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特別な人
特別な人 第192話
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ただならぬ雰囲気を慶史から感じ取った僕は、口を噤んで問いかけに応えるように首を振った。虎君を憎んだりして欲しくない。と訴えるように。
俯く僕のおでこに触れるように慶史の人差し指が伸びてきて、顔を上げるように促される。
「慶史……」
「そんな顔しないでよ。あの人に対するこの感情は不本意だけど何とか折り合いつけるから」
小さく息を吐いて力なく笑う慶史の表情はとても辛そう。
(本当は折り合いをつけることなんてしたくないんだろうな……)
そう分かっているのに、僕は慶史の優しさに「ありがとう」って返してしまうんだ。
「お礼とか止めてよね」
「! そうだね。ごめんね?」
お礼を言われたら何が何でも折り合いをつけないとダメになるじゃない。
そう言った慶史の笑い顔は、いつもと同じで悪戯なもの。
僕は、できる限り折り合いをつけてと願いを込めて、無理をさせて『ごめん』と笑い返した。
「よし! 慶史君も一応納得したみたいだし、今日から三日間は全部忘れて楽しもう!」
「だな! 失恋なんて忘れて騒ごうぜ!」
「! 悠栖!」
「デリカシーって言葉を勉強し直せ馬鹿悠栖!」
朋喜と慶史からそれぞれ一撃を貰った悠栖は、脇腹と後頭部を押さえて蹲って悶絶している。
僕は慌てて悠栖に駆け寄り大丈夫かと尋ねるんだけど、二人は放っておくよう言ってくる。
「これは自業自得だから」
「そうそう。さっきの言葉は葵君だけじゃなくて僕にもグサッと来たしね!」
すべすべの白いほっぺを膨らませてそっぽを向く朋喜に、隣に立った慶史は「引き摺ってるねぇ」と苦笑交じりだ。
でも、僕は朋喜が引き摺るのは当然だと思う。だって朋喜が長年想いを寄せていた人への恋心を捨てざるを得なくなってまだひと月も経っていないんだから。
(僕、何年も引き摺っちゃいそうだよ……)
恋に破れた後、落ち込んでも程なく次の恋を見つけられる人は多い。
事実、そういう話は沢山耳にした。
でも僕はこの想いを本当に忘れることができるのか、この想い以上の想いを抱くことができるのか、不安になる。
だって、虎君以上の人なんて世界中何処を探しても見つからない。絶対に。
それを本能的に分かっているからこそ、新しい恋でこの痛みを癒すことは無理だと思ってしまう。
(何年かかるんだろう……)
ああ、ダメだ。
虎君のことを考えるとすぐに涙腺が崩壊しそうになる。
僕は涙を誤魔化すように瞬きを繰り返して深く息を吐いた。
「また考えたでしょ」
「え……?」
「先輩のこと。……今、思い出してたでしょ?」
聞こえた声に顔を上げたら、慶史達が僕に苦笑いを見せていた。
僕はもしかしたら虎君への想いに物思いに更け過ぎていたのかもしれない。
慌てて弁解しようとしたけど、何も言葉が出てこなくて……。
「ごめん……」
「謝らないで、葵君。葵君は何も悪くないんだから、ね?」
みんなが励ましてくれているのに肝心の僕が女々しくてごめん。
そう謝罪するも、朋喜は優しく笑いかけて僕の心に寄り添ってくれる。
「考えたくなくても考えちゃうって辛いよね」
そう笑った朋喜の笑みは悲し気で、朋喜もずっとずっと大好きな人への想いを断ち切れずに苦しんでいるんだと分かった。
分かって、それでも僕の心を気遣ってくれる優しい友達に、僕は我慢できずにまた泣いてしまった。
「ごめん、ごめんね……」
「全然いいよ。……こんなに大好きなのに、本当に大好きなのに、それなのにもう想っちゃダメなんて、辛いよね。悲しいよね。……苦しいよね……」
「朋喜っ……。僕、僕っ……。どうしたら楽になれる……? どうしたら『好き』って気持ち、忘れられる……?」
背中を擦ってくれる『先輩』に教えを乞う。
大好きな人の想いをドロドロした感情で邪魔したくない。そう思っているのに、虎君の想いが姉さんに届かなければいいのにと考えてしまっている自分が嫌で嫌でどうしようもない。
二人の幸せを願えるように、僕はこの『好き』を一刻も早く忘れなければならない。
だから、どうか知っているのなら、その方法を教えて欲しい……。
俯く僕のおでこに触れるように慶史の人差し指が伸びてきて、顔を上げるように促される。
「慶史……」
「そんな顔しないでよ。あの人に対するこの感情は不本意だけど何とか折り合いつけるから」
小さく息を吐いて力なく笑う慶史の表情はとても辛そう。
(本当は折り合いをつけることなんてしたくないんだろうな……)
そう分かっているのに、僕は慶史の優しさに「ありがとう」って返してしまうんだ。
「お礼とか止めてよね」
「! そうだね。ごめんね?」
お礼を言われたら何が何でも折り合いをつけないとダメになるじゃない。
そう言った慶史の笑い顔は、いつもと同じで悪戯なもの。
僕は、できる限り折り合いをつけてと願いを込めて、無理をさせて『ごめん』と笑い返した。
「よし! 慶史君も一応納得したみたいだし、今日から三日間は全部忘れて楽しもう!」
「だな! 失恋なんて忘れて騒ごうぜ!」
「! 悠栖!」
「デリカシーって言葉を勉強し直せ馬鹿悠栖!」
朋喜と慶史からそれぞれ一撃を貰った悠栖は、脇腹と後頭部を押さえて蹲って悶絶している。
僕は慌てて悠栖に駆け寄り大丈夫かと尋ねるんだけど、二人は放っておくよう言ってくる。
「これは自業自得だから」
「そうそう。さっきの言葉は葵君だけじゃなくて僕にもグサッと来たしね!」
すべすべの白いほっぺを膨らませてそっぽを向く朋喜に、隣に立った慶史は「引き摺ってるねぇ」と苦笑交じりだ。
でも、僕は朋喜が引き摺るのは当然だと思う。だって朋喜が長年想いを寄せていた人への恋心を捨てざるを得なくなってまだひと月も経っていないんだから。
(僕、何年も引き摺っちゃいそうだよ……)
恋に破れた後、落ち込んでも程なく次の恋を見つけられる人は多い。
事実、そういう話は沢山耳にした。
でも僕はこの想いを本当に忘れることができるのか、この想い以上の想いを抱くことができるのか、不安になる。
だって、虎君以上の人なんて世界中何処を探しても見つからない。絶対に。
それを本能的に分かっているからこそ、新しい恋でこの痛みを癒すことは無理だと思ってしまう。
(何年かかるんだろう……)
ああ、ダメだ。
虎君のことを考えるとすぐに涙腺が崩壊しそうになる。
僕は涙を誤魔化すように瞬きを繰り返して深く息を吐いた。
「また考えたでしょ」
「え……?」
「先輩のこと。……今、思い出してたでしょ?」
聞こえた声に顔を上げたら、慶史達が僕に苦笑いを見せていた。
僕はもしかしたら虎君への想いに物思いに更け過ぎていたのかもしれない。
慌てて弁解しようとしたけど、何も言葉が出てこなくて……。
「ごめん……」
「謝らないで、葵君。葵君は何も悪くないんだから、ね?」
みんなが励ましてくれているのに肝心の僕が女々しくてごめん。
そう謝罪するも、朋喜は優しく笑いかけて僕の心に寄り添ってくれる。
「考えたくなくても考えちゃうって辛いよね」
そう笑った朋喜の笑みは悲し気で、朋喜もずっとずっと大好きな人への想いを断ち切れずに苦しんでいるんだと分かった。
分かって、それでも僕の心を気遣ってくれる優しい友達に、僕は我慢できずにまた泣いてしまった。
「ごめん、ごめんね……」
「全然いいよ。……こんなに大好きなのに、本当に大好きなのに、それなのにもう想っちゃダメなんて、辛いよね。悲しいよね。……苦しいよね……」
「朋喜っ……。僕、僕っ……。どうしたら楽になれる……? どうしたら『好き』って気持ち、忘れられる……?」
背中を擦ってくれる『先輩』に教えを乞う。
大好きな人の想いをドロドロした感情で邪魔したくない。そう思っているのに、虎君の想いが姉さんに届かなければいいのにと考えてしまっている自分が嫌で嫌でどうしようもない。
二人の幸せを願えるように、僕はこの『好き』を一刻も早く忘れなければならない。
だから、どうか知っているのなら、その方法を教えて欲しい……。
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