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my treasure
my treasure 第5話
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「ごめんな。もう教室に行かないとダメだってことは分かってるんだけど、もう少しだけこうさせて」
あれから何度も己の欲に負けそうになりながらもなんとか信頼を裏切ることなく葵を学校に送ることができたわけだが、いざ離れなければならないとなるとどうしても手を離すことができなくて困った。
聖クライスト学園高等部の正門前で愛しい人の手を握る虎は後少しだけと繰り返しながらこのまま時間が止まらないかと真剣に考えてしまう。
嫌がることもなく時折幸せそうに繋いだ手に視線を落とす姿も愛おしくて、抱きしめたい衝動にかられる。
(ダメだ……。治まるどころかむしろ酷くなってる……)
葵以外要らないという考えは昔からずっと変わっていないが、葵と愛し合えば―――葵を抱けばこの執着じみた想いが少しはマシになるのではないか。なんて淡い期待を抱いていた虎だったが、その期待はあっけなく裏切られた。
いや、裏切られたどころか、むしろ『誰にも見せないように閉じ込めてしまいたい』と執着は狂気を含んで悪化している始末だ。
己の想いが恐ろしいと我が事ながら感じる虎。いつかこの狂愛が葵を追い込んでしまわないか。と不安すら覚えた。
(大切にしたい。葵の笑顔をずっと守りたい。だから、だから堪えろっ)
その無邪気な笑顔が曇らないようにとずっと守り続けてきた。
自分以外の誰かを愛して幸せになったとしても、葵の笑顔を守り続けることが生まれた意味だと思っていたのだから、自分を愛してくれた葵の笑顔をそんな自分が奪うわけにはいかない。
虎は葵を閉じ込めることで幸せになるのは自分だけだと己に言い聞かせた。そしてその幸せも一時のモノだと暴走する本能を諭した。
(俺が欲しいのは葵の形をした人形じゃなくて『葵』そのものなんだ)
葵の笑い顔も、怒り顔も、泣き顔も、その全てが愛おしい。
『葵』という一人の人間として愛している。
だから、閉じ込めて『葵』の心を殺すような真似をするわけにはいかない。
独占したいと渇望する己の欲を奥底に封じ込める虎の想いは、おそらく葵が思っているよりもずっとずっと深く、そして重いモノのようだ。
「……僕、ダメだね」
「? なんで葵が『ダメ』なんだ? ダメなのは俺だろ?」
優しい葵が気を使ってくれているのだろうと苦笑を漏らす虎は、いい加減ホームルームに間に合わなくなるなと繋いでいた手を離した。
すると葵は離された手で胸元に触れると、「だって」と少し恥ずかしそうに口を開いた。
「虎君が我慢してくれてるのに、僕、我慢しないで欲しいって思っちゃってるんだもん」
告げられた言葉をすぐに理解できないのは、あまりの可愛さに思考が停止してしまったから。
虎が目を見開き驚きの表情で固まっていれば、葵は爆弾発言を落として虎の理性に追撃してくるから困ったものだ。
「僕も頑張って我慢するから、ぎゅってしてもいい?」
恥じらいながら上着の裾を引っ張って上目遣いで可愛い事を言わないでもらいたい。
(ダメだ……。可愛すぎて死ぬ……)
このまま家に連れて帰りたいと真剣に思った。
葵の両親からの信頼も何もかも全て無視して葵を攫って自分以外の誰の目にも触れない場所に閉じ込めてしまおうと倫理観の壊れた考えを実行に移してしまおうとさえ思った。
虎は改めて思い知る。昨日までの『良き兄』としての仮面はもう無くなってしまったということを。
「まも――――」
「三谷君、いつまで其処でおしゃべりをしているのかな?」
愛しい人に手を伸ばそうとしたその時、耳に届くのは年の離れた兄のような存在の声。
声のした方を振り返れば両親の友人でもある聖クライスト学園の養護教諭を務める柊斗弛弥の姿があって、斗弛弥は笑顔でこちらに歩いてきていた。
(目が笑ってない……気づかれたな……)
我に返った虎は己の失態に頭を抱えたくなる。斗弛弥は一瞬とはいえ欲に身を任せそうだった行動を見透かし、釘を刺しに来たのだろう。
おかげで葵の両親からの信頼を失う事態は避けられたが、斗弛弥からの信頼は失墜した気がする。
「斗弛弥さん!」
「三谷君」
「! ご、ごめんなさい、柊先生……」
「もうすぐホームルームが始まる。走ればまだ間に合うから急ぎなさい」
「は、はい……。虎君、あの……」
「授業が終わるころに迎えに来るよ。今日は5時間目までだよな?」
目に見えて落ち込む姿に腕を引いて抱きしめたくなる。
だが、表情だけ笑顔を作った斗弛弥の前では抱きしめたいと伸ばしそうになる手を握り笑顔で送り出すことしかできなかった。
葵は少し寂しそうな表情で頷くも「行ってきます」と愛らしい笑顔を見せてくれた。
甘えたいだろうに必死に我慢するその姿に、授業が終わった後は思い切り甘えさせてあげようと虎は同じく笑顔で恋人を見送った。
校舎へと駆けてゆく後姿を愛おし気に見つめる虎に刺さるのは斗弛弥からの視線だ。
「すみません。助かりました」
「見逃すのは1度だけだ」
「分かってます。本当にありがとうございました」
頭を下げ感謝を伝えるも、呆れたと言いたげな斗弛弥からは『色惚けも大概にしとけ』と言いたげな冷たい眼差しを貰ってしまった。
あれから何度も己の欲に負けそうになりながらもなんとか信頼を裏切ることなく葵を学校に送ることができたわけだが、いざ離れなければならないとなるとどうしても手を離すことができなくて困った。
聖クライスト学園高等部の正門前で愛しい人の手を握る虎は後少しだけと繰り返しながらこのまま時間が止まらないかと真剣に考えてしまう。
嫌がることもなく時折幸せそうに繋いだ手に視線を落とす姿も愛おしくて、抱きしめたい衝動にかられる。
(ダメだ……。治まるどころかむしろ酷くなってる……)
葵以外要らないという考えは昔からずっと変わっていないが、葵と愛し合えば―――葵を抱けばこの執着じみた想いが少しはマシになるのではないか。なんて淡い期待を抱いていた虎だったが、その期待はあっけなく裏切られた。
いや、裏切られたどころか、むしろ『誰にも見せないように閉じ込めてしまいたい』と執着は狂気を含んで悪化している始末だ。
己の想いが恐ろしいと我が事ながら感じる虎。いつかこの狂愛が葵を追い込んでしまわないか。と不安すら覚えた。
(大切にしたい。葵の笑顔をずっと守りたい。だから、だから堪えろっ)
その無邪気な笑顔が曇らないようにとずっと守り続けてきた。
自分以外の誰かを愛して幸せになったとしても、葵の笑顔を守り続けることが生まれた意味だと思っていたのだから、自分を愛してくれた葵の笑顔をそんな自分が奪うわけにはいかない。
虎は葵を閉じ込めることで幸せになるのは自分だけだと己に言い聞かせた。そしてその幸せも一時のモノだと暴走する本能を諭した。
(俺が欲しいのは葵の形をした人形じゃなくて『葵』そのものなんだ)
葵の笑い顔も、怒り顔も、泣き顔も、その全てが愛おしい。
『葵』という一人の人間として愛している。
だから、閉じ込めて『葵』の心を殺すような真似をするわけにはいかない。
独占したいと渇望する己の欲を奥底に封じ込める虎の想いは、おそらく葵が思っているよりもずっとずっと深く、そして重いモノのようだ。
「……僕、ダメだね」
「? なんで葵が『ダメ』なんだ? ダメなのは俺だろ?」
優しい葵が気を使ってくれているのだろうと苦笑を漏らす虎は、いい加減ホームルームに間に合わなくなるなと繋いでいた手を離した。
すると葵は離された手で胸元に触れると、「だって」と少し恥ずかしそうに口を開いた。
「虎君が我慢してくれてるのに、僕、我慢しないで欲しいって思っちゃってるんだもん」
告げられた言葉をすぐに理解できないのは、あまりの可愛さに思考が停止してしまったから。
虎が目を見開き驚きの表情で固まっていれば、葵は爆弾発言を落として虎の理性に追撃してくるから困ったものだ。
「僕も頑張って我慢するから、ぎゅってしてもいい?」
恥じらいながら上着の裾を引っ張って上目遣いで可愛い事を言わないでもらいたい。
(ダメだ……。可愛すぎて死ぬ……)
このまま家に連れて帰りたいと真剣に思った。
葵の両親からの信頼も何もかも全て無視して葵を攫って自分以外の誰の目にも触れない場所に閉じ込めてしまおうと倫理観の壊れた考えを実行に移してしまおうとさえ思った。
虎は改めて思い知る。昨日までの『良き兄』としての仮面はもう無くなってしまったということを。
「まも――――」
「三谷君、いつまで其処でおしゃべりをしているのかな?」
愛しい人に手を伸ばそうとしたその時、耳に届くのは年の離れた兄のような存在の声。
声のした方を振り返れば両親の友人でもある聖クライスト学園の養護教諭を務める柊斗弛弥の姿があって、斗弛弥は笑顔でこちらに歩いてきていた。
(目が笑ってない……気づかれたな……)
我に返った虎は己の失態に頭を抱えたくなる。斗弛弥は一瞬とはいえ欲に身を任せそうだった行動を見透かし、釘を刺しに来たのだろう。
おかげで葵の両親からの信頼を失う事態は避けられたが、斗弛弥からの信頼は失墜した気がする。
「斗弛弥さん!」
「三谷君」
「! ご、ごめんなさい、柊先生……」
「もうすぐホームルームが始まる。走ればまだ間に合うから急ぎなさい」
「は、はい……。虎君、あの……」
「授業が終わるころに迎えに来るよ。今日は5時間目までだよな?」
目に見えて落ち込む姿に腕を引いて抱きしめたくなる。
だが、表情だけ笑顔を作った斗弛弥の前では抱きしめたいと伸ばしそうになる手を握り笑顔で送り出すことしかできなかった。
葵は少し寂しそうな表情で頷くも「行ってきます」と愛らしい笑顔を見せてくれた。
甘えたいだろうに必死に我慢するその姿に、授業が終わった後は思い切り甘えさせてあげようと虎は同じく笑顔で恋人を見送った。
校舎へと駆けてゆく後姿を愛おし気に見つめる虎に刺さるのは斗弛弥からの視線だ。
「すみません。助かりました」
「見逃すのは1度だけだ」
「分かってます。本当にありがとうございました」
頭を下げ感謝を伝えるも、呆れたと言いたげな斗弛弥からは『色惚けも大概にしとけ』と言いたげな冷たい眼差しを貰ってしまった。
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