344 / 552
恋しい人
恋しい人 第59話
しおりを挟む
「脈は安定してるな……。呼吸はなるべく深くゆっくりしなさい。今のままだと過呼吸になる」
斗弛弥さんは僕の手を放すと、手本を見せるように深呼吸をして見せた。僕は言われるがまま胸いっぱい空気を取り込むように息を吸い込んだ。
2、3度深呼吸を繰り返せば息苦しさは無くなる。
穏やかになる呼吸。僕の背をずっと擦ってくれていた慶史に「もう平気」と力なく笑えば、慶史は眉を下げたまま僕の言葉を疑ってきた。
「本当に大丈夫。心配かけてごめんね?」
本当は凄く不安。でも、この不安を口に出すことはできない。口に出したら慶史はもちろん、斗弛弥さんも僕を安心させる言葉をくれるって分かっているから。
我慢しないとダメだ。って自分に言い聞かせる僕。
するとその時、バイブ音が耳に届いた。反射的に音のする方向に顔を上げれば斗弛弥さんの姿が。
斗弛弥さんも携帯が鳴っていることに気づいたようで白衣のポケットから携帯を取り出し、「仕事中に誰だ?」と着信の相手を確認する。
でもすぐに斗弛弥さんは携帯を仕事机に置いてしまう。バイブ音は止まらず鳴り響いているのにどうして出ないんだろう……?
(仕事中だから出ないのかな……?)
まだ少しドキドキしている胸を手で押さえながら携帯が気になってしまう僕。
すると斗弛弥さんはもう一度白衣のポケットに手を入れ、もう一台携帯を取り出した。さっき取り上げられた僕の携帯だ。
「それ、僕の携帯ですよ?」
「あいつ、講義中だろうが」
「え? なんですか?」
僕の携帯をジッと見下ろす斗弛弥さんの眉間に皺が寄る。
珍しく不機嫌だと分かるその表情に、声はちゃんと聞き取れたけど思わず尋ね返してしまう。
「ジュニアからだ」
「え……」
「ほら、早く出てやれ。そろそろ留守電に切り替わるぞ」
声のトーンが全然違う。それを少し怖いと思いながらも僕は携帯を受け取るとすぐに通話ボタンを押して電話に出た。
「もしもし……?」
『葵、いきなり電話してごめん。授業休んで保健室にいるって聞いたから心配になって……。体調は大丈夫?』
心配してくれる虎君の声は凄く優しくて、色々我慢していた僕の心にダイレクトに響く。
此処に虎君はいないけど、携帯越しに聞こえる声に虎君がすぐ傍にいてくれるような安心感が生まれる。
心を溶かす虎君の声に聞き入っていたら、返事がないことに虎君の声色が変わる。
『葵? 葵、聞いてる? 大丈夫か?』
「! ごめんなさい、聞こえてるよ。僕は大丈夫。トイレに行ってたら授業が始まっちゃって、遅れて教室に入れなかっただけだから心配しないで」
心配のあまり焦りが滲む声に、不謹慎ながらドキドキする。
僕は早口で今保健室にいる理由を伝える。斗弛弥さんが連絡した通りだよ。と。
『本当に? 本当に気分が悪いとかじゃないんだな? 吐いたとかそういうわけじゃないんだな?』
「うん。違うよ。大丈夫」
重ねて確認され、僕は虎君に安心してもらうよう返事をする。
そして返事をしながら、虎君の愛を実感する。僕はこんなにも大事にされている。こんなにも愛されてる。と。
(あぁ……僕、本当に虎君のこと、大好きだなぁ……)
虎君からの想いを感じる度こんなに幸せになれるんだから、恋って凄い。
そして、虎君からの想いを感じる度貰った分の想いを……いや、貰った以上の想いを返したいと思うから、愛って偉大だと思う。
「心配かけてごめんね? ……ありがとう、虎君」
隣には何とも言えない顔をしている慶史がいて、目の前には呆れ顔の斗弛弥さんがいるから『大好き』とは伝えられなかった。
けど、『大好き』を込めて『ありがとう』を伝えたら、虎君から返ってくるのは同じ想いだよって言葉。
『俺も大好きだよ。……でも、よかった。体調が悪いわけじゃないなら安心した』
「うん……」
ホッとした声は優しい音に戻って僕の心を鷲掴む。
改めて虎君の傍にいたいと願う僕。
でも、幸せの中、思い出す。虎君のお父さんとお母さんにとても失礼なことをしてしまったという現実を。
(今夜、電話していいかな……)
時差とお仕事のことを考えてまずはメッセージで電話してもいいか尋ねて、大丈夫そうならちゃんと自分の言葉で謝ろう。
たとえ二人が僕のことを嫌いになったままでも、僕はもう虎君から離れられないから、認めてもらえるまで諦めない。
(そうだ。怖がって一人でウジウジしていても何も変わらないんだから、自分から動かないと……!)
できることを全てやりきって、それでもダメだった時は周囲に助けてもらえばいい。僕の周りには優しい人が沢山いるんだから。
斗弛弥さんは僕の手を放すと、手本を見せるように深呼吸をして見せた。僕は言われるがまま胸いっぱい空気を取り込むように息を吸い込んだ。
2、3度深呼吸を繰り返せば息苦しさは無くなる。
穏やかになる呼吸。僕の背をずっと擦ってくれていた慶史に「もう平気」と力なく笑えば、慶史は眉を下げたまま僕の言葉を疑ってきた。
「本当に大丈夫。心配かけてごめんね?」
本当は凄く不安。でも、この不安を口に出すことはできない。口に出したら慶史はもちろん、斗弛弥さんも僕を安心させる言葉をくれるって分かっているから。
我慢しないとダメだ。って自分に言い聞かせる僕。
するとその時、バイブ音が耳に届いた。反射的に音のする方向に顔を上げれば斗弛弥さんの姿が。
斗弛弥さんも携帯が鳴っていることに気づいたようで白衣のポケットから携帯を取り出し、「仕事中に誰だ?」と着信の相手を確認する。
でもすぐに斗弛弥さんは携帯を仕事机に置いてしまう。バイブ音は止まらず鳴り響いているのにどうして出ないんだろう……?
(仕事中だから出ないのかな……?)
まだ少しドキドキしている胸を手で押さえながら携帯が気になってしまう僕。
すると斗弛弥さんはもう一度白衣のポケットに手を入れ、もう一台携帯を取り出した。さっき取り上げられた僕の携帯だ。
「それ、僕の携帯ですよ?」
「あいつ、講義中だろうが」
「え? なんですか?」
僕の携帯をジッと見下ろす斗弛弥さんの眉間に皺が寄る。
珍しく不機嫌だと分かるその表情に、声はちゃんと聞き取れたけど思わず尋ね返してしまう。
「ジュニアからだ」
「え……」
「ほら、早く出てやれ。そろそろ留守電に切り替わるぞ」
声のトーンが全然違う。それを少し怖いと思いながらも僕は携帯を受け取るとすぐに通話ボタンを押して電話に出た。
「もしもし……?」
『葵、いきなり電話してごめん。授業休んで保健室にいるって聞いたから心配になって……。体調は大丈夫?』
心配してくれる虎君の声は凄く優しくて、色々我慢していた僕の心にダイレクトに響く。
此処に虎君はいないけど、携帯越しに聞こえる声に虎君がすぐ傍にいてくれるような安心感が生まれる。
心を溶かす虎君の声に聞き入っていたら、返事がないことに虎君の声色が変わる。
『葵? 葵、聞いてる? 大丈夫か?』
「! ごめんなさい、聞こえてるよ。僕は大丈夫。トイレに行ってたら授業が始まっちゃって、遅れて教室に入れなかっただけだから心配しないで」
心配のあまり焦りが滲む声に、不謹慎ながらドキドキする。
僕は早口で今保健室にいる理由を伝える。斗弛弥さんが連絡した通りだよ。と。
『本当に? 本当に気分が悪いとかじゃないんだな? 吐いたとかそういうわけじゃないんだな?』
「うん。違うよ。大丈夫」
重ねて確認され、僕は虎君に安心してもらうよう返事をする。
そして返事をしながら、虎君の愛を実感する。僕はこんなにも大事にされている。こんなにも愛されてる。と。
(あぁ……僕、本当に虎君のこと、大好きだなぁ……)
虎君からの想いを感じる度こんなに幸せになれるんだから、恋って凄い。
そして、虎君からの想いを感じる度貰った分の想いを……いや、貰った以上の想いを返したいと思うから、愛って偉大だと思う。
「心配かけてごめんね? ……ありがとう、虎君」
隣には何とも言えない顔をしている慶史がいて、目の前には呆れ顔の斗弛弥さんがいるから『大好き』とは伝えられなかった。
けど、『大好き』を込めて『ありがとう』を伝えたら、虎君から返ってくるのは同じ想いだよって言葉。
『俺も大好きだよ。……でも、よかった。体調が悪いわけじゃないなら安心した』
「うん……」
ホッとした声は優しい音に戻って僕の心を鷲掴む。
改めて虎君の傍にいたいと願う僕。
でも、幸せの中、思い出す。虎君のお父さんとお母さんにとても失礼なことをしてしまったという現実を。
(今夜、電話していいかな……)
時差とお仕事のことを考えてまずはメッセージで電話してもいいか尋ねて、大丈夫そうならちゃんと自分の言葉で謝ろう。
たとえ二人が僕のことを嫌いになったままでも、僕はもう虎君から離れられないから、認めてもらえるまで諦めない。
(そうだ。怖がって一人でウジウジしていても何も変わらないんだから、自分から動かないと……!)
できることを全てやりきって、それでもダメだった時は周囲に助けてもらえばいい。僕の周りには優しい人が沢山いるんだから。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる