましく睨む。

 母さんは姿見で軽く身支度をすると靴を履いて劉生の傍に寄ると腕を軽く叩きしゃがめと促し耳元で何かしら囁いていた。そして父さんの腕を掴んだ。

「じゃぁ、私達は行ってくるわね。りゅうちゃん、帰ってくるまで居てくれていいから、後で報告おねがいね。」

 何を言った?劉生とずっと一緒?そして報告ってなんだよ!

「天斗君、僕は何もしてあげられないけどがんばってね~そうだ!あの本が役立つといいけど……」

 本って、まさかあの公然猥褻ハウツーエロ本って母さんのじゃなく父さんのかよ!ヤダこの両親!

「分かりました。天斗の事は俺に任せてゆっくり楽しんできてください」

 何で俺が劉生に任せられないといけないんだ――!ゆっくりじゃなくていいからさっさと帰って来い!

 三人の発言に心の中でツッコミをして項垂れる。

「イッテラッシャ、イ」

 なんかこの三人嫌だ―……絶対、俺の知らない裏でなんか取引してそうだ!両親は手を振り家を後にした。
 
 そして残されるは俺達二人…もう本当に嫌な予感しかしないんだけど?

「た・か・と……二人きりだな。今日から楽しみだ。」

「ソーデスネェ……はぁ」

 何が楽しみなのかわかりませんがその嬉しそうな笑顔やめてください。イケメンの超絶笑顔とか眼の毒すぎる!

 今、この家は危険地帯だ!どこか心休まるところはないものだろうか。自分の気持ちを自覚したばかりでのこの状況とか心臓に悪い。

 顔を見ないようにキッチンに向かうとコーヒーサーバーをセットしリビングのソファに深く腰掛けるとその横に劉生も座る。

「なぁ、昨夜の返事聞いてもいいか?」

「へ?返事って?ナンノコトデショウ?」

「お前!まぁいい……時間はたっぷりとあることだゆっくりと好きにならせてやるよ。先ずは毎日新聞お前にアイシテルと囁いてやる。」

「な!?やめてくれ……おま、自分の声の破壊力しってるのか?」

 ニヤリと笑って耳元で「愛してる天斗」と囁いてきた。これはもう理解してるなこいつ!べしっと顔を掌て叩き顔を引きはがす。間違いなく俺の顔は赤くなっているだろうけどふぅと息は吐いて心を落ち着かせ表情を隠す。
 
 そう簡単に『俺も好きだ』と言ってやるもんかと反抗心が湧く。

「いつ俺に堕ちてくるか楽しみだ。覚悟しておけ。」

 何か、楽しそうだしやらせておくか。俺も楽しくなってきた。愛してるとか俺得だし?

 


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