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第1章 さまよえる狼
リリアの苦悩
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午後、リリアはシャリルの部屋を訪れた。
シャリルが怒りを爆発させた直後であることが、室内の荒れ具合からわかった。
「義兄上、どうか落ち着いてください…」
「あいつは俺を侮辱した。ゆるせぬ!」
「でも、殿下はヤシマ人の警備を付けることを条件に、ご決意なされたと聞いています。ここはどうか感情を抑えて… 」
「黙れ…。お前ごときが俺に意見するな…」
「はい…。ですが…。ここは私が何とかして彼を説得いたします…」
「お前が?」
明らかにシャリルは冷静さを欠いており、感情を制御できていない。
「フフフ。ハハハ。お前が? なるほど、色仕掛けでもするつもりか? ならば、あんな童貞野郎、簡単に落とせるかもしれぬな」
リリアは顔をしかめた。
「義兄上…」
「ちっ」
シャリルはワインをグラスに注ぐ。しかし、焦点が定まらず、多くが机の上に零れてしまう。
グラスを一気に飲み乾すと、少し落ち着きを取り戻した。
「冗談だ。許せ。どうだ、お前も一緒に飲まぬか?」
「いえ、遠慮させて頂きます…」
シャリルは落胆し、大きく息を吐いた。
額に人差し指をあてて、しばらく考え込んだ。やがて、妙案を思いついた、つもりになった。
「決めた。あの小僧は、もうどうでもいい」
「え? でも、他にヤシマがいませんわ?」
シャリルは、嫌な笑みを浮かべた。
「お前だよ!」
リリアは驚きのあまり、声も出なかった。
「きっとお前なら上手く騙し通せる!」
「騙すのですか? 殿下やかの国の方々を? 私は絶対に嫌です…」
シャリルがつかつかと歩みより、リリアの顎を指の上に載せた。
「お前が嫌と言える立場か! 誰もお前に意見など求めておらぬと言っておるだろうが!」
リリアは顔を背けた。
すると、シャリルは、いきなりリリアの体を抱きしめた。
「おやめください…」
シャリルは無理にでも唇を重ねようとするが、リリアが執拗に拒み続けるため、シャリルはさらに腹を立てた。
「おい! 貴様! 俺の妻になることを承諾したのではなかったのか!」
「はい、それは… 。あの、まだ心の準備ができませぬので…。いましばらく…ご猶予を… 」
シャリルはリリアを突き放した。
「くそ! どいつもこいつも逆らいやがって!」
椅子に座り、もう一度ワインを飲み乾した。
「いいだろう。小僧を説得できるというなら、やってみろ。だが、説得できなかったときは、お前がヤシマ人になれ」
「…」
「わかったな? わかったらとっとと行け」
「…はい。失礼いたします…」
リリアは部屋の外に出ると服の乱れを正し、大きく息を吐くと、肩を落とした。
両手で自分の頬を叩き、再び胸を張って歩き始めた。
リリアは神妙な面持ちで、レイの部屋の前に立っている。
右手を肩口の前に上げたまではいいのだが、その次の行動に移れない。
何とか決意を固め、ついにドアにノックをしようとした時、
「あの、お嬢様!」
と囁く声がした。女中が口に人さし指を立てながら、そっと近寄ってきた。
「今、とてもぐっすりとお休みになられていますので、ご用向きは、もう少しお後になさった方がよろしいかと…」
「そうなの? じゃあ、そうするわ。ありがとう」
「ところでお嬢様、こちらの方、蕃人さんのようですけど、とてもよい感じのお方ですね。細かいところにも、よくお気づきになって、いちいち褒めてくださいますのよ。本当にお仕えしがいがありますこと。では、お目覚めになられましたらお知らせいたします」
「必ず教えてください。大事なお話があるので。じゃ…」
リリアは一旦自室へ戻った。
ベッドに体を放り投げて、目を閉じた。
レイが眠っているのなら、何も急いで話をしなくてもよい。その間に説得の仕方を考えよう。
しかし、粗雑かと思っていたレイに、そのような繊細な一面があったとは。
なぜか分からないが、少し心が和らいだのであった。
シャリルが怒りを爆発させた直後であることが、室内の荒れ具合からわかった。
「義兄上、どうか落ち着いてください…」
「あいつは俺を侮辱した。ゆるせぬ!」
「でも、殿下はヤシマ人の警備を付けることを条件に、ご決意なされたと聞いています。ここはどうか感情を抑えて… 」
「黙れ…。お前ごときが俺に意見するな…」
「はい…。ですが…。ここは私が何とかして彼を説得いたします…」
「お前が?」
明らかにシャリルは冷静さを欠いており、感情を制御できていない。
「フフフ。ハハハ。お前が? なるほど、色仕掛けでもするつもりか? ならば、あんな童貞野郎、簡単に落とせるかもしれぬな」
リリアは顔をしかめた。
「義兄上…」
「ちっ」
シャリルはワインをグラスに注ぐ。しかし、焦点が定まらず、多くが机の上に零れてしまう。
グラスを一気に飲み乾すと、少し落ち着きを取り戻した。
「冗談だ。許せ。どうだ、お前も一緒に飲まぬか?」
「いえ、遠慮させて頂きます…」
シャリルは落胆し、大きく息を吐いた。
額に人差し指をあてて、しばらく考え込んだ。やがて、妙案を思いついた、つもりになった。
「決めた。あの小僧は、もうどうでもいい」
「え? でも、他にヤシマがいませんわ?」
シャリルは、嫌な笑みを浮かべた。
「お前だよ!」
リリアは驚きのあまり、声も出なかった。
「きっとお前なら上手く騙し通せる!」
「騙すのですか? 殿下やかの国の方々を? 私は絶対に嫌です…」
シャリルがつかつかと歩みより、リリアの顎を指の上に載せた。
「お前が嫌と言える立場か! 誰もお前に意見など求めておらぬと言っておるだろうが!」
リリアは顔を背けた。
すると、シャリルは、いきなりリリアの体を抱きしめた。
「おやめください…」
シャリルは無理にでも唇を重ねようとするが、リリアが執拗に拒み続けるため、シャリルはさらに腹を立てた。
「おい! 貴様! 俺の妻になることを承諾したのではなかったのか!」
「はい、それは… 。あの、まだ心の準備ができませぬので…。いましばらく…ご猶予を… 」
シャリルはリリアを突き放した。
「くそ! どいつもこいつも逆らいやがって!」
椅子に座り、もう一度ワインを飲み乾した。
「いいだろう。小僧を説得できるというなら、やってみろ。だが、説得できなかったときは、お前がヤシマ人になれ」
「…」
「わかったな? わかったらとっとと行け」
「…はい。失礼いたします…」
リリアは部屋の外に出ると服の乱れを正し、大きく息を吐くと、肩を落とした。
両手で自分の頬を叩き、再び胸を張って歩き始めた。
リリアは神妙な面持ちで、レイの部屋の前に立っている。
右手を肩口の前に上げたまではいいのだが、その次の行動に移れない。
何とか決意を固め、ついにドアにノックをしようとした時、
「あの、お嬢様!」
と囁く声がした。女中が口に人さし指を立てながら、そっと近寄ってきた。
「今、とてもぐっすりとお休みになられていますので、ご用向きは、もう少しお後になさった方がよろしいかと…」
「そうなの? じゃあ、そうするわ。ありがとう」
「ところでお嬢様、こちらの方、蕃人さんのようですけど、とてもよい感じのお方ですね。細かいところにも、よくお気づきになって、いちいち褒めてくださいますのよ。本当にお仕えしがいがありますこと。では、お目覚めになられましたらお知らせいたします」
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