23 / 52
牢屋の住人
しおりを挟む
日が傾き、夕暮れになってきた。
ここが縄張りとなる以上、隅々まで歩き回って民の生活を見てみたかったが、あらかじめCに作らせておいたリストはまだ半ばだ。
王都の広さを実感する。
俺はゴブリンだから、睡眠もそれほど必要とせず、体力も無尽蔵にある。月が沈み、真っ暗闇であっても歩き回ることが出来るが、平時そこに住んでいる人間の様子を観察することは出来ない。それに、案内をさせている人間の負担を考えると、残りは明日にして、そろそろお開きにしたほうがいいだろう。
だが、あと1つ、どうしても気になる場所があった。
「次は牢屋に行くぞ」
「聞くところによると、囚人が800人ほど収容されているらしいですよ」
「800人? 多すぎないか?」
「定員より多くの人間を入れているから過密になっていますし、人手も食料も足りないらしいです」
囚人がどんな食べ物を食べているのかなどを聞きながら、その場所に辿り着いて、囚人たちを見て回った。エルフにドワーフといった、人間以外の種族もいた。最も多いのが獣人だ。差別があり、人間に虐げられているとは聞いていたから驚きはしなかったが、まだ初潮も迎えていないような子供も収容されているのは問題だった。
「子供だけが収監される牢屋もあるのですが、私たちは獣人なので……」とのことだった。どうやら、牢屋の中まで差別されているらしい。獣人の子供は耳と尻尾があり、可愛らしい生き物だ。納得がいかなくて「生きてきた時間は同じなのに、人間と獣人で、何の違いがあるのだろうな」とCに零した。
「人間の子供と同じ場所に居させても問題が起きそうだな。獣人の子供だけを収監する牢屋をつくるか」
見た感じ、純朴な子供である。
いったい何の罪なのかと聞いてみると、飢えに耐えかねてトウモロコシを1本盗んだのだと言う。トウモロコシ1本ごときで牢屋に収監されるのかと思ったが、獣人は首を左右に振った。「ここにいれば、1日1食ですが食べさせてくれますし、雨や風もしのげます。それに冬の間は、外で寝泊まりするより安全です」獣人の子供としては、ここは素晴らしい場所なのだと言う。
だが、俺の目から見ると、獣人の子供が言うように素晴らしい場所には程遠い場所だった。その劣悪な環境に、俺は懸念を覚えるしかなかった。
「ここは肥溜めなのか? 我々ゴブリンのほうがよっぽど良い暮らしをしているぞ。ひどい腐敗臭がする」
「人間にとっては衛生的ではありませんね。あとで洗い清めます」
「そうしてくれ。変な病気が流行ったらかなわん。それに、ガリガリじゃないか。ちゃんと食べさせているのか? こんな骨と皮ばかりでは、食うところがないだろう」
「仰る通りで。死刑囚は太らせますね」
俺とCの言葉に震え上がる囚人たち。だが、起きあがる気力もないのか、倒れ伏したままの者も多い。
「死刑囚なぁ……無実の人間がいるのではないか? あの無能どもに陥れられた人間なんて山ほど居そうだ……、再調査しろ。無実の者は開放し、犯罪の重さ次第で、処罰を増やしていくがいい。死刑に値するものは肉にすればいい……って、良太!?」
牢屋の隅で横たわっている、髪を腰まで生やした男の顔を見て、俺は動揺を隠せなかった。
ここが縄張りとなる以上、隅々まで歩き回って民の生活を見てみたかったが、あらかじめCに作らせておいたリストはまだ半ばだ。
王都の広さを実感する。
俺はゴブリンだから、睡眠もそれほど必要とせず、体力も無尽蔵にある。月が沈み、真っ暗闇であっても歩き回ることが出来るが、平時そこに住んでいる人間の様子を観察することは出来ない。それに、案内をさせている人間の負担を考えると、残りは明日にして、そろそろお開きにしたほうがいいだろう。
だが、あと1つ、どうしても気になる場所があった。
「次は牢屋に行くぞ」
「聞くところによると、囚人が800人ほど収容されているらしいですよ」
「800人? 多すぎないか?」
「定員より多くの人間を入れているから過密になっていますし、人手も食料も足りないらしいです」
囚人がどんな食べ物を食べているのかなどを聞きながら、その場所に辿り着いて、囚人たちを見て回った。エルフにドワーフといった、人間以外の種族もいた。最も多いのが獣人だ。差別があり、人間に虐げられているとは聞いていたから驚きはしなかったが、まだ初潮も迎えていないような子供も収容されているのは問題だった。
「子供だけが収監される牢屋もあるのですが、私たちは獣人なので……」とのことだった。どうやら、牢屋の中まで差別されているらしい。獣人の子供は耳と尻尾があり、可愛らしい生き物だ。納得がいかなくて「生きてきた時間は同じなのに、人間と獣人で、何の違いがあるのだろうな」とCに零した。
「人間の子供と同じ場所に居させても問題が起きそうだな。獣人の子供だけを収監する牢屋をつくるか」
見た感じ、純朴な子供である。
いったい何の罪なのかと聞いてみると、飢えに耐えかねてトウモロコシを1本盗んだのだと言う。トウモロコシ1本ごときで牢屋に収監されるのかと思ったが、獣人は首を左右に振った。「ここにいれば、1日1食ですが食べさせてくれますし、雨や風もしのげます。それに冬の間は、外で寝泊まりするより安全です」獣人の子供としては、ここは素晴らしい場所なのだと言う。
だが、俺の目から見ると、獣人の子供が言うように素晴らしい場所には程遠い場所だった。その劣悪な環境に、俺は懸念を覚えるしかなかった。
「ここは肥溜めなのか? 我々ゴブリンのほうがよっぽど良い暮らしをしているぞ。ひどい腐敗臭がする」
「人間にとっては衛生的ではありませんね。あとで洗い清めます」
「そうしてくれ。変な病気が流行ったらかなわん。それに、ガリガリじゃないか。ちゃんと食べさせているのか? こんな骨と皮ばかりでは、食うところがないだろう」
「仰る通りで。死刑囚は太らせますね」
俺とCの言葉に震え上がる囚人たち。だが、起きあがる気力もないのか、倒れ伏したままの者も多い。
「死刑囚なぁ……無実の人間がいるのではないか? あの無能どもに陥れられた人間なんて山ほど居そうだ……、再調査しろ。無実の者は開放し、犯罪の重さ次第で、処罰を増やしていくがいい。死刑に値するものは肉にすればいい……って、良太!?」
牢屋の隅で横たわっている、髪を腰まで生やした男の顔を見て、俺は動揺を隠せなかった。
0
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】
ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。
※ムーンライトノベルにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる