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LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN.
LOVE IS SOMETHING YOU FALL IN. 第10話
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(い、今、『上野』って聞こえた……)
不意に聞こえた『ある人物』の苗字。
それは、唯哉と同じく初等部からずっと一緒にサッカーをプレーしてきた仲間であり親友だった上野英彰の苗字だ。
運動神経と体格に恵まれゴールキーパーを努める唯哉とは違い、悠栖と同じポジションで切磋琢磨し技術を磨いて苦楽を共にしてきた英彰は、今はもうサッカーを辞めて帰宅部で暇を持て余していると聞いた。
体験入部の初日、もう見知った馴染みのチームメイト達はその中に英彰が居ないとすぐに気が付いた。
そしてその日の夜には何人もが英彰の部屋に押しかけ、『どうしていなかったんだ』とサッカー部に顔を出さなかった理由を問い詰めた。
英彰は『厭きたから』と不愛想に元チームメイトを追い返して決して理由は話さなかったが、その態度のおかげで悠栖と唯哉は口を閉ざす英彰がサッカーを辞めた『理由』が分かってしまった。
部室の前、悠栖は緊張に呼吸が浅くなり、息苦しさを覚える。
ドアの向こうでは自分の存在に気づいていない先輩達が話を続けている。
悠栖は、『止めろ』と、『ダメだ』と叫ぶ理性を無視して一歩足を踏み出し、ドアに耳を押し当て会話を盗み聞いた。
「上野ってサッカーに厭きて辞めたんだろ? そんな奴勧誘するとか止めろよ。チームの雰囲気悪くなるだろ?」
「だな。サッカーへの熱が無くなった奴なんて使い物になるかも疑問だし、なによりそんな奴がレギュラー取ったら、俺なら立ち直れねぇーよ」
話の内容を聞く限り、どうやら誰かがサッカー部に戻るよう英彰を説得しているようだ。
しかしそれを聞いた他の先輩達は説得するだけ無駄だと切り捨て、チームの団結のためにも英彰のことを諦めるよう勧めていた。
やり取りを聞きながら、悠栖の脳裏に過るのは英彰がサッカーを辞めた『本当の理由』。
自分の中でずっと燻っていた『罪悪感』を必死に見ないようにしてきたのに、今それは存在を誇示するかのように『本当の理由』と相まって悠栖を襲ってきた。
心理の中だけでなく、現実世界でも。
今ならまだ間に合う。盗み聞きをやめろ。
その声はきっと自分を守るための幻聴。だが悠栖はその言葉に従うべきだと自分に言い聞かせドアから離れるよう身体に命じた。
しかし、身体は思いに反して動いてはくれなくて……。
「いや、それがさ、あいつがサッカー辞めた理由、厭きたからじゃないみたいなんだよ」
「なんだその情報。俺は上野本人からハッキリ『厭きた』って言われたぞ?」
「だからそれが嘘なんだって。でもまぁ真相聞いたら『あー』って感じだったよ、俺は」
「なんだよ『真相』って。もったいぶらないで教えろよ」
騒ぐ声は大きくなる。その一方で悠栖の心臓は不安と緊張ででたらめなぐらい早く鼓動していた。
「実はさ、上野、去年の冬頃に天野にきっぱり振られてるらしいんだよ」
「え、その話ってマジ? じゃあ上野がサッカー辞めた理由って―――」
「辞めたくて辞めたんじゃなくて、天野が居るから入部できなかったんだろうな」
「うわぁ……マジかー……」
先輩達は、自分を振った相手と仲良くサッカーなんてできねぇよなぁ。と英彰に同情を示す。
そして、ずっと悠栖が考えないようにしていた事を口に出した。
「でもそういうことなら、俺は正直、天野より上野に入部して欲しいな。あいつのサッカーセンスは光るものがあるし、ここで辞めるのは勿体ないだろ」
「だろ? だから俺も上野にどうしても入部して欲しくてこの三日間上野のストーカーしてたんだよ」
「ストーカーはすんなよ。上野に迷惑だろ」
軽口に笑い合う先輩達の声は楽しげだ。
だがその笑い声は悠栖の顔から表情を奪い、罪悪感を増長させた。
あれは今から四カ月程前の事だ。
それより前に自分の事が『恋愛対象』として『好き』だと言ってきた英彰から、絶縁を言い渡された。
今後話しかけないから話しかけないで欲しいと頭を下げられた。
勿論背景はどうであれ親友から一方的に縁を切られるなんて悠栖が黙っているわけもなく、なんの冗談だと笑い飛ばそうとした。
しかしそんな悠栖に向けられたのは辛そうな悲しそうな英彰の眼差しで、それ以上食い下がることはできなかった。
大事な友人だと思っている相手から『恋愛対象』として想われる事はこれまでもあった。
そしてみんな同じ理由で自分のもとから去って行った。
みんな友人として『大好き』だったが、自分は彼らと同じ『大好き』を返せなかった。
だって、自分は『女の子』と恋愛をすることが『普通』だと思っているから。
そんな悠栖の性的嗜好を知りながらも、友人達は想いを告げてきた。
そしてその時も全員が同じ言葉を口にした。『応えて欲しいわけでも困らせたわけでもない』と。『ただ好きでいることを許して欲しい』と。
