207 / 552
特別な人
特別な人 第206話
しおりを挟む
クリスマスパーティーの賑やかさとは打って変わってシンと静まり返った慶史の部屋。
僕はベッドの隅で膝を抱えてぼんやりと窓の外を眺めていた。
重苦しい沈黙に耐え兼ねた悠栖は朋喜に声を掛けて自分達の部屋に戻ってしまって、今は僕と慶史の二人きり。
悠栖達が部屋から出て行った後、僕は慶史から何を言われるかと構えていた。
でも慶史は何も言わず、自分のベッドに寝転がって携帯を弄っているだけでちょっとだけ拍子抜けしてしまった。
窓の外は葉っぱを散らした木々が風に靡いてしなっていて、薄い雲が敷き詰められた空と相まって物悲しさを際立たせてくれる。
僕は壁に掛けられた時計に目をやって、茂斗は何時頃来るのかな……と電源の切れた携帯に視線を移した。
(会うの、嫌だな……。絶対、『携帯の電源ぐらい入れとけ』とか文句言われるだろうし……。荷物だけ置いて帰ってくれないかな……)
思い出すのは、怒り心頭とばかりに携帯越しに怒鳴り散らしていた双子の片割れの声。
昨日の今日で怒りが治まっているとは思えないし、むしろ怒りがヒートアップしてる気がする。
そんな茂斗に放っておいて欲しいとお願いしたところで無視されるに決まってる。
僕は今から憂鬱だと息を吐いた。
すると、それが思いの外大きくて、しまったと思った。
だって今のコレはあまりにもわざとらしくて、言うなれば『心配して欲しい』と言っているみたい。
恐る恐る慶史を見れば、携帯を手に此方に向けられた視線とぶつかった。
「どうしたの。そんなため息ついて」
「ご、ごめん。なんでもないから気にしないでっ」
「いや、『気にしないで』って言われても気になるから」
携帯をベッドに置くと、慶史は起き上がって僕に向き直る。
そして、何を聞いてほしいの? って尋ねてきた。
心を見透かしたような問いかけに、言葉に詰まってしまう僕。思わず視線から逃げるように顔を背ければ、今度は慶史が溜め息を吐いて……。
「ねぇ、葵」
「! な、何?」
「そんな構えないでよ。……この前みたいなことはもう言わないから」
ビクッと肩を震わせてしまった僕に慶史は苦笑いを見せ、僕の決断を尊重すると力なく笑って見せた。
その笑い顔に、今の言葉は本心じゃないって僕じゃなくても分かるだろう。
慶史を疑うように見てしまう僕。当然慶史はその視線に気づいていて、肩を竦ませると「そんな目で見ないでよ」ってまた苦笑い。
「だって慶史、嘘ついてる……」
「仕方ないでしょ? 葵が俺の考え聞くの嫌がってるんだから」
「! 嫌がってなんか―――」
「嫌がってるでしょ」
嘘吐き。って笑う慶史の眼差しは居心地の悪さを感じさせる。
僕が言葉を詰まらせ黙ったら、慶史は自分のベッドを降りると僕の方に移動してきて、僕と向かい合うように胡坐をかいて座った。
「俺、あの人のこと大っ嫌いなんだよね。葵が思ってるよりもずっとずっと大嫌いなんだよね」
「なんで今そんなこと言うの……」
すごくいい笑顔で虎君を嫌いだと繰り返す慶史。その真意が分からなくて僕は思わず眉を下げてしまう。
想いを断ち切らないといけない身だけど、僕は虎君が好き。すごく、本当に凄く大好き。
それを知っているのに、慶史はどうしてそんな悲しいことを言うのか。
「まぁ聞いてよ。……正直今この瞬間も、葵があの人の何処にそこまで惹かれたのか理解できないし、説明されても絶対納得できない自信があるんだよね」
天変地異が起こってもあの人に好意を抱くことは絶対無理。
そう言い切る慶史の表情は何処までも笑顔。
心の底からの本音だって分かるから、僕はすごく悲しくて視線を下げて唇を噛みしめてしまう。
「だから、俺は葵が早く別の人を見つければいいって思ってる」
「別の人なんてっ、そんなの要らないっ……」
「うん。知ってる。……でも聞いて? 葵は、俺が、あの人と葵が上手くいくのを全力で妨害したいって思ってるってことは理解できる?」
手を握って尋ねられた言葉に、僕は真意が分からないながらも頷いた。慶史が虎君を嫌いって事は、嫌というほど伝わっているから。
すると慶史はそんな僕に笑顔を柔らかいものに変え、質問を続けた。
「なら、俺がこの前言った言葉が俺の意思とは違うモノだってことは分かってくれる?」
と。
きっと慶史は言いたいことが伝わったと思ったのだろう。そんな顔をしているから。
でも僕は、慶史が何を言いたいのかまだわからなくて戸惑うばかりだ。
