9 / 52
成長
しおりを挟む
これ以上鑑定させる時間は与えない。短期決戦だ。全力で行く。そう思って、遺跡で得た禍々しい剣を構えたのだが、
「大丈夫だよ。ゴブリンなんて、俺の敵じゃないさ」
池崎翔に、見下すような憐憫の目を向けられた。
――壊したくなる。
顔を見ただけで血が上って殺そうかと思ったし、実際そうするつもりだった。
「あはは、親父殿だけずるいだろ。こんな強そうな敵、独占するなって」
「A、何をしている。下がっていろ……!」
俺は多少苛立ちながら吠えた。
息子のAが飛び出してきて、俺の前に立ち塞がったからだ。
「俺はこんなやつらに負ける、あんな腑抜けとは違うぞ? 血が疼くわ」
入口近くで倒れ、ピクリとも動かない見張り番の息子たちを指さしながら、嗤った。
「私たちがそんなに頼りないですか? お手を汚さずとも、父上はドンと構えて、見ているだけでいいんですよ」
「C」
「余程女にお膳立てをしてもらっていたようですね。こんなスキルレベルの低い男、我々だけで問題ありません」
「この……! 言わせておけば……!!」
「ああ、図星でした?」
あざ笑うようにCは池崎翔、ではなく女たちに杖を向け、氷の魔法を放った。氷の礫はうねりを上げて、女たちを追跡し、着弾した。
女たちはシールドを張ったようだが、1人は間に合わず、利き腕を怪我したようで悲鳴を上げた。
「な、女を狙うとは卑怯な!?」
「どう見ても、貴方より強いでしょうが、女のほうが」
「はぁ!? ふざけるな!! 俺は勇者だぞ!?」
「この程度の男を送り込むとは、浅はかですねえ。いったいどれだけの死線を潜り抜けましたか? こんな煽りで逆上するようでは、経験が足りませんね」
Cはやっぱりルシー似だな。口が悪いし腹黒で頭が回る。味方であるうちは頼もしいが、敵には回したくない男だ。
「おい、C遊ぶのも程ほどにしろ。無駄口叩いてないで、さっさと倒せよ」
「だって父上を愚弄したんですよ? 許せないじゃないですか」
「分かるけどな。そんな事は、捕縛した後でもいいだろ」
Aは力任せにバリンとシールドを薙ぎ払った。
狼狽するエルフの女の首を掴み上げると、首を絞める。ボキン、と首の骨が折れる音がして、女の腕はだらりと垂れ下がった。
「あ、やっべー。力加減ミスった。まった殺っちまったか。Cまだ治せるよな? これ?」
「どうでしょうねえ。やってみますが、期待はしないでください」
CはAとは異なり万能型の器用貧乏で突出したものはないが、回復魔法を扱える。高レベルの神官が出来るという死者蘇生とまではいかないが、ひん死ぐらいなら回復させることが出来る。だが、さすがに首の骨が折れた女は手遅れのようで「無理ですねぇ」と首を横に振った。
AとBがハートリアの息子、Cはルシーの息子で、AとBにとっては異母兄弟だ。女の腹から産まれる息子たちは、どれも可愛いが、ゴブリンゆえに寿命が短い。進化さえできれば寿命は劇的に伸びるが、レアスキル持ち以外は、経験値を吸わせても進化出来ないゴブリンが大半だ。おそらくは生態系の維持のためなのだろう。そのため、出会いと別れが毎日のようにあり、その数は膨らんでいく一方で、さすがに把握の限界を超えてきていた。
そのためルシーの提案で、わかりやすいように能力値が高い順番でアルファベット順に名付けた。際立って能力が高いのはAとB、それにCだ。そのいずれもがレアスキルを複数所有しているため、しばらくの間は、この3匹の名前に変動はないだろう。獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすという。俺に名付けて欲しければ、競争に勝ち抜き、俺の目に留まるほど強くなることだ。
Aは魂食いというレアスキル持ちで、俺と同じく魂が見えるようだ。魂を食ってたら、いきなり「俺もそれ食いたい」って言いだした時には驚いたが、食えば食うほど強くなるというぶっ壊れ性能のスキルのようだ。ただし魂によっては苦い甘いと味があるみたいで、食うまでに舐めたり匂いをかいだりしてから、食べている。そのため、偏食になりがちなのが玉に瑕だ。
Bは戦闘能力は高いが、生産系のスキルを複数持っている。手先が器用で、戦うより色々と物を作るほうが好きなようだ。洞窟の中に閉じこもって、中々外には出ようとしないためレベルが低い。
Cは暗闇の洞窟で食った魂が持っていた天眼というスキルを所有していて、目が左右で色が異なる。ルシーが手塩にかけて育てている、というか鍛えている息子だ。鞭でCを叩き始めたから何だと思ったら「練習です」と言ったので虐待かと思って眉を細めたが、どうも違うようで「強くなりたい」とCが申し出てきたらしい。「丁度良いと思ったんです。自分の身は自分で守りたいですし」その成果あってか、短期間でCは強くなったし、ルシーも産まれたての息子を「やりたいならあっちの女とやりなさい」と、つまみ出すぐらいには強くなった。
「アイシャをよくも……! なッ!? き、消えただと……!? もしや、このスキルは……! 幻惑は、一也の持っていた固有スキルだ……! どうやって手に入れた!?」
「ふふ、目ざといんですね、木偶の坊な勇者とは違って。……でも、男を見る目がないのは残念ですね。勇者とはどこまでしたんですか?」
「う、うるさい!!」
女剣士の斬撃をすべて躱しながら、Cは辛辣な言葉を投げかけた。
Cはつい最近産まれたのだが、異質な存在だ。常に俺の傍に佇み、付き従っている。戦闘能力はAに劣るかもしれないが、その頭の聡明さはゴブリンらしくなく、舌を巻く。この頃は人間にも興味を覚えたようで、女たちと会話するだけで、言葉を得とくしていた。
ただ、喋り方は、どことなく母親であるルシーに近い。
Aは人間の言葉なんて覚える気がさらさらなさそうだったのに、Cが覚えた途端に、勉強を始め、やや時間がかかったが習得した。どうやら後から産まれたCが出来るのに自分が出来ないのが我慢ならないらしい。
「貴女たちも父上に食べられるといい。そうすれば至上の幸せが得られますよ」
幻惑スキルで如月一也に変化し、Cは微笑んだ。
「大丈夫だよ。ゴブリンなんて、俺の敵じゃないさ」
池崎翔に、見下すような憐憫の目を向けられた。
――壊したくなる。
顔を見ただけで血が上って殺そうかと思ったし、実際そうするつもりだった。
「あはは、親父殿だけずるいだろ。こんな強そうな敵、独占するなって」
「A、何をしている。下がっていろ……!」
俺は多少苛立ちながら吠えた。
息子のAが飛び出してきて、俺の前に立ち塞がったからだ。
「俺はこんなやつらに負ける、あんな腑抜けとは違うぞ? 血が疼くわ」
入口近くで倒れ、ピクリとも動かない見張り番の息子たちを指さしながら、嗤った。
「私たちがそんなに頼りないですか? お手を汚さずとも、父上はドンと構えて、見ているだけでいいんですよ」
「C」
「余程女にお膳立てをしてもらっていたようですね。こんなスキルレベルの低い男、我々だけで問題ありません」
「この……! 言わせておけば……!!」
「ああ、図星でした?」
あざ笑うようにCは池崎翔、ではなく女たちに杖を向け、氷の魔法を放った。氷の礫はうねりを上げて、女たちを追跡し、着弾した。
女たちはシールドを張ったようだが、1人は間に合わず、利き腕を怪我したようで悲鳴を上げた。
「な、女を狙うとは卑怯な!?」
「どう見ても、貴方より強いでしょうが、女のほうが」
「はぁ!? ふざけるな!! 俺は勇者だぞ!?」
「この程度の男を送り込むとは、浅はかですねえ。いったいどれだけの死線を潜り抜けましたか? こんな煽りで逆上するようでは、経験が足りませんね」
Cはやっぱりルシー似だな。口が悪いし腹黒で頭が回る。味方であるうちは頼もしいが、敵には回したくない男だ。
「おい、C遊ぶのも程ほどにしろ。無駄口叩いてないで、さっさと倒せよ」
「だって父上を愚弄したんですよ? 許せないじゃないですか」
「分かるけどな。そんな事は、捕縛した後でもいいだろ」
Aは力任せにバリンとシールドを薙ぎ払った。
狼狽するエルフの女の首を掴み上げると、首を絞める。ボキン、と首の骨が折れる音がして、女の腕はだらりと垂れ下がった。
「あ、やっべー。力加減ミスった。まった殺っちまったか。Cまだ治せるよな? これ?」
「どうでしょうねえ。やってみますが、期待はしないでください」
CはAとは異なり万能型の器用貧乏で突出したものはないが、回復魔法を扱える。高レベルの神官が出来るという死者蘇生とまではいかないが、ひん死ぐらいなら回復させることが出来る。だが、さすがに首の骨が折れた女は手遅れのようで「無理ですねぇ」と首を横に振った。
AとBがハートリアの息子、Cはルシーの息子で、AとBにとっては異母兄弟だ。女の腹から産まれる息子たちは、どれも可愛いが、ゴブリンゆえに寿命が短い。進化さえできれば寿命は劇的に伸びるが、レアスキル持ち以外は、経験値を吸わせても進化出来ないゴブリンが大半だ。おそらくは生態系の維持のためなのだろう。そのため、出会いと別れが毎日のようにあり、その数は膨らんでいく一方で、さすがに把握の限界を超えてきていた。
そのためルシーの提案で、わかりやすいように能力値が高い順番でアルファベット順に名付けた。際立って能力が高いのはAとB、それにCだ。そのいずれもがレアスキルを複数所有しているため、しばらくの間は、この3匹の名前に変動はないだろう。獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすという。俺に名付けて欲しければ、競争に勝ち抜き、俺の目に留まるほど強くなることだ。
Aは魂食いというレアスキル持ちで、俺と同じく魂が見えるようだ。魂を食ってたら、いきなり「俺もそれ食いたい」って言いだした時には驚いたが、食えば食うほど強くなるというぶっ壊れ性能のスキルのようだ。ただし魂によっては苦い甘いと味があるみたいで、食うまでに舐めたり匂いをかいだりしてから、食べている。そのため、偏食になりがちなのが玉に瑕だ。
Bは戦闘能力は高いが、生産系のスキルを複数持っている。手先が器用で、戦うより色々と物を作るほうが好きなようだ。洞窟の中に閉じこもって、中々外には出ようとしないためレベルが低い。
Cは暗闇の洞窟で食った魂が持っていた天眼というスキルを所有していて、目が左右で色が異なる。ルシーが手塩にかけて育てている、というか鍛えている息子だ。鞭でCを叩き始めたから何だと思ったら「練習です」と言ったので虐待かと思って眉を細めたが、どうも違うようで「強くなりたい」とCが申し出てきたらしい。「丁度良いと思ったんです。自分の身は自分で守りたいですし」その成果あってか、短期間でCは強くなったし、ルシーも産まれたての息子を「やりたいならあっちの女とやりなさい」と、つまみ出すぐらいには強くなった。
「アイシャをよくも……! なッ!? き、消えただと……!? もしや、このスキルは……! 幻惑は、一也の持っていた固有スキルだ……! どうやって手に入れた!?」
「ふふ、目ざといんですね、木偶の坊な勇者とは違って。……でも、男を見る目がないのは残念ですね。勇者とはどこまでしたんですか?」
「う、うるさい!!」
女剣士の斬撃をすべて躱しながら、Cは辛辣な言葉を投げかけた。
Cはつい最近産まれたのだが、異質な存在だ。常に俺の傍に佇み、付き従っている。戦闘能力はAに劣るかもしれないが、その頭の聡明さはゴブリンらしくなく、舌を巻く。この頃は人間にも興味を覚えたようで、女たちと会話するだけで、言葉を得とくしていた。
ただ、喋り方は、どことなく母親であるルシーに近い。
Aは人間の言葉なんて覚える気がさらさらなさそうだったのに、Cが覚えた途端に、勉強を始め、やや時間がかかったが習得した。どうやら後から産まれたCが出来るのに自分が出来ないのが我慢ならないらしい。
「貴女たちも父上に食べられるといい。そうすれば至上の幸せが得られますよ」
幻惑スキルで如月一也に変化し、Cは微笑んだ。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
乾いた砂漠の民はオアシスに出会う
霧乃ふー
BL
「異世界……」
気が付いた時には砂漠に転がっていた。
俺は街に向けて歩き出し砂漠の街に着き、そこで砂漠の亜人達に出会うことになる。
♡亜人達とのエロエロなストーリー♡
短い連載物です。
ある程度更新したら後は夜8時毎日更新になります。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
ドライブ日和だな・・・天気はいいけど驚く現実に高速道路でドライブどころではない私
マッキーの世界
大衆娯楽
「今日は本当にドライブ日和だな」
「ええ、本当ね。青い空に白い雲、遠くの景色までよく見えるわね」
夫が運転する車で三車線の広い高速道路をスイスイ走っていた。
「ね、富士山が
【R18】ひとりで異世界は寂しかったのでペット(男)を飼い始めました
桜 ちひろ
恋愛
最近流行りの異世界転生。まさか自分がそうなるなんて…
小説やアニメで見ていた転生後はある小説の世界に飛び込んで主人公を凌駕するほどのチート級の力があったり、特殊能力が!と思っていたが、小説やアニメでもみたことがない世界。そして仮に覚えていないだけでそういう世界だったとしても「モブ中のモブ」で間違いないだろう。
この世界ではさほど珍しくない「治癒魔法」が使えるだけで、特別な魔法や魔力はなかった。
そして小さな治療院で働く普通の女性だ。
ただ普通ではなかったのは「性欲」
前世もなかなか強すぎる性欲のせいで苦労したのに転生してまで同じことに悩まされることになるとは…
その強すぎる性欲のせいでこちらの世界でも25歳という年齢にもかかわらず独身。彼氏なし。
こちらの世界では16歳〜20歳で結婚するのが普通なので婚活はかなり難航している。
もう諦めてペットに癒されながら独身でいることを決意した私はペットショップで小動物を飼うはずが、自分より大きな動物…「人間のオス」を飼うことになってしまった。
特に躾はせずに番犬代わりになればいいと思っていたが、この「人間のオス」が私の全てを満たしてくれる最高のペットだったのだ。
【完結】魔力0の書道家が、底辺職から魔術師に成り上がるまで~異世界転移した先で、僕は魔法陣と出会った~
mazecco
ファンタジー
習字教室の生徒が、公園で妙な模様を見つけた。
バランスが微妙に気に入らなくて添削したら、魔法陣が発動して異世界転移してしまった。
召喚したのは勇者パーティ。週明けに魔王討伐に挑むから一緒に来てくれと頼まれた。
でも戦えないし、魔力も持ってないし……。
そしたら勇者に、〝ローラー〟という底辺職に就くように言われた。
ローラーの役割は、主に荷物持ちや食事、寝床の準備。……ただの使いっぱしりじゃないか。
でも、魔王討伐に付き合ったら元の世界に戻してくれると約束してくれたので、仕方なく同行することにした。
……裏切られたけど。
◇◇◇
残念美人司書に溺愛され、
残念エルフ(♂)に可愛がられ……
果ては魔王の子どもに懐かれる、
彼女いない歴=年齢の、
書道家アサヒが繰り広げる異世界ファンタジー!
冷酷な王子がお馬鹿な私にハマり過ぎて婚約破棄できなくなってることを周りは誰も知りません※R15
みかん畑
恋愛
私、リア・アリソン・アンクタンには将来を誓った王子がいます。ですが、彼は私との論戦に負けると手を出してきたり、過去の小さな失敗を大事のように詰問してきたりして、挙句の果てには婚約を破棄しようとしました。そちらがその気なら、こちらにも考えがあるんですよ? これは、冷酷非道な王子を調教して、私抜きでは生きられないようにするお話です。性描写ありなのでご注意を。
知らん間にS級冒険者を攻略していた寂しがり屋
きみどり
恋愛
両親を幼い頃に亡くし、冒険者ギルドに保護された主人公。寂しさを我慢し、彼女は生活のため冒険者の荷物係として働いていた。
だけど、あるミッションでS級冒険者を裏切り者から庇ったら…?
(外部でも投稿しております。何でも許せる方のみどうぞ)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる