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キリト
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帰り支度をしていたら吸血鬼さんが明日来れるという連絡が入って、22時に来るって言うから明日は16時から24時の勤務になった。明日ゆっくりだからいいだろって空気でなかなか帰してくれなくて、柱時計が鳴ったことにわざとらしく反応して施術院を出た。
日が長くなってきたとはいえもう暗い。それで逆に道路へと光がもれている所に気付いた。
なんとなくそっちへと道を曲がって歩いてみると小さな公園があった。
ここは来たことがあるかもしれない。気のせいか? 砂場と滑り台とブランコだけなんて典型的な公園はどこにでもある。病院の公園も生垣が無いだけで似たような造りだし。
「荒井さん?」
気が付いたら公園の中に入っていて、道路からは死角になる位置にベンチがあって私服の富士さんが座っていた。なぜだかぼんやりと富士さんのことを思い出したタイミングだったから驚いた。
落ち着きのある青い春用ニットはゆったりサイズで、ベンチに置かれている小さいエコバックとのギャップがかわいい。よく見ると首元から見えているのは白シャツの襟だし下はスーツに革靴だ。
「こんにちは。お疲れ様です」
富士さんがエコバックからペットボトルを出して俺に見せる。良いメーカーのブドウジュースだ。
「お時間あるならどうですか?」
「いいんですか?」
「仕事は抜きでちょっと話したいと思っていたんです。どこかで会ったことあるような気がして」
嬉しくなって思わず駆け寄る。
「俺もです」
っていうか富士さんはここで何をしていたんだろう。
「今日は休みだったんですか?」
「いえ。時々この時間にここに来るんです。
仕事帰りに下の弟を保育園に迎えに行って夕食作って片付けてお風呂に入れてっていうのが日課なんですけど、時々ひとりの時間を上の弟が作ってくれるんですよ」
それから自分が飲んでいたペットボトルを俺に見せた。
「呼び出しがあるかもしれないのでワイン代わりです」
「すみません。俺邪魔しちゃってますよね」
なんて言いながらも隣に座ってしまう。いつもの俺なら、自然に一人の時間に戻してあげるはずなのに。
富士さんは微笑んで軽く首を振って、円形の箱に入ったチーズまで勧めてくれた。
「いえ、ちょうど荒井さんのことを考えてたんです。どこかでお会いしたことありませんか?」
なんだか昔、そういうナンパの手口があったって母さんが言ってたな。でも本当にこの公園と富士さんが懐かしい感じがするんだよな。
富士さんは照れくさそうに視線を落とした。
「なんだか昔のナンパみたいですね。でも本当に初めて会った気がしなくて。
この公園も小さい頃遊んでたわけでもないのに懐かしい感じがして、最近になって来るようになったんですよ」
本当にこんなことあるのかって気持ちが言葉じゃなく心臓から突きあがった。
「俺も同じこと考えてました」
富士さんが一応確認って感じで俺へと視線を戻す。
「ナンパではないですよ?」
「分かってますよ」
くすぐったい感じで和やかな空気になったのに富士さんのスマホが鳴った。画面を見た富士さんの顔が真面目になる。
「すみません。呼び出しです。
俺は時々ここでこうしてるので、気が向いたらまた会いに来てください」
「はい。明日は遅番なので来れませんが、またぜひ」
富士さんを見送ってから俺も公園を出て、ペットボトルを見つめてながら考える。ワインの代わりに飲んでるなら、次に行く時はツマミっぽい物を持って行こう。
スーパーでワインのツマミをいくつか買って、家で相性を確かめる。だいたい合ってる。とりあえずチョコにしよう。他のは夏になってからでもいいけど、チョコは今のうちじゃないと溶けちゃうからな。
なんだか遠足前のような気持ちだけど、その前に明日は仕事だった。3時に寝て昼ぐらいまでゴロゴロするか。とりあえずイルカの資料と、念のため水族館の資料を集めよう。
水族館についてはオーナーが変わるってニュース以外新聞では全然触れられていない。SNSでさえ「イルカが減った」程度だった。イルカが突然行方不明なんてもっと騒ぎそうなのに。削除された投稿や、異様に悪乗りして話す気を失せさせるリプライも無いってことは人が揉み消してるんじゃないな。500万円以上じゃなきゃ上は動かないって野島さんも言ってたし。野島さんがここでも意識しなくなる術を掛けたのかな。
翌日に事件としてどう扱われてるのかも聞こうと思いながら出勤すると柱時計が無くなっていた。これも術かもしれないと思って、昨日まで時計のあった場所に手を当てると壁の感触。本当に撤去したのか。
日が長くなってきたとはいえもう暗い。それで逆に道路へと光がもれている所に気付いた。
なんとなくそっちへと道を曲がって歩いてみると小さな公園があった。
ここは来たことがあるかもしれない。気のせいか? 砂場と滑り台とブランコだけなんて典型的な公園はどこにでもある。病院の公園も生垣が無いだけで似たような造りだし。
「荒井さん?」
気が付いたら公園の中に入っていて、道路からは死角になる位置にベンチがあって私服の富士さんが座っていた。なぜだかぼんやりと富士さんのことを思い出したタイミングだったから驚いた。
落ち着きのある青い春用ニットはゆったりサイズで、ベンチに置かれている小さいエコバックとのギャップがかわいい。よく見ると首元から見えているのは白シャツの襟だし下はスーツに革靴だ。
「こんにちは。お疲れ様です」
富士さんがエコバックからペットボトルを出して俺に見せる。良いメーカーのブドウジュースだ。
「お時間あるならどうですか?」
「いいんですか?」
「仕事は抜きでちょっと話したいと思っていたんです。どこかで会ったことあるような気がして」
嬉しくなって思わず駆け寄る。
「俺もです」
っていうか富士さんはここで何をしていたんだろう。
「今日は休みだったんですか?」
「いえ。時々この時間にここに来るんです。
仕事帰りに下の弟を保育園に迎えに行って夕食作って片付けてお風呂に入れてっていうのが日課なんですけど、時々ひとりの時間を上の弟が作ってくれるんですよ」
それから自分が飲んでいたペットボトルを俺に見せた。
「呼び出しがあるかもしれないのでワイン代わりです」
「すみません。俺邪魔しちゃってますよね」
なんて言いながらも隣に座ってしまう。いつもの俺なら、自然に一人の時間に戻してあげるはずなのに。
富士さんは微笑んで軽く首を振って、円形の箱に入ったチーズまで勧めてくれた。
「いえ、ちょうど荒井さんのことを考えてたんです。どこかでお会いしたことありませんか?」
なんだか昔、そういうナンパの手口があったって母さんが言ってたな。でも本当にこの公園と富士さんが懐かしい感じがするんだよな。
富士さんは照れくさそうに視線を落とした。
「なんだか昔のナンパみたいですね。でも本当に初めて会った気がしなくて。
この公園も小さい頃遊んでたわけでもないのに懐かしい感じがして、最近になって来るようになったんですよ」
本当にこんなことあるのかって気持ちが言葉じゃなく心臓から突きあがった。
「俺も同じこと考えてました」
富士さんが一応確認って感じで俺へと視線を戻す。
「ナンパではないですよ?」
「分かってますよ」
くすぐったい感じで和やかな空気になったのに富士さんのスマホが鳴った。画面を見た富士さんの顔が真面目になる。
「すみません。呼び出しです。
俺は時々ここでこうしてるので、気が向いたらまた会いに来てください」
「はい。明日は遅番なので来れませんが、またぜひ」
富士さんを見送ってから俺も公園を出て、ペットボトルを見つめてながら考える。ワインの代わりに飲んでるなら、次に行く時はツマミっぽい物を持って行こう。
スーパーでワインのツマミをいくつか買って、家で相性を確かめる。だいたい合ってる。とりあえずチョコにしよう。他のは夏になってからでもいいけど、チョコは今のうちじゃないと溶けちゃうからな。
なんだか遠足前のような気持ちだけど、その前に明日は仕事だった。3時に寝て昼ぐらいまでゴロゴロするか。とりあえずイルカの資料と、念のため水族館の資料を集めよう。
水族館についてはオーナーが変わるってニュース以外新聞では全然触れられていない。SNSでさえ「イルカが減った」程度だった。イルカが突然行方不明なんてもっと騒ぎそうなのに。削除された投稿や、異様に悪乗りして話す気を失せさせるリプライも無いってことは人が揉み消してるんじゃないな。500万円以上じゃなきゃ上は動かないって野島さんも言ってたし。野島さんがここでも意識しなくなる術を掛けたのかな。
翌日に事件としてどう扱われてるのかも聞こうと思いながら出勤すると柱時計が無くなっていた。これも術かもしれないと思って、昨日まで時計のあった場所に手を当てると壁の感触。本当に撤去したのか。
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