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特別な人
特別な人 第227話
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「虎君、どうしちゃったの……? なんで、なんでこんな――――」
「ごめんな、葵。しんどい思いさせて本当にごめん。でも、今回ばかりは俺は虎の味方だから、ちゃんとあいつの話、聞いてやって欲しかった」
必死に虎君の状況を尋ねる僕に海音君が返してきたのは、「あんまりだと思う」って言葉だった。
僕は心臓をギュっと握り締められたような息苦しさを感じた。
けど、それを我慢してどういうことかと海音君に問いただした。
「葵は、あいつが桔梗を好きだって思ってるんだよな?」
「! そ、そう、だよ……」
いきなり核心を突いてくる海音君の声に、息が止まる。
今すぐ逃げたい。と、正直思った。
でも、それでも僕は足を踏ん張り海音君と向き合った。すべては、虎君が今どうしているか知るためだ。
「本当、あんまりな勘違いだな……、それは……」
「か、かんちが、い……?」
「葵があいつの何を見てそう感じたのかは分からないけど、でも、あいつがそうだって言ったわけじゃないんだろ? それなのに、なんで確かめてやらなかったんだ? なんであいつと向き合ってやらなかったんだ?」
海音君の表情が苦痛に耐えるかのように歪んで、どうして? と言葉を重ねられた。
僕は、何も言い返せなかった……。
「あいつは、……虎は、ずっとずっと、葵のことだけ想って生きていたんだぞ……」
「……え?」
絞り出された声は、聞き間違いだろうか?
僕は海音君の言葉をすぐに受け入れることができず、戸惑いの声を返してしまう。
海音君は僕の困惑に気づいたのだろう。やるせなさを滲ませ、僕を見下ろした。
「今、『嘘だ』とか言うなよ。いくら葵でも、今その言葉を言ったら、俺だって怒るからなっ」
明るくて温厚な海音君が怒った姿など、僕は今まで一度だって見たことが無い。
でもその海音君が、悔しさからか涙を浮かべ僕を見据えると、声が震えるのも構わず怒りを滲ませ訴えかけてきた。
「心底惚れてる相手に拒絶された瞬間からあいつは生きる意味を失ったんだよっ」
と。
「頼むから、……頼むからあいつの声、ちゃんと聴いてやってくれっ」
海音君の声と表情に息を呑む僕は、反応を返せない。
すると海音君は僕の意思など関係ないとばかりに僕の腕を掴むと、そのまま踵を返して歩き出した。
僕は海音君に手を引かれるがまま虎君の部屋に足を踏み入れ、そしてそのまま真っ直ぐリビングに連れて行かれた。
何度か遊びに来たことがある空間。でも、今僕がそこで目にしたのは、信じられない光景だった。
僕は呆然と立ち尽くし、目に映る光景を何とか理解しようと必死に頭を働かせた。
でも、どうしても理解できない。だって今僕の視界に入るのは、僕の知っている虎君とは一目では分からない容貌の虎君だったから……。
つやを失くした髪はぼさぼさで無精ヒゲも伸び放題。よれよれのスエット姿でボンヤリとソファに座っている虎君は、整然としたリビングにはあまりにも不釣り合いで、正直異様な光景と言わざるを得ない。
海音君は僕から手を離すと虎君の傍に歩み寄り、肩に手をかけ「虎」と呼びかけた。
しかし、虎君はその声が全く聞こえていないかのように無反応で……。
心を閉ざしたと言うよりも心が壊れてしまったと言った方が正しいその様子に、僕の目からは涙が零れた。
僕は、僕は何て間違いを犯してしまったんだろう。なんて愚かなことをしてしまったのだろう。
僕は自分可愛さのあまり、世界で一番大切な人をこんなにも傷つけてしまったのだ。
「と、らくん……」
震える唇から漏れた声は、僕自身、意図していないものだった。まるで抑えつけることができない心の叫びが零れたように、自然と口から零れた声。
僕は今まで自分の頭を占拠していた思考の事などすべて忘れ、虎君を求め、その名を呼んでいた……。
静まり返ったリビングとはいえ、無音ではない空間。僕の必死の声はそこに僅かに響いただけだった。
でも、それでも、虎君は僕の声をちゃんと見つけてくれた。
僕のことを、見てくれた。
「まも、る……?」
何処を見ているか分からなかった虎君が、ゆっくりと僕の方へと首を回してくれる。
僕の名前を呼び、僕の姿をその眼差しに入れてくれた。
僕はそれに涙を溢れさせ、気が付けば虎君に駆け寄っていた。
「虎君っ、虎君、ごめんなさいっ、ごめんなさいぃっ」
感情のまま虎君に抱き着けば、その身体は僕が知るよりもずっとずっと細くなっていた。
まるで長い時間ベッドで寝たきりになっていた病人のように筋肉が落ちていたのだ。
思い出すのは、慶史達が僕に何度も聞かせていた話。虎君が衰弱しているという、僕が作り話だと決めつけ耳を貸さなかった本当の話……。
僕はボロボロ涙を零しながら何度も何度も謝った。
傷つけてごめんなさい。と。
ちゃんと話を聞かなくてごめんなさい。と……。
「ごめんな、葵。しんどい思いさせて本当にごめん。でも、今回ばかりは俺は虎の味方だから、ちゃんとあいつの話、聞いてやって欲しかった」
必死に虎君の状況を尋ねる僕に海音君が返してきたのは、「あんまりだと思う」って言葉だった。
僕は心臓をギュっと握り締められたような息苦しさを感じた。
けど、それを我慢してどういうことかと海音君に問いただした。
「葵は、あいつが桔梗を好きだって思ってるんだよな?」
「! そ、そう、だよ……」
いきなり核心を突いてくる海音君の声に、息が止まる。
今すぐ逃げたい。と、正直思った。
でも、それでも僕は足を踏ん張り海音君と向き合った。すべては、虎君が今どうしているか知るためだ。
「本当、あんまりな勘違いだな……、それは……」
「か、かんちが、い……?」
「葵があいつの何を見てそう感じたのかは分からないけど、でも、あいつがそうだって言ったわけじゃないんだろ? それなのに、なんで確かめてやらなかったんだ? なんであいつと向き合ってやらなかったんだ?」
海音君の表情が苦痛に耐えるかのように歪んで、どうして? と言葉を重ねられた。
僕は、何も言い返せなかった……。
「あいつは、……虎は、ずっとずっと、葵のことだけ想って生きていたんだぞ……」
「……え?」
絞り出された声は、聞き間違いだろうか?
僕は海音君の言葉をすぐに受け入れることができず、戸惑いの声を返してしまう。
海音君は僕の困惑に気づいたのだろう。やるせなさを滲ませ、僕を見下ろした。
「今、『嘘だ』とか言うなよ。いくら葵でも、今その言葉を言ったら、俺だって怒るからなっ」
明るくて温厚な海音君が怒った姿など、僕は今まで一度だって見たことが無い。
でもその海音君が、悔しさからか涙を浮かべ僕を見据えると、声が震えるのも構わず怒りを滲ませ訴えかけてきた。
「心底惚れてる相手に拒絶された瞬間からあいつは生きる意味を失ったんだよっ」
と。
「頼むから、……頼むからあいつの声、ちゃんと聴いてやってくれっ」
海音君の声と表情に息を呑む僕は、反応を返せない。
すると海音君は僕の意思など関係ないとばかりに僕の腕を掴むと、そのまま踵を返して歩き出した。
僕は海音君に手を引かれるがまま虎君の部屋に足を踏み入れ、そしてそのまま真っ直ぐリビングに連れて行かれた。
何度か遊びに来たことがある空間。でも、今僕がそこで目にしたのは、信じられない光景だった。
僕は呆然と立ち尽くし、目に映る光景を何とか理解しようと必死に頭を働かせた。
でも、どうしても理解できない。だって今僕の視界に入るのは、僕の知っている虎君とは一目では分からない容貌の虎君だったから……。
つやを失くした髪はぼさぼさで無精ヒゲも伸び放題。よれよれのスエット姿でボンヤリとソファに座っている虎君は、整然としたリビングにはあまりにも不釣り合いで、正直異様な光景と言わざるを得ない。
海音君は僕から手を離すと虎君の傍に歩み寄り、肩に手をかけ「虎」と呼びかけた。
しかし、虎君はその声が全く聞こえていないかのように無反応で……。
心を閉ざしたと言うよりも心が壊れてしまったと言った方が正しいその様子に、僕の目からは涙が零れた。
僕は、僕は何て間違いを犯してしまったんだろう。なんて愚かなことをしてしまったのだろう。
僕は自分可愛さのあまり、世界で一番大切な人をこんなにも傷つけてしまったのだ。
「と、らくん……」
震える唇から漏れた声は、僕自身、意図していないものだった。まるで抑えつけることができない心の叫びが零れたように、自然と口から零れた声。
僕は今まで自分の頭を占拠していた思考の事などすべて忘れ、虎君を求め、その名を呼んでいた……。
静まり返ったリビングとはいえ、無音ではない空間。僕の必死の声はそこに僅かに響いただけだった。
でも、それでも、虎君は僕の声をちゃんと見つけてくれた。
僕のことを、見てくれた。
「まも、る……?」
何処を見ているか分からなかった虎君が、ゆっくりと僕の方へと首を回してくれる。
僕の名前を呼び、僕の姿をその眼差しに入れてくれた。
僕はそれに涙を溢れさせ、気が付けば虎君に駆け寄っていた。
「虎君っ、虎君、ごめんなさいっ、ごめんなさいぃっ」
感情のまま虎君に抱き着けば、その身体は僕が知るよりもずっとずっと細くなっていた。
まるで長い時間ベッドで寝たきりになっていた病人のように筋肉が落ちていたのだ。
思い出すのは、慶史達が僕に何度も聞かせていた話。虎君が衰弱しているという、僕が作り話だと決めつけ耳を貸さなかった本当の話……。
僕はボロボロ涙を零しながら何度も何度も謝った。
傷つけてごめんなさい。と。
ちゃんと話を聞かなくてごめんなさい。と……。
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