僕はベッドの隅で膝を抱えてぼんやりと窓の外を眺めていた。
重苦しい沈黙に耐え兼ねた悠栖は朋喜に声を掛けて自分達の部屋に戻ってしまって、今は僕と慶史の二人きり。
悠栖達が部屋から出て行った後、僕は慶史から何を言われるかと構えていた。
でも慶史は何も言わず、自分のベッドに寝転がって携帯を弄っているだけでちょっとだけ拍子抜けしてしまった。
窓の外は葉っぱを散らした木々が風に靡いてしなっていて、薄い雲が敷き詰められた空と相まって物悲しさを際立たせてくれる。
僕は壁に掛けられた時計に目をやって、茂斗は何時頃来るのかな……と電源の切れた携帯に視線を移した。
(会うの、嫌だな……。絶対、『携帯の電源ぐらい入れとけ』とか文句言われるだろうし……。荷物だけ置いて帰ってくれないかな……)
思い出すのは、怒り心頭とばかりに携帯越しに怒鳴り散らしていた双子の片割れの声。
昨日の今日で怒りが治まっているとは思えないし、むしろ怒りがヒートアップしてる気がする。
そんな茂斗に放っておいて欲しいとお願いしたところで無視されるに決まってる。
僕は今から憂鬱だと息を吐いた。
すると、それが思いの外大きくて、しまったと思った。
だって今のコレはあまりにもわざとらしくて、言うなれば『心配して欲しい』と言っているみたい。
恐る恐る慶史を見れば、携帯を手に此方に向けられた視線とぶつかった。
「どうしたの。そんなため息ついて」
「ご、ごめん。なんでもないから気にしないでっ」
「いや、『気にしないで』って言われても気になるから」
携帯をベッドに置くと、慶史は起き上がって僕に向き直る。
そして、何を聞いてほしいの? って尋ねてきた。
心を見透かしたような問いかけに、言葉に詰まってしまう僕。思わず視線から逃げるように顔を背ければ、今度は慶史が溜め息を吐いて……。
「ねぇ、葵」
「! な、何?」
「そんな構えないでよ。……この前みたいなことはもう言わないから」
ビクッと肩を震わせてしまった僕に慶史は苦笑いを見せ、僕の決断を尊重すると力なく笑って見せた。
その笑い顔に、今の言葉は本心じゃないって僕じゃなくても分かるだろう。
慶史を疑うように見てしまう僕。当然慶史はその視線に気づいていて、肩を竦ませると「そんな目で見ないでよ」ってまた苦笑い。
「だって慶史、嘘ついてる……」
「仕方ないでしょ? 葵が俺の考え聞くの嫌がってるんだから」
「! 嫌がってなんか―――」
「嫌がってるでしょ」
嘘吐き。って笑う慶史の眼差しは居心地の悪さを感じさせる。
僕が言葉を詰まらせ黙ったら、慶史は自分のベッドを降りると僕の方に移動してきて、僕と向かい合うように胡坐をかいて座った。
「俺、あの人のこと大っ嫌いなんだよね。葵が思ってるよりもずっとずっと大嫌いなんだよね」
「なんで今そんなこと言うの……」
すごくいい笑顔で虎君を嫌いだと繰り返す慶史。その真意が分からなくて僕は思わず眉を下げてしまう。
想いを断ち切らないといけない身だけど、僕は虎君が好き。すごく、本当に凄く大好き。
それを知っているのに、慶史はどうしてそんな悲しいことを言うのか。
「まぁ聞いてよ。……正直今この瞬間も、葵があの人の何処にそこまで惹かれたのか理解できないし、説明されても絶対納得できない自信があるんだよね」
天変地異が起こってもあの人に好意を抱くことは絶対無理。
そう言い切る慶史の表情は何処までも笑顔。
心の底からの本音だって分かるから、僕はすごく悲しくて視線を下げて唇を噛みしめてしまう。
「だから、俺は葵が早く別の人を見つければいいって思ってる」
「別の人なんてっ、そんなの要らないっ……」
「うん。知ってる。……でも聞いて? 葵は、俺が、あの人と葵が上手くいくのを全力で妨害したいって思ってるってことは理解できる?」
手を握って尋ねられた言葉に、僕は真意が分からないながらも頷いた。慶史が虎君を嫌いって事は、嫌というほど伝わっているから。
すると慶史はそんな僕に笑顔を柔らかいものに変え、質問を続けた。
「なら、俺がこの前言った言葉が俺の意思とは違うモノだってことは分かってくれる?」
と。
きっと慶史は言いたいことが伝わったと思ったのだろう。そんな顔をしているから。
でも僕は、慶史が何を言いたいのかまだわからなくて戸惑うばかりだ。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる