特別な人

鏡由良

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my treasure

my treasure 第33話

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「それで、どうする? お前が『来てくれ』って言うなら、俺が葵に怒られてやるけど」
「何を企んでるんだ?」
「お前じゃあるまいし悪だくみなんてしてねぇよ。……まぁ、ちょーっとだけ不純な動機もあるけど」
「はぁ……。ちゃんとできたとは言えない。半分も挿れられなかったし、何より俺が持たなかった。これで満足か?」
 車を走らせながら昨夜の情事について説明する虎に、海音は体勢をそのままに目を見開いて驚いた顔をして見せた。絶対殴られると思ってた。なんて言いながら。
 殴られると分かっているくせに聞いてくる海音をやっぱりドエムだと虎は詰り、運転中じゃなければ殴ってたと言葉を返す。
 だが、たとえ運転中だとしても殴る程のことならそもそも暴露はしないだろう。海音の要望を受け入れたのは、悪者になってくれる親友への誠意かもしれない。
 実は律儀なくせに口では悪態しかつかない虎を良く知る海音は楽し気に笑い、「任せろ親友」と身を乗り出した。
「でも、そっか。やっぱ全部は入らなかったか」
「おい。調子に乗るな」
「葵でエロいことなんて考えてねぇから怒んな怒んな。お前のちんこがでかいって知ってるからずっと心配してたんだよ」
「調子のいいことを……。親友が悩んでる所がそんなに面白いか」
 虎の独占欲は良く知っている。だからこそ、他の友人達とするような猥談は虎とは殆どしたことが無かった。虎が欲情するのは葵唯一人だけだから。
 たとえ想像だけだとしても他者が恋人のあられもない姿を思い描くことが耐えられない。それが海音の親友だ。
 その親友が、あの独占欲の塊ともいえる虎が、見返りがあるとはいえこうやって猥談に付き合ってくれるなんて海音にしてみればまさに青天の霹靂と言ってもいいだろう。
「怒るなよ。面白がってるわけじゃねぇーんだから」
「顔が笑ってるぞ」
「それは仕方ねぇーじゃん。お前が悩んでる所なんてレア中のレアなんだからさ」
 また葵に嫉妬される要因が増えたな、俺。
 そう言いながら運転中の虎の表情を窺うようにルームミラーに視線を向ければ、一瞬だけ目が合った。呆れたような表情だったが、不機嫌ではなさそうだから良しとしよう。
「葵には絶対に言うなよ。言ったらマジで殺す」
「あれ? 嫉妬されたいとか思わねぇーの?」
「自分の情けない所を晒してか?」
「カッコつけだな、お前。これからずっと一緒にいる相手に良いカッコばっかしてると後で泣き見るぞ」
「ずっと一緒に居たいからだろうが。そもそもペニスがデカすぎて恋人とまともにセックスもできないなんて悩み、お前に分かるわけない」
「巨根自慢かよ。腹立つな。言っとくけど、俺のは標準だからな!?」
 粗チンじゃねぇ! そう言いながら背をシートに預ける海音は珍しく不機嫌な面持ちをしている。やはりナニの大きさは男にとってはとてもデリケートな話題のようだ。
「なんで怒るんだ。ペニスの大きさについてはお前が羨ましいって話だろうが」
「はぁ? 俺はお前が羨ましいんですけど!?」
「俺が『羨ましい』? 恋人とまともにセックスできないのに? 愛し合うためには恋人に痛みを堪えてもらわないとダメなのに、それでもお前は俺が羨ましいって言うのか?」
 俺はむしろ粗チンになりたい。
 そう言い切る虎に海音は「馬鹿野郎!」とまた身を乗り出してきた。
「初めてなんてよっぽどの粗チンじゃない限り痛いもんなんだよ。回数こなせば慣れて痛みもマシになるし、むしろ粗チンじゃ入ってるのか入ってないのか分からないって笑われるんだぞ!?」
「それ、経験談か?」
「だから俺は粗チンじゃねぇって!! これは元々カノ―――いや、元元々だったか? ともかく、高校の時に付き合ってた子に聞いた話だ!」
 エッチした後に何故か元カレの話をされた時に聞いたと言った海音は、当時を思い出しているのか何とも言えない顔をしている。
「女の子って残酷だよな。昔とは言え好きだった相手のことを『子供の親指レベルで笑った』とか言うんだぜ? 流石の俺も正直ドン引きだったよ……」
「女子がっていうより、そいつの性格が終わってるだけじゃないか? それ」
「そうだけど。そうだけどさぁ……、裏でそんな風に言われてるかもとか考えたらもう恐怖じゃん?」
 別れ話を持ちかけた時にエッチの相性は良かったのになんで!? と言われたから海音自身はセックスを話のネタにされることはないとは思うが、それでも暫くの間女の子と付き合うことができないぐらい引き摺った。
 肩を落とす海音の話に、虎は「そういうものなのか」と相槌を返す。だが、どう見ても興味がなさそうだ。
 親友の気のない声に気付かないわけもなく、海音は更に身を乗り出すと「だからな!!」と虎の興味を戻すべく話を続けた。
「ちんこは絶対でかい方が良いわけだよ!!」
「うるせぇ……。車内でそんな大声出すなよ、バ海音」
 煩わしそうな虎。海音は親友の態度を無視して「俺も巨根になりてぇ……」と項垂れているから忙しい奴だ。
「……なんかさ、慣れれば最高に気持ちいいらしいぞ」
「また元カノ情報か? そもそも葵は男なんだ。女の話なんて参考になるわけないだろうが」
「いや、これは違う。男にも女の子みたいに気持ちよくなれる場所があって、ちんこがでかいと挿れられただけでそこが擦れて――――」
「待て。お前誰に何聞いてるんだ」
 人体の神秘だと言いたげな海音に虎が見せるのは脱力だ。
 ヘテロセクシャルのお前が何故そんなことを知っていると恐る恐る尋ねれば、「雲英の店でネコ? って言ってた人に聞いた」とあっけらかんとした声が返って来た。
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