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My Everlasting Dear...
My Everlasting Dear... 第9話
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「最近海音君に優しくない?」
授業が終わりいつものように初等部に『お迎え』に向かっていた道中、なんの前触れもなく桔梗が訪ねてきた。
虎は桔梗の観察眼に感心しながらも「そうか?」とはぐらかして、逆隣を歩いていた海音を指差すと、
「確かに最近馬鹿に磨きがかかって憐れには思ってるけど」
と毒を吐く。
当然、馬鹿にされた海音はその言葉に酷いだの傷ついただの騒ぎ立てるが、虎はその喚きを威圧感たっぷりの笑顔で「煩い」と制してしまう。
「ほら! やっぱり優しい!」
「! えぇ……。桔梗、目、見えてる? 俺、結構酷い扱いされてるぞ?」
「え? 海音君、酷い扱い好きでしょ?」
全然優しくされてない! と訴える海音に対して、桔梗は冗談でも茶化してるでもなく本気でそう思っていると分かる眼差しで尋ねてくる。あからさまに邪険に扱ってくる虎と『親友』をしているなんてマゾっ気がある証拠だよね? と。
桔梗のその曇りのない眼差しに海音は虎を見ると「お前のせいだぞ」と非難した。
「お前が親友を足蹴にするから、桔梗にSM趣味だと思われるんだぞ!」
「俺はSじゃないから大丈夫だろ」
「! 俺だってMじゃねーよ!」
自分は違うと無関係を決め込むも、関係大有りだと騒ぐ海音。年頃の女の子にこんな誤解を与えてしまうなんて『お兄ちゃん』失格だぁ! と嘆かれては煩くて仕方がなかった。
「はいはい。分かったからこんな往来で騒がないでくれよな、『お兄ちゃん』」
「そうよ。私達まで不審者扱いされちゃうじゃない」
「! 二人揃ってひでぇ!」
傷ついたと打ちひしがれる海音と、やり取りを楽しいと笑う桔梗。虎も馬鹿な親友と『妹』との戯れに声を出して笑っていた。
球技大会があったあの日、海音に内に秘めた想いを曝け出したせいか、虎は自分の態度が穏健になったと自覚していた。だが、それは微々たる変化で誰かに気づかれることはないだろうと思っていた。
それなのに桔梗はそれに気づき、何かあったのかと詮索してきた。それに虎が覚えるのは、わずかな焦りだ。
今はまだ誤魔化すことができているからいいものの、この先ずっと桔梗の目を欺き続けることができるとは正直思えなかった。一つ下の妹のような存在である桔梗。彼女の聡明さは誰よりも自分が一番良く知っていた。
(いずれバレるだろうけど、問題は『いつ』バレるか、だな)
できるなら、この想いを桔梗には知られたくない。『兄』のように慕う幼馴染みが自分の弟に色欲を抱いていると知れば、彼女はきっと自分を許さないだろうから。
激怒し、嫌悪し、最悪の場合、葵に全て話してしまうかもしれない。虎にとってそれは最も恐ろしい未来。自分の穢れた想いを知った葵から同じ感情を向けられ拒絶される未来を想像するだけで、目の前が真っ暗になりそうだ。
いずれ訪れるだろうXデーに備えて今から対策を考えておくべきだと虎が心に決めるのはそれからすぐのこと。
「虎、どうしたの? なにか変よ?」
「海音みたいに?」
「海音君よりはマシかな?」
「おい! お前ら!」
共に育った幼馴染みを侮るなかれ。虎は桔梗の勘のよさに内心ヒヤヒヤしてしまう。
「もう嫌だ! お前ら性格悪すぎるぞ!」
「そんなことないだろ。なぁ?」
「うん。普通だと思うけど?」
「全然『普通』じゃねーよ! 世の中の『普通』に謝れ!」
幼馴染みを弄って楽しむのは性悪の証拠だ! と喚く海音に桔梗は肩を竦ませて「海音君ってやっぱり面倒くさい」なんて言い放つ。当然、海音はその言葉にいっそう騒ぎ立てるのだが、もうすぐ初等部に辿り着くことを知らせてやれば途端におとなしくなった。
「ねぇ、何があったの?」
「芹那ちゃんから『次目立ったら待たずに帰る』って言われてるんだよ」
いつもは静かにしてとお願いしても静かにならなかった海音の豹変に驚く桔梗だが、虎の説明に納得。納得して、「海音君って超シスコンだもんね」と笑ってしまう桔梗。
だがしかし、海音より先に虎から「俺達も人のこと言えないだろ」なんて笑われたら、確かにそうかもと苦笑いになってしまうというものだ。
「……やっぱり私達って変かな? 中学生にもなって初等部まで弟を迎えに行くって、『普通』じゃない?」
「さぁな。でもまぁ実の兄弟でもないのに迎えに行ってる俺は変だろうな」
「! そんなことないわよ! 虎は私達の『お兄ちゃん』だもの!」
血の繋がりだけが『家族』じゃないでしょ? と言ってくる桔梗の言葉と眼差しに、虎が覚えるのは罪悪感。慌てて取り繕うも桔梗は悲しそうな表情をしたままで、どうすればいいか分からない。
「馬鹿。今のは失言過ぎるぞ」
対応に困っていたら、海音が小声で「反省しろ」と窘めてくる。反論の余地がないと虎がグッと言葉を飲み込めば、海音は仕方ないと息を吐いて助け舟を出してくれた。
「桔梗、そんな顔してやるなよ。こいつ、口ではこんな風に可愛げない事言ってるけど、『桔梗や葵には俺が認めた奴としか付き合わせない!』とか言ってるんだぜ?」
影ではめちゃくちゃ『兄ちゃん』してるんだぜ?
虎と肩を組んでおちゃらけた調子で喋る海音。虎は『何を言ってるんだ』と言いたげに親友を見る。そんなことお前に言った覚えはないぞ。と。
だが、「そうなの?」と自分を見る桔梗の目が期待に満ちているから『違う』とも言えず、仕方ないから海音の言葉に合わせることにした。
「まぁ、『兄貴』、だからな」
先の言葉は自分の本心じゃないから安心しろと桔梗の頭をポンポンと撫でてやれば、「虎でも周りの目を気にすることあるのね」なんて可愛げのない言葉を可愛い笑顔で言ってくれる『妹』。
虎は肩を竦ませて「それなりにな」と苦笑を濃くして笑い返した。
「あ! 芹那発見!」
弾んだ声の後、突然走り出す海音。視線を先に向ければ初等部の正門前で兄の帰りを待っている女の子が目に入った。
(あれ……? 葵がいない……)
大好きな妹に飛び付く勢いの海音に笑いながらも、いつもそこにいるはずの葵の姿がないことに虎の心はざわついた。
「あれぇ? 葵、いなくない?」
虎に遅れること数十秒。桔梗も弟の姿が見えないことに疑問を抱いて、何かあったっけ? と携帯を取り出して弟の予定を確認し始める。
葵の予定はすでに把握済みの虎は、放課後には何も予定がなかったはずなのにどうして? と胸に広がる不安に平静さを失いそうになる。正門の影に隠れているだけだと信じるものの、歩く速度は早くなってしまう。
後ろから桔梗の「待ってよ!」という声が聞こえたが、悠長に立ち止まる余裕なんてなかった。
「! おかえり、虎。姉さんもおかえりー!」
葵の双子の片割れは自分の焦りなど全く気づかないのか、いつもと何も変わらない。まだ後ろを歩いている桔梗に声をかける様子もいつも通りで、葵が今この場にいないことに気づいているのかという疑問さえ抱いてしまいそうだ。
「茂斗、葵は?」
「葵なら今日は慶史と遊ぶからって言って先に帰ったけど?」
「『慶史』?」
「藤原だよ、藤原。藤原慶史。何回か会ったことあるだろ?」
覚えてない? と尋ねてくる茂斗。虎は忘れるわけがないと奥歯を噛みしめ、全身を巡る血が沸騰しそうな怒りを覚えた。
「――、瑛大も一緒か?」
我を忘れそうになるのを堪え、もう一人、自分の従弟の姿が見えないことに気づいて感情を圧し殺し尋ねた。二人きりで帰ったわけじゃないよな? と期待を込めて。
だが、茂斗から返ってくるのは否定の言葉。
授業が終わりいつものように初等部に『お迎え』に向かっていた道中、なんの前触れもなく桔梗が訪ねてきた。
虎は桔梗の観察眼に感心しながらも「そうか?」とはぐらかして、逆隣を歩いていた海音を指差すと、
「確かに最近馬鹿に磨きがかかって憐れには思ってるけど」
と毒を吐く。
当然、馬鹿にされた海音はその言葉に酷いだの傷ついただの騒ぎ立てるが、虎はその喚きを威圧感たっぷりの笑顔で「煩い」と制してしまう。
「ほら! やっぱり優しい!」
「! えぇ……。桔梗、目、見えてる? 俺、結構酷い扱いされてるぞ?」
「え? 海音君、酷い扱い好きでしょ?」
全然優しくされてない! と訴える海音に対して、桔梗は冗談でも茶化してるでもなく本気でそう思っていると分かる眼差しで尋ねてくる。あからさまに邪険に扱ってくる虎と『親友』をしているなんてマゾっ気がある証拠だよね? と。
桔梗のその曇りのない眼差しに海音は虎を見ると「お前のせいだぞ」と非難した。
「お前が親友を足蹴にするから、桔梗にSM趣味だと思われるんだぞ!」
「俺はSじゃないから大丈夫だろ」
「! 俺だってMじゃねーよ!」
自分は違うと無関係を決め込むも、関係大有りだと騒ぐ海音。年頃の女の子にこんな誤解を与えてしまうなんて『お兄ちゃん』失格だぁ! と嘆かれては煩くて仕方がなかった。
「はいはい。分かったからこんな往来で騒がないでくれよな、『お兄ちゃん』」
「そうよ。私達まで不審者扱いされちゃうじゃない」
「! 二人揃ってひでぇ!」
傷ついたと打ちひしがれる海音と、やり取りを楽しいと笑う桔梗。虎も馬鹿な親友と『妹』との戯れに声を出して笑っていた。
球技大会があったあの日、海音に内に秘めた想いを曝け出したせいか、虎は自分の態度が穏健になったと自覚していた。だが、それは微々たる変化で誰かに気づかれることはないだろうと思っていた。
それなのに桔梗はそれに気づき、何かあったのかと詮索してきた。それに虎が覚えるのは、わずかな焦りだ。
今はまだ誤魔化すことができているからいいものの、この先ずっと桔梗の目を欺き続けることができるとは正直思えなかった。一つ下の妹のような存在である桔梗。彼女の聡明さは誰よりも自分が一番良く知っていた。
(いずれバレるだろうけど、問題は『いつ』バレるか、だな)
できるなら、この想いを桔梗には知られたくない。『兄』のように慕う幼馴染みが自分の弟に色欲を抱いていると知れば、彼女はきっと自分を許さないだろうから。
激怒し、嫌悪し、最悪の場合、葵に全て話してしまうかもしれない。虎にとってそれは最も恐ろしい未来。自分の穢れた想いを知った葵から同じ感情を向けられ拒絶される未来を想像するだけで、目の前が真っ暗になりそうだ。
いずれ訪れるだろうXデーに備えて今から対策を考えておくべきだと虎が心に決めるのはそれからすぐのこと。
「虎、どうしたの? なにか変よ?」
「海音みたいに?」
「海音君よりはマシかな?」
「おい! お前ら!」
共に育った幼馴染みを侮るなかれ。虎は桔梗の勘のよさに内心ヒヤヒヤしてしまう。
「もう嫌だ! お前ら性格悪すぎるぞ!」
「そんなことないだろ。なぁ?」
「うん。普通だと思うけど?」
「全然『普通』じゃねーよ! 世の中の『普通』に謝れ!」
幼馴染みを弄って楽しむのは性悪の証拠だ! と喚く海音に桔梗は肩を竦ませて「海音君ってやっぱり面倒くさい」なんて言い放つ。当然、海音はその言葉にいっそう騒ぎ立てるのだが、もうすぐ初等部に辿り着くことを知らせてやれば途端におとなしくなった。
「ねぇ、何があったの?」
「芹那ちゃんから『次目立ったら待たずに帰る』って言われてるんだよ」
いつもは静かにしてとお願いしても静かにならなかった海音の豹変に驚く桔梗だが、虎の説明に納得。納得して、「海音君って超シスコンだもんね」と笑ってしまう桔梗。
だがしかし、海音より先に虎から「俺達も人のこと言えないだろ」なんて笑われたら、確かにそうかもと苦笑いになってしまうというものだ。
「……やっぱり私達って変かな? 中学生にもなって初等部まで弟を迎えに行くって、『普通』じゃない?」
「さぁな。でもまぁ実の兄弟でもないのに迎えに行ってる俺は変だろうな」
「! そんなことないわよ! 虎は私達の『お兄ちゃん』だもの!」
血の繋がりだけが『家族』じゃないでしょ? と言ってくる桔梗の言葉と眼差しに、虎が覚えるのは罪悪感。慌てて取り繕うも桔梗は悲しそうな表情をしたままで、どうすればいいか分からない。
「馬鹿。今のは失言過ぎるぞ」
対応に困っていたら、海音が小声で「反省しろ」と窘めてくる。反論の余地がないと虎がグッと言葉を飲み込めば、海音は仕方ないと息を吐いて助け舟を出してくれた。
「桔梗、そんな顔してやるなよ。こいつ、口ではこんな風に可愛げない事言ってるけど、『桔梗や葵には俺が認めた奴としか付き合わせない!』とか言ってるんだぜ?」
影ではめちゃくちゃ『兄ちゃん』してるんだぜ?
虎と肩を組んでおちゃらけた調子で喋る海音。虎は『何を言ってるんだ』と言いたげに親友を見る。そんなことお前に言った覚えはないぞ。と。
だが、「そうなの?」と自分を見る桔梗の目が期待に満ちているから『違う』とも言えず、仕方ないから海音の言葉に合わせることにした。
「まぁ、『兄貴』、だからな」
先の言葉は自分の本心じゃないから安心しろと桔梗の頭をポンポンと撫でてやれば、「虎でも周りの目を気にすることあるのね」なんて可愛げのない言葉を可愛い笑顔で言ってくれる『妹』。
虎は肩を竦ませて「それなりにな」と苦笑を濃くして笑い返した。
「あ! 芹那発見!」
弾んだ声の後、突然走り出す海音。視線を先に向ければ初等部の正門前で兄の帰りを待っている女の子が目に入った。
(あれ……? 葵がいない……)
大好きな妹に飛び付く勢いの海音に笑いながらも、いつもそこにいるはずの葵の姿がないことに虎の心はざわついた。
「あれぇ? 葵、いなくない?」
虎に遅れること数十秒。桔梗も弟の姿が見えないことに疑問を抱いて、何かあったっけ? と携帯を取り出して弟の予定を確認し始める。
葵の予定はすでに把握済みの虎は、放課後には何も予定がなかったはずなのにどうして? と胸に広がる不安に平静さを失いそうになる。正門の影に隠れているだけだと信じるものの、歩く速度は早くなってしまう。
後ろから桔梗の「待ってよ!」という声が聞こえたが、悠長に立ち止まる余裕なんてなかった。
「! おかえり、虎。姉さんもおかえりー!」
葵の双子の片割れは自分の焦りなど全く気づかないのか、いつもと何も変わらない。まだ後ろを歩いている桔梗に声をかける様子もいつも通りで、葵が今この場にいないことに気づいているのかという疑問さえ抱いてしまいそうだ。
「茂斗、葵は?」
「葵なら今日は慶史と遊ぶからって言って先に帰ったけど?」
「『慶史』?」
「藤原だよ、藤原。藤原慶史。何回か会ったことあるだろ?」
覚えてない? と尋ねてくる茂斗。虎は忘れるわけがないと奥歯を噛みしめ、全身を巡る血が沸騰しそうな怒りを覚えた。
「――、瑛大も一緒か?」
我を忘れそうになるのを堪え、もう一人、自分の従弟の姿が見えないことに気づいて感情を圧し殺し尋ねた。二人きりで帰ったわけじゃないよな? と期待を込めて。
だが、茂斗から返ってくるのは否定の言葉。
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