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永久
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キリトは急いではいるけど慌ててはいない声。
「助けて下さい!」
「いま野島さんに替わりますね」
診察室にいるお兄ちゃんにスマホを渡すと、少し話してすぐに切った。
「けが人を拾ったけど普通の病院ではなさそうということです。ここに呼びます」
お兄ちゃんが依頼人用のイスをこっちへどかして、そこへ両腕を広げた。瞬きをしたら紫に白の家紋みたいなのがちりばめられた袴をきた少年をお姫様抱っこしたキリトがいた。キリトは生来の運動神経の良さを取り戻して、時々お兄ちゃんを手伝っているからヒスイを渡してある。
お兄ちゃんの空気が少し硬くなる。
「傷はふさがっていますね。とりあえず浴室へ」
浴室には介護用のお風呂がある。
うなずいて浴室へ向かうキリト。お兄ちゃんは俺に振り向いた。
「おそらく氏神かその依り代です。商会に連絡して袴を注文しておいて下さい。一級と言えば分かります。それからキリトくんに場所を聞いて商会に片付けも依頼して下さい」
「はい」
お兄ちゃんは硬めの空気のまま浴室へ入っていった。
すぐにキリトは浴室から出てきてそのままお手洗いに入り、顔と前腕はきれいにして出てきた。それから外を指さす。
「ちょっと電話して、着替え持ってきてもらいます」
「電話ならそこでどうぞ。その前に場所を教えて下さい。商会に片付けてもらうそうです」
キリトがスマホを操作してスクショ音が鳴る。それからまた操作をした。
「送りました。じゃあ借ります」
この施術院には、電話ボックスより少し広いくらいの通話ブースがある。キリトはそこに入って電話を始めた。身振りとか空気からして、ケガをしたのは自分じゃないと落ち着かせているんだろう。俺も商会に電話を入れた。
通話ブースから出てきたキリトに、カウンター越しに確認する。
「キリトはケガしてない?」
「俺は全然。倒れてたのを助けただけだから」
「助けた拍子にってこともあるから、念のため着替える時に見せて。動かしにくい所もない?」
キリトはラジオ体操みたいにジャンプした。
「全然。あ、ごめん砂が」
「いいよ。掃除は得意なんだ。痛い所が無いのはいいけど、傷や痣が無いかは見せてね」
キリトが立ったままでいるから、使い捨ての不織布シーツを一枚カウンターからキリトへと差し出す。
「汚れるの気にしてる? これ敷いて楽にしてて」
「ありがとう。こんなに大きいの使っていいの?」
「意気込んで色々医療品揃えたのに全然使う機会が無くてさ」
「じゃあ遠慮なく」
畳まれている状態でそのまま座布団替わりにするだけで良かったのに、キリトはベンチの前後に広げて足や服から土が落ちてもいいようにした。この様子だとこれ以上動かないな。
「何か飲む?」
「冷たいお水たくさんほしい。けっこう走った後だったから」
俺は受付ブースからも診察室からも取りやすい場所にある冷蔵庫からピッチャーとグラスを取り出して受付ブースを出た。
キリトにグラスを渡してから水を注ぐ。一気に飲み干したグラスにもう一度注ぐと、今度は半分も飲まずに口を離して息を吐いた。
「配達の途中だった? 大丈夫?」
「途中だったんだけど、たぶんあの子……あの方って言わないとダメなのかな? の注文。届け先が山の中でさ、行ったらあの方が倒れてたんだ。配達区域外なのに注文できたのも、なんの疑問も持たずにオーダーに従ったのも、何か特別な力で操作したのかも」
お兄ちゃんでさえ少し緊張してたもんな。
「神様ってこと? 普通の高校生くらいの子……方に見えたけど」
「すみせん! キリトに着替えを持ってきました!」
メッセンジャーバッグを肩に掛けている尾張さんは慌てていて、スリッパに履き替える所で躓きそうになった。段差は無いけど、土足禁止なことを尾張さんが自分で思い出したんだろう。壁に手をついてバランスを取った。
っていうか来るの早っ!
キリトが立ち上がって、スリッパに履き替えている尾張さんへと歩いていく。
「はじめ? 俺は無傷って言ったのに」
「そうは聞いても心配にはなるんだよ。着替えもどうせすぐ着るから畳まずに突っ込んで来た」
バッグを受け取ったキリトが俺を見る。処置室は使うかもしれないし、土だって洗いたいよな。
「浴室が空いたら使わせてもらいましょう」
「ありがとうございます」
ちょうど浴室の扉が開いた。お兄ちゃんが執事のように開けている扉から出てきた神様(仮)は長襦袢を着ている。まっすぐな黒髪の、前から見ると短髪。でもキリトに抱っこされてる時は親指くらいの束で腰までの髪が結ばれてたんだよな。今も首の向こうに縛った端みたいな和紙が見えている。
商会に電話した時にどれくらいで届くか確認したら、急ぎなら商会事務所の指定の場所に置けばお兄ちゃんが勝手に持って行くと言っていた。間に合わなかったのかな。
お兄ちゃんは話し方まで少し違う。
「肩の様子が少しおかしいんです。診てもらえますか?」
「はい」
俺も面接の時みたいな所作で立ち上がった。
「あちらが診察室です」
そう言ったお兄ちゃんは神様(仮)の斜め後ろを歩いていたのに、直前で神様(仮)の前というか横に出て診察室のドアを開けて神様(仮)を中へ促した。俺も入れっていう空気のお兄ちゃんに念のため確認する。
「浴室をキリトが使っても構いませんか?」
「構いませんが、その前に新しい袴をこちらへ持ってきて下さい。棚の上に置いてあります」
「はい。承知しました」
浴室に入ると棚の上にあるのは……なんか言い方あったよな。着物を入れる巨大なお盆。しかも紫の大きな布を敷いてから袴を置いて、お盆からはみ出した分の布が袴を包むように掛けられている。
緊張しながら持って廊下に出て、騒がしくするのもいけない気がして、気持ちだけ大きな声を待合室に向ける。
「キリト、浴室使っていいって」
顔をのぞかせたキリトが両手を合わせて、たぶん「ありがとう」と口を動かした。
「助けて下さい!」
「いま野島さんに替わりますね」
診察室にいるお兄ちゃんにスマホを渡すと、少し話してすぐに切った。
「けが人を拾ったけど普通の病院ではなさそうということです。ここに呼びます」
お兄ちゃんが依頼人用のイスをこっちへどかして、そこへ両腕を広げた。瞬きをしたら紫に白の家紋みたいなのがちりばめられた袴をきた少年をお姫様抱っこしたキリトがいた。キリトは生来の運動神経の良さを取り戻して、時々お兄ちゃんを手伝っているからヒスイを渡してある。
お兄ちゃんの空気が少し硬くなる。
「傷はふさがっていますね。とりあえず浴室へ」
浴室には介護用のお風呂がある。
うなずいて浴室へ向かうキリト。お兄ちゃんは俺に振り向いた。
「おそらく氏神かその依り代です。商会に連絡して袴を注文しておいて下さい。一級と言えば分かります。それからキリトくんに場所を聞いて商会に片付けも依頼して下さい」
「はい」
お兄ちゃんは硬めの空気のまま浴室へ入っていった。
すぐにキリトは浴室から出てきてそのままお手洗いに入り、顔と前腕はきれいにして出てきた。それから外を指さす。
「ちょっと電話して、着替え持ってきてもらいます」
「電話ならそこでどうぞ。その前に場所を教えて下さい。商会に片付けてもらうそうです」
キリトがスマホを操作してスクショ音が鳴る。それからまた操作をした。
「送りました。じゃあ借ります」
この施術院には、電話ボックスより少し広いくらいの通話ブースがある。キリトはそこに入って電話を始めた。身振りとか空気からして、ケガをしたのは自分じゃないと落ち着かせているんだろう。俺も商会に電話を入れた。
通話ブースから出てきたキリトに、カウンター越しに確認する。
「キリトはケガしてない?」
「俺は全然。倒れてたのを助けただけだから」
「助けた拍子にってこともあるから、念のため着替える時に見せて。動かしにくい所もない?」
キリトはラジオ体操みたいにジャンプした。
「全然。あ、ごめん砂が」
「いいよ。掃除は得意なんだ。痛い所が無いのはいいけど、傷や痣が無いかは見せてね」
キリトが立ったままでいるから、使い捨ての不織布シーツを一枚カウンターからキリトへと差し出す。
「汚れるの気にしてる? これ敷いて楽にしてて」
「ありがとう。こんなに大きいの使っていいの?」
「意気込んで色々医療品揃えたのに全然使う機会が無くてさ」
「じゃあ遠慮なく」
畳まれている状態でそのまま座布団替わりにするだけで良かったのに、キリトはベンチの前後に広げて足や服から土が落ちてもいいようにした。この様子だとこれ以上動かないな。
「何か飲む?」
「冷たいお水たくさんほしい。けっこう走った後だったから」
俺は受付ブースからも診察室からも取りやすい場所にある冷蔵庫からピッチャーとグラスを取り出して受付ブースを出た。
キリトにグラスを渡してから水を注ぐ。一気に飲み干したグラスにもう一度注ぐと、今度は半分も飲まずに口を離して息を吐いた。
「配達の途中だった? 大丈夫?」
「途中だったんだけど、たぶんあの子……あの方って言わないとダメなのかな? の注文。届け先が山の中でさ、行ったらあの方が倒れてたんだ。配達区域外なのに注文できたのも、なんの疑問も持たずにオーダーに従ったのも、何か特別な力で操作したのかも」
お兄ちゃんでさえ少し緊張してたもんな。
「神様ってこと? 普通の高校生くらいの子……方に見えたけど」
「すみせん! キリトに着替えを持ってきました!」
メッセンジャーバッグを肩に掛けている尾張さんは慌てていて、スリッパに履き替える所で躓きそうになった。段差は無いけど、土足禁止なことを尾張さんが自分で思い出したんだろう。壁に手をついてバランスを取った。
っていうか来るの早っ!
キリトが立ち上がって、スリッパに履き替えている尾張さんへと歩いていく。
「はじめ? 俺は無傷って言ったのに」
「そうは聞いても心配にはなるんだよ。着替えもどうせすぐ着るから畳まずに突っ込んで来た」
バッグを受け取ったキリトが俺を見る。処置室は使うかもしれないし、土だって洗いたいよな。
「浴室が空いたら使わせてもらいましょう」
「ありがとうございます」
ちょうど浴室の扉が開いた。お兄ちゃんが執事のように開けている扉から出てきた神様(仮)は長襦袢を着ている。まっすぐな黒髪の、前から見ると短髪。でもキリトに抱っこされてる時は親指くらいの束で腰までの髪が結ばれてたんだよな。今も首の向こうに縛った端みたいな和紙が見えている。
商会に電話した時にどれくらいで届くか確認したら、急ぎなら商会事務所の指定の場所に置けばお兄ちゃんが勝手に持って行くと言っていた。間に合わなかったのかな。
お兄ちゃんは話し方まで少し違う。
「肩の様子が少しおかしいんです。診てもらえますか?」
「はい」
俺も面接の時みたいな所作で立ち上がった。
「あちらが診察室です」
そう言ったお兄ちゃんは神様(仮)の斜め後ろを歩いていたのに、直前で神様(仮)の前というか横に出て診察室のドアを開けて神様(仮)を中へ促した。俺も入れっていう空気のお兄ちゃんに念のため確認する。
「浴室をキリトが使っても構いませんか?」
「構いませんが、その前に新しい袴をこちらへ持ってきて下さい。棚の上に置いてあります」
「はい。承知しました」
浴室に入ると棚の上にあるのは……なんか言い方あったよな。着物を入れる巨大なお盆。しかも紫の大きな布を敷いてから袴を置いて、お盆からはみ出した分の布が袴を包むように掛けられている。
緊張しながら持って廊下に出て、騒がしくするのもいけない気がして、気持ちだけ大きな声を待合室に向ける。
「キリト、浴室使っていいって」
顔をのぞかせたキリトが両手を合わせて、たぶん「ありがとう」と口を動かした。
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