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いわゆるひとつの前振り
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* 芽衣 *
授業とは、精神的なデートである。
そもそもデートの定義とは何か。
答えは私がデートだと認識すること。
おっと、これは少し横暴よね。
ちょっぴり妥協して、男女が外で会うこと程度にしましょうか。
うんうん、分かってる。
これでは教室内の風紀が乱れますね。
もう少し条件を加えましょう。
例えば、互いを想っていること。
私の矢印は常に彼へ向いています。
彼が私に矢印を向けた時間だけ、精神的なデートが成立するのです。
ドキドキしますね。
ノートの上で走るシャーペンの音。
黒板を叩くチョークの音と、教師の声。
皆が将来のため教養を深める中、二人だけが互いのことを考えている。その背徳感が恋のスパイスとなり、胸の鼓動を早くする。
今、彼を見たら視線が重なるのかな。
彼も同じ気持ちになってくれてるのかな。
なんて、無粋なことを考えるのはダメね。
同じに決まってるじゃない。
彼は私に夢中で、24時間ずっと私のことを考えているはずよ。
だから私は信じるだけ。
心の目で、見つめ合うだけ。
はぁぁ、授業が頭に入らないよ。
胸の鼓動が大きくなる。
周囲に聞こえるかもしれない。
気恥ずかしくて顔が熱くなる。
だけどそれ以上に、彼に届いて欲しい。
そう思う程に、どうしようもなく、自分の気持ちを確かめさせられる。
ああ、私、恋してる。
* * *
お昼休みの時間。
私は用意した弁当箱を机に置く。少し待つと、高校で出会った新しい友達が集まった。
ここに彼の姿は無い。
この教室に、彼の姿は無い。
「穂村さん、尾崎くんと食べないの?」
友達の一人が言った。
彼女の名前は幸村千冬。
一見すると大人しい外見だけど、恋愛に憧れていることが匂いで分かった。だから牽制の意味を込めて「お友達」になった。
「尾崎くん? どうして?」
「だって穂村さん彼と付き合ってるよね?」
……ふっ、来たか。
外堀、埋まったか。
「分かる。いつも一緒に学校来るよね」
彼女は牧之原結衣さん。
とても派手な外見をしているけれど、高校デビューであることが匂いで分かる。
こういう子ほど、太一のような真面目バカに落ちやすい。だから「彼は私の男よ」と理解させるためお友達になった。
「てか帰る時も一緒じゃね?」
牧之原さんが言った。
「そうそう! やっぱり中学から付き合ってるの? それとも、もっと前?」
幸村さんが羞恥と好奇心が入り混じったような声で言った。
「生まれた時からです」
私は澄ました表情でそう答える。
「同じ病院で生まれて、家が近くて、今日までずっと同じ学校、同じクラスです」
二人は「きゃ~!」という反応をした。
私は「あはは、もっと騒げ」という気持ちを必死に抑えて、上品な笑顔を浮かべる。
「そんなに、仲が良さそうに見えた?」
二人は頷いた。
「だって穂村さん、普段はかっこいい系って感じなのに、尾崎くんの隣に居る時は、もう表情が明らかに違うっていうか……」
幸村さんが牧之原さんに視線を送った。
牧之原さんは深く頷いてから同意する。
「マジそれな。てか二人、ほんとお似合いだよね。尾崎くん、他の男子と違って大人っぽいというか、落ち着いてて、芽依に釣り合う相手は彼くらいって感じ」
「ふふ、そんなイメージなんですね」
「うわっ、その余裕ある感じ。この~!」
牧之原さんは私の頬を突こうとした。
女子同士の何気ないスキンシップ。それを私は笑顔のまま全力でガードする。
手のひらは許そう。
だがそれ以外は太一にしか触らせない。
「それで穂村さん、一緒に食べなくて大丈夫なの?」
「はい。大丈夫です」
私は幸村さんに微笑みを向ける。
「この時間、彼はいつも図書室で勉強してますから」
「えー何それ。マジメ過ぎじゃね? 昼休みを恋人と過ごしたいとか思わないの?」
私は牧之原さんの質問を嘲笑──いえ、彼女の質問に笑みを浮かべて答える。
「べつに、いつでも一緒にいられますから」
噓です。めっちゃ一緒にご飯食べたいです。
「彼は努力家なので、邪魔したくない」
「「ひゅ~」」
二人はノリの良い反応をした。
「やめてください。恥ずかしいです」
「やめない。もっと聞かせて」
「そうそれ。芽依の恋バナ超気になる」
私は、やれやれという態度を見せます。
それから、ちゃっかり聞き耳を立てている他のクラスメイトにもアピールするため少しだけ大きな声で言いました。
「ちょっとだけ、ですよ」
べつに、付き合ってるわけではない。
まだ。今はまだ。まだギリギリ違う。
だけど私は次の勝負で決める。
休日デートで、彼を確実に落とす。
そして、告白させるのだ。
授業とは、精神的なデートである。
そもそもデートの定義とは何か。
答えは私がデートだと認識すること。
おっと、これは少し横暴よね。
ちょっぴり妥協して、男女が外で会うこと程度にしましょうか。
うんうん、分かってる。
これでは教室内の風紀が乱れますね。
もう少し条件を加えましょう。
例えば、互いを想っていること。
私の矢印は常に彼へ向いています。
彼が私に矢印を向けた時間だけ、精神的なデートが成立するのです。
ドキドキしますね。
ノートの上で走るシャーペンの音。
黒板を叩くチョークの音と、教師の声。
皆が将来のため教養を深める中、二人だけが互いのことを考えている。その背徳感が恋のスパイスとなり、胸の鼓動を早くする。
今、彼を見たら視線が重なるのかな。
彼も同じ気持ちになってくれてるのかな。
なんて、無粋なことを考えるのはダメね。
同じに決まってるじゃない。
彼は私に夢中で、24時間ずっと私のことを考えているはずよ。
だから私は信じるだけ。
心の目で、見つめ合うだけ。
はぁぁ、授業が頭に入らないよ。
胸の鼓動が大きくなる。
周囲に聞こえるかもしれない。
気恥ずかしくて顔が熱くなる。
だけどそれ以上に、彼に届いて欲しい。
そう思う程に、どうしようもなく、自分の気持ちを確かめさせられる。
ああ、私、恋してる。
* * *
お昼休みの時間。
私は用意した弁当箱を机に置く。少し待つと、高校で出会った新しい友達が集まった。
ここに彼の姿は無い。
この教室に、彼の姿は無い。
「穂村さん、尾崎くんと食べないの?」
友達の一人が言った。
彼女の名前は幸村千冬。
一見すると大人しい外見だけど、恋愛に憧れていることが匂いで分かった。だから牽制の意味を込めて「お友達」になった。
「尾崎くん? どうして?」
「だって穂村さん彼と付き合ってるよね?」
……ふっ、来たか。
外堀、埋まったか。
「分かる。いつも一緒に学校来るよね」
彼女は牧之原結衣さん。
とても派手な外見をしているけれど、高校デビューであることが匂いで分かる。
こういう子ほど、太一のような真面目バカに落ちやすい。だから「彼は私の男よ」と理解させるためお友達になった。
「てか帰る時も一緒じゃね?」
牧之原さんが言った。
「そうそう! やっぱり中学から付き合ってるの? それとも、もっと前?」
幸村さんが羞恥と好奇心が入り混じったような声で言った。
「生まれた時からです」
私は澄ました表情でそう答える。
「同じ病院で生まれて、家が近くて、今日までずっと同じ学校、同じクラスです」
二人は「きゃ~!」という反応をした。
私は「あはは、もっと騒げ」という気持ちを必死に抑えて、上品な笑顔を浮かべる。
「そんなに、仲が良さそうに見えた?」
二人は頷いた。
「だって穂村さん、普段はかっこいい系って感じなのに、尾崎くんの隣に居る時は、もう表情が明らかに違うっていうか……」
幸村さんが牧之原さんに視線を送った。
牧之原さんは深く頷いてから同意する。
「マジそれな。てか二人、ほんとお似合いだよね。尾崎くん、他の男子と違って大人っぽいというか、落ち着いてて、芽依に釣り合う相手は彼くらいって感じ」
「ふふ、そんなイメージなんですね」
「うわっ、その余裕ある感じ。この~!」
牧之原さんは私の頬を突こうとした。
女子同士の何気ないスキンシップ。それを私は笑顔のまま全力でガードする。
手のひらは許そう。
だがそれ以外は太一にしか触らせない。
「それで穂村さん、一緒に食べなくて大丈夫なの?」
「はい。大丈夫です」
私は幸村さんに微笑みを向ける。
「この時間、彼はいつも図書室で勉強してますから」
「えー何それ。マジメ過ぎじゃね? 昼休みを恋人と過ごしたいとか思わないの?」
私は牧之原さんの質問を嘲笑──いえ、彼女の質問に笑みを浮かべて答える。
「べつに、いつでも一緒にいられますから」
噓です。めっちゃ一緒にご飯食べたいです。
「彼は努力家なので、邪魔したくない」
「「ひゅ~」」
二人はノリの良い反応をした。
「やめてください。恥ずかしいです」
「やめない。もっと聞かせて」
「そうそれ。芽依の恋バナ超気になる」
私は、やれやれという態度を見せます。
それから、ちゃっかり聞き耳を立てている他のクラスメイトにもアピールするため少しだけ大きな声で言いました。
「ちょっとだけ、ですよ」
べつに、付き合ってるわけではない。
まだ。今はまだ。まだギリギリ違う。
だけど私は次の勝負で決める。
休日デートで、彼を確実に落とす。
そして、告白させるのだ。
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