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初めての人
初めての人 第10話
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「はやくちゃんと愛し合いたい……」
「俺もはやく葵を抱きたいよ」
自分の身体をこんなに疎ましく思ったことは無いと言う虎君は僕を抱きしめ、せめて人並みであって欲しかったとため息交じりに呟いた。それなら他人にわざわざ聞かせる必要もなかったのに。と。
虎君を見上げれば不機嫌な面持ちが目に入る。その表情は独占欲からくるものだと分かっているから、僕は幸せだと笑ってしまうのだ。
「そんな顔しないで?」
「無理だよ。葵を誰にも見せたくないんだから」
本当ならすべて自分でなんとかしたかったと言う虎君は、自分のものが貧相であればよかったとすら思うなんて言ってる。
僕はそれに今度は声を出して笑ってしまった。だって、世間の男の人達は自分のサイズをいかに大きく立派にするかで頭を悩ませているのに、虎君は僕を独り占めするためにそんな人達の努力を一刀両断するような望みを口にするんだもん。
こんなの、可愛いし愛しいし嬉しいに決まってるよ。
「それ、他の人が聞いたら怒っちゃうよ?」
「いや、でかい方が良いって風潮がそもそもおかしい。大きさよりも愛した人と愛し合えることが大事だろ。愛した人と愛し合ってお互いが幸せだって思えるならサイズなんてどうでもいいはずだ」
「そうだね。だから虎君もそんな風に考えないで? 僕は虎君と愛し合えたら絶対幸せに決まってるんだから」
確かにただ愛し合いたいだけなのに他の人に頼らなければならないのは辛い。それは僕も同じだから。でも、苦労したからこそ愛し合えた時の感動は他の人よりもずっと大きいと思うから、楽しみだと思える。
そう言って笑う僕は、だから自分の身体にコンプレックスを持たないでとお願いする。虎君が大好きだから、虎君の全部が愛しいから。と。
すると虎君は「葵も同じなのか?」とちょっぴり驚いた顔で僕を見下ろしてきた。僕はそれに恥じらいながらも小さく頷く。
「僕だって虎君を独り占めしたいんだからね……?」
誰よりも愛してるからこそ、本当は誰にも相談したくなかったと言う気持ちが分かる。僕自身、慶史に相談に乗ってもらいながらもちょっぴり抵抗を感じているところが実はあるから。
慶史がそういう意味で虎君を見てないって分かってるけど、それでも虎君の裸を想像されてると思うと物凄く嫌な気持ちになる。虎君は僕の虎君なのに。って。
それでも慶史に相談するのは、虎君と愛し合いたいから。虎君に僕の全部、愛して欲しいから。
僕は、虎君を想って焦がれる気持ちも、愛し合いたくて切なくなる身体も、親友に抱く一方的で理不尽な感情も、そのすべてをひっくるめて虎君と身も心も結ばれたいと願っているから……。
「だから、なるべく早く雲英さんに連絡してね?」
「葵……っ、分かった。すぐに連絡する」
『すぐ』って言いながらも顔中に降ってくるキス。僕はキスの雨を受け取りながら、早く連絡してよと笑った。連絡するためにそそくさと離れられたら悲しくなるくせに、早く! と急かしちゃうなんて他に人から見れば可愛げがないと思われるかもしれないけど、虎君は幸せそうに笑ってくれるから、いいや。
「この時間は寝てるだろうから昼過ぎに連絡する。だから今はキスさせて?」
「もう! メッセージぐらい送れるでしょ?」
「キスした後に送るから」
「ダメ! 送るまでキス禁止!」
雲英さんはゲイバーのバーテンダーらしいから確かにこの時間はまだ寝てるかもしれない。
それでも急いでる姿勢を見せてと我儘を言っちゃう僕に、虎君は渋々抱き締める腕を解くと立ち上がり、テレビ台に置かれた携帯を取りに行った。
