とあるせかいの話

天野陽夏

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五人の王様

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___唐突だが、この世界には5つの国がある。


 石畳でできた路にレンガ造りの建物が並ぶ豊かな国、ルブムフ王国。
___現女王クワイア・シェン・アメトリンは積極的な外交を進め、人族でありながら5つの国の調停役になり、そのカリスマ性を発揮している。
 艶やかに輝く長い紫の髪が特徴的だが、鏡のように光を反射する真珠色の瞳は見るものを惹きつける静かな魅力を秘め、彼女の美しさを引き立てていた。噂によれば、彼女に一目惚れした男は1000人もいるのだとか。


 極寒の極北にある、暗闇と雪に囲まれた永遠の冬の国、カルレイム帝国。
___現皇帝ソロ・デラン・タンザナイト。彼は強固な専制政治体制を築き、その厳格な人柄から自国民だけでなく他国民までも恐れる、恐怖を体現したような男である。
 しかし、容姿は人々のイメージとは違い、美青年といっても良い。濃紺のさらりとした髪をナチュラルショートに切り揃え、灰色に鈍く光る瞳は刃のように鋭く釣り上がり、そして額からは龍人族の象徴たる角が、少々服を着る時にじゃまになりそうな大きさで生えている。


 カルレイム帝国とは裏腹に、青い海に囲まれ年中暖かい日差しに照らされる真夏の国、フラーウム王国。
___現女王マルシュ・エル・アゲットは、快活な性格で非常に行動力に溢れる女性だ。その行動力で様々な改革に着手し次々と成功を収めている。
 ライオンの獣人である彼女には丸みがかった耳とふさふさと揺れる尻尾が生えている。
明るいオレンジの髪は無造作に切られ、大きなヘンゼルの瞳は光を取り込みくるくると忙しなく無邪気に動き続ける。ここまで"元気っ子"を体現した人間はそうそういないだろう。


 森と、花の咲き乱れる丘。そして深い谷に囲まれた緑の国、ウィリデ王国。
___国王はリリック・フォン・エメラルド。優しく誠実な人柄で王国の平和と安寧を常に願い国を治めている。
 純血のエルフである彼の耳は長く、金髪を真っ直ぐに伸ばしている。瞳は若草色の優しげな垂れ目で温和な光を湛えていた。優男とはこういう人のことをいうのだろう。


 そして、地上には存在せず常に天空に浮かぶ楽園、アルブス王国。
___女王はアリア・ギル・ガーネット。彼女は生粋の博愛主義者であり、真実に向き合う探究者である。
 モカブラウンの髪は肩甲骨まで滑らかに伸びており、瞳は濃い桃色で光の角度で真っ赤な紅に変わる。そして何より目立つのが天翼族最大の特徴である大きな白い天使の翼だ。しかしながら、彼女は悲しいほどに天使らしい性格ではないが。


 この五人の王たちに治められた世界は代わり映えもなく、かといって退屈しない毎日を過ごしていた。戦争を起こさず、異種族同士仲良く平和に。___しかし、異種族同士の共存は最初から不可能であった事を世界の誰も知り得なかった。


 そう。これは無数の世界のその一つ、小さな世界のくだらない大きな出来事。


___物語のページが開かれた。

 

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