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金曜日の夜の出来事

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 時間が来たら、はいおしまいでさようなら。
わかりやすくっていい。限りがあるからしっかり愛することが出来る。いつまでも一緒にいられればそれこそ大変なだけだ。どれだけ愛していても24時間365日、ずっと想うことなんて出来ないから。

 水のはじける音で目を開けると首元まで薄い布団が掛けられていた。どうやら少し眠ってしまったらしい。ごそごそと布団の中を探るがパンツが見当たらない。仕方がないと思いきって布団をめくるとブラが2枚とパンツが1枚、ふわりと浮いた。

 やっぱり社会人は良い物着けてるなと、ベッドに鎮座するブラを見ながらパンツをはいた。ぺたぺたと裸足でローテーブル脇にある鞄を開けて乱雑に入れられた制服を取り出した。今さら遅いかもしれないがしわが残らないように折りたたんで鞄に入れ直す。

 鞄のジッパーを閉めるとがちゃりとシャワールームの扉が開く音が聞こえてきた。続いてドライヤーの音、このあと化粧を直してでてくるからもう少しかかるだろう。ベッドに戻ってそのまま布団を被るとスマホの電源を入れる。画面に表示されているたくさんの通知を、届いた時間が早い方からひとつずつつぶしていく。今日出た宿題のこと、クラスメイトのどうでも良い愚痴、バイト先の代わりの募集、そして母からの連絡。

 スマホの右上の時刻を見ると21時前、入ったのが19時前だからあとちょうど1時間くらいか。ご飯を食べて帰ることはすでに今朝家を出るときに直接伝えているので日付が変わるまでには帰ると連絡する。程なく母からOKのスタンプが返ってきた。どうやら返事を待っていたらしい。だが連絡したしもう大丈夫だろう。成績も良く反抗期もなかった私は両親に信頼されてるのだ。

 そろそろかなと思いスマホをベッド横にあるコンセントで充電を始めると薄く化粧をした彼女がパンツだけ身につけて文字通りの化粧室の扉から現れた。
「おや、起きたね」
 この人はいつも元気だなと思う。
「ちょっと目をつぶってただけですよ」
 と微笑みながら言うと、ははと一笑された。

「私もシャワー浴びていいですか?」
 いつものことなので彼女の同意を待たずにシャワールームへと向かう。
「ひゃっ」
 なんてことだ、すれ違いざま胸を揉まれた。こんなこと今までなかったぞ。両腕で胸を隠しながら睨みつけるとまるで何事もなかったかのようにベッドのブラを取ろうとしていた。
「さいてー」
 そう言い残しシャワールームに入った。

 私にはぬるすぎるシャワーの温度を上げると全身に水滴を浴びる。シャンプー、ボディーソープ、コンディショナー、手早く全身を洗うと最後にもう一度頭から水滴を浴びた。バスタオルで全身を拭いたらパンツを履いて鏡に向かう。ドライヤーのスイッチをつけようとすると勢いよく扉が開きTシャツ姿の彼女が入って来た。
「髪を乾かしてあげよう」
 突然の侵入者に驚く私を置き去りにするかのようにドライヤーを手に持ち私の髪に風を当て始めた。
困惑する私をよそに鼻歌交じりで髪を乾かしてくれる。なんだかくすぐったい。でも心地良い。どんどんと髪がとかされてゆく。鏡の中で彼女と目が合った。気恥ずかしさを感じる。

「終わり」
 そう宣言すると彼女はドライヤーを置いて出て行ってしまった。いつもとは違う彼女のことを考えながら化粧水を肌にしみこませた。
扉を開けてベッドを見ると彼女はじっとこちらを見ていた。もしかして待っていたのだろうか。

 ベッドのブラを回収し私もTシャツを着ると彼女が手招きした。時間的にもう一度することはないとは思うがおずおずとベッドに座る。一瞬の逡巡ののち、
「もう終わりにしましょう」
 私の目を見つめて真剣な顔で彼女は言い放った。

 頭が混乱する。いったいどういうことだ。終わりとは何のことだ。どうして、はたして聞こえただろうかというほどの声で疑問をぶつけた。彼女はぽつぽつと私に理由を話した。彼女のお母さんが倒れたこと。今は命に別状はないこと。ただ以前のようには動けないこと。そのため実家に戻ること。実家は遠くにあること。だからもう、会えないこと。気が付けば私は彼女にしがみついていた。
「泣いてるの?」
 先ほど乾かした髪をなでながら優しく訪ねてくる。
「泣いてません」
「はは、嘘ばっかり」
 優しい声が聞こえてくる。
「いつ引っ越すんですか?」
「来月の初めには」
「じゃああと3回会えますね」
「そうだね」
 駄々をこねるような私の言葉に優しく返してくる。
「はじめはさ、お互い好きじゃなかったと思うの、でも今は違うと思う。だからさ、今までみたいに夜に待ち合わせしてファミレスでご飯食べて、ホテルへ行ってはい解散みたいじゃなくてさ、水族館とか、公園とか、服屋さんとかも良いね。好きだなーって思いながら二人でいようよ朝から晩まで今の私達ならきっと楽しいよ」
 彼女の言葉で胸がいっぱいになる。始まりは体だけの関係だった。でも今は違う。制限がないと愛せない、そう自分に言い聞かせなければならないほど彼女のことを好きになっている。二人とも気づいていたのに、多分きっかけが無かっただけなのだ。そのせいで何故だかずっと続く気がしてしまったのだ。そんなことなど無いはずなのに。

 彼女が私の体を引き剥がす。涙でぐしゃぐしゃの顔を真剣な目で見つめられる。ゆっくりと顔が近づいて来る。唇に柔らかな感触、いままでで一番優しいキスだ。
「さしあたって、今晩は一緒にいませんか?」
 照れながらの彼女の提案に私は大きくうなずいた。
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