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my treasure
my treasure 第29話
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「海音。お前、今何考えてた」
「いやぁ……。まぁ、うん。ごめん」
一瞬誤魔化そうかと逡巡した海音だが、下手な言い訳はむしろ逆鱗に触れかねないと過去を思い出して素直に謝った。
頭を下げた海音の右肩を襲うのは骨に響く痛みで、思わずそこを抑えて床に額をこすりつけてしまう。
「いってぇ」
「だ、大丈夫か、海音? 虎、お前なぁ!?」
「い、いい。大丈夫、大丈夫だから……、今のは俺が悪かったから……」
葵の痴態を想像したわけではないが、それに近い姿は頭に浮かんでしまった。
弟に近い存在のあられもない姿に海音自身も罪悪感を覚えていたから、これは当然の罰だと受け止める。
「俺が虎の立場なら、絶対同じことしてるから」
「何処まで想像したんだてめぇ」
「ギリギリ一歩手前まで」
「死ね」
背中に落ちてくる追撃。
ぐえっと呻き声と共に潰されたカエルのように床に転がる海音。
そんな海音を心配する雲英の怒鳴り声に、虎は立ち上がると「馬鹿の世話は任せた」と部屋を出て行こうとした。
「お、おい! ちょっと待てよ!」
「お前らにはただの娯楽かもしれないが、こっちは本気で悩んでるんだ。笑い話が欲しけりゃ他を当たれ」
人の苦悩をネタに楽しむ連中に話すことはない。
そう吐き捨てる虎に、待て待て待て! と雲英は追いかけてきた。
「お前何なの? それ、完全に被害妄想だからな!?」
「今までのやり取りで『揶揄ってない』って言いきれるのか?」
「言い切れる! つーか、揶揄ってなんかないだろうが! いや、確かに俺はそう思われたかもしれないけど!!」
でも海音はお前のこと揶揄ってなんてないだろうが!
そう声を荒げる雲英は、純粋に親友のことを祝福し、心配する海音の気持ちを理解しろと睨んでくる。
「お前が彼氏のこと大事にしてるのは嫌ってぐらい分かってるけど、海音の心配をただの好奇にしてやるな!」
「心配してると言えば相手が嫌がることをしてもいいのか? 俺は俺の葵でエロい妄想されたくないだけだ」
「してないだろう!?」
「本人がしたって言っただろうが」
『ギリギリ一歩手前まで』
ついさっきそう言った海音の言葉が聞こえなかったのか?
冷ややかな視線を向ける虎に、雲英は言葉を詰まらせる。
確かに、言っていた。でもあれは決して好奇からではなかった。それは虎も分かっているはずなのに、何故ここまで怒るのか雲英には理解できない。
「き、雲英、悪い。俺が悪いから、大丈夫。虎のこと、責めないでやってくれ」
「でも―――!」
「雲英! ……虎、マジでごめん。想像するつもりはなかったんだ。本当に」
痛みは幾分マシになったようだが、立ち上がった海音の表情は青褪めていてとてもじゃないが『大丈夫』には見えない。
当然、雲英は心配するのだが、海音本人に制されたら何も言えなくなってしまう。
虎が見せる視線は冷ややかなまま。
海音はそんな親友に、もう一度頭を下げた。
「エロ脳でごめん」
と。
「…………親友の癖に俺の執着を理解してないお前が悪い」
「! だよな。マジでごめん」
溜息交じりの声からは怒気は感じない。
難儀な性格の親友らしい『謝罪』に苦笑を漏らす海音は納得できない表情ながらも黙って見守ってくれた友人の肩に手を乗せ、「雲英もゴメン」と笑顔を見せた。
「なんで海音が謝るんだ」
「ん。だな。ありがとう、だよな」
不機嫌な面持ちのまま不満を漏らす雲英。
海音はそんな彼に屈託ない笑みを見せ、その笑顔を間近で見た雲英は勢いよく顔を逸らして「わ、分かればいい!」と動揺が全く隠せない。
「いやぁ……。まぁ、うん。ごめん」
一瞬誤魔化そうかと逡巡した海音だが、下手な言い訳はむしろ逆鱗に触れかねないと過去を思い出して素直に謝った。
頭を下げた海音の右肩を襲うのは骨に響く痛みで、思わずそこを抑えて床に額をこすりつけてしまう。
「いってぇ」
「だ、大丈夫か、海音? 虎、お前なぁ!?」
「い、いい。大丈夫、大丈夫だから……、今のは俺が悪かったから……」
葵の痴態を想像したわけではないが、それに近い姿は頭に浮かんでしまった。
弟に近い存在のあられもない姿に海音自身も罪悪感を覚えていたから、これは当然の罰だと受け止める。
「俺が虎の立場なら、絶対同じことしてるから」
「何処まで想像したんだてめぇ」
「ギリギリ一歩手前まで」
「死ね」
背中に落ちてくる追撃。
ぐえっと呻き声と共に潰されたカエルのように床に転がる海音。
そんな海音を心配する雲英の怒鳴り声に、虎は立ち上がると「馬鹿の世話は任せた」と部屋を出て行こうとした。
「お、おい! ちょっと待てよ!」
「お前らにはただの娯楽かもしれないが、こっちは本気で悩んでるんだ。笑い話が欲しけりゃ他を当たれ」
人の苦悩をネタに楽しむ連中に話すことはない。
そう吐き捨てる虎に、待て待て待て! と雲英は追いかけてきた。
「お前何なの? それ、完全に被害妄想だからな!?」
「今までのやり取りで『揶揄ってない』って言いきれるのか?」
「言い切れる! つーか、揶揄ってなんかないだろうが! いや、確かに俺はそう思われたかもしれないけど!!」
でも海音はお前のこと揶揄ってなんてないだろうが!
そう声を荒げる雲英は、純粋に親友のことを祝福し、心配する海音の気持ちを理解しろと睨んでくる。
「お前が彼氏のこと大事にしてるのは嫌ってぐらい分かってるけど、海音の心配をただの好奇にしてやるな!」
「心配してると言えば相手が嫌がることをしてもいいのか? 俺は俺の葵でエロい妄想されたくないだけだ」
「してないだろう!?」
「本人がしたって言っただろうが」
『ギリギリ一歩手前まで』
ついさっきそう言った海音の言葉が聞こえなかったのか?
冷ややかな視線を向ける虎に、雲英は言葉を詰まらせる。
確かに、言っていた。でもあれは決して好奇からではなかった。それは虎も分かっているはずなのに、何故ここまで怒るのか雲英には理解できない。
「き、雲英、悪い。俺が悪いから、大丈夫。虎のこと、責めないでやってくれ」
「でも―――!」
「雲英! ……虎、マジでごめん。想像するつもりはなかったんだ。本当に」
痛みは幾分マシになったようだが、立ち上がった海音の表情は青褪めていてとてもじゃないが『大丈夫』には見えない。
当然、雲英は心配するのだが、海音本人に制されたら何も言えなくなってしまう。
虎が見せる視線は冷ややかなまま。
海音はそんな親友に、もう一度頭を下げた。
「エロ脳でごめん」
と。
「…………親友の癖に俺の執着を理解してないお前が悪い」
「! だよな。マジでごめん」
溜息交じりの声からは怒気は感じない。
難儀な性格の親友らしい『謝罪』に苦笑を漏らす海音は納得できない表情ながらも黙って見守ってくれた友人の肩に手を乗せ、「雲英もゴメン」と笑顔を見せた。
「なんで海音が謝るんだ」
「ん。だな。ありがとう、だよな」
不機嫌な面持ちのまま不満を漏らす雲英。
海音はそんな彼に屈託ない笑みを見せ、その笑顔を間近で見た雲英は勢いよく顔を逸らして「わ、分かればいい!」と動揺が全く隠せない。
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