虎君は携帯を手に取るとそのまま踵を返し、僕の元へと戻って来る。
メッセージを送るんじゃないの? って僕が頬を膨らませて見せれば、今から送ると苦笑いが。
その時、虎君が自分の携帯だけじゃなくて僕の携帯も持っていたことに気づいた。
なんで僕の携帯まで持ってるんだろう? って思ったけど、手渡されたそれを見て直ぐに理由が分かった。
ディスプレイには慶史からメッセージが届いていると知らせる通知があって、そう言えばさっき連絡が来てたって言ってたっけと納得した。
雲英さんにメッセージを送っているだろう虎君の隣で、慶史からのメッセージを確認する僕。
どうせいつもの意地悪な内容だろうとちょっぴりやさぐれながらもアプリを起動すれば、目に飛び込んできたその文面に僕は思わず凍り付いてしまった。
「う、うそ……」
「葵? どうした?」
呆然と携帯のディスプレイを見つめていれば、心配そうな声がかかる。
その声に反応するように顔を上げる僕だけど、きっとその表情は情けないものだったに違いない。
だって虎君の表情が見る見る青褪めて行ったから……。
「どうした? 何があったっ?」
「とらくん、どうしよ……」
自身の携帯を放り投げ、僕を心配してくれる虎君は優しい。視線を合わせ、どうしてそんな泣きそうな顔をしているんだと苦し気に尋ねてくるその姿に、本当は無理矢理にでも理由を尋ねたいだろうに我慢してくれていると分かってしまう。
僕はそんな虎君の優しさに甘えるように抱き着き、届いたメッセージにすごくショックを受けたことを伝えた。
「『メッセージ』って、まさか藤原か? あいつ、何を―――」
「『悠栖の勝ち』って……勝ち負けじゃないのに、勝ち負けじゃないって分かってるのにっ」
全身の毛を逆立て威嚇する猛獣のように怒りを露わにする虎君に、僕はショックを受けることじゃないって分かっているのにショックだとぎゅっとしがみついた。
「俺もはやく葵を抱きたいよ」
自分の身体をこんなに疎ましく思ったことは無いと言う虎君は僕を抱きしめ、せめて人並みであって欲しかったとため息交じりに呟いた。それなら他人にわざわざ聞かせる必要もなかったのに。と。
虎君を見上げれば不機嫌な面持ちが目に入る。その表情は独占欲からくるものだと分かっているから、僕は幸せだと笑ってしまうのだ。
「そんな顔しないで?」
「無理だよ。葵を誰にも見せたくないんだから」
本当ならすべて自分でなんとかしたかったと言う虎君は、自分のものが貧相であればよかったとすら思うなんて言ってる。
僕はそれに今度は声を出して笑ってしまった。だって、世間の男の人達は自分のサイズをいかに大きく立派にするかで頭を悩ませているのに、虎君は僕を独り占めするためにそんな人達の努力を一刀両断するような望みを口にするんだもん。
こんなの、可愛いし愛しいし嬉しいに決まってるよ。
「それ、他の人が聞いたら怒っちゃうよ?」
「いや、でかい方が良いって風潮がそもそもおかしい。大きさよりも愛した人と愛し合えることが大事だろ。愛した人と愛し合ってお互いが幸せだって思えるならサイズなんてどうでもいいはずだ」
「そうだね。だから虎君もそんな風に考えないで? 僕は虎君と愛し合えたら絶対幸せに決まってるんだから」
確かにただ愛し合いたいだけなのに他の人に頼らなければならないのは辛い。それは僕も同じだから。でも、苦労したからこそ愛し合えた時の感動は他の人よりもずっと大きいと思うから、楽しみだと思える。
そう言って笑う僕は、だから自分の身体にコンプレックスを持たないでとお願いする。虎君が大好きだから、虎君の全部が愛しいから。と。
すると虎君は「葵も同じなのか?」とちょっぴり驚いた顔で僕を見下ろしてきた。僕はそれに恥じらいながらも小さく頷く。
