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おまけ
今はまだ、
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ヤト視点。蜜月編の少し後です。
このところのロッカは俺のことをよく気にする。厳密には、俺の身体。さらに言うならば、成人した男の身体、だ。
以前諭しはしたものの、やはり自分の身体がどう変化するのかは気にせずにはいられないようだった。
その一端に、俺がまだ彼を彼女だと思っていた頃に並べた賛美の言葉の数々があることを思うと少々心苦しい。しかしそれをおして尚ロッカが俺に触れようとしてくれることが嬉しいのだから、俺も全く、変わったものだ。
彼に心奪われてから俺の日々は変わった。心揺さぶられることの、なんと多いことか。
女というものにほとほと嫌気が差していた中に現れた、楚々とした姿に血が沸き立つが如く身を焦がし、どこにそんな語彙があったのかと思うほど溢れてくるままに愛の言葉を紡いだ。
男であると告げられ、驚き、狼狽え、それでも心は彼へと向かいたがった。
そうして心から沸き立つ想いに抗えず再び彼の元へ訪れれば、彼は日除けのヴェールを脱ぐように態度を豹変させた。しとやかな態度は消え失せ、どちらかと言うならば粗野なその姿こそが『彼』であると本人から告げられ、俺はそこでようやく『白百合』の何をも見ていなかったことに気付かされた。
相応に自己嫌悪もしたが、明け透けで、溌剌と『生』を漲らせて俺を受け入れてくれる彼の姿を見ているとどうしようもなく愛おしさが溢れた。控えめに微笑み、伏し目がちに俺の視線から逃げるようにしていた様子は切ないほど儚げで、故郷が恋しいのかと思い、それをしてやれないことを心苦しく思っていた。しかし実の所彼は俺が思う以上に強くたくましく、前向きだった。俺を見上げてくる彼の視線は真っ直ぐでよどみなく、見つめ合えることの喜びの大きさに俺は一層心惹かれた。
彼はそんな俺をからかわれるようにあの手この手で誘惑してきた。それが真なる彼の想いかを図りかねていたところに兄の来襲があり、どうにか間に合い退けた直後名交わしに至り、肌を重ねた。
彼にしてみれば演技をやめて元に戻し俺の気持ちに応えた程度だろうが、俺にしてみればこの一年と少しの間に起こった変化は嵐のようだった。今更彼の見かけが変わったところで俺の気まで変わるなどあり得ないと、如何様に変わろうと俺はきっとそれを受け入れるだろうなどと、諦めにも似た自信があるというのに。ここに来て彼の方が不安に思うなど、どれほど俺を侮るのだと怒りが湧いても咎められまい。
――……だのに、当の俺はロッカ相手では怒りよりもその心の憂いを払いたいという気持ちの方が強いのだから、もう、どうしようもないではないか。
俺の心というものは、彼を前にすると御することの方が愚かだと言わんばかりに俺の頭の先へと走ってしまうのだ。もしその手綱を上手く引ける者がいるのならば、それは俺ではなく彼で、そして彼以外にはないのだろう。
「なあ、ヤト」
俺の寝室の広々としたベッドの上で、ロッカが俺の真名を口にする。たったそれだけで胸の内から多くのものが溢れて行く。俺さえも知らなかった何かを呼び覚ますような感覚に、いつも身体が震えそうになる。これから眠ろうというのに俺の胸は落ち着かず、そうさせる彼が少し恨めしい。
「なんだ?」
努めて平静を装うも、どこまで隠せているのか怪しいものだ。ロッカは引き際を心得ている人種らしくこういう時に彼の口からからかいの言葉は出てこないため、俺はいつもこれでいいのかとまごついてしまう。俺の方が長く生きているはずだというのに、己が彼よりも随分と年下のような気がしてしまう。
当の本人は熱心に俺の肌を撫でながらその指の先に目を落としており、まるで誘われているように思えた。……俺の心は彼が思うよりずっと程度が低い。
「ヤトはさ、毛深くないよな。むしろあんまり毛がないっつーか。あ、俺は触り心地良くて好きだけどさ。体臭もなくて。俺さあ、これからどうなるか分かんねえけど、もし毛深くなったりとかしたらどうした方がいい? 剃るとか? 多分体臭の方は大丈夫だと思うんだよな。でも毛の方はなー」
蜜月の終わり頃に声が出にくくなったせいか、ロッカは変わりゆくであろう自分の身体のことが気になって仕方がないようだった。その声はと言うとさほどはっきりとした変化はなく、少し低くなったかと感じる程度で終わっている。落ち着きを感じるはずの彼の声はどこか艶めいたものを孕んでいて、俺は気が気ではないのだが。
心の内に巣食う不安を吐き出したがるように、ロッカは頻繁に似たようなことを俺に聞いてくる。この間は喉仏についてだった。その程度、俺はあったらあったで唇を寄せやすいものができて良いのではなどと不埒なことを考えるのだが、ロッカにとっては違うらしい。なんでも、色子であった頃より彼の『売り』はその少女と見まごう程の容姿であり、『男らしさ』ではなかったからなのだと。
確かに俺も彼の姿から少女なのだとばかり思っていたが、今となってはそのようなことは大事ではない。彼が少女のような姿だから男でもよしとしたのではない。彼ももうそれは分かっているはずだ。それでも、それで生計を立てて生きてきたのだ。変化を恐れ、あるいはそのことに焦りを覚えるのは致し方ないのかもしれない。
自分のことではない所為もあるが、俺は冷静に、彼の揺れる心を汲み取り、それに添おうとした。
「そこまで気にするのならばルゥに言えば根こそぎ食うだろう」
「ふうん……あ、こないだキスしてて思ったんだけど、ヤトって顎とかすべすべだけど髭も生えねえの? ルゥに任せてる?」
「さあな。特に指示はしていないが、あいつのことだ、分からぬ。そも、俺も龍の血を引いている以上は物の怪だからな。元よりないのかもしれぬ」
「ずりい」
「女ならまだしも、そなたは男だろう。気にすることでもあるまい」
なだめても彼の気は収まらないようだった。ただ、僅かにでも過ぎる不安を心に留めておきたくないのだろう。
彼が気にしていることは俺にも彼にも手が出せないことだ。そんなことに囚われて彼の気が鬱々としてしまわぬよう、俺はまだ細く小さな身体を抱き寄せた。するとロッカは無言で俺の胸に頬を寄せ、小さな動物のように擦りつけてきた。……以前俺が他愛のない野花を贈った際に、羽織っていた衣類に匂いが移り、その香りを好ましいと言って彼から近づいてきてくれたことがあった。わざわざその花から作らせた香油を身につける習慣も、彼のそんな行動によるところから。ロッカからそっと身を寄せてくれるこの瞬間がとても愛おしくて、楽しみで仕方がないのだ。そのまま彼を求めたくなるほどに。
全く兄を馬鹿にできないほどの短絡さだが、自嘲よりも喜びと幸福で満たされるのだから後悔はしまい。
「分かってるけど、さ」
言わずにはいられないのだと俺に顔を押し付けてくる彼の背を撫でて、眠りを促す。手頃な寝物語などは知らないが、腕の中に収まる温もりに、俺も胸の内を少しばかり吐き出すことにした。
「そなたは変わることよりも変わらぬことを恐れた方がよい。そのまま成長すれば、そなたは大人の色香を纏い、今以上に多くの者を魅了するだろう。物の怪の中にも見目良い人間を好む者は多い。なれば、ここへ閉じ込め、誰の目にも触れさせたくなくなってしまうやも知れぬ。俺だけがそなたの声を聞き、姿を愛で、時には淫らに鳴かせ、味わえればよいと」
なまじそれができる立場なのだ、俺という者は。たとえ日の下で笑う彼をこそ好いていようと、恋や情欲、それらにまつわる多くの感情を知った今となっては、呪いのように彼を縛り閉じ込めることも厭わないだろう。立場と力をここぞとばかりに振り乱すだろう。これはなにもこれからそうなるかもしれない、などではなく、いつそうなってもおかしくなどない話だ。
仮定にしても趣味の悪いそんな俺の言葉を、ロッカは笑って一蹴した。俺を馬鹿にしたわけではない。ただ、ころころと楽しそうに笑った。
「ヤトは優しいから、思ったとしても絶対しねえよ」
それは自信ではなく、俺への信頼に満ち満ちていた。移ろいゆくかもしれない『想い』や身体を不安に思っても、彼が俺へ向ける信頼はその心にしっかりと根付いている。
そのことが面映く、俺は胸の中からこちらを見上げてくる彼から目をそらせなかった。蒼い瞳は真っ直ぐに俺を射抜き、先ほどまで不安がっていたことが嘘のように力強い。
魅入られていると、ロッカの双眸が細められ、いたずらを企む幼子のそれに変わった。
「でも、ヤトにどろどろのぐちゃぐちゃに抱かれるっていうのは、悪くないかな」
しなやかな肢体、低く落ち着いた声。艶のある唇、誘う瞳。頭の中、己で冗談交じりに吐露した笑えない想像から、美しく成長した彼が動き出す。
今はまだ、小さな彼の身体が、加減を間違えるなと俺に言い聞かせてくれている。しかし声の変化でさえ徐々に彼を求める勢いが増してしまうというのに、身体さえ美しいままであったら、俺はいよいよ全力で彼を貪る獣に成り果ててしまうかもしれない。それに関しては自信はなかった。
こんな風に俺を試すようなからかい方をする『彼らしさ』は、どんなに時が流れても早々には変わるまい。そして俺は、彼に誘われれば理性など容易に彼方へ投げ打ってしまうのだ。奥の奥まで、彼の中へと己を刻み込もうと求めてしまう。血が騒ぐ。
「……では、是非ともいつか、そなたの期待に応えねばならんな」
俺の失笑は合わさった唇の中に消え失せ、指通りのいい彼の髪を梳くように頭を撫でると、腕の中で彼が花咲くように小さく笑った。
このところのロッカは俺のことをよく気にする。厳密には、俺の身体。さらに言うならば、成人した男の身体、だ。
以前諭しはしたものの、やはり自分の身体がどう変化するのかは気にせずにはいられないようだった。
その一端に、俺がまだ彼を彼女だと思っていた頃に並べた賛美の言葉の数々があることを思うと少々心苦しい。しかしそれをおして尚ロッカが俺に触れようとしてくれることが嬉しいのだから、俺も全く、変わったものだ。
彼に心奪われてから俺の日々は変わった。心揺さぶられることの、なんと多いことか。
女というものにほとほと嫌気が差していた中に現れた、楚々とした姿に血が沸き立つが如く身を焦がし、どこにそんな語彙があったのかと思うほど溢れてくるままに愛の言葉を紡いだ。
男であると告げられ、驚き、狼狽え、それでも心は彼へと向かいたがった。
そうして心から沸き立つ想いに抗えず再び彼の元へ訪れれば、彼は日除けのヴェールを脱ぐように態度を豹変させた。しとやかな態度は消え失せ、どちらかと言うならば粗野なその姿こそが『彼』であると本人から告げられ、俺はそこでようやく『白百合』の何をも見ていなかったことに気付かされた。
相応に自己嫌悪もしたが、明け透けで、溌剌と『生』を漲らせて俺を受け入れてくれる彼の姿を見ているとどうしようもなく愛おしさが溢れた。控えめに微笑み、伏し目がちに俺の視線から逃げるようにしていた様子は切ないほど儚げで、故郷が恋しいのかと思い、それをしてやれないことを心苦しく思っていた。しかし実の所彼は俺が思う以上に強くたくましく、前向きだった。俺を見上げてくる彼の視線は真っ直ぐでよどみなく、見つめ合えることの喜びの大きさに俺は一層心惹かれた。
