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おまけ

偽りの双丘

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 いつものルゥによる掃除を終えた俺は、走るというにはぎりぎり遅いスピードを保ちながらヤトの部屋へと滑り込んだ。既に日は落ちたが、ヤトの部屋は冬の満月の日よりも少し明るい。
「身体は冷えてないか?」
「へーき」
 気遣ってくれるヤトに、俺は羽織っていた厚手のストールを両手で持って小さく叩くように振った。それを見たヤトの目が細められる。薄暗い場所ではやはり月のように思える瞳。俺はその前に立って、そっとヤトの右手を掴んだ。
「今日はいいもんがあるんだ」
「いいもの?」
「そっ。……これ」
 その右掌を開かせて、自分の胸に押し当てる。薄手の寝間着は透けるような素材ではないものの手触りのいい生地で出来ていて、貫頭衣のような作りになっている。頭が入るように首元は胸のあたりまでボタンで留めるようにはなっているが、手で触れれば俺の身体の感触は直ぐに伝わり、いくら女と見紛うような外見と言えど俺が男であることは直ぐに分かるのだ。けど、今日の俺は一味違った。
「……ひっ?! っ、な、なん、」
 俺の胸に手を触れさせられたヤトは、いつもとは全く異なる感触に驚いて直ぐに引っ込めてしまった。自分の掌と俺の顔、それと、胸とを順繰りに見比べて、それからきゅっと眉間に皺を作った。……俺としては喜ぶかなと思ったんだけど、どうやらハズしちまったらしい。
「驚いた?」
 仕方がないから、本当は笑顔で言うはずだった言葉を苦笑で吐き出す。ヤトは俺の胸に触れてしまった右手をそのまま胸に当てて思い切り大きなため息をついた。
「……夢か現か、境を見失ったかと思ったぞ……」
 その声が心底疲れ切っていたから、俺は素直に謝ることにした。
 今、俺の胸の中にはルゥから貰ったルゥの一部が詰めてある。質感までこだわって、たわわで柔らかい、多分ヤトの手の大きさにぴったりとなるくらいの大きさになるようにしたものだ。それをコルセットで上手く位置を調節して、少しだけ潰した。ヤトを驚かせるために外見は普段とさほど変わらないようにしようと二人で盛り上がったんだけど、結果は見ての通り逆効果となってしまった。
「ごめん。喜ぶかなと思って」
 ネタばらしをすると、ヤトは俺を抱き寄せてもう一度深呼吸をした。そのまま二人でベッドに腰掛ける。俺はそっと胸元を開いて見せようとした。それを、ヤトに止められる。
 訝んで顔を上げると、照れたように目をそらすヤトの顔が目に入った。
「……その、そなたが男であることは重々承知しているのだが……それでも、そのように無防備に振る舞うのは控えてはくれぬか。そなたは俺の唯一なのだ。他の者ならいざ知らず……そなたも分かるだろう?」
 やることやった後でなにを、と思うも、ヤトが俺のように胸元を見せようとそこをそっと肌蹴させたら、と想像すると、それはなかなかに刺激的な画になるのではと納得してしまった。
「誘われてるかと思った?」
「……」
 指摘するとすぐさま頬を染めて言葉に詰まり、唇を引き結んだヤトの顔は可愛くて、俺はそっとそのエラに手を添え、淡く吸い付くだけのキスをした。手はそのままにして、笑いかける。
「見てくれだけなら女になったけど……分かったらもう触りたくねえ? それとも、女っぽいから嫌?」
 ヤトの手は俺の腰の横へ添えられていた。俺はヤトの視線が俺の胸へ落ちて、それから一つ息を吸って吐き、その後一度目を閉じて、最終的に何かに気付いたようにその表情が苦々しいものになるまでを眺めていた。
「……ヤト?」
 また外したか。そう思ったが、ヤトはいや、と言葉を発した。
「結局はそなたのその、胸の詰め物はそなたではなくルゥの一部なのだろう? それに対してまごつくというのも可笑しなことだと思っただけだ。それに……詰め物に触れたところでそなたの気を乱すことはないのだからな」
 それは少々空しい、と、ヤトは俺の胸のふくらみを何とも言えない表情で見下ろした。そこには何の熱もなく、失敗したかと少し残念に思う。
 だから、俺は方向を少しばかり変えることにした。
「……じゃ、直接触ってくれよ」
 胸元までの全てのボタンをはずして、そこを開く。下で詰め物を支える下着とコルセットの縁を指でなぞってヤトの瞳を導くと、俺は唇を少し尖らせてヤトへと突き出した。
 ヤトは俺の思惑通り、そこへ自分のそれを重ねてくれる。右手が背中を撫で、腰の辺りで止まった。左手は俺が誘った胸元へ忍び込んで、まず左側へと向かう。四つの指先が俺の両胸に張りついていた詰め物を掻き出していく。肌の温もりが移っていたそれが一つ離れると、胸が外気に晒された。少し心許無く、暖かなものを求めて頭を出した俺の胸の頂に、ヤトの掌が覆いかぶさった。
「ん……」
 何度も互いの唇の柔らかさを味わっている最中、やって来るそこからの甘い快感。思わず右手でヤトの左手の甲を撫でると、ヤトは指先で俺の乳首を弾いてから右側の詰め物も取り出した。ぶるん、と俺達の間で柔らかなそれが揺れる。ヤトは二つを手に取ると、そのままそれを宙へ放り投げた。
「あ」
 俺は驚いてルゥに貰ったそれに目を向けたが、直ぐにヤトの手で顔を固定され、口の中を荒らされた。
 何度も舌を吸い出されて、舌で唇や歯茎を愛撫される。時に柔らかく、硬く俺の口内を這いまわるそれに俺の熱はペニスへ集まり、快感が生まれるごとにもどかしさで太ももが震えた。足が自然に開きそうになり、それを押しとどめる。それでも直接の刺激が欲しくて、腰が僅かに触れた。俺の腰に手を添えていたヤトはそれを的確に捉えて、俺の顎を掴んでいた手は下へ伸びた。寝間着の上から円を描くように撫でまわされて嬌声が漏れる。薄目を開けると、ヤトがキスを中断して微かに笑った。
「そなたから誘ったのだから余所見などしてくれるな」
「だって、」
 言い返そうとして、そう言えば詰め物の落ちる音が一向にしないことに気付いた。知らない間に落ちたのかも知れなかったけど、ヤトは消した、とだけ。
「……ルゥは別に痛いとかはないんだったよな?」
「ああ。問題はない。これで真実、この部屋にいるのは俺達のみということだ、ロッカ」
 名前を呼ばれて、腰の辺りでゾクゾクと、掻きむしりたくなる快感が這いまわる。それは前のペニスにまで響いて、俺はたまらず鼻から声が漏れた。
「ゆえ、もう他に気を散らすな」
 そして俺の返事を待たず、ヤトは俺の口を塞いで、そのまま俺と一緒にベッドへ沈み込んだ。
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