「僕だって虎君を独り占めしたいんだからね……?」
誰よりも愛してるからこそ、本当は誰にも相談したくなかったと言う気持ちが分かる。僕自身、慶史に相談に乗ってもらいながらもちょっぴり抵抗を感じているところが実はあるから。
慶史がそういう意味で虎君を見てないって分かってるけど、それでも虎君の裸を想像されてると思うと物凄く嫌な気持ちになる。虎君は僕の虎君なのに。って。
それでも慶史に相談するのは、虎君と愛し合いたいから。虎君に僕の全部、愛して欲しいから。
僕は、虎君を想って焦がれる気持ちも、愛し合いたくて切なくなる身体も、親友に抱く一方的で理不尽な感情も、そのすべてをひっくるめて虎君と身も心も結ばれたいと願っているから……。
「だから、なるべく早く雲英さんに連絡してね?」
「葵……っ、分かった。すぐに連絡する」
『すぐ』って言いながらも顔中に降ってくるキス。僕はキスの雨を受け取りながら、早く連絡してよと笑った。連絡するためにそそくさと離れられたら悲しくなるくせに、早く! と急かしちゃうなんて他に人から見れば可愛げがないと思われるかもしれないけど、虎君は幸せそうに笑ってくれるから、いいや。
「この時間は寝てるだろうから昼過ぎに連絡する。だから今はキスさせて?」
「もう! メッセージぐらい送れるでしょ?」
「キスした後に送るから」
「ダメ! 送るまでキス禁止!」
雲英さんはゲイバーのバーテンダーらしいから確かにこの時間はまだ寝てるかもしれない。
それでも急いでる姿勢を見せてと我儘を言っちゃう僕に、虎君は渋々抱き締める腕を解くと立ち上がり、テレビ台に置かれた携帯を取りに行った。
虎君は携帯を手に取るとそのまま踵を返し、僕の元へと戻って来る。
メッセージを送るんじゃないの? って僕が頬を膨らませて見せれば、今から送ると苦笑いが。
その時、虎君が自分の携帯だけじゃなくて僕の携帯も持っていたことに気づいた。
なんで僕の携帯まで持ってるんだろう? って思ったけど、手渡されたそれを見て直ぐに理由が分かった。
ディスプレイには慶史からメッセージが届いていると知らせる通知があって、そう言えばさっき連絡が来てたって言ってたっけと納得した。
雲英さんにメッセージを送っているだろう虎君の隣で、慶史からのメッセージを確認する僕。
どうせいつもの意地悪な内容だろうとちょっぴりやさぐれながらもアプリを起動すれば、目に飛び込んできたその文面に僕は思わず凍り付いてしまった。
「う、うそ……」
「葵? どうした?」
呆然と携帯のディスプレイを見つめていれば、心配そうな声がかかる。
その声に反応するように顔を上げる僕だけど、きっとその表情は情けないものだったに違いない。
だって虎君の表情が見る見る青褪めて行ったから……。
「どうした? 何があったっ?」
「とらくん、どうしよ……」
自身の携帯を放り投げ、僕を心配してくれる虎君は優しい。視線を合わせ、どうしてそんな泣きそうな顔をしているんだと苦し気に尋ねてくるその姿に、本当は無理矢理にでも理由を尋ねたいだろうに我慢してくれていると分かってしまう。
僕はそんな虎君の優しさに甘えるように抱き着き、届いたメッセージにすごくショックを受けたことを伝えた。
「『メッセージ』って、まさか藤原か? あいつ、何を―――」
「『悠栖の勝ち』って……勝ち負けじゃないのに、勝ち負けじゃないって分かってるのにっ」
全身の毛を逆立て威嚇する猛獣のように怒りを露わにする虎君に、僕はショックを受けることじゃないって分かっているのにショックだとぎゅっとしがみついた。
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