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2-12.淫キャの答え

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 ジアス帝国の中央には天と地を繋ぐ光の柱がある。
 しかし、目を凝らせば柱の中央部分に円形の空間が見える。

 まるで女神が住まう庭園。
 どこから水が出ているのか分からない水路。日光など無いのに瑞々しい輝きを持つ植物。そして中央には、なぜか茶会でもできそうな広いテーブルがある。

 皇帝と、そして四兄妹。
 とても豪華な面々が一堂に会していた。

「皇帝陛下、これは何の集まりですか」

 カリンの兄が言った。
 流石は親子というべきか、とても似ている。

 しかし残念なことに、彼からは皇帝のような覇気を感じられない。

「……」

 皇帝は腕を組み、沈黙を貫いた。
 カリンの兄は訝しげに目を細め、手元にあるティーカップに手を伸ばした。

 ──瞬間、俺は彼らの頭上にある扉から参上した。

 沈黙。そして注目。
 俺の登場を知っていたカリンと皇帝は涼しい顔をしているが、残りの三人は──

「うわぁぁぁぁぁぁ!?」(兄)
「キィヤァァァ!? けだものですわ!?」(姉)
「しねぇぇえええええ!!!」(弟)

 と、熱烈な歓迎をした。
 
「はっはっは、元気な義兄弟達ではないか」

 俺は挨拶代わりの魔法を無抵抗で受けて言った。
 
「なっ、無傷だと……?」

 義兄が驚愕した様子で言った。
 無論、無傷というわけではない。

 流石は皇帝の血を引く者達と言うべきか、それなりに良い魔力だった。しかし皇帝と比較すれば幼児のビンタ程度の威力だ。皇帝の魔力を受けた直後の俺は、いくらか乳頭が硬くなる程度のダメージしか受けなかった。

「初めまして、義兄弟。俺は月影。カリンの婚約者だ」

 三人は目を見開いた。

「……バカな」

 お義兄さまが言った。

「イヤァァァァァ!?」

 お義姉さまが悲鳴をあげた。

「しねぇえええええ!」

 義弟くんが魔法を放った。

「はっはっは、ユニークな義兄弟達だな」

 俺は義弟くんの魔法を再び無抵抗で受け、笑った。

「やめておけ」

 皇帝が言う。

「この者は、冥界の誰よりも強い」

 三人は驚愕の表情を浮かべた。

「さて」

 その瞬間に生まれた隙を俺は逃さない。
 会話の主導権を握るには、このタイミングがベストだ。

「あらためて挨拶をしよう。お察しの通り、俺は幻界人だ。美男美女揃いの君達からすれば容姿は劣っているだろうが……俺は、この場における誰よりも強い」

 お義兄さまは俺と皇帝を交互に見た。
 皇帝は澄ました表情をして、カリンが持ち込んだ紅茶を飲んでいる。

 やはり絵になる男だ。
 ほんの数分前まで俺の椅子になって喘いでいたとは思えない。

「俺は悲しい」

 本音はさておき、演説を始める。

「聞けば義兄弟達、幻界から逃げ帰ったそうじゃないか」
「逃げてなど──」

 お義兄さまの言葉が途中で消える。
 悪いが、話が進まないからスキルを使わせてもらった。

「事情はカリンから聞いた。俺はその痛みを否定しない」
 
 ──敗北は連鎖する。
 貴重な経験値は強者に独占され、弱者は何も得られない。

 敗北は性格を歪める。
 歪み続けた果てにあるのは必敗。おっぱいと響きが似ているが、その性質は全てを癒す脂肪とは真逆──死亡に等しい。

「俺も世界を呪ったことがある」

 俺は悪くない。俺の位置まで降りてこない社会が悪い。
 このマインドが無ければ、今頃はヒキニートになっていたことだろう。

「だがそれは、王の器ではない」

 赤の他人が相手ならば、このようなことは言わない。
 しかし相手は義兄弟達である。例えるならば、政治に対する不満ばかりを口にする親戚が居るようなものだ。辛過ぎる。

 冥界は力こそ正義。
 だが皇帝は投票によって決まる。
 理由は弱者に力を振るわせないため。

 つまり──弱い自分を乗り越えた真の強者こそが、皇帝に選ばれるということ。

「月影よ、前振りは十分であろう」

 皇帝が言った。
 俺は頷き、告げる。

「ゲームをしよう」

 敗北はヒトを歪め続ける。
 しかし生粋の陰キャであった俺は淫キャになった。

 その理由は何か。
 何が俺を淫キャたらしめたのか。

 答えは──愛だ。
 故に、ゲームをする。

 愛+ゲーム=恋愛シミュレーションゲーム。
 すなわち──

「俺が攻略される乙女ゲーム」
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