言葉通りに想いを受け取った悠栖は、彼らの願い通り告白を受けてからも友人として接した。
友人としてみんな大事に思った。しかし―――。
不意に聞こえた『ある人物』の苗字。
それは、唯哉と同じく初等部からずっと一緒にサッカーをプレーしてきた仲間であり親友だった上野英彰の苗字だ。
運動神経と体格に恵まれゴールキーパーを努める唯哉とは違い、悠栖と同じポジションで切磋琢磨し技術を磨いて苦楽を共にしてきた英彰は、今はもうサッカーを辞めて帰宅部で暇を持て余していると聞いた。
体験入部の初日、もう見知った馴染みのチームメイト達はその中に英彰が居ないとすぐに気が付いた。
そしてその日の夜には何人もが英彰の部屋に押しかけ、『どうしていなかったんだ』とサッカー部に顔を出さなかった理由を問い詰めた。
英彰は『厭きたから』と不愛想に元チームメイトを追い返して決して理由は話さなかったが、その態度のおかげで悠栖と唯哉は口を閉ざす英彰がサッカーを辞めた『理由』が分かってしまった。
部室の前、悠栖は緊張に呼吸が浅くなり、息苦しさを覚える。
ドアの向こうでは自分の存在に気づいていない先輩達が話を続けている。
悠栖は、『止めろ』と、『ダメだ』と叫ぶ理性を無視して一歩足を踏み出し、ドアに耳を押し当て会話を盗み聞いた。
「上野ってサッカーに厭きて辞めたんだろ? そんな奴勧誘するとか止めろよ。チームの雰囲気悪くなるだろ?」
「だな。サッカーへの熱が無くなった奴なんて使い物になるかも疑問だし、なによりそんな奴がレギュラー取ったら、俺なら立ち直れねぇーよ」
話の内容を聞く限り、どうやら誰かがサッカー部に戻るよう英彰を説得しているようだ。
しかしそれを聞いた他の先輩達は説得するだけ無駄だと切り捨て、チームの団結のためにも英彰のことを諦めるよう勧めていた。
やり取りを聞きながら、悠栖の脳裏に過るのは英彰がサッカーを辞めた『本当の理由』。
自分の中でずっと燻っていた『罪悪感』を必死に見ないようにしてきたのに、今それは存在を誇示するかのように『本当の理由』と相まって悠栖を襲ってきた。
心理の中だけでなく、現実世界でも。
今ならまだ間に合う。盗み聞きをやめろ。
その声はきっと自分を守るための幻聴。だが悠栖はその言葉に従うべきだと自分に言い聞かせドアから離れるよう身体に命じた。
しかし、身体は思いに反して動いてはくれなくて……。
「いや、それがさ、あいつがサッカー辞めた理由、厭きたからじゃないみたいなんだよ」
「なんだその情報。俺は上野本人からハッキリ『厭きた』って言われたぞ?」
「だからそれが嘘なんだって。でもまぁ真相聞いたら『あー』って感じだったよ、俺は」
「なんだよ『真相』って。もったいぶらないで教えろよ」
騒ぐ声は大きくなる。その一方で悠栖の心臓は不安と緊張ででたらめなぐらい早く鼓動していた。
「実はさ、上野、去年の冬頃に天野にきっぱり振られてるらしいんだよ」
「え、その話ってマジ? じゃあ上野がサッカー辞めた理由って―――」
「辞めたくて辞めたんじゃなくて、天野が居るから入部できなかったんだろうな」
「うわぁ……マジかー……」
先輩達は、自分を振った相手と仲良くサッカーなんてできねぇよなぁ。と英彰に同情を示す。
そして、ずっと悠栖が考えないようにしていた事を口に出した。
「でもそういうことなら、俺は正直、天野より上野に入部して欲しいな。あいつのサッカーセンスは光るものがあるし、ここで辞めるのは勿体ないだろ」
「だろ? だから俺も上野にどうしても入部して欲しくてこの三日間上野のストーカーしてたんだよ」
「ストーカーはすんなよ。上野に迷惑だろ」
軽口に笑い合う先輩達の声は楽しげだ。
だがその笑い声は悠栖の顔から表情を奪い、罪悪感を増長させた。
あれは今から四カ月程前の事だ。
それより前に自分の事が『恋愛対象』として『好き』だと言ってきた英彰から、絶縁を言い渡された。
今後話しかけないから話しかけないで欲しいと頭を下げられた。
勿論背景はどうであれ親友から一方的に縁を切られるなんて悠栖が黙っているわけもなく、なんの冗談だと笑い飛ばそうとした。
しかしそんな悠栖に向けられたのは辛そうな悲しそうな英彰の眼差しで、それ以上食い下がることはできなかった。
大事な友人だと思っている相手から『恋愛対象』として想われる事はこれまでもあった。
そしてみんな同じ理由で自分のもとから去って行った。
みんな友人として『大好き』だったが、自分は彼らと同じ『大好き』を返せなかった。
だって、自分は『女の子』と恋愛をすることが『普通』だと思っているから。
そんな悠栖の性的嗜好を知りながらも、友人達は想いを告げてきた。
そしてその時も全員が同じ言葉を口にした。『応えて欲しいわけでも困らせたわけでもない』と。『ただ好きでいることを許して欲しい』と。
言葉通りに想いを受け取った悠栖は、彼らの願い通り告白を受けてからも友人として接した。
友人としてみんな大事に思った。しかし―――。
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