139 / 552
特別な人
特別な人 第138話
しおりを挟む
茂斗は虎君が同性の恋愛を否定したりしないと言った。きっとそれは真実だと今は素直に思えた。
でも、否定しないだけであって同性と恋愛ができるわけじゃない。誰かを想う気持ちを大切だと思っているからといって虎君が同じ男で家族同然の僕をそういう意味で好きになってくれる訳じゃない。
分かっていたことなのに全然理解できてなかった。僕は、ただ『知っていた』だけだ。
(それなのに勘違いして、僕って本当にバカだ……)
鼻がツンとして熱い。ああでもこのまま泣いたら虎君に全部話さなくちゃダメになる。
僕は、『弟』から愛を告白されて困る虎君を見れるほど図太くなかった。
だから、逃げなくちゃ。名残惜しいけど、この腕から抜け出さないと。
「せ、せっかく早起きしたんだし、今日はいつもより早く家出よう?」
「葵?」
「そうすれば虎君もたくさん寝れるでしょ?」
後ろ髪を引かれながらも虎君の腕から抜け出すと、自分でも不自然だと思うほど明るい声で尤もらしい言葉を綴りながら部屋のドアへと駆けて行く。
きっと、ううん、虎君はこんな僕を変だって思ったはず。思って、くれるはず……。
「葵、待って」
「え? どうしたの?」
呼び止められるのが、嬉しい。
でも涙目になってるから振り返ることはできない。
きっと、泣きそうになってるって虎君に気づかれたくないなら、聞こえなかった振りをして部屋を出ていくのが正解。
けど、それなのに僕は、僕を呼び止めてくれた虎君を振り切ることができない。
(期待しちゃダメだって事ぐらい分かってるけど、一日経たずに忘れる努力なんてしたくない……)
自覚した『想い』は報われることはない。
だから早く諦めた方が傷は少ないだろうし、虎君から『ごめん』って言われるシーンを想像して落ち込むなんて馬鹿な事をしなくて済むはず。
本当、ちゃんと分かってる。理解してる。
でも、それでも僕の中でいつの間にか育っていた『想い』を、気づいたからと言ってすぐに刈り取る事はしたくなかった。
(今日一日だけ、楽しんでもいいよね……? 明日からはちゃんとこの『想い』を忘れるようにするから……)
別に自分の事なんだから許可を求める必要なんてない。
それなのにこんな風に自分に聞いちゃうのは、誰かに『好きでいていいよ』って言って欲しいからだ。
(人を好きになるって、難しいなぁ……)
愛し愛され幸せな日々を送る人達がいる。とても身近に。だから、自分も好きな人に好きになってもらえると無意識に信じていたのかもしれない。
それなのに現実は全然違ってて、好きな人に好きになってもらうことはこんなにも難しい。
(いや、『好き』はもらってるんだけどね。でも、やっぱり同じ『好き』が良い……)
虎君から同じ『好き』を貰えたら、僕はきっと夢よりもずっとずっと幸せになれると思うのに……。
そんな風に物思いに耽っていた僕だけど、ふと背中に感じる人の気配。振り返らなくても虎君だって分かってるから、ドキドキした。
「なぁ、やっぱり何かあっただろ? 空元気だってバレてるぞ?」
すごいな、虎君は。本当、僕の事よく見てる。ちゃんと、気づいてくれる……。
ポンって頭に乗せらえる大きな手。無理矢理振り向かせたりしないその優しさが、今はちょっとだけもどかしかった。
「虎君には、なんでもお見通しだね」
「隠し事は苦手なんだし、その方が葵も楽だろ?」
僕を理解してくれる虎君は、本当に本当に自慢の『お兄ちゃん』だ。
僕が辛い時も悲しい時も、僕が言葉に出す前に全て汲み取ってくれる。そして、辛い事を、悲しい事を、僕の背中から半分持って行ってくれる……。
(本当、好きになって当たり前だよね)
自覚した途端、あれもこれもと溢れてくる思い出。そのどれもがとても優しくて、とても頼りになって、そしてちょっとだけ甘かったりした。
参ったな。僕はいったいいつから虎君のことが好きだったんだろう?
そんなことを内心思いながらも、僕は『でもね』って心の中で虎君に話しかけた。
(この『想い』は、気づかないでね……?)
僕は虎君の傍にいたいから、ずっと傍にいたいから、だから、さっきみたいな勘違いはしないから、どうか、お願い……。
「どうした……?」
「なんでもない……。僕って虎君に頼りっぱなしだなってちょっと反省しただけ!」
振り向けない。『想い』を隠したい。
僕は、一見するとバレバレの嘘を吐く。でも、織り交ぜた『本当』を虎君が拾ってくれるって思ったから、『想い』は隠すことができた。
「俺はもっと葵に頼って欲しいよ? ……『誰』に『何』を言われても、俺はこれからも葵を甘やかすからな?」
虎君は言葉を明確にしなかったけど、きっとこう言いたいんだろうな。『瑛大に言われたことなんて気にするな』って。
(そういうところも大好き……)
実の従弟よりも優先してくれる虎君に、想いは膨れ上がるばかりだ。
でも、否定しないだけであって同性と恋愛ができるわけじゃない。誰かを想う気持ちを大切だと思っているからといって虎君が同じ男で家族同然の僕をそういう意味で好きになってくれる訳じゃない。
分かっていたことなのに全然理解できてなかった。僕は、ただ『知っていた』だけだ。
(それなのに勘違いして、僕って本当にバカだ……)
鼻がツンとして熱い。ああでもこのまま泣いたら虎君に全部話さなくちゃダメになる。
僕は、『弟』から愛を告白されて困る虎君を見れるほど図太くなかった。
だから、逃げなくちゃ。名残惜しいけど、この腕から抜け出さないと。
「せ、せっかく早起きしたんだし、今日はいつもより早く家出よう?」
「葵?」
「そうすれば虎君もたくさん寝れるでしょ?」
後ろ髪を引かれながらも虎君の腕から抜け出すと、自分でも不自然だと思うほど明るい声で尤もらしい言葉を綴りながら部屋のドアへと駆けて行く。
きっと、ううん、虎君はこんな僕を変だって思ったはず。思って、くれるはず……。
「葵、待って」
「え? どうしたの?」
呼び止められるのが、嬉しい。
でも涙目になってるから振り返ることはできない。
きっと、泣きそうになってるって虎君に気づかれたくないなら、聞こえなかった振りをして部屋を出ていくのが正解。
けど、それなのに僕は、僕を呼び止めてくれた虎君を振り切ることができない。
(期待しちゃダメだって事ぐらい分かってるけど、一日経たずに忘れる努力なんてしたくない……)
自覚した『想い』は報われることはない。
だから早く諦めた方が傷は少ないだろうし、虎君から『ごめん』って言われるシーンを想像して落ち込むなんて馬鹿な事をしなくて済むはず。
本当、ちゃんと分かってる。理解してる。
でも、それでも僕の中でいつの間にか育っていた『想い』を、気づいたからと言ってすぐに刈り取る事はしたくなかった。
(今日一日だけ、楽しんでもいいよね……? 明日からはちゃんとこの『想い』を忘れるようにするから……)
別に自分の事なんだから許可を求める必要なんてない。
それなのにこんな風に自分に聞いちゃうのは、誰かに『好きでいていいよ』って言って欲しいからだ。
(人を好きになるって、難しいなぁ……)
愛し愛され幸せな日々を送る人達がいる。とても身近に。だから、自分も好きな人に好きになってもらえると無意識に信じていたのかもしれない。
それなのに現実は全然違ってて、好きな人に好きになってもらうことはこんなにも難しい。
(いや、『好き』はもらってるんだけどね。でも、やっぱり同じ『好き』が良い……)
虎君から同じ『好き』を貰えたら、僕はきっと夢よりもずっとずっと幸せになれると思うのに……。
そんな風に物思いに耽っていた僕だけど、ふと背中に感じる人の気配。振り返らなくても虎君だって分かってるから、ドキドキした。
「なぁ、やっぱり何かあっただろ? 空元気だってバレてるぞ?」
すごいな、虎君は。本当、僕の事よく見てる。ちゃんと、気づいてくれる……。
ポンって頭に乗せらえる大きな手。無理矢理振り向かせたりしないその優しさが、今はちょっとだけもどかしかった。
「虎君には、なんでもお見通しだね」
「隠し事は苦手なんだし、その方が葵も楽だろ?」
僕を理解してくれる虎君は、本当に本当に自慢の『お兄ちゃん』だ。
僕が辛い時も悲しい時も、僕が言葉に出す前に全て汲み取ってくれる。そして、辛い事を、悲しい事を、僕の背中から半分持って行ってくれる……。
(本当、好きになって当たり前だよね)
自覚した途端、あれもこれもと溢れてくる思い出。そのどれもがとても優しくて、とても頼りになって、そしてちょっとだけ甘かったりした。
参ったな。僕はいったいいつから虎君のことが好きだったんだろう?
そんなことを内心思いながらも、僕は『でもね』って心の中で虎君に話しかけた。
(この『想い』は、気づかないでね……?)
僕は虎君の傍にいたいから、ずっと傍にいたいから、だから、さっきみたいな勘違いはしないから、どうか、お願い……。
「どうした……?」
「なんでもない……。僕って虎君に頼りっぱなしだなってちょっと反省しただけ!」
振り向けない。『想い』を隠したい。
僕は、一見するとバレバレの嘘を吐く。でも、織り交ぜた『本当』を虎君が拾ってくれるって思ったから、『想い』は隠すことができた。
「俺はもっと葵に頼って欲しいよ? ……『誰』に『何』を言われても、俺はこれからも葵を甘やかすからな?」
虎君は言葉を明確にしなかったけど、きっとこう言いたいんだろうな。『瑛大に言われたことなんて気にするな』って。
(そういうところも大好き……)
実の従弟よりも優先してくれる虎君に、想いは膨れ上がるばかりだ。
0
お気に入りに追加
74
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
女装とメス調教をさせられ、担任だった教師の亡くなった奥さんの代わりをさせられる元教え子の男
湊戸アサギリ
BL
また女装メス調教です。見ていただきありがとうございます。
何も知らない息子視点です。今回はエロ無しです。他の作品もよろしくお願いします。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる