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恋しい人
恋しい人 第85話
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家に帰ってからのことを考えてドキドキしていたら折角のパンケーキの味もよくわからなくて、胸がいっぱいになるってこういう事なのかな? なんて思ってしまった。
口の中に広がる甘さよりも虎君からもらう微笑みの方がずっと甘いと感じてしまうぐらい恋に夢中になっている自分がちょっと面白い。
でも、虎君に夢中になっていた思考の隅に置いた心配事は時間が過ぎる毎にその存在を主張してきて、門限に間に合うようにとお店を出た頃には朋喜と姫神君が仲直りできずに仲違いしちゃったのかもしれないと良くない想像を膨らませてしまっていた。
「葵、大丈夫か? もう家に着いたけど、もう少し外にいる?」
「だ、いじょうぶ……。でも、ちょっと電話したいから、虎君先に中に入ってていいよ……」
バイクを降りただけなのによろけてしまう僕を抱き留める虎君は、電話をかけるのはいいけど中には入らないと頑なだ。話を聞かれたくないなら離れているけど、目の届く場所にいる。と。
家の敷地内にいるんだから平気なのに、虎君は僕に何かあったら大変だからって心配する。
絶対に譲らないと言わんばかりのその雰囲気に、僕は不謹慎と分かりながらも抱き着いた。
虎君は僕の名前をちょっぴり戸惑い気味に呼んでくる。でも、それでも僕を抱き締めてくれて、優しい腕の中、僕は僕をこの上なく大事にしてくれる大切な人に感謝しかなかった。
「……僕、慶史にどうなったか連絡したい」
「ああ、分かった。少し離れて待ってるよ」
「そ、傍にいて欲しい……って言ったら、迷惑……?」
慶史がまだ連絡してこないと言うことは、最悪の事態に陥っているのかもしれない。もしそうであれば、そもそもの要因を作ったのはこの僕だ。僕がうまく立ち回れなかったから、あんなことになってしまったんだ。
もしも慶史からそんな現実を告げられたら、僕は罪悪感と自己嫌悪で一杯になってしまうに決まってる。
だから、だからもしそんなことになってしまったら、僕は虎君に助けて欲しい。僕を救い上げて欲しい……。
我儘な願いを伝えれば、虎君は僕を放そうとした腕で再び抱きしめてくれた。
優しく身体を包み込むような抱擁は僕に力を与えてくれる。何があっても大丈夫だと思わせてくれる。
「迷惑なわけないだろ? ……頼ってくれて嬉しいよ」
「本当に? 僕、割といつも頼ってるけど、鬱陶しいって思ってない?」
「思ってるわけないだろ? むしろもっと頼って欲しいぐらいなんだからな?」
頭上から聞こえる声笑い声は心地いい。上を向いて僕を甘やかし過ぎだと笑えば、優しい微笑みが返ってくる。
(大丈夫……。朋喜と姫神君が仲違いしていても僕が必ず仲直りさせてみせる)
悩みも泣き言も全部聞いてくれる人がいる。支えてくれる人がいる。そして、僕が正しい道を選べるように寄り添ってくれる人がいる……。
僕は虎君の腕の中、携帯をポケットから携帯を取り出すと慶史に電話を掛けた。
コール音が聞こえる数秒の間ですら良くない想像が頭を過っては消えていって、怖い。
でもそんな僕を優しく抱き締めてくれる腕の中にいるから、怖いけど安心もあって複雑だ。
『っから静かにしろ! 追い出すぞ!』
「! け、慶史?」
途切れるコール音の後すぐに聞こえる怒鳴り声にビックリする。思わず名前を呼べば、『ごめん!』と更に大きな声が聞こえた。
『今悠栖達が部屋に押しかけてきててさ。さっきの葵に行ったわけじゃないからな!?』
「う、うん。分かってる、けど……そこに悠栖達いるの?」
『ああ、いるよ。てか、めちゃくちゃタイミングいいね?』
「え? なんで?」
『本当についさっき朋喜が姫神と和解したからさ、盗聴されてるのかと思った』
「! そんなことしてないよ!?」
偶々だからね?! と声を荒げれば『分かってる』と笑われる。でも本当にベストタイミングだったよ。と。
「仲直り、できたの?」
『できたできた。朋喜が話し合いに応じるまでが大変だったけど』
『だからそれはごめんってば!』
慶史の明るい声よりも遠くから聞こえる朋喜の声に、僕は安堵の息を吐く。表情は見えないけど、怒ってる時の声じゃなかったから。
よかったと胸を撫で下ろす僕に、慶史は心配かけてごめんと謝ってくる。
どうして慶史が謝るのかと思ったけど、不安だったから連絡してきたんだろうと見透かされてしまった。
『朋喜が部屋に閉じこもってるって連絡しても良かったんだけど、きっと葵は心配すると思ったんだよね。でも結局不安にさせちゃったよね』
「そんな……、僕こそごめんね? そもそも僕がきちんと立ち回れなかったから―――」
『何言ってんの。遅かれ早かれこうなってたよ。むしろ切欠が葵でよかったと思うよ、俺は』
慶史は卑屈になるなと釘を刺してくる。仲違いせず丸く納まったんだからもういいでしょ。と。
それでも僕が食い下がれば、今度は悠栖の声が。
『話聞かないとマモが自分を責めるぞ! ってマジで鶴の一声だったしなぁ』
『そりゃ慶史君や悠栖なら気にしないけど、他ならぬ葵君だしね。葵君が僕のせいで辛い思いするのは嫌だし』
『確かに三谷はお前らと違って繊細そうだもんな』
朋喜と姫神君のからかいを含んだような声は楽しそうなもので険悪さは全く無かった。
口の中に広がる甘さよりも虎君からもらう微笑みの方がずっと甘いと感じてしまうぐらい恋に夢中になっている自分がちょっと面白い。
でも、虎君に夢中になっていた思考の隅に置いた心配事は時間が過ぎる毎にその存在を主張してきて、門限に間に合うようにとお店を出た頃には朋喜と姫神君が仲直りできずに仲違いしちゃったのかもしれないと良くない想像を膨らませてしまっていた。
「葵、大丈夫か? もう家に着いたけど、もう少し外にいる?」
「だ、いじょうぶ……。でも、ちょっと電話したいから、虎君先に中に入ってていいよ……」
バイクを降りただけなのによろけてしまう僕を抱き留める虎君は、電話をかけるのはいいけど中には入らないと頑なだ。話を聞かれたくないなら離れているけど、目の届く場所にいる。と。
家の敷地内にいるんだから平気なのに、虎君は僕に何かあったら大変だからって心配する。
絶対に譲らないと言わんばかりのその雰囲気に、僕は不謹慎と分かりながらも抱き着いた。
虎君は僕の名前をちょっぴり戸惑い気味に呼んでくる。でも、それでも僕を抱き締めてくれて、優しい腕の中、僕は僕をこの上なく大事にしてくれる大切な人に感謝しかなかった。
「……僕、慶史にどうなったか連絡したい」
「ああ、分かった。少し離れて待ってるよ」
「そ、傍にいて欲しい……って言ったら、迷惑……?」
慶史がまだ連絡してこないと言うことは、最悪の事態に陥っているのかもしれない。もしそうであれば、そもそもの要因を作ったのはこの僕だ。僕がうまく立ち回れなかったから、あんなことになってしまったんだ。
もしも慶史からそんな現実を告げられたら、僕は罪悪感と自己嫌悪で一杯になってしまうに決まってる。
だから、だからもしそんなことになってしまったら、僕は虎君に助けて欲しい。僕を救い上げて欲しい……。
我儘な願いを伝えれば、虎君は僕を放そうとした腕で再び抱きしめてくれた。
優しく身体を包み込むような抱擁は僕に力を与えてくれる。何があっても大丈夫だと思わせてくれる。
「迷惑なわけないだろ? ……頼ってくれて嬉しいよ」
「本当に? 僕、割といつも頼ってるけど、鬱陶しいって思ってない?」
「思ってるわけないだろ? むしろもっと頼って欲しいぐらいなんだからな?」
頭上から聞こえる声笑い声は心地いい。上を向いて僕を甘やかし過ぎだと笑えば、優しい微笑みが返ってくる。
(大丈夫……。朋喜と姫神君が仲違いしていても僕が必ず仲直りさせてみせる)
悩みも泣き言も全部聞いてくれる人がいる。支えてくれる人がいる。そして、僕が正しい道を選べるように寄り添ってくれる人がいる……。
僕は虎君の腕の中、携帯をポケットから携帯を取り出すと慶史に電話を掛けた。
コール音が聞こえる数秒の間ですら良くない想像が頭を過っては消えていって、怖い。
でもそんな僕を優しく抱き締めてくれる腕の中にいるから、怖いけど安心もあって複雑だ。
『っから静かにしろ! 追い出すぞ!』
「! け、慶史?」
途切れるコール音の後すぐに聞こえる怒鳴り声にビックリする。思わず名前を呼べば、『ごめん!』と更に大きな声が聞こえた。
『今悠栖達が部屋に押しかけてきててさ。さっきの葵に行ったわけじゃないからな!?』
「う、うん。分かってる、けど……そこに悠栖達いるの?」
『ああ、いるよ。てか、めちゃくちゃタイミングいいね?』
「え? なんで?」
『本当についさっき朋喜が姫神と和解したからさ、盗聴されてるのかと思った』
「! そんなことしてないよ!?」
偶々だからね?! と声を荒げれば『分かってる』と笑われる。でも本当にベストタイミングだったよ。と。
「仲直り、できたの?」
『できたできた。朋喜が話し合いに応じるまでが大変だったけど』
『だからそれはごめんってば!』
慶史の明るい声よりも遠くから聞こえる朋喜の声に、僕は安堵の息を吐く。表情は見えないけど、怒ってる時の声じゃなかったから。
よかったと胸を撫で下ろす僕に、慶史は心配かけてごめんと謝ってくる。
どうして慶史が謝るのかと思ったけど、不安だったから連絡してきたんだろうと見透かされてしまった。
『朋喜が部屋に閉じこもってるって連絡しても良かったんだけど、きっと葵は心配すると思ったんだよね。でも結局不安にさせちゃったよね』
「そんな……、僕こそごめんね? そもそも僕がきちんと立ち回れなかったから―――」
『何言ってんの。遅かれ早かれこうなってたよ。むしろ切欠が葵でよかったと思うよ、俺は』
慶史は卑屈になるなと釘を刺してくる。仲違いせず丸く納まったんだからもういいでしょ。と。
それでも僕が食い下がれば、今度は悠栖の声が。
『話聞かないとマモが自分を責めるぞ! ってマジで鶴の一声だったしなぁ』
『そりゃ慶史君や悠栖なら気にしないけど、他ならぬ葵君だしね。葵君が僕のせいで辛い思いするのは嫌だし』
『確かに三谷はお前らと違って繊細そうだもんな』
朋喜と姫神君のからかいを含んだような声は楽しそうなもので険悪さは全く無かった。
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