彼はそんな俺をからかわれるようにあの手この手で誘惑してきた。それが真なる彼の想いかを図りかねていたところに兄の来襲があり、どうにか間に合い退けた直後名交わしに至り、肌を重ねた。
彼にしてみれば演技をやめて元に戻し俺の気持ちに応えた程度だろうが、俺にしてみればこの一年と少しの間に起こった変化は嵐のようだった。今更彼の見かけが変わったところで俺の気まで変わるなどあり得ないと、如何様に変わろうと俺はきっとそれを受け入れるだろうなどと、諦めにも似た自信があるというのに。ここに来て彼の方が不安に思うなど、どれほど俺を侮るのだと怒りが湧いても咎められまい。
――……だのに、当の俺はロッカ相手では怒りよりもその心の憂いを払いたいという気持ちの方が強いのだから、もう、どうしようもないではないか。
俺の心というものは、彼を前にすると御することの方が愚かだと言わんばかりに俺の頭の先へと走ってしまうのだ。もしその手綱を上手く引ける者がいるのならば、それは俺ではなく彼で、そして彼以外にはないのだろう。
「なあ、ヤト」
俺の寝室の広々としたベッドの上で、ロッカが俺の真名を口にする。たったそれだけで胸の内から多くのものが溢れて行く。俺さえも知らなかった何かを呼び覚ますような感覚に、いつも身体が震えそうになる。これから眠ろうというのに俺の胸は落ち着かず、そうさせる彼が少し恨めしい。
「なんだ?」
努めて平静を装うも、どこまで隠せているのか怪しいものだ。ロッカは引き際を心得ている人種らしくこういう時に彼の口からからかいの言葉は出てこないため、俺はいつもこれでいいのかとまごついてしまう。俺の方が長く生きているはずだというのに、己が彼よりも随分と年下のような気がしてしまう。
当の本人は熱心に俺の肌を撫でながらその指の先に目を落としており、まるで誘われているように思えた。……俺の心は彼が思うよりずっと程度が低い。
「ヤトはさ、毛深くないよな。むしろあんまり毛がないっつーか。あ、俺は触り心地良くて好きだけどさ。体臭もなくて。俺さあ、これからどうなるか分かんねえけど、もし毛深くなったりとかしたらどうした方がいい? 剃るとか? 多分体臭の方は大丈夫だと思うんだよな。でも毛の方はなー」
蜜月の終わり頃に声が出にくくなったせいか、ロッカは変わりゆくであろう自分の身体のことが気になって仕方がないようだった。その声はと言うとさほどはっきりとした変化はなく、少し低くなったかと感じる程度で終わっている。落ち着きを感じるはずの彼の声はどこか艶めいたものを孕んでいて、俺は気が気ではないのだが。
心の内に巣食う不安を吐き出したがるように、ロッカは頻繁に似たようなことを俺に聞いてくる。この間は喉仏についてだった。その程度、俺はあったらあったで唇を寄せやすいものができて良いのではなどと不埒なことを考えるのだが、ロッカにとっては違うらしい。なんでも、色子であった頃より彼の『売り』はその少女と見まごう程の容姿であり、『男らしさ』ではなかったからなのだと。
確かに俺も彼の姿から少女なのだとばかり思っていたが、今となってはそのようなことは大事ではない。彼が少女のような姿だから男でもよしとしたのではない。彼ももうそれは分かっているはずだ。それでも、それで生計を立てて生きてきたのだ。変化を恐れ、あるいはそのことに焦りを覚えるのは致し方ないのかもしれない。
自分のことではない所為もあるが、俺は冷静に、彼の揺れる心を汲み取り、それに添おうとした。
「そこまで気にするのならばルゥに言えば根こそぎ食うだろう」
「ふうん……あ、こないだキスしてて思ったんだけど、ヤトって顎とかすべすべだけど髭も生えねえの? ルゥに任せてる?」
「さあな。特に指示はしていないが、あいつのことだ、分からぬ。そも、俺も龍の血を引いている以上は物の怪だからな。元よりないのかもしれぬ」
「ずりい」
「女ならまだしも、そなたは男だろう。気にすることでもあるまい」
なだめても彼の気は収まらないようだった。ただ、僅かにでも過ぎる不安を心に留めておきたくないのだろう。
彼が気にしていることは俺にも彼にも手が出せないことだ。そんなことに囚われて彼の気が鬱々としてしまわぬよう、俺はまだ細く小さな身体を抱き寄せた。するとロッカは無言で俺の胸に頬を寄せ、小さな動物のように擦りつけてきた。……以前俺が他愛のない野花を贈った際に、羽織っていた衣類に匂いが移り、その香りを好ましいと言って彼から近づいてきてくれたことがあった。わざわざその花から作らせた香油を身につける習慣も、彼のそんな行動によるところから。ロッカからそっと身を寄せてくれるこの瞬間がとても愛おしくて、楽しみで仕方がないのだ。そのまま彼を求めたくなるほどに。
全く兄を馬鹿にできないほどの短絡さだが、自嘲よりも喜びと幸福で満たされるのだから後悔はしまい。
「分かってるけど、さ」
言わずにはいられないのだと俺に顔を押し付けてくる彼の背を撫でて、眠りを促す。手頃な寝物語などは知らないが、腕の中に収まる温もりに、俺も胸の内を少しばかり吐き出すことにした。
「そなたは変わることよりも変わらぬことを恐れた方がよい。そのまま成長すれば、そなたは大人の色香を纏い、今以上に多くの者を魅了するだろう。物の怪の中にも見目良い人間を好む者は多い。なれば、ここへ閉じ込め、誰の目にも触れさせたくなくなってしまうやも知れぬ。俺だけがそなたの声を聞き、姿を愛で、時には淫らに鳴かせ、味わえればよいと」
なまじそれができる立場なのだ、俺という者は。たとえ日の下で笑う彼をこそ好いていようと、恋や情欲、それらにまつわる多くの感情を知った今となっては、呪いのように彼を縛り閉じ込めることも厭わないだろう。立場と力をここぞとばかりに振り乱すだろう。これはなにもこれからそうなるかもしれない、などではなく、いつそうなってもおかしくなどない話だ。
仮定にしても趣味の悪いそんな俺の言葉を、ロッカは笑って一蹴した。俺を馬鹿にしたわけではない。ただ、ころころと楽しそうに笑った。
「ヤトは優しいから、思ったとしても絶対しねえよ」
それは自信ではなく、俺への信頼に満ち満ちていた。移ろいゆくかもしれない『想い』や身体を不安に思っても、彼が俺へ向ける信頼はその心にしっかりと根付いている。
そのことが面映く、俺は胸の中からこちらを見上げてくる彼から目をそらせなかった。蒼い瞳は真っ直ぐに俺を射抜き、先ほどまで不安がっていたことが嘘のように力強い。
魅入られていると、ロッカの双眸が細められ、いたずらを企む幼子のそれに変わった。
「でも、ヤトにどろどろのぐちゃぐちゃに抱かれるっていうのは、悪くないかな」
しなやかな肢体、低く落ち着いた声。艶のある唇、誘う瞳。頭の中、己で冗談交じりに吐露した笑えない想像から、美しく成長した彼が動き出す。
今はまだ、小さな彼の身体が、加減を間違えるなと俺に言い聞かせてくれている。しかし声の変化でさえ徐々に彼を求める勢いが増してしまうというのに、身体さえ美しいままであったら、俺はいよいよ全力で彼を貪る獣に成り果ててしまうかもしれない。それに関しては自信はなかった。
こんな風に俺を試すようなからかい方をする『彼らしさ』は、どんなに時が流れても早々には変わるまい。そして俺は、彼に誘われれば理性など容易に彼方へ投げ打ってしまうのだ。奥の奥まで、彼の中へと己を刻み込もうと求めてしまう。血が騒ぐ。
「……では、是非ともいつか、そなたの期待に応えねばならんな」
俺の失笑は合わさった唇の中に消え失せ、指通りのいい彼の髪を梳くように頭を撫でると、腕の中で彼が花咲くように小さく笑った。
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