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2-13.俺が攻略される乙女ゲーム

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 私ッ、月影ルナ23歳!
 昨年まで就活してて面接100社落ちた日本死ねって思ってたけど、やっと内定を貰えた会社の同期に超すごいイケメンが居て、しかも同じ部署で毎日顔を合わせることに! 私、これからどうなっちゃうの~!?

 なーんて思えた時期は遠い昔。
 私が入った会社は、とんでもないブラックでした。

 123。
 これなーんだ。

 正解は、連続出勤記録で~す!
 因みに会社に入ってから今日で123日目で~す!

 おおえぇぇあぁぇぇえおぉぅぇえあぁあぇぇえぃうぇぇぇい!
 アヒャヒャッ、お仕事たのしい~!

「辞めたい!」

 午前3時、コンビニのイートインスペース。
 愛しのジーク様と一緒に少し遅めの昼食を取る私は、

「夜食ですらない!」

 という具合に理性が壊れかけていた。

「ルナは今宵も元気だね。その名の通り、夜空に輝く月のようだ」
「うるせぇバーカ!」

 今そういうのいらない!
 限界を超えた疲労はイケメンでは癒せない!

 私はメロンソーダを一気飲みする。
 炭酸と糖分が全身に行き渡り、理性が回復した。

「……ごめん」
「……いいんだ」

 静寂が生まれ、私達は残り物のコンビニ飯を静かに食べた。

 ……はぁ、好き。優しい。
 この顔で性格まで良いとか最強。

「ジークは、なんでこの会社に居るの?」

 ひょっとして疲れた私の幻覚説ない?
 でも入社直後から見えてるからな……。

「……学ぶため」
「何それ? 社会勉強みたいな感じ?」
「……そうだな」
「ふーん」

 王子様か?
 庶民の生活を知りたい王子様なのか?

「この会社、何か学ぶことある?」
「何も無いということはない」
「例えば?」
「……己の弱さと向き合うことができる」

 なに言ってるのか全然わかんないけど横顔かっこよ~。

「ジークなら、もっと良い仕事あると思うけどな~」
「ほう? それは、どのような?」
「例えばモデルとか、芸能人とか、後は自分で起業しちゃうとか」
「キギョウ?」
「そう! 自分の会社を作っちゃうやつ!」
「それは面白い」
「でしょ! 社長になっちゃえば、こんなブラックとはおさらばだよ!」

 私が提案すると彼は微笑を浮かべた。
 はい国宝。人間国宝ここに現れり~。

「君はキギョウしないのかい?」
「あー、あー、聞こえない。それ一番言っちゃダメなやつ」
「どうして?」
「だって無理じゃん。起業できる能力あったら、こんな会社に居ないよ」

 私は俯いて言う。

「私には、この会社がお似合いなんだよ……」

 彼はしばらく私を見て、

「ならば、俺も無理なのだろう」
「……そんなことないよ。ジークは、すごいもん」
「ありがとう。だけど俺は……上に立つ人間には、なれそうにない」
「……あーあ、またダメか」

 私は思わず呟いた。

「また? 何を言って──」

 リセット。
 そして溜息。


「つかれた」


 俺は久々に弱音を吐いた。
 時間を気にする必要は無い。何度でも挑戦できる。だが心身は削られる一方だ。

 スキル・シミュレート。
 己の妄想を相手に見せるだけのスキルだが、俺クラスの淫力があれば疑似的な恋愛ゲームのような世界を生み出すことができる。

 シチュエーションは、彼らのトラウマとなった時間を選んだ。
 何も知らない彼らの前に本来は現れなかったヒーローとヒロイン月影さんが登場するのだ。

「……あれは本当に皇帝の子供なのか?」

 百回だ。百回も似た時を繰り返した。
 俺は様々な属性を演じ、愛を育もうとした。

 男を相手にする時はスキルで美少女化した。
 義姉を相手にする時はスキルでイケメン化した。

 それなりに有効な関係を築けた自信がある。
 だが──三人とも押しが弱い。我こそが愛する者を導くのだという気概が無い。

 故に、終われない。
 このシミュレーションは彼らがトゥルーエンドに到達するまで繰り返される。

「……不本意だが、仕方あるまい」

 俺は自主性を重んじる方針を選択した。

 しかし時間切れだ。
 もはや愛想が尽きた。
 
 次だ。次で全て終わらせる。
 淫キャの本気──見せてやる。
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